文化祭2日目。今日は10時開始の午後2時半終了。4時から体育館で有志の舞台発表という後夜祭がある。
俺はクラスの当番を、昨日裏方に入ったから、今日は最初の一時間が店番で、そっから後はフリータイム。今日はダンスタイムに教室にいることができる。
昨日の様子を動画で見せて貰ったけど、めちゃくちゃ盛り上がってた。昨日出なかったことを後悔してたから、今日はすごく楽しみだ。
陽翔は二日連続、開始から一時間がフリータイムで、次の一時間は店番兼ダンサーチームに入ってた。その上裏方の運搬係も2時からラストまで引き受けてたから、お互いのフリータイムに重なるのは12時から2時の二時間っていうことになる。
「俺とずっと回ってくれるよね?」
「うちさ、姉さんが母さんと一緒に午後にちらっと見に来るらしいよ。だから午後は……」
「え……、いきなりご家族にご挨拶?!」
「しないでいいよ!」
「なんでー、俺も一緒に周るよ!」
コミュ強陽キャを甘く見てたな……。
「いいって、流石に……」
言いながら陽翔のポロシャツから伸びた腕を掴んで、ぎゅって引っ張った。
(「でも後夜祭は一緒にいられるじゃん」)
「そうだけど……」
口に出さないでも伝わるのは、こういう時便利だな。
「陽翔! 今日もクレープ買いに行くぞ!」
俺は店番。陽翔はフリータイムが始まるから岡本に呼ばれてる。
「望の分もクレープ買って来るよ。味はカスタードホイップとカスタード、苺ホイップ、チョコホイップ。どれがいい?」
「チョコだとチュロスと味被りするから、苺ホイップかな」
「分かった」
陽翔は何回も俺を振り返りながら、岡本達と一緒に部屋を出て行った。
「はい、じゃあこれ持って回ってきて」
俺が実行委員女子に渡されたのは、『2-3 チュロス美味しい‼』って書かれた売り込みの看板だ。
「この格好で?」
顔をひきつらせた俺の隣で鈴木さんが「大丈夫。ボクも一緒に行くよ!」ってイケボ風に囁いてくれた。おいおいおい。
「1年に男子全員メイド服のクラスもいるから、浮かない。むしろ佐藤君可愛すぎて女子だと思われると思う」
「だいじょばない……」
しかし仕事は仕事。俺は仕事と思えば俄然やる気が出るのだ。今日は一般のお客さんが沢山いるから、昨日よりさらに人が多い。
俺は両手に看板を頭の上に掲げもって歩いてたら、先に鈴木さんが声を張り上げてくれた。
「3階2年3組で揚げたての美味しいチュロス売ってます~」
俺も負けじと続けた。
「3階2年3組、チュロス美味しいっすよ!」
どういうルートを歩いていけばいいのか分かんないけど、鈴木さんが進むとおりに歩いて来たら、売店が沢山ある中庭まで出て来た。
「クレープは昨日、うちより先に売り切れたらしいですよ。立地がいいですもんね」
「そうだよな。食べ物系はここに集中してるし、うちは一応カフェってことになってるし」
(まあ、俺もクレープ買ってきてもらうんだが)
クレープはいきなり長蛇の列になってる。陽翔や岡本は背が高いから女子の間からにょきって生えて見えた。
「「3階2年3組、チュロス売ってます~」」
「11時からは参加型のダンスのパフォーマンスします」
「えー、男の子? 女の子? どっちもすごい綺麗」
俺は鈴木さんは近くにいた男女混合の他校の制服を着た人たちに、瞬く間に取り囲まれてしまった。しかもその中に知っている顔もいてびっくりしてしまう。
(まじか……、レンだ。久々に会ったな)
よりによって小学生の時に俺の好きだった子が、好きだった『レン』がその中に混じっていた。中学の時は三年間クラスが重ならなかったし、以来会っていない。向こうは俺だと気づいていないようだ。
顔立ちはそのまんまイケメンだったけど、身長は俺とあんまり変わらない。それでもちょっと派手めのグループに属してるみたいだ。このまま気付かれないでいたいところだけど……。
「すごい、二人とも可愛い!」
集団で気が大きくなってるのか、はしゃいだ女子にさっとスマホを構えられる。
「写真は……」
鈴木さんがそういう前に、その女子に俺たちは写真を撮られてしまった。
「あの、勝手に写真撮るのは止めてください。消して下さい」
「なんで?」
女子は全然話を聞かないし、男子もニヤニヤ笑ってる。レンに向かって睨みつけたけど、俺だと気がつかないみたいだ。同じようにニヤニヤしてて、まじでムカついた。
(昔一瞬でもこいつにみたいになりたいとか思ってた自分が馬鹿だった)
「じゃーさあ、写真消させし、チュロス買うから、教室まで案内して」
レンと一緒に居た男子が、馴れ馴れしく鈴木さんの肩に触った。怯えた表情の鈴木さんを見て、俺は看板を地面に投げ捨てると、反射的にどすが効いた声を上げながら、そいつの腕を掴んだ。
「おい、触んなよ」
「えー、そっちは男子なんだ! すげぇ可愛いね! 顔だけ見たら全然分かんないよ」
俺にもまたスマホが向けられて、写真をとられた。
「おい勝手にっ」
「何もめてるんですか?」
ぐいって、長い腕が俺の胸の前にかかる。そして抱き込まれながらふわりと感じたのはお揃いの香水の香り。
(陽翔っ!)
