サトラレ体質の俺は好きバレしたら終わるので友達ポジション死守します


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 俺たち二年生の教室は三階だ。一階の科学室への教室移動の最中、俺は二階で陽翔のいるグループを待ち伏せしていた。サッカー部と陽翔が4人で賑やかに階段を降りて来る。
「陽翔! お前、ちょっとこい」
 お怒りを匂わせた声を上げ、先頭にいた陽翔の腕をぐっと掴んだ。
「あー、佐藤」
「陽翔良かったじゃん、佐藤と仲良くなれて」
「喋りたがってたもんな」
(喋りたがってた?)
 冷笑グループがなんかみんなニコニコしてる。なんだか妙な反応だ。これはこれでなんかムカつく。
「おい、変なこと言うなよ。これ持って、先行ってて」
 陽翔の顔を見たらちょっと耳が赤くなってる。周りの連中にペンケースや教科書をちゃっかり手渡してるとこが要領がいい。
 なんでかはにかんでる陽翔の腕を掴んで東棟の空き教室まで連れ込んで、壁際に追いやるとどんっと壁に手をついた。
「おい、お前! 次から次にベラベラと適当なこと言いやがって!」
 自分より背が高い男を壁ドンすると、凄んでも上目遣いになるのが恨めしい。陽翔はニコニコしながら俺を見下ろしてきた。
「おお! 望の壁ドン! 可愛い」
「可愛くない! 俺は怒ってんの!」
 キャラ変って言われても構わない! ここはがつんといっておかないと。
「ごめんて。昨日本当は写真のこともお願いしようって思ってたんだけど、望と沢山話せてテンション上がりすぎて、タイミング掴みそびれた」
 謝りながらこっちを上から覗き込んでくる。その目元は愛嬌いっぱいだ。
(うぐっ、怒りにくい)
 こいつはとにかく顔がいい。正直顔だけ言うと好きなタイプの造形だ。好みは人それぞれだと思うけど、俺はこういう、黙っていればクールで美形、喋ったら目元が可愛い顔立ちが羨ましいと思う。
(少し目元にアイラインとか引いて、涙袋のとこ強調させて、ほんのりリップ入れてもバカ映えそう。体育祭の時、思ったんだよなあ。こいつメイクして前でたら現役アイドルと張れるレベルのルックスだって)
「あのさ、写真のモデルとか、俺は無理だけど。お前、自分で自分の顔とれば? すごいイケメンなんだから」
 すると陽翔が前から俺に腕を回してがばっと抱き着いて来た。急にでっかい犬に急に飛びつかれた気分だ。
 陽翔のオードトワレ。本人同様爽やかだな。シトラス系。どこのか知りたいな……。とか考えている場合じゃない! 
「望って俺のことイケメンだって思ってくれてたの? 嬉しい! やったね!」
「ポジモン炸裂……」
「あはは! 俺は望のポジモンだから、冒険の旅に出よ?」
「意味わからんノリ! とにかくさあ、写真の件は無理だから」
「あはは。わかったよ。でも、望は俺の顔、嫌いじゃないんだ! それ、わかって良かった! チャンスあるじゃん。嬉しいな」
(調子づかせてしまった……)
 後ろに音符でもついてそうなぐらいに、明るくノリノリな口調に俺は「はーっ」って溜息をつく。
「顔は、な! 重たい! どけ!」
 俺は腕を突っぱねて、顔を近づけて来る陽翔の身体を押しのけた。
「ねえ? どうしてもダメ? 俺は望の写真が撮りたいなって思ったんだよ」
 陽翔が撮った写真なんて、きっとみんなが見に来るだろ。俺がモデルになって誰かにああだこうだ、言われるの、絶対に嫌だ。
「しつこいなあ。俺じゃなくてもいいじゃん! お前が頼んだら女子でも男子でも誰でもいいっていうだろ、きっと」
「だから今、望を誘ってる」
 にこにこしてる。くそう。俺が折れるの待ってるな。イケメンだからってなんでも許されると思うなよ!
「図々しい!」
「でも、俺は望がいい。望じゃなきゃヤダ」
 焦れてつい本音が出てしまったのに、陽翔は全然へこたれてない!
