サトラレ体質の俺は好きバレしたら終わるので友達ポジション死守します

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「ちょっと、佐藤君のお姉さま、このチョイス神なんだけど!」
 文化祭初日、俺の周りは俺史上一番女子だらけになって、めっちゃ華やかでいい香りが漂っている感じになった。勿論俺にモテ期が来たわけではない。文化祭の朝の準備時間に、姉がくれたコスメを机の上に綺麗に並べたからだ。
「今日と明日使ったら、後はじゃんけんでもして欲しい人で分けて」
「嬉しすぎる!」
「「「ありがとうございます!」」」
 男子は蚊帳の外でクラスの女子がグループを越えてワイワイしていていい雰囲気だ。
文化祭は二日間。一日目は在校生だけ二日目は外部の人も来る。去年のクラスはとんでもないドピンクの上に担任の顔写真って言う、部屋着にするのもきつい感じだったけど、今年は赤いポロシャツ型でカフェの店員さん風だから、お洒落な感じだ。
 陽翔はといえば、ウェイトレスに扮してメイクも気合いが入ったダンス部の女子と一緒に振付の確認をしてた。
「ダンスタイムに沢山人が来て欲しいからダンス部の本アカでも宣伝した! 気合いいれよ!」
「あーあ。この格好彼氏に見せたかったのに明日はダメなんて酷いよね」
 ダンス部の女子は相変わらず賑やかだ。瞬く間に舞台映えしそうなメイクをして華やかになっていく。男子も赤いポロシャツ(クラスTがポロシャツ型なんだ)に白いパンツでダイナー店員風なんだけど、この格好はマジで着る人を選ぶ……。陽翔は流石のスタイルの良さで着こなしてるけど……。
「なんか元気ないですねえ。大丈夫ですか?」
「……え、誰?」
 声をかけられたものの、見慣れないすごい美少年が立ってて俺は思わず二度見してしまった。
「私です。鈴木です」
 眼鏡をとってバッサリ髪を切った鈴木さんは、男子と同じ格好がすらりとした長身によく似あってる。凛々しい眉や切れ長の目にはうっすらメイクもしていて、控えめに言っても美少年系イケメンに見えた。
「イメチェンすごいね」
「あー、本当はやってみたんですよね。男装コスプレ」
「これコスプレなの?」
「はい。アメリカンダイナーの美少年店員をイメージしました」
「あはは。なら、それ大成功してるよ」
 鈴木さんははにかんで笑った。
「一緒に写真撮ってもらえません?」
「えー。いいよ。俺でいいの?」
「俺が、いいんです。桐谷ぃ。写真撮って!」
 陽翔がアイディアを出した段ボール製のジュークボックスの前に立って、鈴木さんがノリノリで斜めに手を広げたから、俺もそれに倣ってみた。
「ビジュがいい! イケメン! こっちに目線下さい!」
 恥ずかしいけど、桐谷さんが盛り上げてくれたから気分が上がる。そのあとダンス部の女子とか、その他何人か女子と写真を撮った。
「のぞみっち、また写真撮ってね」
「うん。てか変なあだ名やめて」
 ちらっと陽翔を見た。こっちをじっと見てる。
 逸らしたいけど、逸らせなかったのは、まだ誰のものでもない陽翔を見るのは今日が最後かもしれないから。じっと見つめ返す。
 睨みつけてないけど、目に感情の全てを込めた。
(陽翔、こっちに来いよ。お前の好きな子ってどの子? 俺より魅力的な子?)