俺の後ろを見て、他校の奴らが一瞬動きを止め、そのあと女子がわーきゃー言い出した。
「ダンス動画! 見ました!」
「すごいバチイケだった!」
陽翔は俺を後ろに下がらせる。俺は俺で動けないでいる鈴木さんの腕を引いて庇う姿勢をとった。
「鈴木さん、看板もって先、教室帰ってて。俺らがちゃんと話付けるから」
「うん」
「陽翔! 急に走っていくなよ! クレープ貰って来たぞ」
ちょっと潤んだ目で頷いて、鈴木さんは看板をもって教室に走っていく。それと入れ違いに違いにクレープの袋を持った岡本が凄い形相でこっちに駆け寄って来た。
「おい! 鈴木が泣いてたぞ! なにやってんだよ、お前ら!」
岡本まで来たから、うちの校内随一の長身イケメン二人に囲まれた女装の俺、明らかに勢いが増して、相手のグループが怯み始めた。
俺は腕組みしてばつが悪そうな顔をしてるレンに向かって言い放った。
「湯川。あのさ、無許可で写真撮るのは禁止されてるから、今撮った写真消してくれるように、友達に言ってくれない?」
「レン、知り合い?」
「……さあ?」
自分を名指しさせて、明らかに動揺したレンは無遠慮に俺の顔をじろじろ見つめて来た。
「なんだよ? 思い出せない?」
俺は姉さん仕込みの営業スマイルでにっこりしたら、向こうの男子グループがもう一度どよめいた。
「『ユラ』ちゃんに似てる……。レンお前、好きだよな?』
人気ガールズグループのメンバーの名前を出されて、レンが動揺してる。陽翔が明らかにムッとした顔で俺の腰を引き寄せて来た。
(『こいつ、小中一緒の同級生。俺って分かってないみたい』)
俺の心の声を聴いてたのか聞いてないのか、陽翔は元の優しい笑顔で少しかがむと女子に詰め寄った。
「じゃあ、今ここで、写真消してくれるかな?」
「えー」
「お願いします」
「じゃあ、代わりに写真撮らせてもらえませんか?」
さっきの女子が、上目遣いに陽翔を見上げて明らかにキュンキュンしてる顔つきになった。
「ここに通ってる友達がダンス動画を上げてて、凄く格好いいなって思ったんです。だから写真撮らせてください。お願いします」
さっきの様子と違っていきなりしおらしい態度で、陽翔目当てなのは見え見えだ。俺は(どうすんだ?)って思いながら、陽翔のシャープな横顔を上目遣いに見上げた。
「あー、写真はここではダメで、11時から二年三組でダンスタイムショーがあるから、そっちきてもらって、ショーが終わったら一緒になら写真撮れるコーナーがあるから。でも今、勝手に取った、この子達の写真は消してほしい」
(商売上手! そして断り方が上手い。推しも強い)
後ろから岡本も顔面の圧で応戦してくれてる。俺だったらあのまま喧嘩に突っ走りそうだったから、陽翔の爽やか攻撃に感心してしまった。
それと陽翔とレンを一緒の画面で見て……、陽翔の圧勝だ、と思ってしまった。
(最初、こいつと似てるなって陽翔のこと思ってたんだ。ごめん。レベチだったわ。全然陽翔の方が格好いいよ)
「じゃあ、教室帰ろっか」
陽翔に促されて教室に戻ろうとしたら、去り際スマホを片手に持ったレンに声をかけられた。
「あのさ、あんた」
「なに?」
「どっかで会ってたっけ? 思い出せないから……、連絡先教えて?」
「はあ?」
「文化祭でナンパかよ」
岡本がニヤニヤして突っ込みを入れてきたけど、レンは引く様子もない。
陽翔がまたもや俺とレンの前に割って入った。
陽翔に手を差し出されたから手をとったら、即、恋人繋ぎに結び直された。
「この子の連絡先は教えられません。帰るよ、望」
「望……、え?」
後ろでレンが驚きの声を上げてたのが、ちょっと面白くなってクスクス笑ってたら、口をとがらせ気味の陽翔に怒られた。
「なんでそんな可愛い格好で教室でたりしたんだよ!」
「なんでって、女子にチュロスの宣伝して来いって出されたんだから仕方ないだろ」
「あー、もうさあ」
(二人っきりになりたいな)
