帰宅したらいつものルーティーンで手洗いのあとに顔を綺麗に洗って、自分の部屋に行ってベッドにごろんってひっくり返った。
「疲れた……」
今日はなんか、普段のバイトよりやたらと疲れた。
(絶対、陽翔のせいだ)
目を閉じたら、うたた寝して昔の夢を見た。
小学校の時の思い出が、そのまんま夢に出ていた。
アングルは俺視点、手には小さな作り物の花を持ってる。その日は小学校のPTA主催のお祭りとバザーがあって、お母さんたちが模擬店やハンドメイドで作った小物を子供でも手に入れられるような値段で売っていた。
そのコーナーに俺が好きだった女の子が立ってた。お小遣いが足りなかったのか、それとも迷ったからか、フェルトでできた水色の花を、長らく見つめて、買わずに元に戻していた。その後も何度かちらちらってその花を見て、立ち去った。
俺はその花を自分のお小遣いで買って、その子に渡してあげようと思った。告白をするとか大それたことをする気はなくて、好きな子に喜んでもらいたかった。ただそれだけ。
「これ、あげる」
差し出した花をその子が受け取ってくれる時に、手が触れた。
(アヤナちゃん好き。お花、受け取ってくれたらうれしい)
言葉には出さずに、でもきっと胸の中には溢れていた。そこにクラスで一番のイケメンが来た。
「なにお前ら、付き合ってんの? お前花とかあげるんだ?」
その頃の俺は、今よりずっと大人しい、がりがりのチビで、秋に差し掛かってた季節だったから、かさついて赤くなった肌の調子もいまいちだった。そう、全然、告白なんてできるようなマインドじゃなかったのに……。
隣から来た好きな子の友達も、イケメンと一緒になって俺をせせら笑った。
「アヤナだってさ、望君じゃなくて、レン君から貰いたかったよねえ?」
「ごめんなさい」
アヤナちゃんは受け取った花を俺に突っ返してきて、そのままゲームコーナーになってた教室を走って出て行った。
俺はショックで花をサブバックに突っ込んで、すぐに家に帰った。後で母さんがそれを見つけて、自分宛だと思ったのか、折れ曲がった花を嬉しそうに綺麗に手で直した。
「お花買ってきてくれたの? ありがとうね。これレン君のお母さんが作った奴でしょ」
『レン君』その名前を聞いて、無性に腹が立って、俺は癇癪を起して母さんが飾ろうとしてた花を、ひったくって、床に叩きつけた。
「なにしてるの! ノンちゃん!」
「俺は! 別に告白なんてしてない! なんで、なんで……。ごめんなさいって……」
感情が高ぶって、情けないけど泣いてしまった。
様子のおかしい俺に、母さんが根気よく何があったのか聞いて来た。その後で、困ったような哀しそうな複雑な顔をして俺のことを抱きしめた。
「ノンちゃん、お母さんと体質が似ちゃったのね。母さんのおうちはね……」
その後母から告げられた話は衝撃的で、俺はその後の人生を大きく一転させてしまった。
「はあっ」
大きく喘いだ自分の声で目が覚めた、夢見が悪い。汗をかいていて気持ち悪かったから、風呂にさっぱりとしてからリビングにいったら、愛犬ビビを腹の上に乗っけたまま、ソファーで母さんがうたた寝してた。
「おい、風邪ひくよ」
「あ……、ノンちゃん? 帰ったの?」
「うん。風呂入って早く寝なよ」
「あー、うー。まだ寝たくない。寝たらすぐ明日が来ちゃうもん」
母さんは度々こういうことを言う。明日が来たら会社に行くのが億劫ってことだ。
「子供みたいなこと言ってないで」
小柄だけどみっしり重たい母の上半身をよいしょと起こしたら、ビビがソファーから勢いよく飛び降りた。
「おい、お前骨折したらやばいんだからな、飛び降りるな」
これも母さんの口癖。空いたソファーの半分に、俺も腰を下ろして「はー」ってため息をついた。
「なに溜息なんてついちゃって。好きな子でもできた?」
「……」
思春期にそのノリ辛いよ、母さん……。
むしろ苦手な奴の不可解な行動に困ってて……。黙ってたら、それを肯定と受け取ったみたいだ。
「あらー。あんたやっぱり好きな子できたのね。じゃあ、気をつけなさいよ。うちは恋して大好きな人に触れたら、相手に持ちが駄々洩れになっちゃうんだからね」
全然悲壮感漂わない言い方で母さんがニヤニヤしてる。
「はー」
深い深いため息が出た。実は割りと平凡な俺の人生の中で、唯一の非凡な部分は、恋をして好きな相手に触れると、相手に自分の心の声が伝わってしまうことだ。
念が人一倍強いという俺の母方一族特有の、いわゆる特殊体質ってやつ。
昔々の大昔、ご先祖様が非常に口下手な人で、愛する人に想いを伝えたいがどうにもうまくいかない。この真心を伝えられますようにって神様に願ったらこうなったとかなんとか。
