※※※
午後になって、クラス全員で文化祭の出し物の細かい内容を決める話し合いがあった。
文化祭実行委員は女子二人で、どっちも応援団旗の制作チームにいた子だ。
なんだかやたら張り切ってる陽翔は書記を買って出て、たまに俺の方にちらちらと視線を送ってくる。俺はじとーっと睨むけど、陽翔は機嫌よさげに黒板の前にチョークをもって立っている。
「うちのクラスはチュロスと飲み物を売るって決まりましたが、お店自体のコンセプトの意見はありますか?」
早速体育祭で応援団に入ってた陽キャチームの女子が元気よく手を上げた。
「他のクラスの出し物を聞いたら、メイド喫茶で男子も女子もメイド服着るとか、コンビニってイメージで店員の制服っぽいクラスTシャツ作るとか聞きました!」
その子と仲良しそうな女子も続けて小さく手を上げる。
「やっぱり可愛い格好がしたい。昔のアメリカのカフェ風とかどうかな?」
「アメリカンダイナーみたいなとこ?」
陽翔のアシストに女子達がうんうん頷いて、次々に発言していく。
「それだと思う」
「クラスTだけじゃなくて、せっかくお祭りだからその時しか着られないような格好がしたいです」
「露出が多い格好はダメだぞ!」
担任の先生が教室の後ろから釘を刺してきた。陽キャ男子軍団の方を見たら、またヘラヘラ笑ってて、特に意見は出してこない。
「アメリカンダイナー風、他に何かあります?」
特に異論はなく、コンセプトはすんなりとアメリカンダイナー風に決定した。
「他に、何かアイディアとか……、やりたいこととかありますか?」
文化祭実行委員の女子が、体育祭の時に一緒に応援団旗を作ってた大人しめな女子たちの方を向いたけど、すぐには発言できなくて一旦静かになってしまう。
そしたら陽翔が代表の女子の前に1歩踏み出して、さっと手を上げた。
「あのさ。ジュークボックスを作るのはどう? スマホで操作することになるけど、アメリカンダイナーな雰囲気でそう」
「ジュークボックスっ何?」
陽翔と仲のいいサッカー部男子が手を上げずに尋ねて来た。
「お金入れて、好きな曲のボタン押すと音楽が掛かる機械のこと。昔の映画とかで、でてこない?」
サブカル好きそうな子たちが分かったみたいで、顔を見合わせてなんか喋ってる。俺もぎり、分かったけど本物は見たことはないかも。
「わざわざ面倒じゃね? 普通にスマホで音楽かければよくね?」
「まあ確かに。内装でそれっぽいやつ置くと雰囲気でるかなって思ったんだよね。見た目だけ。でも音楽もそれっぽく合わせたらいいんじゃないかな? ……まあこんな感じで、なんでもいいから意見が色々出たら面白くない? どう?」
陽翔はみんなを見渡しながらそういった。
ああ、そっか。他の人が気軽に発言しやすい空気を作ったんだ。こういうとこ見ると、ただノリがいいだけの陽キャってだけでもないんだよな。
(陽翔って、悔しいけどやっぱすごい。さっき俺が行ったこと、ちゃんと考えて行動に移してくれてる。ちょっと嬉しい)
すると急に、いつもは大人しい女子がさっと手を挙げた。
「あのちょっと、やってみたいことあるんですけど……。遊園地とかにあるカフェみたいに、時間になったら店員が出し物をするのとかどうでしょうか」
「出し物?」
「アメリカの子供向けチャンネルの、ミュージカルみたいな感じ。音楽が掛かったらクラスのみんなで歌いだしたり、踊ったり。そういうの面白いかなって思ったんです。うちのクラスの応援団のダンス、すごく人気だったから、客寄せにもなるかなって……」
発言が終わったら、教室中、みんなが口々に色んな事を言い出した。
楽しそうとか、めんどくさそうとか、やってみたいとか、誰がやるのとか。
全部ごちゃ混ぜ。
ひときわ大きな声で周りを圧したのは、例の冷笑系、サッカー部の男子だ。
「歌ったり踊ったりとかって、練習しないとだろ? もうあと二週間しかないし、今からできなくね? 普通にめんどい」
そしたらせっかく意見出してくれた女子が黙ってしまった。
