※※※
日曜日は午後から待ち合わせ。地下にある改札をでたら、向こうでぶんぶん手を振る陽翔が見えた。そのまま元気よくこっちに向かって駆け寄って来る。
(犬系ポジモン)
頭の中に千切れんばかりに尻尾を振ってる大型犬に似たモンスターが浮かんできた。
「待たせた?」
「全然! 望、服、お洒落だね」
「え、ま、まあ。陽翔もな」
「ありがとう。嬉しい」
こういう時、こいつみたいにさらっとお礼がいえればいいのに、陽翔相手だとうまくいかない。なんかどうも調子狂う。
「あの、お兄さんたち、少しいいですか?」
カメラを首から下げたお兄さんが、スマホをこっちに向けながら笑顔で俺たちに話しかけてきた。
「なんですか?」
すぐに陽翔が警戒モードな声を出して、さっと俺を庇うように前に立った。
「いや、お兄さん背が高くて、すごくお洒落で格好いいですよね? お兄さんも写真撮る方ですか?」
お兄さんは目ざとく、陽翔がショルダーストラップで下げてるカメラに目を向けてた。
「これは、趣味で……」
「そうなんですか! 僕、このあたりでストリートフォト撮ってて、出来ればそちらのお兄さんと一緒に写真撮らせてもらえませんか? 二人ともすごく格好良くて雰囲気があるからいいなって」
「望、どうする?」
陽翔はこういうの慣れっこなのか、こいつにしては素っ気ない口調で俺に聞いて来た。ちょっと興味があったけど、スタイル鬼いい陽翔と一緒に写るという、公開処刑はなんとか避けたい。ふるふると首を振る。
「止めときます。いこっか」
「うん」
そういって陽翔は俺の肩に手をかけ、ちょっと早足になった。
「今日、望を撮るのは俺だけでいいの」
(こういうとこ、子どもっぽくて可愛いよな)
ムキになったみたいな口調に、俺がくすくす笑ってたら陽翔も俺を見下ろして笑顔になった。
俺たちが向かっているのは香水も扱うコスメブラントの旗艦店。結局、俺が行きたいところに陽翔も行ってみたいというので付いてくることになった。
「望がいつもいい匂いしてるから、俺も一つ香水欲しいなって思ってたんだよね」
「お前、カメラのレンズ買うためにお金貯めてるんだろ? 小さいサイズでも結構高いけど、いいの? 」
「レンズは少しずつ貯めてたら来年には買えるっしょ」
「そうしている間に卒業になりそう」
「たしかに……、でも望と香水選ぶの、楽しみにしてたから」
(俺もできれば陽翔が好きな香りを自分用に選びたいな……とか、思ってたんだよね)
店について、早速テスターの前に立つと若いお店の方が明るく声をかけてくれた。
「いらっしゃいませ。ようこそ。こちら期間限定の金木犀のパルファンです。よろしかったらどうぞ」
早速限定の香りが付いたムエットを渡されて、二人して鼻先に翳してくんくんってしてしまった。
「金木犀か、秋らしいね」
「うん。結構リアル金木犀の香りに近いよな。甘め」
俺は前に陽翔から爽やかないい匂いがしてたよなあって思い出す。
「陽翔さ、前にシトラス系のなんかつけてただろ? あれオードトワレ? オードパルファンじゃなく」
「オードパルファン?」
「あー。香水の種類なんだけど。香料の濃度の高さで、香りの持続時間が違うんだ。値段も変わるけど、それだけじゃなくて、香りの濃度も違うから、オードトワレは普段づかいにいい。学校とかでは主張をし過ぎなくて、でもさり気なく使える。オードパルファンは濃厚で持続時間が長いから、そうだな。今日みたいに休みの日にじっくり出かけるような……」
『特別な日につける』言いかけて止めた。
(俺が陽翔と出かけるの、特別に感じてるって思われちゃうじゃん)
でもそう思った時点でなんかもう、自分の中で陽翔に対する思いの答えが出てるみたいで……、一旦無視しとこ。陽翔はこっちを見て、優しい顔で笑ってる。
「なるほどね。望、お店の人みたいに詳しいね。すげぇ」
「とてもお詳しいんですね」
傍についていてくれた店員さんも目を輝かせて褒めてくれた。悪い気分じゃないな。
(どれにしようかな。うちの姉さんが使っているのと被らない方がいいな)
「折角なら俺は望に選んでもらいたいな」
ちょっと嬉しくて口元がにやけそうになったから、香水を見るふりして陽翔から見えなさそうな角度に俯いた。
「えー。香りは自分が好きなやつがいいよ」
「でも俺は、一緒に居る人も好きな香りがいい」