子孫から言わせてもらうと、発信専用なんてマジで無駄、マジでいらない。
相手の心が分かる方がまだいいと思う。
「いつも言ってるでしょう? 心がすべて伝わってもいいなって思えるような素敵な人と恋愛しなさいね。母さんは父さんと出会って……」
「あー、はいはい。その話、何百万回も聞いたからもういい。俺は、俺の事好きになってくれた人を、好きになるから。それなら気持ちがバレても困んないだろ? 以上」
「そんなにうまくいくかしら」
「行くように努力してんだよ」
俺は小学校の時、最悪の形で失恋をした。告白してないのに気持ちが相手に伝わってしまって、その結果、拒絶されてしまったんだ。
俺もまだ小学生で頭が回らなかったからさ。周りからどう見えてるなんて考えもせず、
バザーで買った花を手に、好きな子にとにかく渡してあげたいって後先考えないで渡した。
そこに最悪なことにアヤナちゃんが当時好きだったと人気者男子レン君と、アヤナちゃんの友達の女子が来た。
その女子はノンデリのいやな奴で、レン君も思春期に差し掛かってて今でいう冷笑系ムーブっぽいのが起き始めてた。
それでさっきの悪夢通りの出来事が起こって、俺は告白したつもりがないのに触れた指先から相手に『好き』が伝わってしまって、恋敵の前で弄られフラれるっていう最悪の形で初恋を終わらせた。ちなみに失恋すると相手にはもう気持ちは伝わらない、らしい。
このことがあってから、俺は悔しさをバネに自分を磨く努力を始めた。
苦手な野菜も頑張って食べたし、中学までは運動部に入って適度な運動もした。勉強だって頑張って、高校はワンランク上の学校を目指して見事入学できた。
スキンケアにも気を付けて、肌に優しいものを探して試しては、季節に応じてアプローチの仕方を考えて変えた。お陰で将来は姉と同じく、コスメブランドに就職したいって夢もできた。
「ノンちゃん、去年はよく女の子と出かけたりしてたじゃない? お姉ちゃんに色々商品のこと聞いて」
去年のクラスは『佐藤君肌が綺麗、スキンケアなに使ってるの』って話しかけてくれる女子たちとは仲良くなったけど、友達止まりで終了した。それを反省して、今年はクールでミステリアスなキャラってことにしてる。その方がモテそうだから。……まだ成果でてないけど!
「別に今どき恋愛しない人も多いし……、俺も別に今すぐ好きな人が欲しいってわけじゃないし」
そう言ったら母さんにまたニマニマされて、どうしてだか脳裏に陽翔が横切った。
『もっと、望と仲良くなりたい』
途端気持ちがそわそわしてきて、癖でスマホを手に取った。
「……!」
(陽翔から、通知来てた)
思わずドキってしてしまって、顏に出たみたいだ。母さんの声色がにやってしてる。
「あら、誰?」
「寝る。お休み」
部屋に戻ってベッドの上に寝転がってから改めて通知を確認した。
『今日は色々とありがとう。沢山話せて嬉しかった』
陽翔はメッセージでもフレンドリー極まりない。
(そういえば、写真送ってなかった)
約束は約束。守らないと。DMの返信を書く前に、さっき教えられた陽翔のアカウントを何となく開いた。俺以外フォロ中の人がいないアカウント。
そこに投稿されているのは写真だけ。賑やかな動画もない。それも全て……。
(青い、写真ばっか……。#ブルーモーメント #ファインダー越しの私の世界)
またとくんと心臓が波打つ。
夕暮れ時かそれとも朝日が昇る直前の空なのか、青に僅かに日の光が織りなす美しい赤や桃色が混ざる。他にも鉄道の橋梁や、黒く映る梢と暗い青の夕暮れ直後の空、あるいは濡れたアスファルトに溜まる水溜まりの沈んだインクブルー。
どの写真にも深い青が滲み、静けさを感じる写真ばかりが整然と並んでいた。
アオハルというあだ名で、陽キャで、それでいてつかみどころがない男に、また一つだけ別の側面を見つけてしまった。
(こういう感じ、俺も好きだな……)
ちょっとだけ、誰も知らないあいつの一面を覗き見た気がしてぞくっとした。
先輩から貰ったバイト先の便利メモの写真を探すと、ただその二枚だけを貼り付けて陽翔に送った。
『遅くなってごめん、今日はお疲れ様』
すぐに返信が来た。もう真夜中なのに。
『望もお疲れ様。写真ありがと。これ参考にして早く覚える』
『うん』
これで眠ろうかなって思ったんだけど、なんとなくまた返信してしまった。
『写真、綺麗だな。青の』
『見てくれたんだ』
『うん。なんかイメージより落ち着いてた』
『そう(笑) ありがと』
『世界観が、綺麗だと思った』
そう書くとちょっと返信が止まった。
(なんか変なこと言ったかな?)
