サトラレ体質の俺は好きバレしたら終わるので友達ポジション死守します

 ところで俺が突然人の心の声が聞こえるようになっちゃった話する? 
 しかも好きな子限定。
 そんな都合のいいSFみたいな話なんてありえないって思うだろ。俺も最初はその子のこと好きすぎて、勝手な自分の願望を頭の中で妄想してるだけかと思ってたんだけど……。どうもそうじゃなかった。
 その子って言うのは、バイト先も一緒のクラスメイト、佐藤望。
 好きになったのはいつの間にかだけど、気になったきっかけなら言える。
 夏休み前の体育祭で、俺は体育祭実行委員と応援団の副部長を兼任することになった。
 俺は昔から目立つ容姿とそれなりに何でもこなせる器用さからか、周りに勝手に期待されて担ぎ上げられがち。体育祭ではモロにいろんな仕事を一人で被ることになった。
 黄色ブロックの団長は集団演武のソロダンスができないとか駄々こねて、他のブロックの団長は頑張って踊ってたのに、振付もセンターポジションのダンスも全部俺に丸投げして来た。なら立候補すんなって感じだよな?
 二年生の応援団員への指示出しもあったり、それとは別に体育祭の実行委員も兼ねているから会議に出たり、場内アナウンスの原稿書いたりとにかくバタバタとしてた。
 それで応援団旗の進行の遅れに気づかなかったのは、確かに俺の責任だけど……。たまに望がじっとこっちを睨んでくるから、何でだろうとは思った。俺何かやらかした?って。 
 その頃から俺にとって望はなんというか。他の誰とも違って見えてた。
 そもそも望はすごく綺麗だ。全身全霊透明感って感じ。
 真っ白な肌に、睨まれるとちょっと怖い猫みたいに真ん丸ぱっちりな釣り目、いつも潤ってる程よい厚みの唇、口元のほくろもいちいち目を惹く。アイドルみたいに手入れが行き届いた見た目をしてる。
 クラスの中で、俺を含む喧しい陽キャ男子が何かと目立っていて、次に女子はダンス部が中心。そのほかはそれぞれ少人数の仲いい奴らが一緒に居る。
 望はそのどれにも属してないけど、だからといって仲が悪いわけでもない。
 騒がれて然るべきなビジュをしてるのに、立ち位置が絶妙なせいでまだ世界に見つかってないのは、俺的には都合がいい。
 みんなが騒がしくしている時も、クラスの端っこで静かにそれを眺めてる。大人しいとか気弱って感じでもなく、主体性なくにこにこと、ただただ穏やってわけでもない。
 クールで落ち着いていて、賢そうな表情で冷静に周りを見つめてる。あの長い睫毛で縁取られたぱっちりとした目でひと睨みされると、自分も姿勢を正さなきゃって思うような気分になった。
 そもそも俺は、クラスメイトから睨まれるっていう反応をされたことはほぼない。
 世の中の大体の人間が俺に好意的で、仲良くしたいって人の方が多い。俺と繋がっている奴らも目立つ奴が多いから、俺を敵に回すよりそっちの方が都合がいいんだろう。
 だからそういうの全然関係なく睨んでくる望のことが、気になってしょうがなくなった。
 応援団旗のことでひと揉めして、クラスの空気が悪くなった後、俺は改めて応援団旗を作ってくれてた係りの人たちに謝って回った。その時に言われた。
「佐藤君がさ、手伝ってくれた時に言ってたよ。『青井もいろんな仕事丸投げされて、こっちまで見てる暇ないだろうから、こっちはこっちで頑張って終わらせてやろう』って」
 やっぱり望はこっそり手伝ってたんだ。それとみんなが俺を呼ぶふざけた『アオハル』呼びじゃなかったのも、なんかぐっと来た。
 望は俺がいっぱいいっぱいになってるのを、静か鋭く見抜いてた。
 ちょっと悔しいって思った。まあ何とかなるでしょって思って、気を配らなかったこと。
望のあの目は誤魔化せなかった。俺のダメなとこを見透かされてた。
(あいつの目に映ってる俺って、どんな感じなんだろ)
俺の事なんて、馬鹿みたいだなって思ってそうなクールかつ色っぽい目つきに、こっちこそお前の事めちゃくちゃにかき乱したいしてみたいって、そんな乱暴な衝動まで沸き起こってきた。そこからさらに、望に対して興味が増した。
 望は女子に言わせればとにかく美容に気を使ってる綺麗な人、男子に言わせるとクールで何を考えてるのか分からない奴。
 知りたいなって思った。どうしたら外野の声に流されずに、ああして自分のスタイルを貫けるんだろうなって。
 でも体育祭後から、クラスの仲はなんとなくバラバラで雰囲気が悪くなって、俺も望と仲良くなるきっかけがつかめずに夏休みに入った。
 夏休み中、地元の祭りの日に中学の時のサッカー部が沢山集まってた。その中に征吾先輩がいて、バイト先で人手が足りなくなりそうで困ってるから誰か来ないかって話をしてた。