恋人繋ぎの手にぐっと力が入る。教室に戻るために前を歩いてた岡本に向かって大声を出した。
「岡本! 先に教室帰ってて。俺の分のクレープ、鈴木さんにあげていいから、お前がフォローよろしく」
「任せとけ!」
(ナイスフォロー&アシスト)
多分岡本は鈴木さんのことに気になってるもんね。あの二人、お似合いだと思うなあ。
とか余裕で考えてたんだけど、速度を上げた陽翔の駆け足に、俺は必死についていった。
陽翔は誰もいなくて微妙にどこからも視覚になる、校舎の壁のはっしっこまで回り込んで、俺を周りから隠すみたいに壁ドン姿勢で腕を窓の横の壁についた。
「ああもう、たった10分目を離しただけなのに、何でナンパされてるんだよ?」
「ナンパ、なのかあれは?」
「ナンパでしょ? しかもなんか元々知り合いっぽかったじゃん」
「知り合い……ではあるけど、あいつは苦手な奴だし」
「でも望、俺のことも最初苦手って言ってた」
「まあそうなんだけど」
「ほらね。こんなに可愛い望の姿、誰にも見せたくないのに!」
大げさに喚く陽翔が、こんなんでもウザ可愛く思えてしまってる。それでちょっと意地悪を言ってみたくなってしまった。
「お前、やっぱ女子が好きなんだなあ。こういう顔の女がタイプ?」
べえって舌を出し、きゅるんって見える顔つきで上目遣いにしたら、明らかに顔を真っ赤にした。
「そっかー。傷ついちゃうなあ。俺じゃなくて女子かあ。この顔、アイドルのユラちゃんに似てるって言われたぞ」
「違うから! いや、違わないけど。望の顔がそもそもタイプなんだよ、好みなの! そんな顔されたら、押さえが効かなくなるだろ!」
「押さえ?」
「キスとか、したくなるだろ!」
「え……、ああ」
まあ両思いにはなったけど、まだどこか友達の延長って気持ちが抜けてなかったからさ、陽翔が俺にそういう感情きっちり抱いているのは思わなくて。
今度は俺の方が動揺して、陽翔の顔を見られなくなってしまった。
「いや?」
声がちょっと沈んでる。見上げたら陽翔がくっきりした大きな二重瞼の目で、俺を切なげに見下ろしてくる。あのちょっと色っぽいような目つきと、朝の陽ざしに照らされててアンバランスなのになんか胸がきゅんってしてしまう。
俺は自分から陽翔の頬に触れた。
(「いやじゃないよ。大好き。キスして、陽翔」)
ゆっくりと近づいて来る陽翔の顔、唇が柔らかく温かなものに触れて、すぐに離れていく。
(好き)
心が伝わったなら、俺のこの蕩けてしまいそうな多幸感まで、口うつしで陽翔に伝えられただろうか。
「……俺も好き」
「ふふっ。このリップグロス、ほんとにキスしても落ちないんだあ」
指先で陽翔の唇に触れたら、色っぽい目つきで微笑まれた。
「もう一回してもいいんだ?」
俺はもう一度目を閉じながら、心が読まれてしまうのも悪くないなあって。そんな風にふわふわする頭で思っていた。
終わり
俺はクラスの当番を、昨日裏方に入ったから、今日は最初の一時間が店番で、そっから後はフリータイム。今日はダンスタイムに教室にいることができる。
昨日の様子を動画で見せて貰ったけど、めちゃくちゃ盛り上がってた。昨日出なかったことを後悔してたから、今日はすごく楽しみだ。
陽翔は二日連続、開始から一時間がフリータイムで、次の一時間は店番兼ダンサーチームに入ってた。その上裏方の運搬係も2時からラストまで引き受けてたから、お互いのフリータイムに重なるのは12時から2時の二時間っていうことになる。
「俺とずっと回ってくれるよね?」
「うちさ、姉さんが母さんと一緒に午後にちらっと見に来るらしいよ。だから午後は……」
「え……、いきなりご家族にご挨拶?!」
「しないでいいよ!」
「なんでー、俺も一緒に周るよ!」
コミュ強陽キャを甘く見てたな……。
「いいって、流石に……」
言いながら陽翔のポロシャツから伸びた腕を掴んで、ぎゅって引っ張った。
(「でも後夜祭は一緒にいられるじゃん」)