そわそわしてたら。
『写真は綺麗だなって心が動かされた瞬間を閉じ込められるのが好きだ』
以外とロマンチックな感じが好きなんだ。あんな陽キャで騒がしい奴なのに。
『そっか。俺お前の写真好きかも』
『ほんと? じゃあ今度、望のこと撮らせて!』
今度は返信がめちゃ早い。
「なんだ、こいつ食いつき気味に……」
『俺なんて撮ってもさあ(笑)』
(適当ににごしとこ、女子でも撮ればいいのに)
『俺は撮りたい。望、綺麗だから』
(綺麗……、あいつから見て、俺って綺麗なのか?)
女子からはたまに言われるけど、男からストレートに言われたのは初めてかも。陽翔みたいなイケメンから言われるとなんかこそばゆいけど。
『じゃあ、まあ、そのうち』
『やったあ』
『俺のこと撮っても、#ブルーモーメントに載せられないぞ』
『望の写真、見せびらかしたい気もするし、誰にも見せたくない気もする。複雑』
『なんだよそれ。撮ってもいない写真のこと悩むなんて、変なの』
『じゃ、よろしく』
『なにがよろしくなんだか』
『なんでも、全部。よろしく』
『もう寝ないと』
『えー、もう?』
『調子にのるなし。明日学校』
『だよね。ありがと。おやすみ』
『おやすみ』
『今日眠る前に最後に話せたのが望で嬉しい』
(どういう意味だろ。『お前が嬉しいなら俺も嬉し……』)
思わずそう書きかけて、慌てて削除した。
『また、明日』
あいつのこと苦手だったはずなのに、なんか気が付いたら頬が緩んでた。変なの……。
「疲れた……」
今日はなんか、普段のバイトよりやたらと疲れた。
(絶対、陽翔のせいだ)
目を閉じたら、うたた寝して昔の夢を見た。
小学校の時の思い出が、そのまんま夢に出ていた。
アングルは俺視点、手には小さな作り物の花を持ってる。その日は小学校のPTA主催のお祭りとバザーがあって、お母さんたちが模擬店やハンドメイドで作った小物を子供でも手に入れられるような値段で売っていた。
そのコーナーに俺が好きだった女の子が立ってた。お小遣いが足りなかったのか、それとも迷ったからか、フェルトでできた水色の花を、長らく見つめて、買わずに元に戻していた。その後も何度かちらちらってその花を見て、立ち去った。
俺はその花を自分のお小遣いで買って、その子に渡してあげようと思った。告白をするとか大それたことをする気はなくて、好きな子に喜んでもらいたかった。ただそれだけ。
「これ、あげる」
差し出した花をその子が受け取ってくれる時に、手が触れた。
(アヤナちゃん好き。お花、受け取ってくれたらうれしい)
言葉には出さずに、でもきっと胸の中には溢れていた。そこにクラスで一番のイケメンが来た。
「なにお前ら、付き合ってんの? お前花とかあげるんだ?」
その頃の俺は、今よりずっと大人しい、がりがりのチビで、秋に差し掛かってた季節だったから、かさついて赤くなった肌の調子もいまいちだった。そう、全然、告白なんてできるようなマインドじゃなかったのに……。
隣から来た好きな子の友達も、イケメンと一緒になって俺をせせら笑った。
「アヤナだってさ、望君じゃなくて、レン君から貰いたかったよねえ?」
「ごめんなさい」
アヤナちゃんは受け取った花を俺に突っ返してきて、そのままゲームコーナーになってた教室を走って出て行った。
俺はショックで花をサブバックに突っ込んで、すぐに家に帰った。後で母さんがそれを見つけて、自分宛だと思ったのか、折れ曲がった花を嬉しそうに綺麗に手で直した。
「お花買ってきてくれたの? ありがとうね。これレン君のお母さんが作った奴でしょ」
『レン君』その名前を聞いて、無性に腹が立って、俺は癇癪を起して母さんが飾ろうとしてた花を、ひったくって、床に叩きつけた。
「なにしてるの! ノンちゃん!」
「俺は! 別に告白なんてしてない! なんで、なんで……。ごめんなさいって……」
感情が高ぶって、情けないけど泣いてしまった。
様子のおかしい俺に、母さんが根気よく何があったのか聞いて来た。その後で、困ったような哀しそうな複雑な顔をして俺のことを抱きしめた。
「ノンちゃん、お母さんと体質が似ちゃったのね。母さんのおうちはね……」