 俺はちょうど今のバイト先がシフトの希望が通りにくくて、バイトを増やそうかなって思っていたところだった。
「ここだよ。お前来る? 焼き鳥屋。みんな仲いいよ」
 見せられたインテレグラムの写真に、目が釘付けになった。教室では見たこともないようなきらっきらの笑顔でチューハイとお皿を持った望が映っていた。
(見つけた。佐藤の別の顔……)
 夏休み明けに焼き鳥屋のシフトに入って、その時初めて外で望に会った。
 案の定、教室では見せたことのない顔ばかりだ。多分クラスの中では猫を十匹ぐらい被ってる感じ。ぱっちりした目がコロコロ表情を変える。結構毒舌、でも憎めなくて可愛い。
 どんどん興味が出て、望のこと沢山知りたいって思ったから、俺の方からぐいぐいいったんだけど、素の望は俺のこと苦手そうなのを隠そうともしない。
 教室にいるときのあれは何だったのかってぐらいに、感情が駄々洩れだ。めちゃくちゃ顔に出る。それすら可愛い。
(このまんまの望ならきっともっと、沢山の人から好かれるのにな……)
 俺はどの方面からもよく思われたいって思いがちだ。でも望はきっと違う。
 誰からも好きになって貰いたいとか思ってないんだろう。俺とは生き方のスタンスが全然違う。自分が思うままに生きることを良しとしているんだろうな。
 そういうのはいいなと思った。
 写真部に入ったのも、外にばかり向いていた意識を自分の内面に向けてみたいと思ったから。人から求められることばかりが多くて、やろうと思えば大体器用に何でも出来るけど、それって自分の中のニーズに向き合ってるわけじゃない。
 俺は何が好きで、なにがやりたくて、なにが嫌いで、なにを追い求めてみたいんだろ。 
 俺も自分がやりたいことを通して、やりたくないことは捨てて、好きなもの好きだ、大事だって周りに示していけたら。
 もっとなんか人生に深みが出るんじゃないかな。
 そう思えるヒントを持っているのが、望な気がした。
 自分を凄く持っていそうで、あんまり出たがりじゃない望だけど、俺ががんがんけしかけたら、望も変わった。みんなの中ではっきり意見を言うようになった。
 その姿を見て俺はぞくぞくするほど嬉しかった。
 だって。俺が、あの望を変えたんだ。
 俺にとっても俺の傍に望という頼もしい援軍が来てくれたのは喜びだった。一緒に居ると楽しい。色んな表情が見たくて、ついつい揶揄ってしまいたくなる。毎回新鮮な反応を示してくれるのが嬉しい。 
 でも同時に、他の奴にも望があの笑顔を向けているのを見ると、なんかイラっとしたり胸がぎゅっと苦しくなったり。
 俺は今まで誰かに対してそんなこと感じたことはなかった。
 女子と大人数で遊びに行くことは何度もあったし、その中で二人っきりで出かけてって言われて出かけたことは何度かあったけど、付き合うまで行くほど相手に夢中になれたことはなかった。
 でも望のことは気になって、俺だけ見て欲しいし、傍にいて欲しいし、触れたくて堪らなくてしょうがなくなった。
(ああ、グダグダ色々言ってたけど簡単じゃん。これ、多分恋なんだ)
 自覚したら楽になった。好きだからくっつきたいのは普通の事だし当たり前、俺にもちゃんと欲しいものがあるって分かった。叫びだしたくなるほど、それが嬉しい。
 望とは好感度マイナス3ぐらいのところから始まった。そっから俺のこと大好きになって貰えたらいいなって思った。
 望の持ってる空気感やアティチュードが好きだ。自分を綺麗に整えている。注意深く丁寧に人に接しようとする。
 それは端正で静かな内面を持つ望だけの世界で、俺が写真にとって静かに向かい合いたいブルーモーメントの青い気配に通じていると感じた。
 傍にいさせてもらって、一緒にそれを味わいたい。
 求められるより、求めてみたい。
 望と一緒にいることが多くなった。俺が無理やりついていくからだけど、望が少しずつ、俺のことを受け入れてくれてる。
 文化祭の準備の時も、望の手を握っていた。望もだんだん慣れて来たのか、嫌がって逃げたりはしなくなった。
 その時、不意にだけど……。望の声が頭に直接聞こえてきた、気がした。
『困ったな……。でも友達なら出かけるくらいするよな、友達なら……』
 その後は聞こえなかった。気のせい? 口開いてたのかな。
 でも気になる。
 周りの目なんかお構いなしに、腕の中に望を抱き込んだまま、ゆらりゆらりって揺れてたら、岡本が温い目でこっちを見て来た。何か言いかけたけど、俺があっち行けって視線に込めたら向こうにいった。
 望の薄くてほっそりした綺麗な手をにぎにぎしたり、たまに肩に額をつけたりしてたら、もぞもぞって望が腕の中で可愛く動いた。
『あれ、今更だけど、こいつって距離感近くね?』
『友達ならいいのか……』
 また聞こえた。続けて二回。