「そうだけど……」
口に出さないでも伝わるのは、こういう時便利だな。
「陽翔! 今日もクレープ買いに行くぞ!」
俺は店番。陽翔はフリータイムが始まるから岡本に呼ばれてる。
「望の分もクレープ買って来るよ。味はカスタードホイップとカスタード、苺ホイップ、チョコホイップ。どれがいい?」
「チョコだとチュロスと味被りするから、苺ホイップかな」
「分かった」
陽翔は何回も俺を振り返りながら、岡本達と一緒に部屋を出て行った。
「はい、じゃあこれ持って回ってきて」
俺が実行委員女子に渡されたのは、『2-3 チュロス美味しい‼』って書かれた売り込みの看板だ。
「この格好で?」
顔をひきつらせた俺の隣で鈴木さんが「大丈夫。ボクも一緒に行くよ!」ってイケボ風に囁いてくれた。おいおいおい。
「1年に男子全員メイド服のクラスもいるから、浮かない。むしろ佐藤君可愛すぎて女子だと思われると思う」
「だいじょばない……」
しかし仕事は仕事。俺は仕事と思えば俄然やる気が出るのだ。今日は一般のお客さんが沢山いるから、昨日よりさらに人が多い。
俺は両手に看板を頭の上に掲げもって歩いてたら、先に鈴木さんが声を張り上げてくれた。
「3階2年3組で揚げたての美味しいチュロス売ってます~」
俺も負けじと続けた。
「3階2年3組、チュロス美味しいっすよ!」
どういうルートを歩いていけばいいのか分かんないけど、鈴木さんが進むとおりに歩いて来たら、売店が沢山ある中庭まで出て来た。
「クレープは昨日、うちより先に売り切れたらしいですよ。立地がいいですもんね」
「そうだよな。食べ物系はここに集中してるし、うちは一応カフェってことになってるし」
(まあ、俺もクレープ買ってきてもらうんだが)
クレープはいきなり長蛇の列になってる。陽翔や岡本は背が高いから女子の間からにょきって生えて見えた。
「「3階2年3組、チュロス売ってます~」」
「11時からは参加型のダンスのパフォーマンスします」
「えー、男の子? 女の子? どっちもすごい綺麗」
俺は鈴木さんは近くにいた男女混合の他校の制服を着た人たちに、瞬く間に取り囲まれてしまった。しかもその中に知っている顔もいてびっくりしてしまう。
(まじか……、レンだ。久々に会ったな)
よりによって小学生の時に俺の好きだった子が、好きだった『レン』がその中に混じっていた。中学の時は三年間クラスが重ならなかったし、以来会っていない。向こうは俺だと気づいていないようだ。
顔立ちはそのまんまイケメンだったけど、身長は俺とあんまり変わらない。それでもちょっと派手めのグループに属してるみたいだ。このまま気付かれないでいたいところだけど……。
「すごい、二人とも可愛い!」
集団で気が大きくなってるのか、はしゃいだ女子にさっとスマホを構えられる。
「写真は……」
鈴木さんがそういう前に、その女子に俺たちは写真を撮られてしまった。
「あの、勝手に写真撮るのは止めてください。消して下さい」
「なんで?」
女子は全然話を聞かないし、男子もニヤニヤ笑ってる。レンに向かって睨みつけたけど、俺だと気がつかないみたいだ。同じようにニヤニヤしてて、まじでムカついた。
(昔一瞬でもこいつにみたいになりたいとか思ってた自分が馬鹿だった)
「じゃーさあ、写真消させし、チュロス買うから、教室まで案内して」
レンと一緒に居た男子が、馴れ馴れしく鈴木さんの肩に触った。怯えた表情の鈴木さんを見て、俺は看板を地面に投げ捨てると、反射的にどすが効いた声を上げながら、そいつの腕を掴んだ。
「おい、触んなよ」
「えー、そっちは男子なんだ! すげぇ可愛いね! 顔だけ見たら全然分かんないよ」
俺にもまたスマホが向けられて、写真をとられた。
「おい勝手にっ」
「何もめてるんですか?」
ぐいって、長い腕が俺の胸の前にかかる。そして抱き込まれながらふわりと感じたのはお揃いの香水の香り。
(陽翔っ!)
