サトラレ体質の俺は好きバレしたら終わるので友達ポジション死守します

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 俺と陽翔が入った文化祭の音楽チーム。部活が忙しいメンバーが多くて、やっと三日後の放課後に教室に残って打ち合わせをすることになった。
 クラスの陽キャ大集結のメンバーの中で、俺だけ浮いてると思ったけど、このアイディアを出してくれたしっかり者女子の鈴木さんも入ってくれてありがたい。
 今日は他の二チームも残ることになったらしい。音楽チームは黒板前の席に陣取り、後ろ側には文化祭実行委員の二人がそれぞれ所属してる、調理チームと装飾チームが静かに話し合ってる。
 陽翔がまた指揮をとって、俺以外のメンバーがわいわい言いながら曲をかけて、ああだこうだ言ってる。俺は静かにそれを眺めてた。別にやる気がないわけじゃないけど、話がまとまって来てからでもいいかなって。そしたら急に陽翔が俺にも話を振って来た。
「陽翔が全体会議で発言した時に言ってた曲って、なんかイメージがあるの?」
 うん、ある。口で説明するより楽なんで、音楽のサブスクアプリで曲をかけた。 
「これだけど。知ってる?」
 イントロが流れたところで即、陽翔が頷いた。
「知ってる」
「その曲、ダンスカバーとか、ショート動画で使ってる人も多いよね」
 ダンス部女子は立ち上がって身体を動かし始め、陽翔もサッカー部の二人も上半身で拍子をとりながら頷いてる。
 手ごたえがあったのをみて、俺も気持ちが乗ってきた。
「前に音楽番組で色んなグループのアーティストが選抜メンバーで踊ってるのを見たんだ。有名な曲だし、知ってる人多そうだし」
「これでもいい?」
「え……」
 陽翔が早速みんなに決を取ろうとしたから慌てたら、みんなうんうん頷いた。
「いいんじゃね?」
「え、そんな簡単に決めていいの?」
「いいっしょ別に。サビんとこ、盛り上がりそうだし」 
 サッカー部男子も、投げやりという感じではないから安心した。陽翔は立ち上がって友達の肩をがしっと組んで、俺のスマホを触って曲を最初に戻した。
 軽妙なイントロが再び鳴る。みんなでスマホを覗き込む。
「あのさ。これ始まりとサビの手前のところはバチバチに振付して、サビのところは歌詞のセンテンスごとに教室ん中、右回りにみんなで回って、次は左に回ってってやったら、面白くない?」
「あー、いいかも」
 ダンス部女子と陽翔はなんか思いついたものがあるみたいで、ぱっと立ち上がり、机をずずずと左右に動かして空間をつくると、何となく手足をダンスの振付っぽく動かし始めた。
(陽翔のこういうとこ凄い。センスあり、だよなあ)
 ダンス部はもちろんだけど、陽翔の動きもわりと決まってる。まあ俺はダンスできないけど、姉がずっとダンスやってたから見る側の目は肥えてる方だと思う。
 ダンスって軸がぶれると途端にだらけた動きに見えるんだけど、陽翔は決める時はちゃんと指先までぴたって止められて決まる。それとアイソレーションが上手いって思う。
(はーでも、やっぱ。ダンスに関して俺、なにもやることないじゃん……)
 手持無沙汰でいたら、サッカー部男子、岡本に隣から肘で脇腹を軽く突かれた。
「おい、佐藤」
「え……、はい」
「お前、なんか楽器できる?」
「楽器は……、できない。岡本は出来るの?」
「俺はギターなら少し弾ける」
「……マジか。サッカー部で陽キャでイケメンでギター弾けるとか、モテ特化狙いすぎじゃね?」
 思わず呟いたら、岡本は目を剥いた後、仲のいいサッカー部員の山下と一緒にケラケラ笑い始めた。
「佐藤、キャラぶれしてね? お前ってさあ、クールっていうか、もっとすかした奴だと思ってた」
「それ、シンプルに悪口だな」
「だってさ、なあ」
 岡本は山下と顔を見合わせながら言った。
「女子がお前のこと綺麗綺麗いって特別扱いしてるしさ」
「ほんと、それな。ズルいよな。俺らと扱い違いすぎ」
「そんなことないだろ」
 でも、確かに心当たりはあって、女子が他の男子と喋る時より、俺には丁寧に話しかけてくれることが多いなあとは感じてた。
「確かに、私の周りの女子は佐藤君を2年3組の『透明感担当 』と陰で呼んでます」
 鈴木さんまで会話に入っていた。
「え? 初耳なんだが。それ、いいあだ名なの?」
「いいあだ名ですよ。佐藤君はね。そこにそうしているだけで、透明感抜群で、綺麗なんよ。美容に気を付けているのが一目でわかる、エフェクトいらないこの艶々で真白な美肌、整った眉の形、髪の毛も潤艶、唇がカサカサだったところなんて見たことないし、睫毛もバサバサ、香水もたまに変わりますよね?」
 急に鈴木さんに早口でまくし立てられて、言われてびっくりした。
 サッカー部二人からもじろじろ見られて気まずい。なんか変なこと言われるかと身構える。
「まあ、こいつ確かに。なんか綺麗だよな。毛穴ゼロ」
「そうなんですよ、毛穴なし! 」
 てっきり揶揄われるか、お得意の冷笑系で返されるかと身構えてたのに、あっさり肯定されて拍子抜けした。
(なんか……、ちゃんと話せば通じるの、かも?)