「……しつこいぞ」
「好きなものに、好きなものを足して写せたら、最高だろ?」
 二本に立てた指を顔の横に持って来て、アイドルの宣材写真顔負けの眩しい笑顔だ。
「なに言ってんだ、お前」
 俺はキラキラ笑顔をじろりと睨みつけた。
「こんな顔してやるからな!」
「いいね! 俺、望のその顔、結構可愛いと思う」
 ぷにって優しく頬を摘まむ、甘い仕草で揶揄われたからお手上げだ。
(ああああ、こいつ、どうやったらめげるんだ)
 ぺしって俺の頬を摘まむ手を払いのけたら、片手に抱えてたペンケースが床に落ちた。
「あーもう」
 俺がしゃがむ前に、素早く動いた陽翔がペンケースを掴んで立ち上がる。
「今日、文化祭の展示。細かいこと決まるね」
「話、急に飛ぶなあ?」
 うちのクラスはカフェってことは決まってる。今日の午後、コンセプトを決めるところだ。
「体育祭の時みたいにさ、色々やりたい奴らがやりたいようにやるんじゃん? ……陽翔はそっちのグルーブっしょ」
 そっちというのは体育祭で応援団をしていたような、所謂一軍陽キャチームだ。
「まあ、そうだけど」
 悪びれず、あっさり頷いてる。今回も文化祭実行委員は別の子たちなのに、クラスTはその陽キャチームが主導してデザインが勝手に決まってた。
 俺はサイズを聞かれただけ。本人たちは楽しそうだけど、俺はああいう、仲間内だけが楽しいノリ、嫌い。
(でもまあ……。自分で手を挙げて何かを変えようって気を起さない俺はヘタレだってことも分かってる)
 だから陽翔と話せば話すほど、俺は自分の理想と現実の自分を直視しないと行けなくて、なんか度々それがちょっと切ないんだ。
(それがこいつのちょっと苦手な原因の一つなんだろうな)
「あのさ、確認」
「なに?」
「望ってさ、本当は俺のこと苦手?」
 唐突に、また陽翔がぶっこんできた。不意をつかれて心が思いっきり揺さぶられて動揺が声に漏れた。
「え……」
(陽翔のこれ、どういう顔? 怒ってる? やっぱ態度に出てたか……、気を付けてたつもりだけど……)
 読み取れない顔つきは笑顔は消えててとても真剣そうに見えた。
「どうして、そう……」
「それはさ。体育祭の準備期間も終わった後も、何度か……、望と目が合うたびにさっきみたいに睨まれてた気がして……」
(図星……)
 でも出来れば本音を悟られたくない俺は、上目遣いに「そう?」とだけ答えた。陽翔は真剣な表情を崩さす、俺の目を真っすぐ覗き込んでくる。
 端正な顔と距離が近くて、なんだかドキドキする。俺はじっと目を見られんの、ちょっと苦手。息苦しさを感じて、慌てて視線を陽翔の口元まで落とした。
「応援団は調子に乗りやすい奴が多いから。周りに迷惑かけてたこと、沢山あったと思う。それは反省してる」
「ふーん。……自覚あったんだ」
「あった。俺さ、割と物事、いい方にとらえがちだから。まあ大丈夫っしょ、行けるっしょって……」
「……根っからポジティブだからな」
 ポジティブはいいことばっかりだと思ったけど、度を超すと問題点が見えなくなるんだなって初めて知った。俺はネガティブな心配性なとこあるから、物事の粗を探しがち。
(俺ら、マジで真逆)
「だから望に睨まれるたびに色々考えた。今、何がまずかったかなって。団旗のこともさ、俺、気が付くの遅れたから」
「ああ……、あれね」
 今年の春の体育祭、うちのクラスが所属してた黄色ブロックの団旗制作の件で、ちょっとしたいざこざがあった。
 クラス一人気がある陽翔が応援団に立候補したから、うちのクラスの陽キャは挙って応援団に入った。
 たしかに陽翔はすごかった。実行委員も兼任していた上に、ダンスが苦手な三年生の団長に代わって一番目立つセンターを担って、練習の要にもなっていたらしい。
 けどうちのクラスは応援団に沢山人が入って賑やかにやってた半面、同じように有志が活動する応援団旗を作るメンバーは少なかった。