「……っ!」
(なんてこと言うんだこの男)
こんなの、女子口説くときに言うようなセリフ、無自覚にさらっと行って来るからタチ悪いぞお前。なんて俺が焦ってるとは思わないもんな。友達なんだから……。
なんか胸の奥がもやっとしたけど気を取り直して、俺は香水が並ぶコーナーに歩いて行った。
(陽翔が好きそうな香りはどれだろ……。柑橘系好きそうだったから、フレッシュなマリンテイストがいいかな。ラストまで清涼感が残るような……)
アオハルって名前の通りの、みんなから好かれそうな香り。
「爽やかさな感じのがいい?」
「爽やか……、まあそうかなあ?」
「でしたらこちらはいかがですか? 定番のオードパルファンです」
お姉さんがムエットにつけて俺たちに渡してくれたのは、俺には馴染みのある香りだった。
「俺、このシリーズのヘアオイル使ってます。さっぱりしたフローラル系でさり気なく香るから使いやすいですよね」
「はい。性別やシーンを問わず付けやすい香りです」
「これ付けやすいよ。どう?」
陽翔は自分もムエットを受け取って微笑んだ。
「確かにこれ、望の匂いっぽい。綺麗な香り。透明感って感じ」
「透明感って」
「だって望は透き通った青ってイメージだから俺の中で」
「透き通った青? それは透明じゃね? その香りは、初めて選ぶのに使いやすいと思うよ。まあでも折角来たから色々試してみるといいんじゃない? 香りには調香師が考えたそれぞれにストーリーがあるから、俺はメッセージと好みの香りが合致したやつが結構好き」
「へー。望は香りだけじゃなくて、そういうの気にするんだ」
「背景があるとより深みを増して感じられる気がするから。香り一つで、気持ちが上がったり、背中を押してもらえたり」
「いいね。俺も香水好きになりそう」
「うん」
陽翔が明るく笑ってそういったから、俺だって余計に香水が好きになりそうだ。
「じゃあ望は俺にどんなストーリーを感じてくれるの?」
陽翔がいたずらっぽく微笑んで、俺の肩を抱いて、自分の方に引き寄せた。
「おい、ハードル上げたな。そうだな……。ウッディ系で使いやすい香りはありますか? 最初は爽やかで、時間が経つと香りの奥に少しアンバーが残るような……」
「それでしたら、こちらを」
ムエットから香るのは、フローラルと柑橘の爽やかさの中に、どこか深みをふっと感じる、アンバー系が混じる。『like』という名前の香水。スマホでメッセージを確認した。『しなやかな自分らしさを大切にする』。陽翔にふさわしい気がする。
(陽翔はただ陽気なだけじゃない。周りも幸せにしたいって考えてくれる。思慮深くて、優しい。それでとびきり眩しい。陽翔みたいに自分のことを好きって思えるような生き方が、俺もしてみたいって思う……)
陽翔も店員さんから受け取ったムエットを鼻先に翳し、すっと味わうように目を細めた。
「ちょっと大人っぽいね」
「ダメ?」
「ダメじゃない。この香り好きだな。望が俺のこと、そういうイメージで思ってくれてるなら、余計に嬉しい」
そんな風に素直に感想を言ってくれるから、俺も素直に言葉にできた。
「うん。俺も好き」
(こいつと同じ香り、纏えたらいいな)
「……望も、これにする?」
「ああ……、じゃあ俺もこれ買おうかな」
さらっと言ってはみたものの、言った後でまずかったかなって思ってしまった。
(友達同士で買うには、値段がガチめで、親密すぎん? 恋人同士でやるようなことじゃん、これ……)
意識したら途端に落ち着かない気分になった。別の香水にした方がいいだろうか。
俺は陽翔の手から離れて、俺は店員のお姉さんに声をかけた。
「あの、やっぱり俺、別の香りも……」
「お手持ちのヘアオイルと重ね付けにもよろしいかと思いますよ。香りがより立体的になります」
お姉さんはいつも俺が使っているヘアオイルを手にしてきてくれた。
陽翔が後ろから来て俺の肩に手を載せた。振り向いたら、屈み気味に俺の髪を手に取って、口付けるみたいに顔を近づけて来た。
「この香り……、最初に試した香水と一緒なんだよね?」
目が合う。とくんって、心臓が跳ねて、瞬間的に身体の温度が一度上がったように感じた。まるでキスするぐらいの濃密な距離感に、俺はドキドキしながら頷いた。
「うん。そうだよ」