その後母から告げられた話は衝撃的で、俺はその後の人生を大きく一転させてしまった。
「はあっ」
大きく喘いだ自分の声で目が覚めた、夢見が悪い。汗をかいていて気持ち悪かったから、風呂にさっぱりとしてからリビングにいったら、愛犬ビビを腹の上に乗っけたまま、ソファーで母さんがうたた寝してた。
「おい、風邪ひくよ」
「あ……、ノンちゃん? 帰ったの?」
「うん。風呂入って早く寝なよ」
「あー、うー。まだ寝たくない。寝たらすぐ明日が来ちゃうもん」
母さんは度々こういうことを言う。明日が来たら会社に行くのが億劫ってことだ。
「子供みたいなこと言ってないで」
小柄だけどみっしり重たい母の上半身をよいしょと起こしたら、ビビがソファーから勢いよく飛び降りた。
「おい、お前骨折したらやばいんだからな、飛び降りるな」
これも母さんの口癖。空いたソファーの半分に、俺も腰を下ろして「はー」ってため息をついた。
「なに溜息なんてついちゃって。好きな子でもできた?」
「……」
思春期にそのノリ辛いよ、母さん……。
むしろ苦手な奴の不可解な行動に困ってて……。黙ってたら、それを肯定と受け取ったみたいだ。
「あらー。あんたやっぱり好きな子できたのね。じゃあ、気をつけなさいよ。うちは恋して大好きな人に触れたら、相手に持ちが駄々洩れになっちゃうんだからね」
全然悲壮感漂わない言い方で母さんがニヤニヤしてる。
「はー」
深い深いため息が出た。実は割りと平凡な俺の人生の中で、唯一の非凡な部分は、恋をして好きな相手に触れると、相手に自分の心の声が伝わってしまうことだ。
念が人一倍強いという俺の母方一族特有の、いわゆる特殊体質ってやつ。
昔々の大昔、ご先祖様が非常に口下手な人で、愛する人に想いを伝えたいがどうにもうまくいかない。この真心を伝えられますようにって神様に願ったらこうなったとかなんとか。
子孫から言わせてもらうと、発信専用なんてマジで無駄、マジでいらない。
相手の心が分かる方がまだいいと思う。
「いつも言ってるでしょう? 心がすべて伝わってもいいなって思えるような素敵な人と恋愛しなさいね。母さんは父さんと出会って……」
「あー、はいはい。その話、何百万回も聞いたからもういい。俺は、俺の事好きになってくれた人を、好きになるから。それなら気持ちがバレても困んないだろ? 以上」
「そんなにうまくいくかしら」
「行くように努力してんだよ」
俺は小学校の時、最悪の形で失恋をした。告白してないのに気持ちが相手に伝わってしまって、その結果、拒絶されてしまったんだ。
俺もまだ小学生で頭が回らなかったからさ。周りからどう見えてるなんて考えもせず、
バザーで買った花を手に、好きな子にとにかく渡してあげたいって後先考えないで渡した。
そこに最悪なことにアヤナちゃんが当時好きだったと人気者男子レン君と、アヤナちゃんの友達の女子が来た。
その女子はノンデリのいやな奴で、レン君も思春期に差し掛かってて今でいう冷笑系ムーブっぽいのが起き始めてた。
それでさっきの悪夢通りの出来事が起こって、俺は告白したつもりがないのに触れた指先から相手に『好き』が伝わってしまって、恋敵の前で弄られフラれるっていう最悪の形で初恋を終わらせた。ちなみに失恋すると相手にはもう気持ちは伝わらない、らしい。
このことがあってから、俺は悔しさをバネに自分を磨く努力を始めた。
苦手な野菜も頑張って食べたし、中学までは運動部に入って適度な運動もした。勉強だって頑張って、高校はワンランク上の学校を目指して見事入学できた。
スキンケアにも気を付けて、肌に優しいものを探して試しては、季節に応じてアプローチの仕方を考えて変えた。お陰で将来は姉と同じく、コスメブランドに就職したいって夢もできた。
「ノンちゃん、去年はよく女の子と出かけたりしてたじゃない? お姉ちゃんに色々商品のこと聞いて」
去年のクラスは『佐藤君肌が綺麗、スキンケアなに使ってるの』って話しかけてくれる女子たちとは仲良くなったけど、友達止まりで終了した。それを反省して、今年はクールでミステリアスなキャラってことにしてる。その方がモテそうだから。……まだ成果でてないけど!
