サトラレ体質の俺は好きバレしたら終わるので友達ポジション死守します

「あのさ、先に7番席座ってて。俺、まかない貰って後から行くから」
 バイト終わり、俺は先に着替え終わっていた陽翔に声をかけた。
「ん、わかった」
 さっきまでのダサい真っ黄色のポロシャツから一転、モノトーンでまとめた私服姿の陽翔は、知らなきゃ大学生って思う程、お洒落で大人っぽく見える。
 俺も今日は白シャツに黒パンツにカーディガンの無難な格好、シルエットは綺麗めに着ているつもり。 
(はー。バイトだからって中学から着てるヨレヨレTで来なくてよかった……。あいつに見られたら恥ずかしくて死ねる……。シフト被る日は要注意だな)
 ロッカーについている小さな鏡に顔を映した。
末広二重で黒目がちな目、今は疲れてるからちょっと眠たげだ。鼻も口も大きからず小さからず。肌は白くてなめらかで、今のところ何も問題がない。俺はかなりの乾燥肌だから、季節の変わり目は急に肌の調子が悪くなりがちだ。だからチェックは怠らない。前髪を上げ、乾燥で細かい皺になりがちな額もチェック。
(陽翔と比べたらボロ負けだけど、俺だってそう悪い顔はしてないと思うんだけどな) 
 俺はクラスで陽キャでも陰キャでもないニュートラルな立ち位置で、顏もイケメンよりだ。ここのバイトのお姉さんたちからは『望は美貌を磨きすぎて、女子が逆に声かけにくいんじゃない?』という、謎の誉め言葉もありがたく貰ってる。 
(デコ、ちょっとかさつき始めてる。風呂上がりの保湿頑張らねば)
 乱れた髪を整え、かさついた唇に厳選した潤いと血色を足すリップバームを塗った。身だしなみを整え終え、荷物を持ってフロアに戻る。
 うちの店には、仕事終わりにまかないが食べられるっていう、腹減り高校生には超絶ありがたい制度がある。一人ならカウンター席に座り、もくもくと食べてさっさと帰る。
 でも今日は陽翔がいる。カウンターによって、2人分のまかない料理が載ったトレイを受け取ると、半個室の座席で陽翔と向かい合って座った。
「「いただきます」」
 陽翔は本日のまかないその1を口に運んで、すぐに表情をぱあっと明るくした。
(わかりやすい奴)
背も高いしちゃんと筋トレしてそうな引き締まった体つきしてるのに、笑うと人慣れしてる仔犬みたいに急に可愛くなる。絶対女子受け良さそう。こっちも釣られて頬が緩むじゃん。
「すげぇ美味い。これなんて言う料理?」
「名前とかあんのかな? まかないは創作料理系が多いからなあ。その日の担当がフィーリングで作る感じ? こっちはマサさん作、卵と空心菜と豚肉炒めだって。こっちは瀬谷さん作、もつ煮込み」
「そうなんだ。楽しみだな」
「お前、好き嫌いある?」
「ないよ」
「良かった。たまに先輩と食べてる時、勝手に俺の皿に苦手な野菜入れてくる人がいて、嫌いな野菜被ってる時とか、あれまじで勘弁してほしい」
「あはは。望は何が苦手なの?」
「苦手……」
(お前のことが、ちょっとな)
 なんて軽口が浮かんでしまったがそんなこと言えないので「トマト」って呟く。
「ぐちゃっとしたとこ、苦手……。青臭いし。震えながら食べてる」
 思い出してべえって舌を出したら、陽翔が優しい目元になって微笑んで俺の頬っぺたを指先でぴっと押した。
「なにすんだよ」
「震えるとか、可愛いなって思って。じゃあトマト出たら俺の皿に入れていいよ」
「うん、ありがと」
 陽翔はもりもり食べ始めた。だけどがっついているようには見えず、箸づかいも所作も綺麗で感心する。
「最高。これご飯が進む!」
「今日はどっちも美味いな。あー、大きい声で言えないけど、たまに謎料理が来ることもあるぞ」
「どんな?」
 ちょうどその時調理を担当した人が通り掛かったから、俺はひそひそ話風に口元に手を当てる。陽翔も悪戯中の子どもみたいな笑顔で俺に合わせて頭を寄せて来た。
「焼きそばの具?丼」
「焼きそばの、具? それ、微妙そう」
「そう、微妙だったなあ、あれ。何故かコーンも沢山乗っててさ、謎の甘さ出てた」
「うわ、辛いかも」
「だろー」
 ケラケラって顔を見合わせて笑ってから、一応先輩風を吹かせてみた。