「ペアで同じ香りをつけてても、まったく同じにならないっていうの、それはそれでなんかいいよな。個性を大事にするのに寄り添える感じがして」
陽翔が言った言葉があまりに素敵で、俺はもう、胸がきゅんってなって、ただ頷くしかできなかった。
「うん」
「ありがと。選んでくれて。こういう幸せな香り、望と一緒に付けられるの、嬉しい」
「あ……、うん」
もう陽翔の中では選び終わってたみたい。じゃあ、俺も同じ香りを選びたい。
「俺もこれにします」
隣でお店のお姉さんも目を輝かせて「すごく素敵だと思います!」と呟いてうんうんって頷いてる。
陽翔のこういうところ、天性のアイドルって感じがする。
(でも陽翔は……、きっと誰にでもこういうこと言えちゃうんだろうな。俺だけってわけじゃないんだろうな)
そう思ってしまった。俺ってやっぱり、根がネガティブモンスター。なんかちょっと、胸がしくしくって痛む。
こんなに楽しい時間を過ごしてるのに、切ないとか……。ちょっと自分の世界にはいってしまってた俺の肩を引き寄せ直して、陽翔が耳元で囁いて来た。
「こういうのって、特別感でるよな?」
まるで俺の心を読んだみたいに、察しが良すぎて嫌になる。
(またそういう思わせぶりな言い方するの、止めて欲しいよ。俺、お前のこと、好きになったら、ダメなんだから……)
「重たいよ」
陽翔の腕を肩から外す。しょぼっと耳を下げた大型犬みたいな表情になったけど、そんなことより無意識に思ってしまったことの方が衝撃的だった。
(友達にエロがったら、さすがにダメだろ。いや、でも陽翔はとにかく顔がいいし、きっと岡本だってあんだけ間近にこられたらドキドキするだろ)
そう思いながら、とにかく自分が大好きそうな岡本がギターをもってポーズを決めているところを想像してしまって笑ってしまった。
「陽翔、なに笑ってんの?」
「んー? 岡本のこと思い出してた」
「ええ? なんで俺といるのに岡本のこと考えてんの? それ浮気だからね!」
「はあ? 俺、別にお前と付き合ってねぇし」
「とにかく! 俺といるときは俺のことだけ考えて欲しいの! じゃないと岡本をどうにかしてやりたくなる」
「はー、メンヘラかよ!」
日曜日は午後から待ち合わせ。地下にある改札をでたら、向こうでぶんぶん手を振る陽翔が見えた。そのまま元気よくこっちに向かって駆け寄って来る。
(犬系ポジモン)
頭の中に千切れんばかりに尻尾を振ってる大型犬に似たモンスターが浮かんできた。
「待たせた?」
「全然! 望、服、お洒落だね」
「え、ま、まあ。陽翔もな」
「ありがとう。嬉しい」
こういう時、こいつみたいにさらっとお礼がいえればいいのに、陽翔相手だとうまくいかない。なんかどうも調子狂う。
「あの、お兄さんたち、少しいいですか?」
カメラを首から下げたお兄さんが、スマホをこっちに向けながら笑顔で俺たちに話しかけてきた。
「なんですか?」
すぐに陽翔が警戒モードな声を出して、さっと俺を庇うように前に立った。
「いや、お兄さん背が高くて、すごくお洒落で格好いいですよね? お兄さんも写真撮る方ですか?」
お兄さんは目ざとく、陽翔がショルダーストラップで下げてるカメラに目を向けてた。
「これは、趣味で……」
「そうなんですか! 僕、このあたりでストリートフォト撮ってて、出来ればそちらのお兄さんと一緒に写真撮らせてもらえませんか? 二人ともすごく格好良くて雰囲気があるからいいなって」
「望、どうする?」
陽翔はこういうの慣れっこなのか、こいつにしては素っ気ない口調で俺に聞いて来た。ちょっと興味があったけど、スタイル鬼いい陽翔と一緒に写るという、公開処刑はなんとか避けたい。ふるふると首を振る。
「止めときます。いこっか」
「うん」
そういって陽翔は俺の肩に手をかけ、ちょっと早足になった。
「今日、望を撮るのは俺だけでいいの」
(こういうとこ、子どもっぽくて可愛いよな)
ムキになったみたいな口調に、俺がくすくす笑ってたら陽翔も俺を見下ろして笑顔になった。
俺たちが向かっているのは香水も扱うコスメブラントの旗艦店。結局、俺が行きたいところに陽翔も行ってみたいというので付いてくることになった。
「望がいつもいい匂いしてるから、俺も一つ香水欲しいなって思ってたんだよね」
「お前、カメラのレンズ買うためにお金貯めてるんだろ? 小さいサイズでも結構高いけど、いいの? 」