俺の後ろを見て、他校の奴らが一瞬動きを止め、そのあと女子がわーきゃー言い出した。
「ダンス動画! 見ました!」
「すごいバチイケだった!」
陽翔は俺を後ろに下がらせる。俺は俺で動けないでいる鈴木さんの腕を引いて庇う姿勢をとった。
「鈴木さん、看板もって先、教室帰ってて。俺らがちゃんと話付けるから」
「うん」
「陽翔! 急に走っていくなよ! クレープ貰って来たぞ」
ちょっと潤んだ目で頷いて、鈴木さんは看板をもって教室に走っていく。それと入れ違いに違いにクレープの袋を持った岡本が凄い形相でこっちに駆け寄って来た。
「おい! 鈴木が泣いてたぞ! なにやってんだよ、お前ら!」
岡本まで来たから、うちの校内随一の長身イケメン二人に囲まれた女装の俺、明らかに勢いが増して、相手のグループが怯み始めた。
俺は腕組みしてばつが悪そうな顔をしてるレンに向かって言い放った。
「湯川。あのさ、無許可で写真撮るのは禁止されてるから、今撮った写真消してくれるように、友達に言ってくれない?」
「レン、知り合い?」
「……さあ?」
自分を名指しさせて、明らかに動揺したレンは無遠慮に俺の顔をじろじろ見つめて来た。
「なんだよ? 思い出せない?」
俺は姉さん仕込みの営業スマイルでにっこりしたら、向こうの男子グループがもう一度どよめいた。
「『ユラ』ちゃんに似てる……。レンお前、好きだよな?』
人気ガールズグループのメンバーの名前を出されて、レンが動揺してる。陽翔が明らかにムッとした顔で俺の腰を引き寄せて来た。
(『こいつ、小中一緒の同級生。俺って分かってないみたい』)
俺の心の声を聴いてたのか聞いてないのか、陽翔は元の優しい笑顔で少しかがむと女子に詰め寄った。
「じゃあ、今ここで、写真消してくれるかな?」
「えー」
「お願いします」
「じゃあ、代わりに写真撮らせてもらえませんか?」
さっきの女子が、上目遣いに陽翔を見上げて明らかにキュンキュンしてる顔つきになった。
「ここに通ってる友達がダンス動画を上げてて、凄く格好いいなって思ったんです。だから写真撮らせてください。お願いします」
さっきの様子と違っていきなりしおらしい態度で、陽翔目当てなのは見え見えだ。俺は(どうすんだ?)って思いながら、陽翔のシャープな横顔を上目遣いに見上げた。
「あー、写真はここではダメで、11時から二年三組でダンスタイムショーがあるから、そっちきてもらって、ショーが終わったら一緒になら写真撮れるコーナーがあるから。でも今、勝手に取った、この子達の写真は消してほしい」
(商売上手! そして断り方が上手い。推しも強い)
後ろから岡本も顔面の圧で応戦してくれてる。俺だったらあのまま喧嘩に突っ走りそうだったから、陽翔の爽やか攻撃に感心してしまった。
それと陽翔とレンを一緒の画面で見て……、陽翔の圧勝だ、と思ってしまった。
(最初、こいつと似てるなって陽翔のこと思ってたんだ。ごめん。レベチだったわ。全然陽翔の方が格好いいよ)
「じゃあ、教室帰ろっか」
陽翔に促されて教室に戻ろうとしたら、去り際スマホを片手に持ったレンに声をかけられた。
「あのさ、あんた」
「なに?」
「どっかで会ってたっけ? 思い出せないから……、連絡先教えて?」
「はあ?」
「文化祭でナンパかよ」
岡本がニヤニヤして突っ込みを入れてきたけど、レンは引く様子もない。
陽翔がまたもや俺とレンの前に割って入った。
