サトラレ体質の俺は好きバレしたら終わるので友達ポジション死守します

 翌朝、一応陽翔とのDMを確認したら「おはよ」と軽い挨拶のメッセージだけが入ってた。ほっとしたようながっかりしたような、妙な気分を味わった。
 教室に入ったら、何故かいつも以上にクラスがざわついてた。
「おはよ、なんかあった?」
 隣の席の、俺と同じくキラキラ一軍ゾーンに属していない奴に声をかけたら、つまんなそうな顔でスマホから顔を上げた。
「なんか、女子がみんな、アオハルが匂わせ写真投稿してて、彼女ができたんじゃないかって騒いでた」
「へーえ。……え?」
 ちょうど隣で喋ってた女子グループが声を張り上げてる。
「絶対年上、大学生だよ、これ」
「ここ、どこだろ? 和食?」
「居酒屋だったりして。背景がそれっぽい」
(あー、ほら見ろよ)
 昨日の投稿がそんな憶測を呼んでいるとは、そのアプリを入れてない俺は全然知らなかった。
(自撮りの陽翔の背景は赤壁に貼られたメニューとか暗めの照明的にも怪しく見えるかもだが、広角で映ってる方は角度的にテーブルと皿ぐらいしか見えないのでは?)
「写真、見せて」
「え、あっ! 佐藤君」
「声掛けられちゃった」
「きゃあ」
 女子同士顔を見合せて、はにかみながらスマホを差し出してこられた。
「みてこれ、この手。絶対女子じゃない? 白くて細くて、爪先まで綺麗な指」
(……うん、俺だな)
 手全体は絶妙に袖口に隠れていて、そこから覗く指先が皿の横にいい感じに添えられて映ってる。女子に見えなくもないけど、でも状況から見て、これは絶対に俺の指だ。
「年上彼女と居酒屋デート? あいつ、いかがわしい!」
「うわ、マジか~」
(そんなわけねぇだろ。真面目に仕事してたんだよ! 俺らは!)
 またあの動物園の猿山みたいなサッカー部がぎゃーぎゃー五月蠅くてウザい。
 そこにちょうど、タイミングいいのか悪いのか、陽翔が登校してきた。
「おはよ」
 ネイビーのブレザー姿の陽翔はとにかく爽やかだ。いつでも青空と白い雲を後ろに背負ってる感じ。
 あれだけ無遠慮に騒いでても、みんな次々に嬉しそうに陽翔に向かって、おはようの挨拶をする。
 こんな時このクラスってこいつ中心に回っているって気がすごくする。そのまま自分の席に着くかと思った陽翔は、なんでか俺の前までやって来た。
「昨日、送ってくれてありがと」
「あ……、うん」
「昨日?」
「送った? えええ、佐藤君、アオハルんち行ったの?」
(送った違いだ! 写真だよ、写真送ったの)
 でもなんか根掘り葉掘り聞かれるのが面倒で、俺はクラスにいる時のややミステリアスキャラを発動させて曖昧に笑った。
「えー、お前、大学生のお姉さんとデートしてたんじゃないのかよ!」
 本当の事を言おうか迷ってたら、誤解やら勘違いやら憶測やらがごちゃ混ぜになって、また騒然となってきた。
「おい、お前っ」
 俺は陽翔の胸を拳でトンって突いたけど、陽翔は俺を見下ろして「おはよう」ってにこにこするだけで弁明しない。
(なんだよ、ちゃんと誤解とけよ)
 でも陽翔とバ先が一緒なの、クラス中にしれるのもなんか嫌だな。
 こいつ目当てにバイトに後から入ってくる奴が増えたら嫌だし……。クラスの中での俺の立ち位置的に、威勢よく根っから陽キャを装って挨拶してる、あの感じはあんま知られたくない。騒がしいみんなを物理的に高い位置から眺めながら、陽翔は余裕気に微笑んでる。
「まあ、あれは確かに、俺的にはデートだったかも」
(おい! 紛らわしい言い方すんなっ!)
 途端、空気が振動して鼓膜が痛いほどの絶叫が教室中に湧き起こった。
「アオハルついに彼女持ちか」
「文化祭前にイケメン売り切れ終了……」
「え、大学生と付き合ってんの?」
 騒ぎは収まりそうもない。俺と陽翔の周りにどんどん人が集まって来た。
 俺は次にこいつが何を言い出すのかって気が気じゃなくて、陽翔を上目遣いに睨み付ける。すると急に陽翔が俺の腰に腕を回して引き寄せながら顔を覗き込んできた。
「違うよ。俺、昨日は夜までずっと、望と一緒に居たもんね?」 
(うわああ、ざわざわが余計に広がってるじゃん、止めてくれ)
 俺が肘でぎりぎりつついても、陽翔はお構いないに笑顔を崩さない。
「急な望呼び」
 女子がぱっと俺の腕をあげて指先をしげしげ見てる。
「確かに……、佐藤君の指に言われてみれば似てる」
「私の密かな推しが……、アオハルと付き合ってる、だと? え、まだ夢見てる? 妄想が現実に?」
「二人は仲良かったんだ?」
「仲いいよ~」
「普通だよ!」
 同時に叫んだら、「どっちだよ」「息が合ってる!」って周りから爆笑が起こった。
(くっそ、それ、バイト先一緒でまかない食べてたところの写真だよっていうか)
 俺がギギギって睨んでるのに、あいつは一層嬉しそうに笑ってるから、マジ意味分からん。昨日いい写真撮るなあって、ちょっと見直したのに! ノリで生きてる陽キャマジ意味分からん。
 陽翔は女子と腕を繋いだみたいになってた俺の手をやんわり外させて、俺を自分の前に引き寄せ直すと、俺の手首を持ち上げたまま、後ろからバッグハグをかましてきた。
「おい!」
「望の手が映ってた? 綺麗だよね」
「「きゃあああああ、」」
 何故か起こる、女子からの絶叫……。
「俺、望に写真部で文化祭に出す写真のモデルになって貰うんだよね」
「お前っ!」
 にこっとされたら周りも「そうなんだー」って即納得してやがる。
(こいつ! 次から次に良く回る口だなあ、おい!)
 爽やかアオハル君って思ってたのに、予想以上に食えない男ぶりに俺は腕の中から抜け出そうとジタバタしたけど全然放してくれない。
「そうだよね?」
 耳元で囁かれ、周りの視線が一身に注がれる。これでは写真のモデルになる件を引き受けたことになってしまう……。でもバ先を知られたくない。あそこは俺らしくいられる大事な場所なんだ。俺は仕方なく頷いた。
「……そうです」
(はめられた……)