「 まかない、どっちの方が美味かったかって、皿返しに行く時に聞かれるよ」
「それってあれ? 勝負してるってこと? ここって、いちいち競うこと多いんだ」
「あの二人のはお遊びだろうけど……、さっき陽翔がオーダーとったハラミ串みたいな、毎月一押しメニューを自分で三つ選んで、オーダー数を全店舗の従業員で競ってるのは本当。征吾さん、こないだトップ10にはいってたぞ」
「え、征吾先輩、すごいな」
「トップ5は景品出るらしいから頑張ってるってさ。俺は人と競うのとか興味ないし、本当はお勧めメニューをお客さんに勧めんのも苦手」
「え? そんな風には見えなかったけど。美味しくないメニューなの?」
陽翔は終始笑顔だけど、俺は遠慮なく顔をしかめた。
「美味しいけどさ。大学生ぐらいのグループいたじゃん? 何回かお勧めしたら、へらへら笑われて、ムカついてたんですけど。俺、ああいうノリ、嫌い。」
「……確かに望は冷笑界隈、嫌いそう」
「必死すぎでしょ~ みたいな感じに、人のやる気をそいでくるから嫌なんだよ。一生懸命やんのの、なにが悪いのって思う」
「でも冷静に対応してたね。えらいよ」
「だって仕事だもん」
(クラスのお前の周りの奴らもわりと冷笑系じゃん。お前はあれどう思ってんの?)
聞きたい本音は黙っておいて、話を元に戻して声のトーンを絞った。
「でもさ、お勧めぐいぐいするのって、押し売りみたいじゃん? ……お前とか、押すの得意そうだけど」
言ってからしまったって思った。まるでこいつが図々しい奴って言ってるように聞こえたかなって。
押しは強くても、こいつの場合さらっと爽やかに勧められるから、絶対相手は嫌だって思ってなさそう。そういうとこ、羨ましい。悔しいから言わないけどさ。
幸い陽翔は俺の嫌味っぽい台詞を、全然意に介していないみたいだった。もぐもぐって食べ終わってから、一旦箸をおいた。
「押し売りっていうか……。お客さんはみんな、美味しいもの飲んだり食べたりしたくてここに来てくれてるだろ?」
「うん」
「だから一押しメニューを勧めて、お客さんが食べて、美味しかった、幸せだってなれるなら、全方向ハッピーでいい気がするけど」
「はい、でましたパワーワード! 発想が陽キャ! お前、ポジティブモンスターすぎる!」
「ポジティブモンスター? 略してポジモン? 望こそ、語彙センス面白っ!」
またケラケラ大きな口で笑われた。
(こいつ、本当によく笑うよな)
俺がご飯をもぐもぐしてる間、陽翔はひとしきり笑った後で、急にちょっと神妙な顔つきになった。
「ねえ、それって、俺が押せば行けるってこと?」
陽翔は悪戯っぽい微笑みを浮かべながら、じっと俺を見つめて来る。
「ん? 行けるって何が? おい、じっと見んなし」
「なんで?」
くっきりした二重の目元を細め、口元はくすって笑ってる。
(イケメンの圧強っ! こいつ、自分が顔いいの、自覚してやってる? 無意識なら余計に質が悪いけど。てか、ご飯食べてるのに、正面から見つめられると目を逸らしにくいんだけど……)
流石にきまりが悪くなってぷいって顔を背けたら、続けて「可愛い」って呟かれた。
「おい、お前それ。さっきから可愛いって、何? いじり?」
「え……、そんなつもりなかったけど。じっと見てたら照れるの、反応が可愛いって思ったから」
「はあ?」
「ごめん。怒った? 俺、思ったことすぐ言いがちなんだよね」
「いいよな……。思ったことをすぐ相手に伝えても、好かれる自信がある奴は……。まじで……」
(羨ましい)
出かけた本音を慌てて飲み込んだ。
「え、それって俺のこと、望も好きってこと?」
「はああ? なんでそうなるんだよ! お前いちいち俺のこと揶揄って楽しいか?」
切れ気味に呟いて逸らした目線を戻したら、陽翔が切れ長の目をすっと細めて静かに微笑んだ。