(くっそ、お前また人のモチベーション下げやがって)
またみんなしーんって感じになる。誰もが体育祭後のあのしらっとした空気感を思い出したに違いない。
正直、俺は歌ったり踊ったりとかができるわけじゃないんだけど。でもせっかく意見が出て、ただチュロス売るだけより、なんか盛り上がりそうだし、面白そうだなって思った。
(なんかフォローしたい。でも、俺にできるわけじゃないし、どうしようかな……)
なんか言いたい、なんて言えばいい? 悩んで困って、俺は思わず陽斗の顔をずっと見てしまった。
(いや駄目だろ、陽翔にばかり頼っちゃ……。ここは俺が何か……)
クラスでは落ち着いたクールな感じで、大声なんて出さない。そう決めてたけど……。
「「あのさ!」」
思いがけず、俺と陽翔の声がぴったり重なった。
その瞬間に、教室内の凍ってた空気が一片に解けたみたいに、みんながどっと笑いだす。
「あー、俺と望の仲の良さがバレちゃったか!」
陽翔がそう笑いをとったけど、俺は慣れないことをして顔がかあっと熱くなった。
「じゃあ、佐藤君、何か意見がありますか?」
「えっと……。調理と運搬、販売ぐらいで、チュロスを手渡しした後は席に運ぶのはセルフサービスにする予定だから、シフトごとの運営に携わる人ってそんなに人数いらないと思う。だからショーはやりたい人がいれば、できるんじゃないかな? 歌とダンスは……陽翔、やれない? 体育祭の時もすごい、よかったし……」
皆の前で陽翔を褒めたりしたから、顔がどんどん熱くなるのを感じた。
「みんなが手伝ってくれるなら、やってもいいよ」
陽翔がきりっとした顔で即、引き受けてくれた。俺も何かやらないと……。
「ダンス部に振付一緒に考えて貰えれば何とかなるって感じだけど、どう?」
ダンス部女子は仲間内で顔を見合わせて若干ざわざわしてる。
「ダンス部はダンス部で舞台の出番あるし、後夜祭も本番あるから……、ミカ、どうする?」
「うーん、難しい振り付けとか考えるのは厳しいけど、編曲して3分以内すればそんなに大変じゃないかも。でもさ、凄く昔の曲とか分かんないから、知ってる曲がいい」
「あの!」
今度は俺単体で声と手をあげたから、クラス全体の注目を浴びてしまった。顔は熱いまま、でもなんかもう吹っ切れた気分だ。
「別にダンスも音楽も、仕上がりより、みんなで盛り上がればいいからさ。テーブル席は真ん中に固めて、周りを空けて、ショート動画で流行った曲とか知っている人が多そうな曲を突然かけたら、みんなが大きく輪になって急に歌ったり踊ったりするのとか、どう?」
俺の言葉をついで陽翔が黒板の前でさっと大きく手を広げた。指先まで綺麗な、まるでダンスの振りみたいに。
「楽しく、自由に。音楽で盛り上がればいいんだよね? 冒頭だけバチバチの踊れる人は踊って、サビはみんなで教室の中、適当に跳ねながら走ってもいいし!」
陽翔が有名で人気な曲を歌いながら、頭の上で縦ノリに腕を振りながら、ぴょんぴょんってその場で飛び跳ねた。それだけで、みんななんとなくそれぞれの方法でリズムをとり始めた。サッカー部も、片手を上げながら歌を口ずさんだ。
「うん、それならいけるかも!」
「えー、ならそれ、動画撮りたい!」
「どうせ文化祭中、どっかで動画撮る予定だったし、ちょうどいいかも」
「俺ギター弾きたい」
ついに冷笑系まで盛り上がってきた。俺はざわざわって、鳥肌が立った。
陽翔の求心力に、場の空気の盛り上がりに。
(ちょっと、感動……)
陽翔がこっち見て、白い歯を見せて笑う。爽やかに、俺だけ見て。
胸がきゅって、なった。
(え……、何この感覚)
どきどきって、なんか胸騒ぎみたいのがして……。
(『キュンです』)
アイドルみたいな可愛い声が頭の中でこだました。でも俺は話し合いに集中しようって、慌てて雑念を振り払った。
文化祭実行委員の女子も、アイディアを出した女子も最初とは打って変わった明るい笑顔になって、黒板に文字を書き始めた。