「別に今どき恋愛しない人も多いし……、俺も別に今すぐ好きな人が欲しいってわけじゃないし」
そう言ったら母さんにまたニマニマされて、どうしてだか脳裏に陽翔が横切った。
『もっと、望と仲良くなりたい』
途端気持ちがそわそわしてきて、癖でスマホを手に取った。
「……!」
(陽翔から、通知来てた)
思わずドキってしてしまって、顏に出たみたいだ。母さんの声色がにやってしてる。
「あら、誰?」
「寝る。お休み」
部屋に戻ってベッドの上に寝転がってから改めて通知を確認した。
『今日は色々とありがとう。沢山話せて嬉しかった』
陽翔はメッセージでもフレンドリー極まりない。
(そういえば、写真送ってなかった)
約束は約束。守らないと。DMの返信を書く前に、さっき教えられた陽翔のアカウントを何となく開いた。俺以外フォロ中の人がいないアカウント。
そこに投稿されているのは写真だけ。賑やかな動画もない。それも全て……。
(青い、写真ばっか……。#ブルーモーメント #ファインダー越しの私の世界)
またとくんと心臓が波打つ。
夕暮れ時かそれとも朝日が昇る直前の空なのか、青に僅かに日の光が織りなす美しい赤や桃色が混ざる。他にも鉄道の橋梁や、黒く映る梢と暗い青の夕暮れ直後の空、あるいは濡れたアスファルトに溜まる水溜まりの沈んだインクブルー。
どの写真にも深い青が滲み、静けさを感じる写真ばかりが整然と並んでいた。
アオハルというあだ名で、陽キャで、それでいてつかみどころがない男に、また一つだけ別の側面を見つけてしまった。
(こういう感じ、俺も好きだな……)
ちょっとだけ、誰も知らないあいつの一面を覗き見た気がしてぞくっとした。
先輩から貰ったバイト先の便利メモの写真を探すと、ただその二枚だけを貼り付けて陽翔に送った。
『遅くなってごめん、今日はお疲れ様』
すぐに返信が来た。もう真夜中なのに。
『望もお疲れ様。写真ありがと。これ参考にして早く覚える』
『うん』
これで眠ろうかなって思ったんだけど、なんとなくまた返信してしまった。
『写真、綺麗だな。青の』
『見てくれたんだ』
『うん。なんかイメージより落ち着いてた』
『そう(笑) ありがと』
『世界観が、綺麗だと思った』
そう書くとちょっと返信が止まった。
(なんか変なこと言ったかな?)
そわそわしてたら。
『写真は綺麗だなって心が動かされた瞬間を閉じ込められるのが好きだ』
以外とロマンチックな感じが好きなんだ。あんな陽キャで騒がしい奴なのに。
『そっか。俺お前の写真好きかも』
『ほんと? じゃあ今度、望のこと撮らせて!』
今度は返信がめちゃ早い。
「なんだ、こいつ食いつき気味に……」
『俺なんて撮ってもさあ(笑)』
(適当ににごしとこ、女子でも撮ればいいのに)
『俺は撮りたい。望、綺麗だから』
(綺麗……、あいつから見て、俺って綺麗なのか?)
女子からはたまに言われるけど、男からストレートに言われたのは初めてかも。陽翔みたいなイケメンから言われるとなんかこそばゆいけど。
『じゃあ、まあ、そのうち』
『やったあ』
『俺のこと撮っても、#ブルーモーメントに載せられないぞ』
『望の写真、見せびらかしたい気もするし、誰にも見せたくない気もする。複雑』
『なんだよそれ。撮ってもいない写真のこと悩むなんて、変なの』
『じゃ、よろしく』
『なにがよろしくなんだか』
『なんでも、全部。よろしく』
『もう寝ないと』
『えー、もう?』
『調子にのるなし。明日学校』
『だよね。ありがと。おやすみ』
『おやすみ』
『今日眠る前に最後に話せたのが望で嬉しい』
(どういう意味だろ。『お前が嬉しいなら俺も嬉し……』)
思わずそう書きかけて、慌てて削除した。
『また、明日』
あいつのこと苦手だったはずなのに、なんか気が付いたら頬が緩んでた。変なの……。



