「しゃあ……抜けた! 自由だー!」
「大っ、成っ、功!」
見張りに怯えながら背中を丸めて走っていた俺たちは、坂道を下りきったところで一気に解放された。
目の前に広がっていたのは、夕暮れ時の森戸海岸だ。
今日は雲がほとんどなく、夕日のオレンジが交ざった青紫色の空に、富士山の影がはっきりと浮かんでいた。
もう夜はそこなのだ。
規則的な波音が心地よく鼓膜を揺らす。
一日中暗い教室に閉じ込められていた身体に、温かい潮風が気持ちいい。
「はぁ〜! 最高! やっぱ脱走して正解だったな一樹!」
「ああ。……で、夕飯どうする?」
「決まってんだろ。あっちの海の家で、なんか美味いもん食おうぜ!」
波打ち際に沿って歩いていくと、浜辺にぽつんと灯りがともる賑やかな海の家が見えてきた。
浜焼きの香ばしい匂いと、楽しげな音楽が風に乗って漂ってくる。
(あれ……なんか思ってたのと違う?)
海の家に近づきにつれ、不安が襲ってきた。
てっきり海の家では家族連れや、カップルがのんびり屋台飯を食べているのだろうと思っていたが、全然違った。
海岸に響き渡るほどのイケイケな洋楽が流れ、見るからに派手な水着の男女が沢山集まっている。
完全に俺らは場違いだった。
「もしかして、貸し切り中とか……?」
「あ、なるほど」
こそっと耳打ちをしてきた西本に、俺は妙に納得した。
みんな打ち解けたように談笑しており、知り合いのような雰囲気だ。
どこかの大学のサークルで団体で海に来て、そのまま海の家でも貸し切って夕飯でも食べているのだろう。
「……違う店行く?」
西本に提案してみる。
周りを見渡してみても、どこの海の上も騒がしいような気がしたからだ。
そういうところが好きな人はいいが、俺らはただのがり勉陰キャのガキだから。
「そうしよ、そうしよ、ちょっと高そうだけど、あっちにうどん屋あったし」
(さすが西本、リサーチ力が強い!)
関心しながら揃って踵を返したその時だった。
背後で「ちいまる!」と大きな声が聞こえてきた。
(ん……? ち、ちいまる……?)
この声、聞き覚えがある。
いや、まさか、そんな。
遅れてドクドクと激しく心臓が動きだす。俺は震える体をゆっくりと後ろに向けた。
「え? 若月?」
「やっぱ、ちいまるだったか!」
その大きな図体を見た瞬間、時間が止まった。
間違いない。
一か月前よりも日焼けをした若月が、そこにいた。
金髪で眼光の鋭い、柄の悪さはあの時と何も変わらない。
「えぇッ、嘘! 一樹の知り合いなの?」
西本が目をまん丸にして絶叫した。うん、そうなるよね。俺が逆の立場でもそうなる。
俺は西本にぎこちなく笑いかけた後、再び若月を見た。
「なんで、こんなところにいるんだ……?」
緊張で声が震えた。
だって、ずっと会いたかったんだぞ。こんな偶然あるのかよ。
すると、若月はにこっと無邪気に笑い、海の家を指さす。
「今日は通信のクラスメイトたちと遊びに来た。一緒に飯食おうぜ!」
「は⁉」
若月にぐいっと強引に腕を引かれ、つんのめる。
「ちょ、離せ!」
(俺たちが、あの集団に……?)
確かに若月には会いたかった。
だが見るからに派手な連中のやつらに交じって飯を食うなんてハードルが高いこと、できない!
「おら、行くぞ! えっと、君はなんて名前? ちいまる二号?」
「いえ、西本っていいます! お兄さん、めっちゃかっこいいっすね!」
キラキラと目を輝かせる西本に、ずっこけそうになる。
「そうか? お前、めっちゃ良いやつだな! いっぱい飯食っていけよ!」
「おっす!」
(西本! 無駄にコミュ力高いのやめてぇー!)
