翌日の夜、駅で落ち合ったミヤは、大きなリュックサックひとつだけを担いだ姿だった。
「……行こうか」
「はい」
終電のひとつ前の電車。これで行ける街まで行って、その近くにあるホテルを取って、また夜になったら電車に乗る。ホテルは勿論、カウンターがあるような所ではなく、いわゆるラブホテルだった。そういう所なら、身分証明は必要がないらしいし、窓もないと聞いた。高校生の身分で、そういう大人の空間に入る事への罪悪感はあったけれど、今の僕らには大変、都合が良かった。
そうして僕らは東京を目指した。東京に着いてからは、夜でも賑やかな街を巡った。新宿だったり、渋谷だったり、とにかく人の多い所を。東京はラブホテルでもマンガ喫茶でもカラオケ店でも、日中の日差しを避けられる場所が多くあって助かった。僕は東京に来て良かった、とも思っていた。
「可愛いね、君、いくら?」
一週間近く夜の東京を彷徨った頃に、僕らは「彼ら」と出会った。そのきっかけは、夜の繁華街に溢れていた酔客のひとりに、ミヤが絡まれた事からだった。
「いや、あの、私は……」
僕は、困惑しきっているミヤと酔客の男の間に入ろうとしたのだが、それよりも先に割って入った声があった。
「おじさん、その子、素人だよぉ。困ってるし、止めてあげなぁー?」
酔客をあしらった金髪の青年は、耳にピアスがジャラジャラとついていて、明らかに軽薄そうな風体だった。その彼の視線が僕とミヤに向く。上から下まで、しっかりと分かるくらいに眺めまわして、彼は口を開いた。
「ワケあり? っていうか、仲間かもぉ?」
小首を傾げた彼は、ユニと名乗った。
「俺たち、一応ホラ、日陰者だからぁ。群れてないと生き残るの、厳しいんだよねぇ」
ついてこいと促され、恐る恐るユニさんについて歩く。大通りを逸れて、道は徐々に奥へ。人通りも減っていった。
「だから、情報交換とかするコミュニティがいくつかあんの。この辺だと、リトさんの所。そこで食料とか仕事とか「施設」の動向だとかの情報を交換して、協力して生きてくのが一番じゃないかな。リトさんの所は割とオープンだし」
「……今、連れて行ってくれるところは、その、リトさん、という人の所ですか?」
「うん、そう。もうちょっとヤンチャなグループもあるけど、そっちの方が良かったぁ? 一応、口利きくらいはできるよぉ?」
言われて思わず首を横に振る。彼は、知っている、とばかりに笑った。
「リトさんの所は、本名じゃなくて、あだ名で呼び合うし、本名の交換はあんまり良く思われてないからぁ。君らも自分の呼び名は考えておいた方が良いかもしれないよぉ」
「……「ユニさん」も、あだ名なんですか?」
「もちろんー。本名はフツーの名前だけどぉ」
でも、あんまり本名から離れちゃうと不便な時もあるから程々に、とユニさんは笑った。
その後もしばらく路地を進んでは折れて、折れては進んで。着いたのは、古そうなビルの裏手だった。
「ここから入るよぉ」
言って示されたのは、今にも壊れそうに見える小さなドアだった。ユニさんが当たり前のように開けて入って行ったので、慌てて後を追う。
中は少し薄暗く、古ぼけた蛍光灯の光で満たされた部屋だった。雑然と道具が積まれていて、その中央辺りに赤髪の男が椅子に座っていた。
「リトさーん。さっきそこでこの子たち拾ってぇ。多分、仲間だと思うんだけどぉ」
「あー……それっぽいね。君ら、歳は?」
緊張しながら、問われるままに年齢を答える。そのまま、僕らの出身と僕とミヤの関係性、それからここに至った経緯を聞かれて答えた。リトさんはそれを聞いて、眉根を寄せる。
「確かに同類っぽいけど、未成年かぁー。自立すんの、難しいねぇ」
その言葉に身構える。難しくとも、ここまでミヤを連れてきてしまった以上、やれる事は何でもしなければ、と覚悟を決めた僕の前で、リトさんは微笑んだ。
「でもまあ、絶対無理、って訳じゃないから。色々、教えてやるし。一緒に頑張ろうな」
奇抜な髪色も相まって、第一印象は近寄りがたい人、という風だったけれど、そうでもないのかもしれない、と僕は思った。
「仲間に紹介してやるし、当面の間の住む所とかも紹介してやるよ。ついてきな」