 俺の気持ちが通じたのか、陽翔が眉を寄せて少し色っぽい顔をして椅子から立ち上がった。ドキドキする。いつだってワンコみたいな明るさでこっちに駆け寄ってくれた奴が、一歩ずつ、こっちに近寄って来る。
 でも教室の半ばまで来たところで、放送が鳴った。陽翔もその場で立ち止まる。
『これより「曙祭」を始めます。皆さん持ち場について下さい』
「陽翔!」
 後ろから飛びついて来た岡本に肩組みをされて、陽翔が教室の真ん中で叫んだ。
「2年3組、曙祭、気合い入れていきましょう! 行くぜ!」
「「「おー!」」」
「早く行こ! 先クレープ食べに行く?」
 陽翔はそのまま岡本やサッカー部の奴らに促されて、教室を出て行った。
 文化祭は10時から午後2時まで。俺は初日のこの時間はいきなり店番のチュロス販売担当。その後は陽翔が店番シフトにはいってて、俺はチュロス揚げ担当。その間が初日のダンスタイムになる。
「ダンスタイム楽しみ過ぎなんだけど!」
 ウェイトレス着飾って、俺の隣で跳ねまわってる子は、ダンス部ってわけじゃない。体育祭では応援団旗を作ってた子だ。
「楽しそうで良かった」
(って、俺、なんで上から目線で行っちゃったんだろ。はずっ)
「ほんとに。アオハルと佐藤君が推してくれたから出来たイベントだって思ってるよ~。ありがとう」
「いやなんか……」
 恥ずかしいけどちょっと目の奥がじんってきちゃった。俺が発言したことで、未来が少しだけ楽しい方に変わったっていう、〇が付いた回答用紙を返してもらえた気分だ。
「陽翔のお陰なんだけどさ。あいついつもクラスのみんなのこと考えてるから。色々頼まれて引き受けて大変そうだけど、ちゃんと周りの期待に応えられるって凄いことだって……、あ……」
 店番チームのウェイトレスの扮装をしてる女子の面々が、にっこりしながら俺の話に頷いてた。
「佐藤君、最近アオハルと仲いいよね」
「そう見える?」
「アオハルってさ、佐藤君と話す時が一番生き生きしてる気がする。ニコニコしてるだけじゃなくてさ、なんかこう……」
「なんか?」
「恋してるみたいに見える!」
「……はあ?」
「だって好きすぎでしょ~。いっつも目で佐藤君のこと追ってるしさ。ほんと、あれさ……。羨ましくなっちゃうよ」
 応援団旗を作った女子の一人が、ちょっぴり寂しそうな表情をしてた。
(あー、この子も陽翔のこと好きなのかな)
 じゃあ俺と同じだ。明日には失恋確定、陽翔が告って断る人はまずいないだろうから……。ちょっと意地悪な気持ちが浮かんで、この子にもそのこと話したらどんな顔するかなとか。俺の中のネガモンがむくむくと大きくなって、牙をむき出しにした。
「陽翔さ、好きな奴、いるみたいだよ」
 言ってから即、後悔した。
(最低最低最低。俺って本当に最低)
 だけどその女子はきょとんってして、全然動じなかった。
「あー、いるかもだけどさ。別にいいじゃん」
「え……」
「憧れるのも好きなのも、自分の勝手だし。未来にさ『高校の時、学校で一番格好いい男の子のこと好きだったんだ』っていい思い出になるし」
 大人しいばかりだと思ってた女子が、メイクをして可愛い格好をして、最高にキラキラの笑顔でそう言ってた。
「すげえ……、そんな風に考えたことなかった」
「それにまだ彼女いないんでしょ?」
「それは……そうかも」
「じゃあ、まだ可能性は0じゃない!」
「0じゃ、ない……」
 そのあとチュロスを揚げながらも、女子たちに言われた言葉を頭の中で混ぜながら反芻してた。
 俺が発言しなかったら、クラスでやるダンスイベントは立ち消えてたかもしれない。0を100まで持ってこられた。
(『じゃあ、まだ可能性は0じゃない!』)
 何もしなかったら、0のまんまなら、行動を起こした方がいい?
 それでも、だからって、告白できる勇気が出るわけがない。拒絶されたら? 小学生の時だって立ち直るのに凄く時間がかかった気がする。
 この先バイト先も一緒でクラスメイト。これから修学旅行だってあるしイベント目白押し、あと二年半は一緒に居る相手に……。
(じゃあ、なにもしないでいいの? 後悔しない?)
