※※※
文化祭二日目の朝。一日目ほど準備がないので登校時刻はゆっくりなのに、陽翔が待ち合わせして一緒に駅から歩きたいっていうから、早めに学校の最寄り駅についた。
「おはよう」
「おはよう」
今日も秋晴れの下、陽翔の笑顔は輝いていて、俺も釣られてニコニコしてみた。
「昨日力尽きて早めに寝ちゃって……、最後の返信見落としててごめんね?」
「あー全然。気にすんな」
とかいいながら……、どういう距離感で接していいのか難しいな。俺は今まで恋人がいたことがないんだ。陽翔は目に見えて機嫌が良くて、もう遠慮なく俺の手を繋いでくる。
「俺の心の中ってどの程度読めてるの?」
「うーん。あのさ、こんな言い方しちゃあれなんだけど、聞き取りにくい独り言ぶつぶつ言うタイプの人っているだろ?」
「うん?」
「ああいう感じで、望って、頭の中で考えてることめちゃくちゃ多くて、速度も速すぎて全部を喋っていることと一緒に判読するのはめちゃくちゃ難しい」
「まじかー」
「喋っている方に意識を集中したら、心の声の方は若干ミュートになるっていうか全ては完璧に聞き取れないよ。雑踏の中で耳が色んな声を聴き分けられるように、心の声の伝わり方も全てがすべて伝わるわけじゃない感じ」
「へー」
「アイスのフレーバーと俺に恋しちゃ駄目って声はめっちゃ聞こえた」
「まじか……、それは俺が結構強く思ったやつだな。そういうのはダイレクトに聞こえるんだな」
「俺この超能力、俺が望のことが好きすぎて手に入れた神様からのプレゼントだと思ってるんだよね」
「(やばい! 面白すぎるなこいつ!)」
「だからいつかこの能力操れるようになるかもしれないから、俺も色々探ってみる。」
(「……ま、いいか」)
「ええ? ま、いいかって何が?」
陽翔がぎゃいぎゃい言い始めたので、俺はぱっと手を放して先を歩いた。
(陽翔がエスパーっていう勘違い、いつまで続くかな。面白いから放置しておこう)
もはや心を読ませようが読まれようが、陽翔の俺への気持ちは盤石だって分かったから。別にどっちだっていいなあって、そう思えたんだ。
教室で二人っきりになってちょっと話をできたらなとか思ったのに、すでになんでか張り切ってるクラスメイトが半分以上来ていた。
「昨日、黄色ブロックの後輩が上げたショート動画! アオハルの推しカメラのやつ、めっちゃ再生されてるよ」
「今日お客さん沢山来るかも! ヤバそう」
ダンス部の女子がスマホを振り上げて大騒ぎしてたけど、当の陽翔は全然反応しないどころか、今朝会った時から何かと俺の方を見ながらニコニコしている。
「しかも……、アオハル、今度こそ彼女出来たってダンス部の後輩が言ってたんだけど本当?」
クラス中で怒号と悲鳴が湧き起こる。俺は慌てて隣にいた陽翔の腕にさりげなくふれた。
「陽翔……」
(彼女いるとか言っちゃ駄目だぞ。まだ諸々ばらされるのには俺の心の準備が……)
すると陽翔はこくって頭だけで頷いたから俺は手を放す。
「彼女は、いない」
そう言いながら俺の事を見下ろして意味深な蕩けるような笑顔で「なあ?」って確認された。
「そそ、そうだな……」
彼女ではないなあ……。
(ああもう! それが余計なことってやつなんだけどなあ、ふざけんなよ、陽翔)
今日も男装風ファッションが素敵な鈴木さんが「そうだねえ。彼女は居なさそうだね」とか呟きながら俺達の前を歩いて行った。
(心の声が聞こえたからと言って、正しく伝わるとは限らない……)
それにがっかりしている気持ちと、それにほっとしている気持ちがある。
人の心が読めても読めなくても、それをどう解釈してどう感じて行くのかはその人次第ってことだから。
(俺のポジモン、きっとこれからもお前のお陰で色々ほっとしたり、ドキドキしたり大変そう。でもきっと一緒に居たら楽しいなってことは確定だな)
陽翔が陽キャチームに呼ばれて今朝ちょっと痛んでいた内装の飾りを直しに行った。
女子達は今日も俺の姉さんのコスメグッズを使ってメイクアップにいそしんでる。ちらっとみたら、昨日陽翔の事が好きそうって分かった女子がじっと、鏡に向かってるみんなを眺めてた。俺はちょっと罪悪感で胸がきゅっと切なくなる。
「どれか使ってみたい?」
「うん……。使いたいけどあんまり本格的にメイクしたことないから変な風になるの嫌だし」
「良かったら……、俺がやってあげようか?」
「いいの?」