「今日、どうだった?」
「あー、すごく楽しかった」
 陽翔からにっこにこの笑顔が返って来た。この店が好きだからその返事、俺も嬉しい。急に心のガードが緩まって、ついついリップサービスがでてしまった。
「そっか。良かった。夏休み明けに退職決まってた人が多くて、店長シフト組むの困ってたから、お前が入ってくれて絶対喜んでると思う」 
「ほんと? なら良かった。あー、だから征吾さん、中学のサッカー部の後輩に片っ端から声かけて回ってたんだな」
「そっか、陽翔、サッカー部だったんだ」
「うん」
(たしか体育祭の時の応援団で陽翔の周りにいた、奴らがサッカー部だったよな。俺あいつらも苦手なんだよな。行事んときだけ張り切るような奴ら)
 出しゃばりで喧しい連中の顔と、もうじき文化祭の準備が始まることを思い出して内心うんざりしてたら、陽翔にまた話しかけられた。
「あのさ。メニューと値段とオーダーの時に略して書くあれ、覚えるまでちょっと時間かかりそう」
「ドリンクメニューだけでも沢山あるし、いっぺんには無理だよ。徐々に覚えればいいと思う」
「ありがと。……逆に今日俺がなんか駄目だったとこある?」
 真顔になった陽翔に探るようにそう聞かれて、口元に手を当てちょっと考えた。
 一緒に仕事をして思ったことは、陽翔はイメージ通り、コミュ力めっちゃ高くて、仕事の飲み込みも早い。俺がバイトに入った当初は賑やかで活気がすごい、この店の雰囲気に慣れるまで大分時間がかかった。だけどこいつは最初から立ち振る舞いが堂々としてて正直羨ましい。それを抜きにすると……。
「そうだな。バッシングの……、テーブルの上、片づけることそういうんだけど、そのタイミングがちょっと早かったかな。お客さんが完全に帰ってからしろって、俺も最初の頃、焦って片づけ始めて怒られたんだ。陽翔さ、座敷席で最後の人がまだ靴をはいてるぐらいの時に片づけようとしてただろ」
 その時、俺が腕を掴んで止めたから、陽翔は思い当たったようだ。
「ごめん。片づけないとって意識の方が強くて、身体が先、動いた」
「すぐ動けるのはいいことだよ。でも一瞬だけ立ち止まって、お客さんの様子を観察するといいかも。片づけも注文も向こうが合図送ってくれるの、陽翔ならすぐに気付けるようになると思う」
 俺は褒めたつもりだったのに、陽翔が箸を置くと、ちょっとだけ逞しい肩を落とした。
「……望はすごいなって思ったよ」
「……?」
 漬物を口に入れたタイミングで言われたから、そのままぽりぽりときゅうりを齧る。間抜けな顔になってたら、ちょっと恥ずかしい。
 見慣れない私服姿の陽翔は、ふっ、と大人っぽく微笑んだ。教室では見せない少しだけ物憂げな表情にちょっとドキッとする。
「全方向に気配りがすごくて、目が後ろにもついてそうだった。グラス空いてる人を見つけたら、すぐに近寄って声かけてたし、注文取る時は毎回さりげなく一押しメニュー勧めてた」
「店長さんがさ、望の仕事の仕方を真似したら間違いないって。俺もそう思った」
 まさかクラス一イケてる陽キャに、仕事ぶりをべた褒めされるとは! 動揺してしまって水をぐびっと飲んだ。
「まあ……、一押しメニュ-勧めんの、ここの鉄則だから」
「挨拶の声もさ、すごく大きくてよく通るからびっくりしたよ。望ってクラスにいる時は、物静かだから、こんなに大声出せるんだって思った」
「そうか?」
「それに話し方がしっかりしてて、俺よりずっと大人だ」
「おい、流石にそんな褒められると、照れるて」
「いや、本当のことだし。すごいよ」
「……メニューさ。俺は大体もう覚えたけど、ここ入った時、先輩が値段と一緒に一覧表にしてたメモ、写真に撮ったやつ持ってる。それ、探せばまだあると思うけど……。いる?」
 褒められすぎて、ついつい、普段ならしない余計なお世話まで言い出してしまった。
「優しい! ありがとう。助かる。嬉しい」
 素直で柔らかいトーンで言われた。いつもと違う、甘い雰囲気にムズムズ感がある。
 余程メニュー表が嬉しかったんだろうか? なんだか落ち着かない気分で、俺は目線を油で艶々した空心菜に落として話題を変えた。