「ごめん、揶揄うつもりはなかったけど、ウザ絡みっぽくなって」
「……」
「ずっと望と話したいって思ってたからさ。嬉しくてテンション上がっちゃっただけ」
(あ……、なんか……)
しみじみと語る低い声に嘘偽りはなく感じた。少しこいつを取り巻く空気が変わった気がした。
落ち着いた明かりの店内、周りは酒を飲んで陽気に笑う大人たちばかりで、ここは半個室。俺たちは未成年で、酒はまだ飲めないけど、さし飲みしながら女の子口説くはこんな感じって思わせる、陽翔の色気のある顔つきにドキッとしてしまう。
「俺さ、体育祭の後、辺りから思ってたんだけど」
「……?」
体育祭っていうのは、夏休み前。6月の頭ってことになる。そんな前から何を思ってたんだと戸惑ってたら、ダメ押しの口説き文句を囁かれた。
「もっと、望と仲良くなりたい」
俺は内心動揺してたみたいで、口に運ぼうとしたトロッとした卵を私服の白シャツに落としてしまった。
「ああっ、もう。最悪っ」
「ごめん!」
陽翔はいつもの雰囲気に戻って、慌てて、おしぼりを持った手を伸ばして俺のシャツを拭って来る。俺はその手をぐっと突っぱねた。
自分もおしぼりをもって服を拭う。白シャツと割と気に入ってたグレーのカーディガンに点々と染みがついてしまってわりと萎えた。
「なんか望と私服デートしてる気分になっちゃって、舞い上がってた」
「はあ? どんな気分だよそれ!」
「ごめん、怒った?」
「別に……、落としたの、俺だし」
(……こいつ、変なことばっかいって、陽キャマジで油断ならねぇ)
でも俺以上に陽翔がしゅんって、耳が垂れた仔犬みたいな感じに落ち込んだから、怒りが収まってきて、はーってため息をついた。
「怒ってないよ」
ちょっとだけ気まずい沈黙。でも先に陽翔が口を開いた。
「そうだ。インテレ繋がんない?」
「えー」
「嫌?」
なんで急に今までクラスで関わりがほぼなかった俺に仲良くなりたいなんて言って近づいてくるのか、こいつの気持ちがよくわからん。
「嫌って言うかさ、……バイト先一緒でも、わざわざ連絡先繋がろうとか、そんな気を使わなくていいよ」
卵でテンション下がったのもあって、ついトゲトゲした口調になってしまった。
「さっきのメニューのやつ、送ってくれたら嬉しい」
かあって顔が熱くなる。勝手に勘違いしたのが、恥ずかしくなった。
「あ……、そうか、写真送るって約束したもんな」
(じゃなきゃわざわざ俺と繋がりたいとかこいつがいう意味ないもんな。ああでも、なんかこのまんま繋がるの、癪)
「お前と繋がったら、お前の周りの奴らからもフォロリク来るでしょ? そういうの面倒くさいの。ほぼ見る専用アカだから……」
「ほぼってことは、繋がってる人もいるってことだろ?」
少し眉を吊り上げて、こいつにしては珍しく拗ねた表情だ。
「ねえ、なんで俺は駄目なの?」
スマホの上に置いてた俺の手に、暖かい手を重ね、陽翔は少し首を傾げてねだってくる。仕草も声のトーンも全部低いのに甘さもあって完璧。女子なら多分一撃で落ちるだろう。
無駄にドキドキさせられるが、俺はこいつへの感情はやや拗らせ気味だ。
(自分が受け入れられて当然だって思っているのかよ)
俺はスマホを掴んで手を引き、口元を隠しながらにまっとした。
「どうしよっかな」
(俺と繋がるのは簡単じゃないんだぜ?)
なんて、誰もが見惚れるような男をちょこっと焦らせるなんて、優越感をくすぐられる。
「じゃあ、本アカじゃなくて、別のアカウントあるからそっちはどう?」
「……」
渋って見せたらプライドを傷つけられて引くかと思ったのに、すかさず代替え案でぐいぐい来られた。陽キャはすぐにはめげないのか!
「それなら撮った写真を投稿するだけのアカウントあるよ。そっちは誰のフォロリクも通してないよ」
「写真だけ?」
(しまった!)