ぱあっと明るく頬が染まるのが可愛いなって思う。
「うん。いやだったら落としていいからね」
本人のふんわり雰囲気や明るい茶色系の目、優しいふんわりした短めの黒髪。
イエベのスプリングカラーで、リップもアイシャドウも柔らかな黄みががかったものをチョイスした。
「これ使っていいよ」
ダンス部女子が前髪を上げるピンを貸してくれて、正面から机を挟んで向かい合う。いつの間にか女子が周りに集まって来た。
「ちょい、照れるなこれ」
「お願いします」
「じゃあ、触れるよ」
肌が綺麗でファンデーションは必要がないけど、目元のくすみだけ、色の合うコンシーラーで飛ばして、アイシャドウの発色も良くさせる。その後は出来るだけ自然な仕上がりで、でも華やかさが増すように仕上げていった。
鏡を見せたら、上がった睫毛の目をぱちくりさせて、その子が凄く嬉しそうに微笑んだ。
「え……、いい! 佐藤君ありがとう! すごい」
「江崎さん可愛い! 私もやって貰えばよかった~!」
「普段からメイク自分でもしてるの?」
「凄く上手だね! メイク好きなの?」
女子からの質問攻めに、俺は化粧筆をティッシュで拭い、綺麗にしながら答えた。
「自分にも練習でメイクすることもあるよ。将来化粧品関係の仕事に就きたいって考えてるから」
「そうなんだ~、佐藤君綺麗な顔してるから、ガチメイクしたところが見たい!」
「え? 俺がガチメイクすると……、姉さんと一緒の顔になる。今日これから来るから笑えると思うよ」
「「「絶対見たい!!!」」」
女子に全方向から手で引っ張られたり押されたり揉みくちゃにされかかった。それで俺は仕方なく自分もメイクをせざるを得なくなってしまった。
(でもこんな機会めったにないし、俺が今まで培ってきたメイクの技術を周りに見せられるいい機会だよな)
女子達の興味津々な目に俄然やる気が出てきてしまった。
睫毛はシアーなブラックをチョイス、アイライナーで目の端に沿って少し跳ね上げる。これで猫みたいなぱっちり目に。涙袋は自前で行けた。アイシャドウはマットなグレー系を使用してモード系に仕上げ。ファンデーションは使わないけどブルーの下地で透明感アップ、コンシーラーとピンク系パウダーで仕上げる。
可愛い色のティントチークでほんのり色づいた頬、眉は元々形を整えてあるけど女子に借りた眉マスカラでトーンを明るくした。口紅はブルべ冬に合う青みが入ったプラム系のティントに透明グロス、パウダーで輪郭をシェーディングしつつ、ブルーのハイライトは鼻筋鼻先のせて、上唇にもツンと乗せた。
豪快な中身を持ちつつも、見た目だけはとにかくモテを極めている魔性の女、俺の姉そっくりの顔に大変身できた。
メイクは完璧に再現できたが、流石にちょっとこの顔で人の前に立つのはドキドキする。
「どう?」
持参したライト付きの鏡の前から振り返ったら、女子の視線が一斉に俺の顔に注がれた。一瞬の間の後、ものすごい悲鳴と歓声が沸き起こった。
「可愛すぎる!!」
「美女オーラ凄い!」
「骨格からして違和感なし!」
女子の感嘆の悲鳴が気持ちよかった。写真をめちゃくちゃとられて、いい気になってはいた確かに……。
「じゃあ、落とすね。誰かマスカラリムーバー持ってる?」
メイク落としのシートを探して立ち上がろうとしたけど、鈴木さんに突然腕を掴まれた。
「佐藤君、私が着なかった分のウェイトレスの服、着てみませんか?」
「え?」
はあはあはあってめっちゃ激しい息遣いで鈴木さんにまくし立てられ、立ち上がろうとしたのにダンス部に肩を押しとどめられた。
「これこれ!!! 誰か使うかなって思って持ってきたの!」
ふわっと頭に載せられたんのは、俺の地毛よりやや明るめの茶色のロングのウィッグだ。
「このウィッグヘアアイロンつかえるやつ! アレンジしてあげるから、動かないで!」
「衣装も持ってきます。着てくださいね!」
ああ、気が緩んでた。その勢いに負けてしまったんだ……。
そのまんまスカートは抵抗ありすぎて体操着のジャージのズボンをはかせてもらったけど、俺はメイクだけじゃなく、ガチのウェイトレス風女装コスプレを晒す羽目になってしまった。
「アオハルすごいでしょ!! 見てみて! 可愛くない?」
「え……、望? ……可愛い」
そう呟いたきり、ふいって目を逸らされた。心なしか耳とか頬の当たりが赤い気が……。
(お前が照れると俺も恥ずかしいんだがああ! ネタとして弄ってくれよ!)