 だからもう、なんか誤魔化したり謙遜したりしないで喋ってもいいかなって思った。陽翔もすぐそこにいて、こっちをちらちら見て気にしている風だ。
「うち、姉さんがコスメティックブランドで働いてて、俺のところにも沢山買って色々試したコスメが大量に流れて来るんだよね。その中で自分に合うものが選べて……。香水も季節限定のをつけたり、まあ色々試してる」
「だからか! 佐藤君が通り掛かると、いつもいい匂いがします」
「へー、どんな感じの匂い?」
 岡本が隣の机の席から、俺の方に上半身を伸ばして来た。そしたらすぐに、すごい勢いで陽翔がこっちに飛んできて、俺と岡本の間に無理やり割って入ってきた。そのまま身を屈めて、顏は俺の顔のすぐ横だ。
 俺がびっくりしてる間に、机の上に置いてた手を陽翔がぎゅって握ってきた。
「なんの話してたの? 随分楽しそうだね?」
 陽翔のいつもは細めると可愛い感じになる目が、今は鋭くちょっと三角気味。なんか、浮気をとがめられてるみたいな詰問口調と低めの声にちょっとビビる。
「別に、色々……、喋ってた」
「俺、佐藤からイケメンで何でもできて、すげーって褒められたぞ?」
「はあ? 別にそこまで褒めてない。やってることが女子受けモテ特化って言ってただけ」
「なんだこいつ~ 何気に毒舌キャラ~ 面白れぇ」
 陽キャ岡本が陽翔の身体越しに、腕を伸ばして、俺の頭を小突こうとしたら、ぱしって陽翔がその手を振り殻った。
「望にはそういう荒っぽいノリはしちゃダメ。大事にして」
「はあ? なにそれ、佐藤だけ特別扱いかよ」
「悪いか? 特別なんだよ」
「くうっ」
 鈴木さんが変な声を上げて足をバタバタさせた。岡本はニヤニヤ。俺は正面から陽翔のブレザーに顔を押し付けられ、ぎゅうっと抱きしめられて、何がなんやら。
「おい、邪魔! ダンスの方は、もうできたのかよ」
 俺はぐいっと暑苦しい陽翔を押しのけた。
「できた。ダンス部天才!」
 女子がキメキメポーズでこっちを向いた後、イエーイって感じにピースした。
「まだまだ三十分も立ってないのに、流石はダンス部凄いね!」
「俺も振り参加したよ?」
 またきゅるんって感じに可愛い子ぶって抱き着いて来る陽翔に、俺も慣れが出て「あー、えらいえらい」ともう一回押しのけた。
「望がツンデレすぎる」
「誰がツンデレだ!」
「そういうとこ、可愛いからいいけどさ。はいはいはいっつ!」
 気を取り直したって感じの顔をした陽翔が、発声と同時にぱんぱんぱんってド派手に手を叩いた。当然、教室中の人の視線が、陽翔に一時集中する。
「望、岡本、山下、鈴木さん! ダンス練やるよ」
 ダンス部女子も立てノリに腕をがんがん突きあげて跳ねている。
「今すぐ振りを覚えてもらうからね!」
「げえ、急にスパルタ!」
「え? 俺も?」
「踊り始めはアオハルと私たち。その後、みんなで踊れそうな振りにしたから、動画撮ってクラスラインに投稿してみんなにも覚えてもらうよ! 行くぞ!」
「ほら、望も立って!」
 陽翔に腕を取られて、俺もサッカー部二人も渋々立ち上がって、音楽をガンガンかけたところで、いきなり見取り練習に参加させられた。
(陽キャチームの物事進めるスピード感が凄すぎる……)
 立ち上がって前に出た。陽翔はずっとくっついて来てて、距離がやたら近い。どさくさに紛れてずっと手を繋いでくるのはなんで?
