虐げられた令息と、公爵令嬢

「ユシリール様、義理であるヒーニル様を虐めているようですね。そのような方との婚約は破棄させていただきますわ!!」

まさか、私の目の前で流行りの物語のような婚約破棄が起こるとは……!!
私は読書と魔術をこよなく愛する公爵令嬢のルナリス·フローレンです。何回か読んだことがある婚約破棄が現実に起きて、驚きです。あら?なんだか婚約破棄されたご令息の様子がおかしいような…………?よく見れば、礼服から少し見えている手や首はとても令息とは思えないほど細く、顔色もあまり良くありませんし、礼服のサイズも合ってないようね。これは……何か事情がありそうね。まぁ、もともと分家だったクロッツェル候爵家は使用人が長続きしていないようですし、使用人達から、虐待が日常的に行われているという報告が複数寄せられていると、父様から伺っていましたわ。助けてあげましょうか。

「少しよろしいかしら?」
「え、、、。」
(急に、誰、、、?)
「貴女は、フローレン公爵家令嬢のルナリス·フローレン様とお見受けしますが、どうしたのでしょうか?」
「単刀直入に言わせていただきますが、貴方達がユシリール様を虐げていると、複数の使用人から報告を受けています。それも……長い間。そう、ドナウさんが侯爵代理になった時から。」
すると、後妻と思われる人が侯爵代理に向かって「ちょっと、貴方侯爵代理ってどういうことなの!?」
「あら、貴女、知らなかったの?
クロッツェル侯爵家の当主はユシリール様のお母様、私の大叔母の娘よ。侯爵家の当主の資格をもつのは、その血を唯一受け継いでいるユシリール様ともう1人だけよ。前侯爵が亡くなられた時、彼らが当主を務めるには幼すぎたために入婿であるそこの男性が侯爵代理となった、ただそれだけよ。」
「そ、そんな……!!
ちょっと、待って、ください。今、侯爵家の当主となる資格がユシリールの他にいるって今言いましたか?それは、誰ですの?」
「えぇ、言いましたが、今は伏せておきましょう。それと、ユシリールの身柄については公爵家で保護させていただきます。」
すると、ユシリール様が
「え………。公爵家…で、保護?」
「えぇ、ですが、ユシリール様にも選ぶ権利はあります。貴方達がこの家族と一緒にいるというのであれば、無理に保護しません。どうしますか?私の手を取るか取らないか。」
(家に残って虐げられ続ける人生を歩むか、別の人生を歩むかってことか。でももう虐げられるだけの人生は疲れた)
「わかりました。公爵令嬢殿、貴女様の手を取らせてください。」
その時、ドナウは
「ユシリール、お前だけが助かるなど許せるか。こうなったら……」と言って、隠し持っていた短剣を抜き、ユシリール様に向かう。ユシリールがそれに気づき、ルナリスを背後に隠して守り、
刺された。
「くっ……————」
突然の出来事に会場は騒然となる。その中で、私は衛兵に指示を出して、捕まえさせる。
「早まったわね。これで、あなたは立派な殺人犯。衛兵、早く彼とそこで固まっている2人もまとめて連れていきなさい。」
後ろにいる彼を振り返る。
「まさか、彼が短剣を持っていたと見抜けなくて、助けるのが遅くなりました。」
「いえ………こちら、こそ………助けて、いただいき………、ありがとう、ございます………」
徐々にユシリール様の両目から輝きが消えていく。
「その状態で喋らないで。もっと早く反応できていれば、怪我を治してあげれたら、どれほど良かったことでしょう。」
「ご自分を責め、ないで、ください………あ、なた様に、怪我がなく、て、ないで………よかっ……」
言葉は最後まで言い切ることなく終わった。彼はもう何も言わない。意識がなくなったのは明白だった。会場の皆が、彼はもう助からないと思った。

(ねぇ、なんで?なんでなの?こんなことで彼は命を落とさないといけなかったの?彼の人生はこれからも続いていくはずでしょう?)


その時だった。


どこからともなくミントやマリーゴールド、カモミールなどの植物が舞い出てきて、ユシリールの怪我をみるみる治していく。
そして……………。
ユシリールは目を開けた。
その情景にある者は驚き目を見開き、またある者は「奇跡だ」っと呟き喜んだ。

 そして、事件は正式に裁かれて、クロッツェル家の罪が明らかになって、幕を閉じた。


数ヶ月後、公爵家では………………
「ユシリール様、実はまだ隠していることが私達にはあるの。父様からも許可はもらっているし、お話しましょう。」
「隠していること?それは一体何でしょうか?」
「少し待ってて。そこの侍女、あの子を連れてきなさい。」
 数分後、侍女はフードを目深に被った男の子と一緒に戻ってきた。
「彼は、テオドール·フローレン、私の義弟よ。テオドール、フードをはずして顔を見せてあげて。」
「わかりました、義姉上」
フードを外して現れた顔は················
「僕と同じ顔!?どういうこと?」
「彼は、私や兄様とは直接血は繋がっていないの。だけどね、ユシリール、貴方とは繋がっているの。」
「え·······?」
「彼は生まれてすぐ、秘密裏に侯爵家前当主の友人であった私の母に預けられた貴方の双子の弟だから」
「本当、なのですか?」
「疑いたくなるのも、わかるわ。貴方達が双子だって知っているのは、貴方の母親と2人が生まれる時に手伝った医者と使用人、そして、テオドールが預けられた我が公爵家の者しか知らないから。おそらく、貴方の父親も知らないわ。あの人、貴方達が生まれる前には侯爵家に近寄らなくなっていたと聞いたから。それより、しばらく2人で話し合ってみなさい。今までのことをお互い知りたいでしょうから。」
「「わかりました。」」
「ふふ。さすが、双子ね。時間は気にしないで。部屋の外に使用人を立たせておくから、何かあれば彼らに言えばいいわ。」

私が出たあとの部屋では·············
(なんて言い出せば良いんだ?)
「··········えっと、はじめましてで良いのかな?」
「どうなんだろう。僕は遠目からだけど何回かユシリールのこと見てたから」
「え、そうなの?」
「うん。自分に双子の兄弟がいることは公爵様に聞いて、気になっていたから。」
「なんで、直接会いに来なかったんだ?」
「公爵様に、『クロッツェル家に双子の存在を知られれば、僕まで巻き込まれるかもしれないから』と言われていたからなんだ」
「そうか。それにしても、なんであのとき僕は助かったのだろう?普通の治癒魔法でも助からないほどの深手だったんだろ?」
「あのとき起きた奇跡は、母が兄に生まれてすぐに掛けた加護魔法が発動したからだろうって義姉上が言ってた。加護魔法は嫡男にかけることが多いんだって。ちなみに僕には加護魔法はかけられてないらしい。」
「へぇ。何故テオドールに母上はかけなかったんだ?」
「僕達が生まれた時、母は魔力量はそこまで多くなく体力の消耗も激しくて一人にかけるので精一杯だったからって聞いてるよ。」
「そうだったのか。··············なぁ、この家について教えてくれないか?」

全てのものがあるべき場所に落ち着き、今日も明日も、これからも、この平和な日々が続いていくだろう。