立ちすくんでる陽翔の後ろから、岡本が飛び出していた。
「えええ! 佐藤? すげぇ可愛い! めちゃくちゃ好みなんだが!」
「触るな!」
駆け寄ってきた岡本がいきなり俺を抱きしめに来たけど、陽翔が肩を掴んで後ろへ引きずっていった。
「なんだよ。中身佐藤だぞ?」
「だからだよ」
ちょうどそこに担任がやってきて、陽翔がふざけた岡本にどつかれて掛けたところで朝の会が始まった。
俺は静かに席につき、担任からいじられないように、とにかくしらーっとその場をやり過ごすことにした。
「今日は一般来客が多い日だから、くれぐれもトラブルにならないように……」
注意事項が続く中、窓側の席をいいことに、ぼーっと空を眺めていた。
(今日陽翔、一緒に買った香水の匂いがしたなあ)
実は今日は俺も纏って来たあの香り、それだけでもすごく嬉しいのにさ……。
陽翔に『後夜祭の後、ご飯行かない?』誘われたんだ。
陽翔が打ち上げを断った理由は、後夜祭で俺に告って、二人でご飯食べに行けたらいいなって思ってくれてて、だから俺に予定を確認してたんだって知った。
勿論オーケーなんだけど、打ち上げは打ち上げで『陽翔も佐藤も来られないなら別の日にしよう』って岡本がいったらしくて改めてすることになったらしい。
(みんなの『アオハル』を奪ってごめん……)
だけどあいつが俺のこと好きだって言うから仕方ないだろ、なんて思いながらさっき様子が変だった陽翔の方を見たら、めっちゃこっちを見てる。
(見すぎだって……。当分は付き合っていること内緒にしようと思ったんだけどなあ……、あいつ隠す気ゼロっぽいな)
あいつらしいなって思って、いやな気分じゃなかった。
文化祭二日目の朝。一日目ほど準備がないので登校時刻はゆっくりなのに、陽翔が待ち合わせして一緒に駅から歩きたいっていうから、早めに学校の最寄り駅についた。
「おはよう」
「おはよう」
今日も秋晴れの下、陽翔の笑顔は輝いていて、俺も釣られてニコニコしてみた。
「昨日力尽きて早めに寝ちゃって……、最後の返信見落としててごめんね?」
「あー全然。気にすんな」
とかいいながら……、どういう距離感で接していいのか難しいな。俺は今まで恋人がいたことがないんだ。陽翔は目に見えて機嫌が良くて、もう遠慮なく俺の手を繋いでくる。
「俺の心の中ってどの程度読めてるの?」
「うーん。あのさ、こんな言い方しちゃあれなんだけど、聞き取りにくい独り言ぶつぶつ言うタイプの人っているだろ?」
「うん?」
「ああいう感じで、望って、頭の中で考えてることめちゃくちゃ多くて、速度も速すぎて全部を喋っていることと一緒に判読するのはめちゃくちゃ難しい」
「まじかー」
「喋っている方に意識を集中したら、心の声の方は若干ミュートになるっていうか全ては完璧に聞き取れないよ。雑踏の中で耳が色んな声を聴き分けられるように、心の声の伝わり方も全てがすべて伝わるわけじゃない感じ」
「へー」
「アイスのフレーバーと俺に恋しちゃ駄目って声はめっちゃ聞こえた」
「まじか……、それは俺が結構強く思ったやつだな。そういうのはダイレクトに聞こえるんだな」
「俺この超能力、俺が望のことが好きすぎて手に入れた神様からのプレゼントだと思ってるんだよね」
「(やばい! 面白すぎるなこいつ!)」
「だからいつかこの能力操れるようになるかもしれないから、俺も色々探ってみる。」
(「……ま、いいか」)
「ええ? ま、いいかって何が?」
陽翔がぎゃいぎゃい言い始めたので、俺はぱっと手を放して先を歩いた。
(陽翔がエスパーっていう勘違い、いつまで続くかな。面白いから放置しておこう)
もはや心を読ませようが読まれようが、陽翔の俺への気持ちは盤石だって分かったから。別にどっちだっていいなあって、そう思えたんだ。
教室で二人っきりになってちょっと話をできたらなとか思ったのに、すでになんでか張り切ってるクラスメイトが半分以上来ていた。
「昨日、黄色ブロックの後輩が上げたショート動画! アオハルの推しカメラのやつ、めっちゃ再生されてるよ」