「レンズは少しずつ貯めてたら来年には買えるっしょ」
「そうしている間に卒業になりそう」
「たしかに……、でも望と香水選ぶの、楽しみにしてたから」
(俺もできれば陽翔が好きな香りを自分用に選びたいな……とか、思ってたんだよね)
店について、早速テスターの前に立つと若いお店の方が明るく声をかけてくれた。
「いらっしゃいませ。ようこそ。こちら期間限定の金木犀のパルファンです。よろしかったらどうぞ」
早速限定の香りが付いたムエットを渡されて、二人して鼻先に翳してくんくんってしてしまった。
「金木犀か、秋らしいね」
「うん。結構リアル金木犀の香りに近いよな。甘め」
俺は前に陽翔から爽やかないい匂いがしてたよなあって思い出す。
「陽翔さ、前にシトラス系のなんかつけてただろ? あれオードトワレ? オードパルファンじゃなく」
「オードパルファン?」
「あー。香水の種類なんだけど。香料の濃度の高さで、香りの持続時間が違うんだ。値段も変わるけど、それだけじゃなくて、香りの濃度も違うから、オードトワレは普段づかいにいい。学校とかでは主張をし過ぎなくて、でもさり気なく使える。オードパルファンは濃厚で持続時間が長いから、そうだな。今日みたいに休みの日にじっくり出かけるような……」
『特別な日につける』言いかけて止めた。
(俺が陽翔と出かけるの、特別に感じてるって思われちゃうじゃん)
でもそう思った時点でなんかもう、自分の中で陽翔に対する思いの答えが出てるみたいで……、一旦無視しとこ。陽翔はこっちを見て、優しい顔で笑ってる。
「なるほどね。望、お店の人みたいに詳しいね。すげぇ」
「とてもお詳しいんですね」
傍についていてくれた店員さんも目を輝かせて褒めてくれた。悪い気分じゃないな。
(どれにしようかな。うちの姉さんが使っているのと被らない方がいいな)
「折角なら俺は望に選んでもらいたいな」
ちょっと嬉しくて口元がにやけそうになったから、香水を見るふりして陽翔から見えなさそうな角度に俯いた。
「えー。香りは自分が好きなやつがいいよ」
「でも俺は、一緒に居る人も好きな香りがいい」
「……っ!」
(なんてこと言うんだこの男)
こんなの、女子口説くときに言うようなセリフ、無自覚にさらっと行って来るからタチ悪いぞお前。なんて俺が焦ってるとは思わないもんな。友達なんだから……。
なんか胸の奥がもやっとしたけど気を取り直して、俺は香水が並ぶコーナーに歩いて行った。
(陽翔が好きそうな香りはどれだろ……。柑橘系好きそうだったから、フレッシュなマリンテイストがいいかな。ラストまで清涼感が残るような……)
アオハルって名前の通りの、みんなから好かれそうな香り。
「爽やかさな感じのがいい?」
「爽やか……、まあそうかなあ?」
「でしたらこちらはいかがですか? 定番のオードパルファンです」
お姉さんがムエットにつけて俺たちに渡してくれたのは、俺には馴染みのある香りだった。
「俺、このシリーズのヘアオイル使ってます。さっぱりしたフローラル系でさり気なく香るから使いやすいですよね」
「はい。性別やシーンを問わず付けやすい香りです」
「これ付けやすいよ。どう?」
陽翔は自分もムエットを受け取って微笑んだ。
「確かにこれ、望の匂いっぽい。綺麗な香り。透明感って感じ」
「透明感って」
「だって望は透き通った青ってイメージだから俺の中で」
「透き通った青? それは透明じゃね? その香りは、初めて選ぶのに使いやすいと思うよ。まあでも折角来たから色々試してみるといいんじゃない? 香りには調香師が考えたそれぞれにストーリーがあるから、俺はメッセージと好みの香りが合致したやつが結構好き」
「へー。望は香りだけじゃなくて、そういうの気にするんだ」
「背景があるとより深みを増して感じられる気がするから。香り一つで、気持ちが上がったり、背中を押してもらえたり」
「いいね。俺も香水好きになりそう」
「うん」
陽翔が明るく笑ってそういったから、俺だって余計に香水が好きになりそうだ。
「じゃあ望は俺にどんなストーリーを感じてくれるの?」
陽翔がいたずらっぽく微笑んで、俺の肩を抱いて、自分の方に引き寄せた。
「おい、ハードル上げたな。そうだな……。ウッディ系で使いやすい香りはありますか? 最初は爽やかで、時間が経つと香りの奥に少しアンバーが残るような……」