「じゃあ装飾の作業と当日のシフトはみんなでやるとして、中心となってやる人の班分けしてみる? 装飾のデザイン、調理室での調理と運搬、販売とダンスと音楽。黒板の希望するところに名前を書いて下さい。班ごとの打ち合わせがすんだら、買い出しが文化祭の3日前だからそれまでに必要なもののリストを作って、私たちに報告してください」
(俺はどこに入ろうかな。メニュー開発も楽しそうだし、無難に教室の飾り付け考えるのもいいかもしれない、応援団旗描いた子たち絵とか小物づくり上手そうだし……。音楽とダンスは陽翔とダンス部に任せればいいっしょ)
黒板に、装飾、調理、音楽と書かれた三チームの下に、自分がメインでアイディアを出したいところに名前を書くことになった。
真っ先に書きに行った人もいるし、俺みたいに迷ってなかなか決められない人もいる。俺は立ち上がって黒板に向かった。
(装飾チームっと)
チョークを手にした俺の手を、後ろから手を重ねられた。振り返ったらそれは陽翔で、そのまま俺の名前を勝手に『音楽』チームの下に書いてしまった。
「おい、お前、何すんだよ」
「えー。だって俺はお前と一緒にやりたいんだもん。さっき音楽かけて踊るの賛成したじゃん」
「だけど……、俺は踊れません!」
「えー、今更。俺、望のダンス見てみたいけどなあ? 簡単だよ? 教えるし」
「無理無理無理!」
「でも、ほら見て」
そう言って陽翔は手を緩めに握って親指で黒板をさした。
「音楽チームが一番人数少ないし、バランスとるためには望が入らないと」
確かにダントツで音楽チームが少ない。俺は提案した女子と、ダンス部と陽翔、それにサッカー部が二人入っているスーパーアウェイチーム。
(俺うまくやっていけるのかな……)
話し合いが終わった帰り道。
陽翔が当然のように俺にくっついて来たから、そのまま一緒に帰ってる。
「ねえ、今日俺、話し合いの役に立った?」
陽翔はさり気なく俺の手を掴んで、引っ張ったりぶんぶん振ったり、褒めて褒めてって大騒ぎする、大型犬みたいなテンションだ。
まあたしかに。陽翔は頑張った。その頑張りは褒めないといけない。
「あー、頑張ってた。凄かった。すっごく、えらかった。話し合い進んだし、クラスの雰囲気良くなったし」
「やったね~。正直望に褒められたくて頑張りました!」
指でハートマークを作って俺に向けながら、無邪気に笑ってる。
「俺なんかにファンサしても別にいいこと何もないぞ」
「あるよ」
「なにが?」
「望が俺のこと好きになってくれるかもしれないし」
「はあ?」
言いながら手を振り払って横によけたら、後ろから歩道を無理やり走って来た自転車のベルを鳴らされた。
「望!」
陽翔が低く唸るような声を上げて、俺の力任せに腕を引っ張った。俺はごちんって頭がなるほど陽翔の胸に頭をぶつけながら庇われ、抱き止められる。
俺達の横すれすれに、自転車が無理やり通っていった。
「めちゃくちゃ危ないな! 車道走れよ!」
雄みの強い声で、聞こえよがしに大声を放つ陽翔に抱きしめられながら、俺は心臓のバクバクが止められなかった。
(びっくりした……)
腕の中から見上げた陽翔の横顔は、輪郭が整っていて本当に端正だ。
一見王子様体型ですらっとしてるけど、抱きしめられると肩幅も胸の広さも背の高さも、全然俺より上で逞しい。
「大丈夫だった?」
優しい顔で覗き込まれて、まともに目を合わせたら、どきんって、心臓が余計に跳ねた。強いドキドキが収まる気配がない。
(ただ、びっくりしたから、ドキドキしてるだけ……)
そう思った瞬間、ぐしゃぐしゃになったフェルトの花と、あの日の教室の情景がフラッシュバックした。
「大丈夫だから、放して」
「あ、ごめん」
ぱっと手を離されて、じっと顔を見た。
(友達の、好きなら……。心の声、聞こえたり……、しないよな。)
こちらを優しい顔で見つめ返してくる陽翔に、特に変わった様子はなかった。
