リトさんから、昼の日光を避けて過ごせる隠れ家を紹介してもらって、「施設」から逃げている吸血鬼症候群患者たちのグループや、そのグループ内におけるマナーやルールを教えてもらい、リトさんや同じグループの先輩方の手伝いをしているうちに数ヶ月が過ぎ、季節は冬になっていた。僕らは吸血鬼症候群患者たちの集まりは、いくつかのチームに分かれていて、縄張りがあり、それぞれのチームが、協力したり敵対したりしながら夜の街で生き抜いている、という事を覚えた。理由があってそれらの集団から外れた者もたまにはいるらしいが、そういう人はほんのひと握りで、多くはどこかしらのチームに所属している。チームに所属していない人や、何かのトラブルでチームから追い出されたという人は、しばらくすると見かけなくなる事が多かった。噂では「施設」に収容された、と言われる事が最も多く、それ以外には時々、「飛んだ」と言われているのも聞いた。これは、コミュニティに所属しないと立ち行かない都会に見切りをつけて、地方の都市や山奥に逃げていく人の事を指す隠語だという。僕とミヤを襲った男も、どこかの都市から「飛んだ」男なのではないか、との事だった。
あの男がどうして「飛んだ」のか、本当に「飛んだ」人だったのかは知らないし、元々どこのコミュニティから来た誰だったのかも知らない。でも、僕らが吸血鬼症候群の症状を呈しているのだから、恐らくあの男も吸血鬼症候群患者ではあったのだろう、とリトさんは言っていた。
「ただいま」
チームの先輩から、ちょっとした用事を頼まれてこなし、ようやく帰宅をしたのだが、ミヤからの返事はなかった。今日、ミヤは何の予定もないと言っていたし、部屋にいると言っていたはずなのに、と思いながら、リビングにしている部屋に入る。奥から微かな物音がした。
リトさんに紹介されたこの部屋は、独居用のワンルームの部屋で、僕らはこの部屋を簡易のアコーディオンカーテンで仕切って使っている。玄関から入って手前のスペースをリビングに、カーテンで仕切った奥のスペースを寝室にして、疑似的に二部屋を作っていて、気配がしたのは、その、仕切っている奥のスペース、寝室の方からだった。
「ミヤ?」
突然、具合でも悪くなって休んでいるのかもしれない。そう思いながらカーテンを開けた僕は、思わず立ち尽くした。
――僕らの家の寝室のはずなのに、そこにはミヤとリトさんがいた。
こちらに来てから買った、ミヤの薄ピンクのスカートがしわくちゃに乱れて、太腿が露わになっていた。リトさんの服も、どことなく乱れていて、そしてふたりの距離感が異様に近い。
「悪い。邪魔してるよー」
もう帰るけど、とリトさんが薄く笑う。微妙な空気の中、先に動いたのはリトさんだった。平然と立ち上がり、己の衣服の乱れを直し、固まっている僕の横を抜けて、リトさんは玄関に向かう。
「お邪魔しましたー。またね、コウくん、ミヤちゃん」
振り返った僕と、その奥で布団の上に座ったままのミヤの方に向けて、リトさんがヒラヒラと手を振る。そうして彼は部屋を出て行った。
「…………」
何があったのか、なんて明白で、けれど聞いてはいけないような気がして、口を開く事ができなかった。
「……ただいま、ミヤ」
「っ、おかえり、なさい」
どうにか口を開いたが、強張った空気は部屋に満ちたままだった。僕は結局、何も問う事ができなかった。
あの男がどうして「飛んだ」のか、本当に「飛んだ」人だったのかは知らないし、元々どこのコミュニティから来た誰だったのかも知らない。でも、僕らが吸血鬼症候群の症状を呈しているのだから、恐らくあの男も吸血鬼症候群患者ではあったのだろう、とリトさんは言っていた。
「ただいま」
チームの先輩から、ちょっとした用事を頼まれてこなし、ようやく帰宅をしたのだが、ミヤからの返事はなかった。今日、ミヤは何の予定もないと言っていたし、部屋にいると言っていたはずなのに、と思いながら、リビングにしている部屋に入る。奥から微かな物音がした。
リトさんに紹介されたこの部屋は、独居用のワンルームの部屋で、僕らはこの部屋を簡易のアコーディオンカーテンで仕切って使っている。玄関から入って手前のスペースをリビングに、カーテンで仕切った奥のスペースを寝室にして、疑似的に二部屋を作っていて、気配がしたのは、その、仕切っている奥のスペース、寝室の方からだった。
「ミヤ?」
突然、具合でも悪くなって休んでいるのかもしれない。そう思いながらカーテンを開けた僕は、思わず立ち尽くした。
――僕らの家の寝室のはずなのに、そこにはミヤとリトさんがいた。
こちらに来てから買った、ミヤの薄ピンクのスカートがしわくちゃに乱れて、太腿が露わになっていた。リトさんの服も、どことなく乱れていて、そしてふたりの距離感が異様に近い。
「悪い。邪魔してるよー」
もう帰るけど、とリトさんが薄く笑う。微妙な空気の中、先に動いたのはリトさんだった。平然と立ち上がり、己の衣服の乱れを直し、固まっている僕の横を抜けて、リトさんは玄関に向かう。
「お邪魔しましたー。またね、コウくん、ミヤちゃん」
振り返った僕と、その奥で布団の上に座ったままのミヤの方に向けて、リトさんがヒラヒラと手を振る。そうして彼は部屋を出て行った。
「…………」
何があったのか、なんて明白で、けれど聞いてはいけないような気がして、口を開く事ができなかった。
「……ただいま、ミヤ」
「っ、おかえり、なさい」
どうにか口を開いたが、強張った空気は部屋に満ちたままだった。僕は結局、何も問う事ができなかった。