「それでしたら、こちらを」
ムエットから香るのは、フローラルと柑橘の爽やかさの中に、どこか深みをふっと感じる、アンバー系が混じる。『like』という名前の香水。スマホでメッセージを確認した。『しなやかな自分らしさを大切にする』。陽翔にふさわしい気がする。
(陽翔はただ陽気なだけじゃない。周りも幸せにしたいって考えてくれる。思慮深くて、優しい。それでとびきり眩しい。陽翔みたいに自分のことを好きって思えるような生き方が、俺もしてみたいって思う……)
陽翔も店員さんから受け取ったムエットを鼻先に翳し、すっと味わうように目を細めた。
「ちょっと大人っぽいね」
「ダメ?」
「ダメじゃない。この香り好きだな。望が俺のこと、そういうイメージで思ってくれてるなら、余計に嬉しい」
そんな風に素直に感想を言ってくれるから、俺も素直に言葉にできた。
「うん。俺も好き」
(こいつと同じ香り、纏えたらいいな)
「……望も、これにする?」
「ああ……、じゃあ俺もこれ買おうかな」
さらっと言ってはみたものの、言った後でまずかったかなって思ってしまった。
(友達同士で買うには、値段がガチめで、親密すぎん? 恋人同士でやるようなことじゃん、これ……)
意識したら途端に落ち着かない気分になった。別の香水にした方がいいだろうか。
俺は陽翔の手から離れて、俺は店員のお姉さんに声をかけた。
「あの、やっぱり俺、別の香りも……」
「お手持ちのヘアオイルと重ね付けにもよろしいかと思いますよ。香りがより立体的になります」
お姉さんはいつも俺が使っているヘアオイルを手にしてきてくれた。
陽翔が後ろから来て俺の肩に手を載せた。振り向いたら、屈み気味に俺の髪を手に取って、口付けるみたいに顔を近づけて来た。
「この香り……、最初に試した香水と一緒なんだよね?」
目が合う。とくんって、心臓が跳ねて、瞬間的に身体の温度が一度上がったように感じた。まるでキスするぐらいの濃密な距離感に、俺はドキドキしながら頷いた。
「うん。そうだよ」
「ペアで同じ香りをつけてても、まったく同じにならないっていうの、それはそれでなんかいいよな。個性を大事にするのに寄り添える感じがして」
陽翔が言った言葉があまりに素敵で、俺はもう、胸がきゅんってなって、ただ頷くしかできなかった。
「うん」
「ありがと。選んでくれて。こういう幸せな香り、望と一緒に付けられるの、嬉しい」
「あ……、うん」
もう陽翔の中では選び終わってたみたい。じゃあ、俺も同じ香りを選びたい。
「俺もこれにします」
隣でお店のお姉さんも目を輝かせて「すごく素敵だと思います!」と呟いてうんうんって頷いてる。
陽翔のこういうところ、天性のアイドルって感じがする。
(でも陽翔は……、きっと誰にでもこういうこと言えちゃうんだろうな。俺だけってわけじゃないんだろうな)
そう思ってしまった。俺ってやっぱり、根がネガティブモンスター。なんかちょっと、胸がしくしくって痛む。
こんなに楽しい時間を過ごしてるのに、切ないとか……。ちょっと自分の世界にはいってしまってた俺の肩を引き寄せ直して、陽翔が耳元で囁いて来た。
「こういうのって、特別感でるよな?」
まるで俺の心を読んだみたいに、察しが良すぎて嫌になる。
(またそういう思わせぶりな言い方するの、止めて欲しいよ。俺、お前のこと、好きになったら、ダメなんだから……)
「重たいよ」
陽翔の腕を肩から外す。しょぼっと耳を下げた大型犬みたいな表情になったけど、そんなことより無意識に思ってしまったことの方が衝撃的だった。
(友達にエロがったら、さすがにダメだろ。いや、でも陽翔はとにかく顔がいいし、きっと岡本だってあんだけ間近にこられたらドキドキするだろ)
そう思いながら、とにかく自分が大好きそうな岡本がギターをもってポーズを決めているところを想像してしまって笑ってしまった。
「陽翔、なに笑ってんの?」
「んー? 岡本のこと思い出してた」
「ええ? なんで俺といるのに岡本のこと考えてんの? それ浮気だからね!」
「はあ? 俺、別にお前と付き合ってねぇし」
「とにかく! 俺といるときは俺のことだけ考えて欲しいの! じゃないと岡本をどうにかしてやりたくなる」
「はー、メンヘラかよ!」