午後になって、クラス全員で文化祭の出し物の細かい内容を決める話し合いがあった。
文化祭実行委員は女子二人で、どっちも応援団旗の制作チームにいた子だ。
なんだかやたら張り切ってる陽翔は書記を買って出て、たまに俺の方にちらちらと視線を送ってくる。俺はじとーっと睨むけど、陽翔は機嫌よさげに黒板の前にチョークをもって立っている。
「うちのクラスはチュロスと飲み物を売るって決まりましたが、お店自体のコンセプトの意見はありますか?」
早速体育祭で応援団に入ってた陽キャチームの女子が元気よく手を上げた。
「他のクラスの出し物を聞いたら、メイド喫茶で男子も女子もメイド服着るとか、コンビニってイメージで店員の制服っぽいクラスTシャツ作るとか聞きました!」
その子と仲良しそうな女子も続けて小さく手を上げる。
「やっぱり可愛い格好がしたい。昔のアメリカのカフェ風とかどうかな?」
「アメリカンダイナーみたいなとこ?」
陽翔のアシストに女子達がうんうん頷いて、次々に発言していく。
「それだと思う」
「クラスTだけじゃなくて、せっかくお祭りだからその時しか着られないような格好がしたいです」
「露出が多い格好はダメだぞ!」
担任の先生が教室の後ろから釘を刺してきた。陽キャ男子軍団の方を見たら、またヘラヘラ笑ってて、特に意見は出してこない。
「アメリカンダイナー風、他に何かあります?」
特に異論はなく、コンセプトはすんなりとアメリカンダイナー風に決定した。
「他に、何かアイディアとか……、やりたいこととかありますか?」
文化祭実行委員の女子が、体育祭の時に一緒に応援団旗を作ってた大人しめな女子たちの方を向いたけど、すぐには発言できなくて一旦静かになってしまう。
そしたら陽翔が代表の女子の前に1歩踏み出して、さっと手を上げた。
「あのさ。ジュークボックスを作るのはどう? スマホで操作することになるけど、アメリカンダイナーな雰囲気でそう」
「ジュークボックスっ何?」
陽翔と仲のいいサッカー部男子が手を上げずに尋ねて来た。
「お金入れて、好きな曲のボタン押すと音楽が掛かる機械のこと。昔の映画とかで、でてこない?」
サブカル好きそうな子たちが分かったみたいで、顔を見合わせてなんか喋ってる。俺もぎり、分かったけど本物は見たことはないかも。
「わざわざ面倒じゃね? 普通にスマホで音楽かければよくね?」
「まあ確かに。内装でそれっぽいやつ置くと雰囲気でるかなって思ったんだよね。見た目だけ。でも音楽もそれっぽく合わせたらいいんじゃないかな? ……まあこんな感じで、なんでもいいから意見が色々出たら面白くない? どう?」
陽翔はみんなを見渡しながらそういった。
ああ、そっか。他の人が気軽に発言しやすい空気を作ったんだ。こういうとこ見ると、ただノリがいいだけの陽キャってだけでもないんだよな。
(陽翔って、悔しいけどやっぱすごい。さっき俺が行ったこと、ちゃんと考えて行動に移してくれてる。ちょっと嬉しい)
すると急に、いつもは大人しい女子がさっと手を挙げた。
「あのちょっと、やってみたいことあるんですけど……。遊園地とかにあるカフェみたいに、時間になったら店員が出し物をするのとかどうでしょうか」
「出し物?」
「アメリカの子供向けチャンネルの、ミュージカルみたいな感じ。音楽が掛かったらクラスのみんなで歌いだしたり、踊ったり。そういうの面白いかなって思ったんです。うちのクラスの応援団のダンス、すごく人気だったから、客寄せにもなるかなって……」
発言が終わったら、教室中、みんなが口々に色んな事を言い出した。
楽しそうとか、めんどくさそうとか、やってみたいとか、誰がやるのとか。
全部ごちゃ混ぜ。
ひときわ大きな声で周りを圧したのは、例の冷笑系、サッカー部の男子だ。
「歌ったり踊ったりとかって、練習しないとだろ? もうあと二週間しかないし、今からできなくね? 普通にめんどい」
そしたらせっかく意見出してくれた女子が黙ってしまった。