うっかり反応してしまったら、陽翔は竿にヒットがあった釣り人みたいににやりと笑った。
「気になる? 俺、実は写真部なんだ」
「……ああもう、わかったよ」
「やったね」
「てっきりサッカー部なのかと思ってた」
(うちのクラスの陽キャ一軍でチャラい奴ら、みんなサッカー部。俺の完全なる偏見だけども……)
「俺、そんなにサッカー部っぽい? 中学でサッカーは辞めちゃったけど、外部のフットサルチームには入ってるよ」
「ダンスも上手」
「ありがと。ダンスは小学生からやってたけど、中学の途中で止めたんだ」
(うわっ、いかにも陽キャ! 元サッカー部でダンス上等とか、ショート動画で踊ってたり、エモいカフェとか、波打ち際でキラキラ、ナイトプールに、夜に公園で馬鹿やって騒いでる、そんな写真だろ)
陽翔はテーブルの上に伏せて置いてたスマホを取り上げて、ついでに通知でも見てるのかスクロールしてる。
「写真部はノリで入って、バイトして一眼レフのカメラ買ったんだけど、やっぱあとからいいレンズ欲しくなってさ。あんまり撮るのうまくないけど」
「そうなんだ。俺のじいちゃんも趣味でカメラ集めてるよ。俺は撮ったりしないけど」
「ええ! すごいな。フィルムカメラの古い奴持ってる人、羨ましい」
それならじいちゃんとこ一緒に行く?って言いかけて止めた。
陽キャの距離の縮め方が凄すぎて、陽翔がかき混ぜる感情の渦に、知らずに巻き込まれそうになる。
「とりあえず、これ俺のアカウント」
(『gunnzyo-blue』青井……、青い、か)
くすんだ青のアイコン。打ち込んでフォローを押す。即、フォロバされた。
「ありがと」
嬉しそうに笑う顔に愛嬌があって、これにつられない奴は人の心がないって感じだ。
「……帰ったらメモの写真探して送っとく」
「頼む!」
なんだかんだで丸め込まれてしまった。
「あ、通知来た」
陽翔のスマホから、周りで聞き慣れた写真アプリの通知音が聞こえた。すかさずスマホを手にしたままだった陽翔は自撮りしてる。
焼き鳥がメインだけど、うちの店は居酒屋に分類されている。雰囲気のある赤い壁や背景の張り紙がまんま居酒屋だから、あんまり高校生の背後に映るにはふさわしくないかも。
慎重派の俺はそう思っちゃったけど、陽翔は構わないみたい。その後さらっとこっちにスマホを向けてきた。
「おいっ」
「ごめん、俺、ほぼ食べ終わってたから望の皿、撮らして」
「あ……」
てっきり俺を撮るのかと思って焦って変な声を出してしまった。
(我ながら自意識過剰過ぎて恥ずかし……)
皿と手元を撮り、投稿を終えたようだ。これが後々、騒動の種になるとは知らずに……。
「それってあれ? 勝負してるってこと? ここって、いちいち競うこと多いんだ」
「あの二人のはお遊びだろうけど……、さっき陽翔がオーダーとったハラミ串みたいな、毎月一押しメニューを自分で三つ選んで、オーダー数を全店舗の従業員で競ってるのは本当。征吾さん、こないだトップ10にはいってたぞ」
「え、征吾先輩、すごいな」
「トップ5は景品出るらしいから頑張ってるってさ。俺は人と競うのとか興味ないし、本当はお勧めメニューをお客さんに勧めんのも苦手」
「え? そんな風には見えなかったけど。美味しくないメニューなの?」
陽翔は終始笑顔だけど、俺は遠慮なく顔をしかめた。
「美味しいけどさ。大学生ぐらいのグループいたじゃん? 何回かお勧めしたら、へらへら笑われて、ムカついてたんですけど。俺、ああいうノリ、嫌い。」
「……確かに望は冷笑界隈、嫌いそう」
「必死すぎでしょ~ みたいな感じに、人のやる気をそいでくるから嫌なんだよ。一生懸命やんのの、なにが悪いのって思う」
「でも冷静に対応してたね。えらいよ」
「だって仕事だもん」
(クラスのお前の周りの奴らもわりと冷笑系じゃん。お前はあれどう思ってんの?)