どうやら、西本は相当若月の容姿が気に入ったらしい。
全然コミュニティが違うのに、なんとか馴染もうとしている姿を見て、そう感じた。
しかも若月も分かりやすくニコニコしていて、まんざらでもなさそうだ。
「あ、やっと戻ってきた~! って、何その人たちッ!」
海の家に到着するや否や、グラマラスボディーの超絶綺麗なお姉さんに、ぎょっとされる。
「俺のダチのちいまる。あと、その隣はえっと……」
「西本です!」
西本が食い気味で言うと、わっとその場にいた人たちが歓声を上げる。
先ほど聞こえてきた騒がしい声に構えていたが、よく見るとみんな俺たちと年齢が近いように見えた。
「大っ、成っ、功!」
見張りに怯えながら背中を丸めて走っていた俺たちは、坂道を下りきったところで一気に解放された。
目の前に広がっていたのは、夕暮れ時の森戸海岸だ。
今日は雲がほとんどなく、夕日のオレンジが交ざった青紫色の空に、富士山の影がはっきりと浮かんでいた。
もう夜はそこなのだ。
規則的な波音が心地よく鼓膜を揺らす。
一日中暗い教室に閉じ込められていた身体に、温かい潮風が気持ちいい。
「はぁ〜! 最高! やっぱ脱走して正解だったな一樹!」
「ああ。……で、夕飯どうする?」
「決まってんだろ。あっちの海の家で、なんか美味いもん食おうぜ!」
波打ち際に沿って歩いていくと、浜辺にぽつんと灯りがともる賑やかな海の家が見えてきた。
浜焼きの香ばしい匂いと、楽しげな音楽が風に乗って漂ってくる。
(あれ……なんか思ってたのと違う?)
海の家に近づきにつれ、不安が襲ってきた。
てっきり海の家では家族連れや、カップルがのんびり屋台飯を食べているのだろうと思っていたが、全然違った。
海岸に響き渡るほどのイケイケな洋楽が流れ、見るからに派手な水着の男女が沢山集まっている。
完全に俺らは場違いだった。
「もしかして、貸し切り中とか……?」
「あ、なるほど」
こそっと耳打ちをしてきた西本に、俺は妙に納得した。
みんな打ち解けたように談笑しており、知り合いのような雰囲気だ。
どこかの大学のサークルで団体で海に来て、そのまま海の家でも貸し切って夕飯でも食べているのだろう。
「……違う店行く?」
西本に提案してみる。
周りを見渡してみても、どこの海の上も騒がしいような気がしたからだ。
そういうところが好きな人はいいが、俺らはただのがり勉陰キャのガキだから。
「そうしよ、そうしよ、ちょっと高そうだけど、あっちにうどん屋あったし」
(さすが西本、リサーチ力が強い!)
関心しながら揃って踵を返したその時だった。
背後で「ちいまる!」と大きな声が聞こえてきた。
(ん……? ち、ちいまる……?)
この声、聞き覚えがある。
いや、まさか、そんな。
遅れてドクドクと激しく心臓が動きだす。俺は震える体をゆっくりと後ろに向けた。
「え? 若月?」
「やっぱ、ちいまるだったか!」
その大きな図体を見た瞬間、時間が止まった。
間違いない。
一か月前よりも日焼けをした若月が、そこにいた。
金髪で眼光の鋭い、柄の悪さはあの時と何も変わらない。
「えぇッ、嘘! 一樹の知り合いなの?」
西本が目をまん丸にして絶叫した。うん、そうなるよね。俺が逆の立場でもそうなる。
俺は西本にぎこちなく笑いかけた後、再び若月を見た。
「なんで、こんなところにいるんだ……?」
緊張で声が震えた。
だって、ずっと会いたかったんだぞ。こんな偶然あるのかよ。
すると、若月はにこっと無邪気に笑い、海の家を指さす。
「今日は通信のクラスメイトたちと遊びに来た。一緒に飯食おうぜ!」
「は⁉」
若月にぐいっと強引に腕を引かれ、つんのめる。
「ちょ、離せ!」
(俺たちが、あの集団に……?)
確かに若月には会いたかった。
だが見るからに派手な連中のやつらに交じって飯を食うなんてハードルが高いこと、できない!
「おら、行くぞ! えっと、君はなんて名前? ちいまる二号?」
「いえ、西本っていいます! お兄さん、めっちゃかっこいいっすね!」
キラキラと目を輝かせる西本に、ずっこけそうになる。
「そうか? お前、めっちゃ良いやつだな! いっぱい飯食っていけよ!」
「おっす!」
(西本! 無駄にコミュ力高いのやめてぇー!)
どうやら、西本は相当若月の容姿が気に入ったらしい。
全然コミュニティが違うのに、なんとか馴染もうとしている姿を見て、そう感じた。
しかも若月も分かりやすくニコニコしていて、まんざらでもなさそうだ。
「あ、やっと戻ってきた~! って、何その人たちッ!」
海の家に到着するや否や、グラマラスボディーの超絶綺麗なお姉さんに、ぎょっとされる。
「俺のダチのちいまる。あと、その隣はえっと……」
「西本です!」
西本が食い気味で言うと、わっとその場にいた人たちが歓声を上げる。
先ほど聞こえてきた騒がしい声に構えていたが、よく見るとみんな俺たちと年齢が近いように見えた。