陽翔に手を差し出されたから手をとったら、即、恋人繋ぎに結び直された。
「この子の連絡先は教えられません。帰るよ、望」
「望……、え?」
後ろでレンが驚きの声を上げてたのが、ちょっと面白くなってクスクス笑ってたら、口をとがらせ気味の陽翔に怒られた。
「なんでそんな可愛い格好で教室でたりしたんだよ!」
「なんでって、女子にチュロスの宣伝して来いって出されたんだから仕方ないだろ」
「あー、もうさあ」
(二人っきりになりたいな)
恋人繋ぎの手にぐっと力が入る。教室に戻るために前を歩いてた岡本に向かって大声を出した。
「岡本! 先に教室帰ってて。俺の分のクレープ、鈴木さんにあげていいから、お前がフォローよろしく」
「任せとけ!」
(ナイスフォロー&アシスト)
多分岡本は鈴木さんのことに気になってるもんね。あの二人、お似合いだと思うなあ。
とか余裕で考えてたんだけど、速度を上げた陽翔の駆け足に、俺は必死についていった。
陽翔は誰もいなくて微妙にどこからも視覚になる、校舎の壁のはっしっこまで回り込んで、俺を周りから隠すみたいに壁ドン姿勢で腕を窓の横の壁についた。
「ああもう、たった10分目を離しただけなのに、何でナンパされてるんだよ?」
「ナンパ、なのかあれは?」
「ナンパでしょ? しかもなんか元々知り合いっぽかったじゃん」
「知り合い……ではあるけど、あいつは苦手な奴だし」
「でも望、俺のことも最初苦手って言ってた」
「まあそうなんだけど」
「ほらね。こんなに可愛い望の姿、誰にも見せたくないのに!」
大げさに喚く陽翔が、こんなんでもウザ可愛く思えてしまってる。それでちょっと意地悪を言ってみたくなってしまった。
「お前、やっぱ女子が好きなんだなあ。こういう顔の女がタイプ?」
べえって舌を出し、きゅるんって見える顔つきで上目遣いにしたら、明らかに顔を真っ赤にした。
「そっかー。傷ついちゃうなあ。俺じゃなくて女子かあ。この顔、アイドルのユラちゃんに似てるって言われたぞ」
「違うから! いや、違わないけど。望の顔がそもそもタイプなんだよ、好みなの! そんな顔されたら、押さえが効かなくなるだろ!」
「押さえ?」
「キスとか、したくなるだろ!」
「え……、ああ」
まあ両思いにはなったけど、まだどこか友達の延長って気持ちが抜けてなかったからさ、陽翔が俺にそういう感情きっちり抱いているのは思わなくて。
今度は俺の方が動揺して、陽翔の顔を見られなくなってしまった。
「いや?」
声がちょっと沈んでる。見上げたら陽翔がくっきりした大きな二重瞼の目で、俺を切なげに見下ろしてくる。あのちょっと色っぽいような目つきと、朝の陽ざしに照らされててアンバランスなのになんか胸がきゅんってしてしまう。
俺は自分から陽翔の頬に触れた。
(「いやじゃないよ。大好き。キスして、陽翔」)
ゆっくりと近づいて来る陽翔の顔、唇が柔らかく温かなものに触れて、すぐに離れていく。
(好き)
心が伝わったなら、俺のこの蕩けてしまいそうな多幸感まで、口うつしで陽翔に伝えられただろうか。
「……俺も好き」
「ふふっ。このリップグロス、ほんとにキスしても落ちないんだあ」
指先で陽翔の唇に触れたら、色っぽい目つきで微笑まれた。
「もう一回してもいいんだ?」
俺はもう一度目を閉じながら、心が読まれてしまうのも悪くないなあって。そんな風にふわふわする頭で思っていた。
終わり