(くっそ、お前また人のモチベーション下げやがって)
またみんなしーんって感じになる。誰もが体育祭後のあのしらっとした空気感を思い出したに違いない。
正直、俺は歌ったり踊ったりとかができるわけじゃないんだけど。でもせっかく意見が出て、ただチュロス売るだけより、なんか盛り上がりそうだし、面白そうだなって思った。
(なんかフォローしたい。でも、俺にできるわけじゃないし、どうしようかな……)
なんか言いたい、なんて言えばいい? 悩んで困って、俺は思わず陽斗の顔をずっと見てしまった。
(いや駄目だろ、陽翔にばかり頼っちゃ……。ここは俺が何か……)
クラスでは落ち着いたクールな感じで、大声なんて出さない。そう決めてたけど……。
「「あのさ!」」
思いがけず、俺と陽翔の声がぴったり重なった。
その瞬間に、教室内の凍ってた空気が一片に解けたみたいに、みんながどっと笑いだす。
「あー、俺と望の仲の良さがバレちゃったか!」
陽翔がそう笑いをとったけど、俺は慣れないことをして顔がかあっと熱くなった。
「じゃあ、佐藤君、何か意見がありますか?」
「えっと……。調理と運搬、販売ぐらいで、チュロスを手渡しした後は席に運ぶのはセルフサービスにする予定だから、シフトごとの運営に携わる人ってそんなに人数いらないと思う。だからショーはやりたい人がいれば、できるんじゃないかな? 歌とダンスは……陽翔、やれない? 体育祭の時もすごい、よかったし……」
皆の前で陽翔を褒めたりしたから、顔がどんどん熱くなるのを感じた。
「みんなが手伝ってくれるなら、やってもいいよ」
陽翔がきりっとした顔で即、引き受けてくれた。俺も何かやらないと……。
「ダンス部に振付一緒に考えて貰えれば何とかなるって感じだけど、どう?」
ダンス部女子は仲間内で顔を見合わせて若干ざわざわしてる。
「ダンス部はダンス部で舞台の出番あるし、後夜祭も本番あるから……、ミカ、どうする?」
「うーん、難しい振り付けとか考えるのは厳しいけど、編曲して3分以内すればそんなに大変じゃないかも。でもさ、凄く昔の曲とか分かんないから、知ってる曲がいい」
「あの!」
今度は俺単体で声と手をあげたから、クラス全体の注目を浴びてしまった。顔は熱いまま、でもなんかもう吹っ切れた気分だ。
「別にダンスも音楽も、仕上がりより、みんなで盛り上がればいいからさ。テーブル席は真ん中に固めて、周りを空けて、ショート動画で流行った曲とか知っている人が多そうな曲を突然かけたら、みんなが大きく輪になって急に歌ったり踊ったりするのとか、どう?」
俺の言葉をついで陽翔が黒板の前でさっと大きく手を広げた。指先まで綺麗な、まるでダンスの振りみたいに。
「楽しく、自由に。音楽で盛り上がればいいんだよね? 冒頭だけバチバチの踊れる人は踊って、サビはみんなで教室の中、適当に跳ねながら走ってもいいし!」
陽翔が有名で人気な曲を歌いながら、頭の上で縦ノリに腕を振りながら、ぴょんぴょんってその場で飛び跳ねた。それだけで、みんななんとなくそれぞれの方法でリズムをとり始めた。サッカー部も、片手を上げながら歌を口ずさんだ。
「うん、それならいけるかも!」
「えー、ならそれ、動画撮りたい!」
「どうせ文化祭中、どっかで動画撮る予定だったし、ちょうどいいかも」
「俺ギター弾きたい」
ついに冷笑系まで盛り上がってきた。俺はざわざわって、鳥肌が立った。
陽翔の求心力に、場の空気の盛り上がりに。
(ちょっと、感動……)
陽翔がこっち見て、白い歯を見せて笑う。爽やかに、俺だけ見て。
胸がきゅって、なった。
(え……、何この感覚)
どきどきって、なんか胸騒ぎみたいのがして……。
(『キュンです』)
アイドルみたいな可愛い声が頭の中でこだました。でも俺は話し合いに集中しようって、慌てて雑念を振り払った。
文化祭実行委員の女子も、アイディアを出した女子も最初とは打って変わった明るい笑顔になって、黒板に文字を書き始めた。