「今日お客さん沢山来るかも! ヤバそう」
ダンス部の女子がスマホを振り上げて大騒ぎしてたけど、当の陽翔は全然反応しないどころか、今朝会った時から何かと俺の方を見ながらニコニコしている。
「しかも……、アオハル、今度こそ彼女出来たってダンス部の後輩が言ってたんだけど本当?」
クラス中で怒号と悲鳴が湧き起こる。俺は慌てて隣にいた陽翔の腕にさりげなくふれた。
「陽翔……」
(彼女いるとか言っちゃ駄目だぞ。まだ諸々ばらされるのには俺の心の準備が……)
すると陽翔はこくって頭だけで頷いたから俺は手を放す。
「彼女は、いない」
そう言いながら俺の事を見下ろして意味深な蕩けるような笑顔で「なあ?」って確認された。
「そそ、そうだな……」
彼女ではないなあ……。
(ああもう! それが余計なことってやつなんだけどなあ、ふざけんなよ、陽翔)
今日も男装風ファッションが素敵な鈴木さんが「そうだねえ。彼女は居なさそうだね」とか呟きながら俺達の前を歩いて行った。
(心の声が聞こえたからと言って、正しく伝わるとは限らない……)
それにがっかりしている気持ちと、それにほっとしている気持ちがある。
人の心が読めても読めなくても、それをどう解釈してどう感じて行くのかはその人次第ってことだから。
(俺のポジモン、きっとこれからもお前のお陰で色々ほっとしたり、ドキドキしたり大変そう。でもきっと一緒に居たら楽しいなってことは確定だな)
陽翔が陽キャチームに呼ばれて今朝ちょっと痛んでいた内装の飾りを直しに行った。
女子達は今日も俺の姉さんのコスメグッズを使ってメイクアップにいそしんでる。ちらっとみたら、昨日陽翔の事が好きそうって分かった女子がじっと、鏡に向かってるみんなを眺めてた。俺はちょっと罪悪感で胸がきゅっと切なくなる。
「どれか使ってみたい?」
「うん……。使いたいけどあんまり本格的にメイクしたことないから変な風になるの嫌だし」
「良かったら……、俺がやってあげようか?」
「いいの?」
ぱあっと明るく頬が染まるのが可愛いなって思う。
「うん。いやだったら落としていいからね」
本人のふんわり雰囲気や明るい茶色系の目、優しいふんわりした短めの黒髪。
イエベのスプリングカラーで、リップもアイシャドウも柔らかな黄みががかったものをチョイスした。
「これ使っていいよ」
ダンス部女子が前髪を上げるピンを貸してくれて、正面から机を挟んで向かい合う。いつの間にか女子が周りに集まって来た。
「ちょい、照れるなこれ」
「お願いします」
「じゃあ、触れるよ」
肌が綺麗でファンデーションは必要がないけど、目元のくすみだけ、色の合うコンシーラーで飛ばして、アイシャドウの発色も良くさせる。その後は出来るだけ自然な仕上がりで、でも華やかさが増すように仕上げていった。
鏡を見せたら、上がった睫毛の目をぱちくりさせて、その子が凄く嬉しそうに微笑んだ。
「え……、いい! 佐藤君ありがとう! すごい」
「江崎さん可愛い! 私もやって貰えばよかった~!」
「普段からメイク自分でもしてるの?」
「凄く上手だね! メイク好きなの?」
女子からの質問攻めに、俺は化粧筆をティッシュで拭い、綺麗にしながら答えた。
「自分にも練習でメイクすることもあるよ。将来化粧品関係の仕事に就きたいって考えてるから」
「そうなんだ~、佐藤君綺麗な顔してるから、ガチメイクしたところが見たい!」
「え? 俺がガチメイクすると……、姉さんと一緒の顔になる。今日これから来るから笑えると思うよ」
「「「絶対見たい!!!」」」
女子に全方向から手で引っ張られたり押されたり揉みくちゃにされかかった。それで俺は仕方なく自分もメイクをせざるを得なくなってしまった。
(でもこんな機会めったにないし、俺が今まで培ってきたメイクの技術を周りに見せられるいい機会だよな)
女子達の興味津々な目に俄然やる気が出てきてしまった。
睫毛はシアーなブラックをチョイス、アイライナーで目の端に沿って少し跳ね上げる。これで猫みたいなぱっちり目に。涙袋は自前で行けた。アイシャドウはマットなグレー系を使用してモード系に仕上げ。ファンデーションは使わないけどブルーの下地で透明感アップ、コンシーラーとピンク系パウダーで仕上げる。