 赤青紫、他のブロックの旗が出来上がった後も黄色ブロックの旗は中々出来上がらなくて、女子がたった二人で活動してた日なんて、俺も見かねて手伝いに入ったぐらいだ。
(青井のやつ、実行委員のくせになんで全体の進捗を把握してないんだよ)
 内心陽翔に怒ってて、度々睨みつけてたかもしれない。
 でも俺は応援団でも団旗を作る有志でもないから、口出しするのは止めよって思ったんだ。
 体育祭は青ブロックが圧倒的な力を見せ付けて圧勝、黄色ブロックは二位に甘んじたんだけど、教室に戻ってから応援団だった奴が言ったことがまずかった。
『なあ、うちのブロックだけ、旗しょぼくなかった? あれでマイナスされたっしょ』
 それを聞いた旗を作ってた女子が泣きだして、周りは騒然。実行委員で片づけをしてた陽翔が後から戻ってきた時は、教室の中は冷めきった雰囲気になってた。
 泣いた子たちに同情した女子が一斉にに陽翔に陳情して、陽翔が団旗を作った人達に代表して先に謝って、元々文句を言った奴らも一応謝ったけど、夏休みに入るまでクラスの雰囲気はあんまりよく無く終わった。
「俺があの時ちゃんと、望が睨んでくる理由を聞けばよかったんだよね」
「それは……」
(圧倒的陽キャすぎて、全然気にしてないと思ってたけど、陽翔もやっぱり、あれ、引きずってたんだ……)
 気まずさと後悔が押し寄せて来た。
「でも……。俺もさ。係に入ってなかったからなんて思わないで、ちゃんと言えばよかったんだよな。人数足りてなくて、進捗遅れてて、困ってるから手を貸してくれって……」
「陽翔が団旗の手伝いしてくれたんだって、後から旗の係の女子に聞いたよ。あの時は、本当にありがとう。ずっと言いたくて言えなかった」
「いや別に俺は……」
 陽翔はまた俺にまで謝ってきた。こいつって一番目立って何でもできて器用で……。でもだからこそ、みんなから背負わされすぎだよな。
(俺も結局、こいつにばっか期待して、やらせようとしてた。同罪だ)
 それでさ。これは言わないか。迷ったけど、ここまで腹を割って話をしてくれた、陽翔のことを信じてみようと思った。
「文化祭実行委員って、一人は応援団旗作った女子だろ? 体育祭の時の嫌な気持ちがまだ残ってるかもだし、文化祭もあんな感じでクラスがバラバラになってるのはちょっと嫌だなって、思うんだ……」
「そうだね」
「あのさ、今日の打ち合わせでみんなが意見出し合える雰囲気に出来たらいいなって思う。でもそれには陽翔の力が必要だ。俺も……、全然力不足だけど、そのために発言とかできそうなら、するから……」
 即断即決の陽翔にしては返事が遅い。視線を少し落として漂わせて、思案深げだ。
 俺は壁から手を離した。そしたら俺の頭の上で、陽翔が急に大きな声を出した。
「そうだ!」 
「びっくりした!」
 陽翔が目をキラキラ輝かせて、上を向いた俺の両肩をぐいっと掴んで引き寄せた。
「わかった。今日の文化祭のクラス会議さ、俺も意見出すし、絶対に一部の人だけの意見だけで決まるような感じにはさせないからさ」
「う、うん?」
「クラスの雰囲気、良くなったら、望、絶対俺とデートして!」
「はああ? お前なにいってんの?」
 急に何を言い出すかと思ったらまた意味分からんこと言いだした。陽翔はにっこにこでガッツポーズしてる。
「さっき写真撮らせてくれるって言ったじゃん。いいよね? よし、頑張るぞ!」
「おいおいおい、俺オッケーって言ってない!」
「頑張るからさあ、いいでしょ? 望の行きたいところでいいよ!」
「お前、人の話を聞けってばあ!」
「やばい、もうそろそろ科学室行こう!」
 さっきはさ、やりたい奴らがやればいいじゃん、なんて嘯いてはみたけど。やっぱり、そういうのなしで行きたい。
(今度こそ、俺にもなにかできることあるんじゃないかな。俺だけじゃなくて……、こいつもいたら……) 
 そう思ったら少し心が軽くなった。
 陽翔が俺の腕を掴んで、輝くように明るく笑ってから走り出す。俺はすっかり陽翔の勢いに呑まれながらも、一緒に教室から飛び出した。