「じゃあ装飾の作業と当日のシフトはみんなでやるとして、中心となってやる人の班分けしてみる? 装飾のデザイン、調理室での調理と運搬、販売とダンスと音楽。黒板の希望するところに名前を書いて下さい。班ごとの打ち合わせがすんだら、買い出しが文化祭の3日前だからそれまでに必要なもののリストを作って、私たちに報告してください」
(俺はどこに入ろうかな。メニュー開発も楽しそうだし、無難に教室の飾り付け考えるのもいいかもしれない、応援団旗描いた子たち絵とか小物づくり上手そうだし……。音楽とダンスは陽翔とダンス部に任せればいいっしょ)
黒板に、装飾、調理、音楽と書かれた三チームの下に、自分がメインでアイディアを出したいところに名前を書くことになった。
真っ先に書きに行った人もいるし、俺みたいに迷ってなかなか決められない人もいる。俺は立ち上がって黒板に向かった。
(装飾チームっと)
チョークを手にした俺の手を、後ろから手を重ねられた。振り返ったらそれは陽翔で、そのまま俺の名前を勝手に『音楽』チームの下に書いてしまった。
「おい、お前、何すんだよ」
「えー。だって俺はお前と一緒にやりたいんだもん。さっき音楽かけて踊るの賛成したじゃん」
「だけど……、俺は踊れません!」
「えー、今更。俺、望のダンス見てみたいけどなあ? 簡単だよ? 教えるし」
「無理無理無理!」
「でも、ほら見て」
そう言って陽翔は手を緩めに握って親指で黒板をさした。
「音楽チームが一番人数少ないし、バランスとるためには望が入らないと」
確かにダントツで音楽チームが少ない。俺は提案した女子と、ダンス部と陽翔、それにサッカー部が二人入っているスーパーアウェイチーム。
(俺うまくやっていけるのかな……)
話し合いが終わった帰り道。
陽翔が当然のように俺にくっついて来たから、そのまま一緒に帰ってる。
「ねえ、今日俺、話し合いの役に立った?」
陽翔はさり気なく俺の手を掴んで、引っ張ったりぶんぶん振ったり、褒めて褒めてって大騒ぎする、大型犬みたいなテンションだ。
まあたしかに。陽翔は頑張った。その頑張りは褒めないといけない。
「あー、頑張ってた。凄かった。すっごく、えらかった。話し合い進んだし、クラスの雰囲気良くなったし」
「やったね~。正直望に褒められたくて頑張りました!」
指でハートマークを作って俺に向けながら、無邪気に笑ってる。
「俺なんかにファンサしても別にいいこと何もないぞ」
「あるよ」
「なにが?」
「望が俺のこと好きになってくれるかもしれないし」
「はあ?」
言いながら手を振り払って横によけたら、後ろから歩道を無理やり走って来た自転車のベルを鳴らされた。
「望!」
陽翔が低く唸るような声を上げて、俺の力任せに腕を引っ張った。俺はごちんって頭がなるほど陽翔の胸に頭をぶつけながら庇われ、抱き止められる。
俺達の横すれすれに、自転車が無理やり通っていった。
「めちゃくちゃ危ないな! 車道走れよ!」
雄みの強い声で、聞こえよがしに大声を放つ陽翔に抱きしめられながら、俺は心臓のバクバクが止められなかった。
(びっくりした……)
腕の中から見上げた陽翔の横顔は、輪郭が整っていて本当に端正だ。
一見王子様体型ですらっとしてるけど、抱きしめられると肩幅も胸の広さも背の高さも、全然俺より上で逞しい。
「大丈夫だった?」
優しい顔で覗き込まれて、まともに目を合わせたら、どきんって、心臓が余計に跳ねた。強いドキドキが収まる気配がない。
(ただ、びっくりしたから、ドキドキしてるだけ……)
そう思った瞬間、ぐしゃぐしゃになったフェルトの花と、あの日の教室の情景がフラッシュバックした。
「大丈夫だから、放して」
「あ、ごめん」
ぱっと手を離されて、じっと顔を見た。
(友達の、好きなら……。心の声、聞こえたり……、しないよな。)
こちらを優しい顔で見つめ返してくる陽翔に、特に変わった様子はなかった。