聞きたい本音は黙っておいて、話を元に戻して声のトーンを絞った。
「でもさ、お勧めぐいぐいするのって、押し売りみたいじゃん? ……お前とか、押すの得意そうだけど」
言ってからしまったって思った。まるでこいつが図々しい奴って言ってるように聞こえたかなって。
押しは強くても、こいつの場合さらっと爽やかに勧められるから、絶対相手は嫌だって思ってなさそう。そういうとこ、羨ましい。悔しいから言わないけどさ。
幸い陽翔は俺の嫌味っぽい台詞を、全然意に介していないみたいだった。もぐもぐって食べ終わってから、一旦箸をおいた。
「押し売りっていうか……。お客さんはみんな、美味しいもの飲んだり食べたりしたくてここに来てくれてるだろ?」
「うん」
「だから一押しメニューを勧めて、お客さんが食べて、美味しかった、幸せだってなれるなら、全方向ハッピーでいい気がするけど」
「はい、でましたパワーワード! 発想が陽キャ! お前、ポジティブモンスターすぎる!」
「ポジティブモンスター? 略してポジモン? 望こそ、語彙センス面白っ!」
またケラケラ大きな口で笑われた。
(こいつ、本当によく笑うよな)
俺がご飯をもぐもぐしてる間、陽翔はひとしきり笑った後で、急にちょっと神妙な顔つきになった。
「ねえ、それって、俺が押せば行けるってこと?」
陽翔は悪戯っぽい微笑みを浮かべながら、じっと俺を見つめて来る。
「ん? 行けるって何が? おい、じっと見んなし」
「なんで?」
くっきりした二重の目元を細め、口元はくすって笑ってる。
(イケメンの圧強っ! こいつ、自分が顔いいの、自覚してやってる? 無意識なら余計に質が悪いけど。てか、ご飯食べてるのに、正面から見つめられると目を逸らしにくいんだけど……)
流石にきまりが悪くなってぷいって顔を背けたら、続けて「可愛い」って呟かれた。
「おい、お前それ。さっきから可愛いって、何? いじり?」
「え……、そんなつもりなかったけど。じっと見てたら照れるの、反応が可愛いって思ったから」
「はあ?」
「ごめん。怒った? 俺、思ったことすぐ言いがちなんだよね」
「いいよな……。思ったことをすぐ相手に伝えても、好かれる自信がある奴は……。まじで……」
(羨ましい)
出かけた本音を慌てて飲み込んだ。
「え、それって俺のこと、望も好きってこと?」
「はああ? なんでそうなるんだよ! お前いちいち俺のこと揶揄って楽しいか?」
切れ気味に呟いて逸らした目線を戻したら、陽翔が切れ長の目をすっと細めて静かに微笑んだ。
「ごめん、揶揄うつもりはなかったけど、ウザ絡みっぽくなって」
「……」
「ずっと望と話したいって思ってたからさ。嬉しくてテンション上がっちゃっただけ」
(あ……、なんか……)
しみじみと語る低い声に嘘偽りはなく感じた。少しこいつを取り巻く空気が変わった気がした。
落ち着いた明かりの店内、周りは酒を飲んで陽気に笑う大人たちばかりで、ここは半個室。俺たちは未成年で、酒はまだ飲めないけど、さし飲みしながら女の子口説くはこんな感じって思わせる、陽翔の色気のある顔つきにドキッとしてしまう。
「俺さ、体育祭の後、辺りから思ってたんだけど」
「……?」
体育祭っていうのは、夏休み前。6月の頭ってことになる。そんな前から何を思ってたんだと戸惑ってたら、ダメ押しの口説き文句を囁かれた。
「もっと、望と仲良くなりたい」
俺は内心動揺してたみたいで、口に運ぼうとしたトロッとした卵を私服の白シャツに落としてしまった。
「ああっ、もう。最悪っ」
「ごめん!」
陽翔はいつもの雰囲気に戻って、慌てて、おしぼりを持った手を伸ばして俺のシャツを拭って来る。俺はその手をぐっと突っぱねた。
自分もおしぼりをもって服を拭う。白シャツと割と気に入ってたグレーのカーディガンに点々と染みがついてしまってわりと萎えた。
「なんか望と私服デートしてる気分になっちゃって、舞い上がってた」
「はあ? どんな気分だよそれ!」
「ごめん、怒った?」
「別に……、落としたの、俺だし」
(……こいつ、変なことばっかいって、陽キャマジで油断ならねぇ)
でも俺以上に陽翔がしゅんって、耳が垂れた仔犬みたいな感じに落ち込んだから、怒りが収まってきて、はーってため息をついた。
「怒ってないよ」
ちょっとだけ気まずい沈黙。でも先に陽翔が口を開いた。
「そうだ。インテレ繋がんない?」
「えー」
「嫌?」
なんで急に今までクラスで関わりがほぼなかった俺に仲良くなりたいなんて言って近づいてくるのか、こいつの気持ちがよくわからん。
「嫌って言うかさ、……バイト先一緒でも、わざわざ連絡先繋がろうとか、そんな気を使わなくていいよ」
卵でテンション下がったのもあって、ついトゲトゲした口調になってしまった。
「さっきのメニューのやつ、送ってくれたら嬉しい」
かあって顔が熱くなる。勝手に勘違いしたのが、恥ずかしくなった。
「あ……、そうか、写真送るって約束したもんな」
(じゃなきゃわざわざ俺と繋がりたいとかこいつがいう意味ないもんな。ああでも、なんかこのまんま繋がるの、癪)
「お前と繋がったら、お前の周りの奴らからもフォロリク来るでしょ? そういうの面倒くさいの。ほぼ見る専用アカだから……」
「ほぼってことは、繋がってる人もいるってことだろ?」
少し眉を吊り上げて、こいつにしては珍しく拗ねた表情だ。
「ねえ、なんで俺は駄目なの?」
スマホの上に置いてた俺の手に、暖かい手を重ね、陽翔は少し首を傾げてねだってくる。仕草も声のトーンも全部低いのに甘さもあって完璧。女子なら多分一撃で落ちるだろう。
無駄にドキドキさせられるが、俺はこいつへの感情はやや拗らせ気味だ。
(自分が受け入れられて当然だって思っているのかよ)
俺はスマホを掴んで手を引き、口元を隠しながらにまっとした。
「どうしよっかな」
(俺と繋がるのは簡単じゃないんだぜ?)