可愛い色のティントチークでほんのり色づいた頬、眉は元々形を整えてあるけど女子に借りた眉マスカラでトーンを明るくした。口紅はブルべ冬に合う青みが入ったプラム系のティントに透明グロス、パウダーで輪郭をシェーディングしつつ、ブルーのハイライトは鼻筋鼻先のせて、上唇にもツンと乗せた。
豪快な中身を持ちつつも、見た目だけはとにかくモテを極めている魔性の女、俺の姉そっくりの顔に大変身できた。
メイクは完璧に再現できたが、流石にちょっとこの顔で人の前に立つのはドキドキする。
「どう?」
持参したライト付きの鏡の前から振り返ったら、女子の視線が一斉に俺の顔に注がれた。一瞬の間の後、ものすごい悲鳴と歓声が沸き起こった。
「可愛すぎる!!」
「美女オーラ凄い!」
「骨格からして違和感なし!」
女子の感嘆の悲鳴が気持ちよかった。写真をめちゃくちゃとられて、いい気になってはいた確かに……。
「じゃあ、落とすね。誰かマスカラリムーバー持ってる?」
メイク落としのシートを探して立ち上がろうとしたけど、鈴木さんに突然腕を掴まれた。
「佐藤君、私が着なかった分のウェイトレスの服、着てみませんか?」
「え?」
はあはあはあってめっちゃ激しい息遣いで鈴木さんにまくし立てられ、立ち上がろうとしたのにダンス部に肩を押しとどめられた。
「これこれ!!! 誰か使うかなって思って持ってきたの!」
ふわっと頭に載せられたんのは、俺の地毛よりやや明るめの茶色のロングのウィッグだ。
「このウィッグヘアアイロンつかえるやつ! アレンジしてあげるから、動かないで!」
「衣装も持ってきます。着てくださいね!」
ああ、気が緩んでた。その勢いに負けてしまったんだ……。
そのまんまスカートは抵抗ありすぎて体操着のジャージのズボンをはかせてもらったけど、俺はメイクだけじゃなく、ガチのウェイトレス風女装コスプレを晒す羽目になってしまった。
「アオハルすごいでしょ!! 見てみて! 可愛くない?」
「え……、望? ……可愛い」
そう呟いたきり、ふいって目を逸らされた。心なしか耳とか頬の当たりが赤い気が……。
(お前が照れると俺も恥ずかしいんだがああ! ネタとして弄ってくれよ!)
立ちすくんでる陽翔の後ろから、岡本が飛び出していた。
「えええ! 佐藤? すげぇ可愛い! めちゃくちゃ好みなんだが!」
「触るな!」
駆け寄ってきた岡本がいきなり俺を抱きしめに来たけど、陽翔が肩を掴んで後ろへ引きずっていった。
「なんだよ。中身佐藤だぞ?」
「だからだよ」
ちょうどそこに担任がやってきて、陽翔がふざけた岡本にどつかれて掛けたところで朝の会が始まった。
俺は静かに席につき、担任からいじられないように、とにかくしらーっとその場をやり過ごすことにした。
「今日は一般来客が多い日だから、くれぐれもトラブルにならないように……」
注意事項が続く中、窓側の席をいいことに、ぼーっと空を眺めていた。
(今日陽翔、一緒に買った香水の匂いがしたなあ)
実は今日は俺も纏って来たあの香り、それだけでもすごく嬉しいのにさ……。
陽翔に『後夜祭の後、ご飯行かない?』誘われたんだ。
陽翔が打ち上げを断った理由は、後夜祭で俺に告って、二人でご飯食べに行けたらいいなって思ってくれてて、だから俺に予定を確認してたんだって知った。
勿論オーケーなんだけど、打ち上げは打ち上げで『陽翔も佐藤も来られないなら別の日にしよう』って岡本がいったらしくて改めてすることになったらしい。
(みんなの『アオハル』を奪ってごめん……)
だけどあいつが俺のこと好きだって言うから仕方ないだろ、なんて思いながらさっき様子が変だった陽翔の方を見たら、めっちゃこっちを見てる。
(見すぎだって……。当分は付き合っていること内緒にしようと思ったんだけどなあ……、あいつ隠す気ゼロっぽいな)
あいつらしいなって思って、いやな気分じゃなかった。