「ゆっくり教えてくれるよな? 俺らダンス初心者だし」
 ぼやきつつも女子にデレついてるサッカー部に、ぴしゃりとダンス部が釘を出す。
「あんたたち、応援団の時だらけてたじゃん、今回は一発で覚えろ」
「えー」
 女子の方に行こうとした俺の腕を、陽翔がぐっと引き寄せる。
「望は、難しかったら後で俺が教えるからね」
「いや、俺も、一発で覚えるから大丈夫! それよりさ、クラス大体みんな今いるし、全員でやった方が早くない?」
「それもそっか。おーい! 装飾と調理チームもこっち見て! ダンスできたからちょっと一緒にやってみない?」
 『アオハル』の一声でも話し合い中だったみんなはまだわからないみたい。陽翔の手を振り払って、教室の後ろに走っていった。
「ねー聞いて」
 バイト先と同じぐらい大きな声を出した。みんなが流石に俺の方を向く。教室内で大声だすのは、まだちょっと心臓がばくばくってなる。
「なんかもうダンスできたみたいだから、ソロ踊る人以外のところはみんなでやってみない?」
 陽翔も隣に来て、全体に向けて指示出しをする。
「外側で踊れるように、一旦ちょっと机を真ん中によせてみよ」 
 いきなりのリハーサル。でもクラスのみんなの顔は明るい。明らかに体育祭後のギスギスした雰囲気はなくなってて、俺も気持ちが浮き立つ。
 机をできるだけぎゅうぎゅうに真ん中に寄せて、重ねたところなんてバリケードみたいになってる。
 鈴木さんが教室のスピーカーにスマホを繋げてくれて、音楽が大きな音で鳴り始める。イントロでダンス部と陽翔が頭の上で拍子をとりながら、手をクラップさせてる。
 歌詞の始まりに合わせて、身体で縦揺れのリズムをとってた陽翔が踊り始めた。続けてダンス部女子が躍る。見ている人たちから歓声があがった。
(制服姿でダンスはさすがにエモっ!)
 女子はスカートの下はジャージの短パン、陽翔はブレザーの前を開けて翻してる。
「じゃあこっから見て」
 繰り返しのフレーズは同じ振りつけ。早い人は二回目でもう即覚えてる。俺も一発は無理で三回目で何となく踊れた。
「じゃあこのサビの前は盛り上げてくよ」
 女子と陽翔が円の内側を向いて伸ばした手を下から上へと二回、音楽に合わせて上げる仕草をした。みんな見よう見まねで同じ動きをした後、陽翔が叫んだ。
「はい、右に向かって回る!」 
 みんなが一斉に右に向かってリズミカルに歩く。
「はい左!」
 逆向きに歩く。次のフレーズではまた右へ。そうそう。これって流れるプールに身を任せるときのちょっと楽しいグルーヴ感に似ているかも。 
「うわ、これ目が周りそ」
「あはははは!」  
「やべ、青春って感じ!」
 誰かがそう言って笑いをとってた。俺は陽翔からは三人ぐらい後ろの位置。なのに陽翔は急に輪を外れて、俺の手をとった。
「じゃあラスト好きなポーズで決めて」
「えええ!」
 陽翔は俺の腕をぐいって上に伸ばさせて、強引に俺をぐるぐるって回してきた。
「ああああっ」
「お前らなにやってんのー!」
 周りがけらけら声を上げて笑う。回されててよくわかんないけど、みんなも適当に動いてポーズを決めたみたい。曲が終わったら、よろけた俺は陽翔が俺をバックハグでがしっと抱き込んだ。
「こんな感じ。楽しかった?!」
「「「楽しー!」」」
「音聞こえたから来た! なにやってんの?」
 通りがかりの別のクラスの奴が駆け込んできて、陽キャサッカー部員男子とハイタッチしてる。
「ないしょー」
「えーなんか楽しそうだな」
「当日見に来てよ!」
 そっからはみんな思い思いにわちゃわちゃしてる。暖かい空気感に、俺は胸がじんわりした。俺を抱きしめる陽翔の腕に巻きつけるみたいに腕を添えて呟いた。
「お前って……、すごいな」
「そんなことない。望が一緒にいてくれたからだよ」
「え……」
 急にずしりと、頭の上になんか硬い感触。陽翔の顎が刺さってる。そのあとぐりぐりぐりって顔を押し付けられてる感覚がした。
「ばっ、バカお前何してんだよ」
「いい匂い。花みたい。癒し~」
 もがいて陽翔の腕を外して逃げようとしたら、陽翔に肩をがっちりホールドされて、増々逃げられない状態になった。
「お前ら勝手にいちゃついてればいいんじゃん? 俺らで後決めておくから」
 みんなまたグループごとに戻っていったのに、通りがかりにサッカー部の奴らにまで呆れられてるぞ! 
「離せ、馬鹿力!」
「嫌だー。今日こそ日曜のデート先決めるからね!」
「デート?」
 鈴木さんが眼鏡をピカらさせて振り返ったから、俺は慌てて言い訳を考えた。
「デートじゃない、デートじゃなくて写真を撮りに出かける……」
 言ってからしまったって思ったら、陽翔が俺を抱きしめたまま大きく身体を左右に揺らした。
「やった~ 写真撮らせてくれる!」
 まあ、迂闊だってのは認めるよ。また、嵌められた?のか。
(困ったな……。でも友達なら出かけるくらいするよな、友達なら……)
「望とこうしてると癒される……」
 友達ならこうやって引っ付かれても、にぎにぎって手をされてても、匂い嗅がれても……。
(あれ、今更だけど、こいつって距離感近くね?)
 気がつけば陽翔のペースにすっかり乗せられてて、慣れっこになってる自分に気がついた。陽翔の腕の中でゆりかごみたいに左右に揺れながらリズムを取られてる。全然嫌じゃない。なんかこの感じ。続けばいいなってそう思った。
(友達なら、いいよね)