なんて、誰もが見惚れるような男をちょこっと焦らせるなんて、優越感をくすぐられる。
「じゃあ、本アカじゃなくて、別のアカウントあるからそっちはどう?」
「……」
渋って見せたらプライドを傷つけられて引くかと思ったのに、すかさず代替え案でぐいぐい来られた。陽キャはすぐにはめげないのか!
「それなら撮った写真を投稿するだけのアカウントあるよ。そっちは誰のフォロリクも通してないよ」
「写真だけ?」
(しまった!)
うっかり反応してしまったら、陽翔は竿にヒットがあった釣り人みたいににやりと笑った。
「気になる? 俺、実は写真部なんだ」
「……ああもう、わかったよ」
「やったね」
「てっきりサッカー部なのかと思ってた」
(うちのクラスの陽キャ一軍でチャラい奴ら、みんなサッカー部。俺の完全なる偏見だけども……)
「俺、そんなにサッカー部っぽい? 中学でサッカーは辞めちゃったけど、外部のフットサルチームには入ってるよ」
「ダンスも上手」
「ありがと。ダンスは小学生からやってたけど、中学の途中で止めたんだ」
(うわっ、いかにも陽キャ! 元サッカー部でダンス上等とか、ショート動画で踊ってたり、エモいカフェとか、波打ち際でキラキラ、ナイトプールに、夜に公園で馬鹿やって騒いでる、そんな写真だろ)
陽翔はテーブルの上に伏せて置いてたスマホを取り上げて、ついでに通知でも見てるのかスクロールしてる。
「写真部はノリで入って、バイトして一眼レフのカメラ買ったんだけど、やっぱあとからいいレンズ欲しくなってさ。あんまり撮るのうまくないけど」
「そうなんだ。俺のじいちゃんも趣味でカメラ集めてるよ。俺は撮ったりしないけど」
「ええ! すごいな。フィルムカメラの古い奴持ってる人、羨ましい」
それならじいちゃんとこ一緒に行く?って言いかけて止めた。
陽キャの距離の縮め方が凄すぎて、陽翔がかき混ぜる感情の渦に、知らずに巻き込まれそうになる。
「とりあえず、これ俺のアカウント」
(『gunnzyo-blue』青井……、青い、か)
くすんだ青のアイコン。打ち込んでフォローを押す。即、フォロバされた。
「ありがと」
嬉しそうに笑う顔に愛嬌があって、これにつられない奴は人の心がないって感じだ。
「……帰ったらメモの写真探して送っとく」
「頼む!」
なんだかんだで丸め込まれてしまった。
「あ、通知来た」
陽翔のスマホから、周りで聞き慣れた写真アプリの通知音が聞こえた。すかさずスマホを手にしたままだった陽翔は自撮りしてる。
焼き鳥がメインだけど、うちの店は居酒屋に分類されている。雰囲気のある赤い壁や背景の張り紙がまんま居酒屋だから、あんまり高校生の背後に映るにはふさわしくないかも。
慎重派の俺はそう思っちゃったけど、陽翔は構わないみたい。その後さらっとこっちにスマホを向けてきた。
「おいっ」
「ごめん、俺、ほぼ食べ終わってたから望の皿、撮らして」
「あ……」
てっきり俺を撮るのかと思って焦って変な声を出してしまった。
(我ながら自意識過剰過ぎて恥ずかし……)
皿と手元を撮り、投稿を終えたようだ。これが後々、騒動の種になるとは知らずに……。