 チュロス揚げてる間もずっと考えてて、係を終わったお昼過ぎ。俺は相変わらず考え事をしながら、あてどなく校内を一人で回ってた。
 文化祭、出来たら陽翔と回りたいと思ってたから、去年仲良かったクラスメイトとか誘うのも忘れてた。明日は中学の時の同級生も何人か周りに来るからまあさ、今日ぐらい一人でもいいかなって。ふと見たら生徒会の展示だった。
「中で射的やってまーす。参加賞もあります。やっていきませんか?」
「あ……はい」
 おもちゃの弓矢、壁に出来た的。先にやっている人の順番待ち中に、ちらりと長机の上をみたら景品の駄菓子が沢山並べてあった。岡本の言葉が蘇る。
『生徒会のゲームコーナーで景品の当たりつきガムの当たりくじゲットしたら、それをもって後夜祭の時に告白するとカップルになれるってやつ』
(陽翔……、当たりくじ欲しいかな。俺が当てられたらあいつに上げたい)
 そのくじで好きな子にでも告って、あいつが幸せになるならそれでもいいか。だって俺ら友達だし。そう思い込みたいのに、胸の疼きは、切なくしくしくと収まらない。
「5回チャレンジして、1回でも的に当たったらお好きな景品差し上げます」
「1回……」
 だけどプラスチックの弓矢は弱くて、壁に当たる前に落ちてしまう。強く引いたら的には当たらずにすれすれに壁に当たった。
「お兄さん惜しい! あと2回!」
 生徒会、と書かれた法被姿の女子生徒がメガホン片手に応援してくれる。俺は弓を構えて、矢をつがえた。
(力を抜こう。身を任せよう)
 すとんと続けて二回、的に矢が当たった。
「おめでとうございます! 好きな景品どうぞ」
(もしもくじが当たってたら……、応援しよう。あいつの恋)
 まだ沢山ガムが入っているのが見える、プラスチックのケースに手を突っ込んだ。でもなんだか確かめる勇気がでなくて、ガムはそのままポケットにいれて歩く。
 俺は意気地がない、哀しきネガモン。当たって砕けるのが怖い。
 廊下に出たら、いいタイミングなのか悪いタイミングなのか、向こうから陽翔が一人で歩いて来た。
「向こうの廊下の教室、全部回って見た?」
「……いや、まだ。ここ入ってた」
「そっか」
「陽翔は? ここ来たの?」
「うん」
 噂通り。陽翔は生徒会室に来た。
(ガムの当たりくじ……、欲しくて来たのかな)
「ゲーム参加しようかなって思って」
 そう言ってちょっと俺から視線を外して頭に手をやってる。
「そっか……」
 やっぱりそうだった。陽翔は好きな子に告白したくて、当たりくじを見つけに来たんだろう。
 すれ違いざま、俺はガムを取り出して陽翔のポケットに、無理やりねじ込んだ。
「これ、やる。当たってるか分からないけど……。頑張って」
「え……」
「じゃっ」
 手を伸ばしてきた陽翔を振り切るように、向こうから広がって歩いて来た人の向こうによけた。そのまま廊下を歩いていて、教室の表示を見て気がついた。
(そっか、こっち側に写真部の展示があったんだ。陽翔に見に行くって約束したもんな)
「どうぞ、ご自由に見学していってください」
 案内係の三年生に会釈して、中に入った。
 教室の半分がシンプルに区切られて、真ん中に衝立が置かれてる。部員が撮った写真が大きく印刷されてシルバーフレームに納められている。はやる気持ちを抑えながら、俺は順番に写真を見ていった。
 花々の風景、お洒落な雑貨店の店先、バレー部の試合写真、寝転がっている虎。皆被写体は様々だ。
(あった……。陽翔の写真は……)
 何の変哲もない街角、人は写っていない。夕暮れよりも少しだけ夜に近づいた沈んだ青に溶け込む街を、坂道の上から映している。
 タイトルは捻りもなく『ブルーモーメント 青井陽翔』とだけあった。
 陽翔が言っていた通り、俺の写真はこっちにはないみたいだ。半分に区切った奥に、カラフルで賑やかなコーナーがある。壁一面に貼られた、スナップ写真。
 結構な人でにぎわっていて、写真を眺める人たちはみんな笑顔で、お目当ての写真にスマホを向ける人もいる。
(みんなモデルになった人なのかな)
 被写体は老若男女さまざまで、ぱっとみた写真の色合い別にグラデーションになっている。わざわざ友達や家族にカラフルな色の服を着せて、狙って撮ったような一枚もあれば、さり気なく撮られた遠目の写真もある。
 コーナーのタイトルは『メッセージ』。
写真一枚一枚に違う筆跡で言葉が書かれている。
『いつもありがとう』『このシャツ似合いすぎ』『祝関東大会進出』『大好きだよ』
(俺の写真……。見るのが怖いな、でも……)
 心のどこかで淡い期待もある。
 この壁一面のどこかに、俺に当てた陽翔のメッセージがある。あの日俺が来ていたシャツは白。でも探しても探しても俺の写真は見当たらなくて、結局陽翔は俺の写真は出さなかったんじゃないかなって諦めかけていたその時。
 ふと見つけた。よく見たら見覚えのある街角があった。街路樹の間から見える空をとりたかったのか、それとも人物を撮りたかったのか。ストリートポートレートとしても中途半端で、あまり上手じゃない写真。
 でもそんなこと問題じゃない。書かれていたメッセージを見て、俺は胸に矢でもとすんって刺さったみたいに、苦しくなった胸の前で拳を握った。