「おい、いい加減放せ」
 その後は腕の中から逃げられてしまって、これは口元見ていなかっただけで望の独り言を聞いてただけって思ったんだけど、もう一度心の声を聞きたい、確かめたくてしょうがなくなった。
 ちなみに他の奴らに触っても同じような声は聞こえてこなかった。
(じゃあ、俺は好きな子に触れると、その子の心の声だけ聞こえるエスパーなったってこと? 俺って何でもできるな、思ってたけどついにここまで来たか)
 一緒にアイスクリームを食べに行って、フレーバーを迷っている望の肩に手を置いた。
『いつも通りチョコミントにするべきか、限定のシャインマスカットにすべきか……』
 結構迷っていた。望はチョコミントを選んだから、俺はシャインマスカットにした。
「あー、やっぱそっちもいいよね? チョコミントとシャインマスカットで迷ってたんだ
」
 ぱあっと顔が輝いて、長い睫毛がくるんってしてる、愛くるしい表情でにこにこってした。めちゃくちゃ可愛い顔だ。正直誰にも見せたくない。
 望は顔が俺の拳かってぐらいに小さい。目尻が切れ上がった猫みたいに円い目も、ちょっと小さめの唇も、俺を見上げる仕草も全部可愛い。結構ずけずけ言う性格とのギャップが余計にいい。
 クラスで望が目立ち始めたのは、今となっては失敗したなって思う。
 女子はこいつの綺麗さに大分気がついてるみたいだし、男子だってこんな顔見せたら、俺みたいに良からぬことを考える奴もいるかもしれない。
 いやそんなことより!
(望が食べたいアイスを口に出す前に当てたから、本当に望の心の声が聞こえてるっぽい)
 ということは望が俺のことを、どう思っているのかを探ることが出来るってことだ!
 別に俺的には正々堂々と告白して、OK貰えばいいって思ってた。でもなし崩しじゃなくて、タイミングとしては後夜祭とか……、やっぱりムードは大事。時と場所は厳選したい。
 表参道に買い物に行った帰り道、いい雰囲気になった。
 望が俺の香水を選んでくれた。色んなメッセージを貰って、お揃いの香水を買った。高校生の俺たちにしてみたら高価なものだから、よほどの意味がない限りお揃いでは買わないだろう。
(望も俺のこと、特別だって思ってくれているよな?)
 色んなことが話せて、もっと望のこと知りたくなって、だったらもういっそ、付き合っちゃいたいって、ずっと思いながら写真を撮ってた。
 大好きな青い時間と俺の大好きな人。
 だから無意識に思わず口から出てしまった。
「望のこと、すごい、好き」
 手を繋いでたから、望の心が俺には読めてしまう。
 本当ならもっと身構えてなきゃいけないタイミングだったのに。
『俺も好き……、だけど、陽翔のこと好きになっちゃ、ダメだ』
 聞こえて来た望の心の声は、どうしても納得がいかない言葉だった。
(なんで、どうして俺のこと好きになっちゃダメなんだ? 本音が聞きたい。どう誘導したら上手く答えてくれる?)
 あまり迷うことのない俺の頭の中が、珍しく散らかってまとまらない。望とお揃いの香水を買ったり、写真を撮らせてもらえたり、望の持つ綺麗な世界の中に俺も入れて貰えたんじゃないかなって、多分浮かれてたから。
 急に予防線を張られたみたいに、ぱっと手を放された。
「俺も前はお前のこと、ちょっと苦手だったけど、今は友達になれて、良かったなって思ってる」
 『友達になれて』
 全然悪い言葉じゃない。むしろ大歓迎のはずだろ? 
 だって俺は望の好感度マイナス3ぐらいのところからスタートして、こんな短期間に、ここまで懐いてくれたんだから。
 なのに……、覚悟のない告白もどきをしてしまったせいで、俺は信じられないぐらいに、情けなく、動揺してしまった。  
 渋谷までのんびり散歩をして帰るはずだったのに、望は逃げるように駅へと続く階段を降りて行った。そのほっそりした背中に、言葉にならない拒絶を感じた。
(くそ、ポジティブモンスターじゃないのかよ。俺は! 動揺すんな)
 なのに、そこから何となく距離を置かれてしまって、俺も怖くなって望に触れることができなくなってしまった。
 罰が当たったんだと思った。人の気持ちなんて読めてもいいことがない。
 それなのにズルして好きな子の心を覗いてしまったりしたから、だからきっと俺は失敗した。
(望にちゃんと気持ちを伝えて、俺のこと好きになって貰いたい)
 でも今はうまくやれる気がしない。何がいけなかったんだ?
 早急に距離を縮めすぎたからか? 
 望の大事にしている静かで落ち着いた世界に、俺が土足で踏み込んで、荒らして、揺らしてしまった。また同じことをしたらそ、もう一生望は俺に対して心を開いてくれなくなるかもしれない。
 一旦望と距離を置いて頭を冷やしたいって、そう思った。