大都市では、吸血鬼症候群の患者が増えているらしい。そんな曖昧で頼りないインターネットの噂を信じてここまで来てみて、ユニさんやリトさんに出会えて良かった。
僕は素直にそう思って、安堵していた。
「……行こうか」
「はい」
終電のひとつ前の電車。これで行ける街まで行って、その近くにあるホテルを取って、また夜になったら電車に乗る。ホテルは勿論、カウンターがあるような所ではなく、いわゆるラブホテルだった。そういう所なら、身分証明は必要がないらしいし、窓もないと聞いた。高校生の身分で、そういう大人の空間に入る事への罪悪感はあったけれど、今の僕らには大変、都合が良かった。
そうして僕らは東京を目指した。東京に着いてからは、夜でも賑やかな街を巡った。新宿だったり、渋谷だったり、とにかく人の多い所を。東京はラブホテルでもマンガ喫茶でもカラオケ店でも、日中の日差しを避けられる場所が多くあって助かった。僕は東京に来て良かった、とも思っていた。
「可愛いね、君、いくら?」
一週間近く夜の東京を彷徨った頃に、僕らは「彼ら」と出会った。そのきっかけは、夜の繁華街に溢れていた酔客のひとりに、ミヤが絡まれた事からだった。
「いや、あの、私は……」
僕は、困惑しきっているミヤと酔客の男の間に入ろうとしたのだが、それよりも先に割って入った声があった。
「おじさん、その子、素人だよぉ。困ってるし、止めてあげなぁー?」
酔客をあしらった金髪の青年は、耳にピアスがジャラジャラとついていて、明らかに軽薄そうな風体だった。その彼の視線が僕とミヤに向く。上から下まで、しっかりと分かるくらいに眺めまわして、彼は口を開いた。
「ワケあり? っていうか、仲間かもぉ?」
小首を傾げた彼は、ユニと名乗った。
「俺たち、一応ホラ、日陰者だからぁ。群れてないと生き残るの、厳しいんだよねぇ」
ついてこいと促され、恐る恐るユニさんについて歩く。大通りを逸れて、道は徐々に奥へ。人通りも減っていった。
「だから、情報交換とかするコミュニティがいくつかあんの。この辺だと、リトさんの所。そこで食料とか仕事とか「施設」の動向だとかの情報を交換して、協力して生きてくのが一番じゃないかな。リトさんの所は割とオープンだし」
「……今、連れて行ってくれるところは、その、リトさん、という人の所ですか?」
「うん、そう。もうちょっとヤンチャなグループもあるけど、そっちの方が良かったぁ? 一応、口利きくらいはできるよぉ?」
言われて思わず首を横に振る。彼は、知っている、とばかりに笑った。
「リトさんの所は、本名じゃなくて、あだ名で呼び合うし、本名の交換はあんまり良く思われてないからぁ。君らも自分の呼び名は考えておいた方が良いかもしれないよぉ」
「……「ユニさん」も、あだ名なんですか?」
「もちろんー。本名はフツーの名前だけどぉ」
でも、あんまり本名から離れちゃうと不便な時もあるから程々に、とユニさんは笑った。
その後もしばらく路地を進んでは折れて、折れては進んで。着いたのは、古そうなビルの裏手だった。
「ここから入るよぉ」
言って示されたのは、今にも壊れそうに見える小さなドアだった。ユニさんが当たり前のように開けて入って行ったので、慌てて後を追う。
中は少し薄暗く、古ぼけた蛍光灯の光で満たされた部屋だった。雑然と道具が積まれていて、その中央辺りに赤髪の男が椅子に座っていた。
「リトさーん。さっきそこでこの子たち拾ってぇ。多分、仲間だと思うんだけどぉ」
「あー……それっぽいね。君ら、歳は?」
緊張しながら、問われるままに年齢を答える。そのまま、僕らの出身と僕とミヤの関係性、それからここに至った経緯を聞かれて答えた。リトさんはそれを聞いて、眉根を寄せる。
「確かに同類っぽいけど、未成年かぁー。自立すんの、難しいねぇ」
その言葉に身構える。難しくとも、ここまでミヤを連れてきてしまった以上、やれる事は何でもしなければ、と覚悟を決めた僕の前で、リトさんは微笑んだ。
「でもまあ、絶対無理、って訳じゃないから。色々、教えてやるし。一緒に頑張ろうな」
奇抜な髪色も相まって、第一印象は近寄りがたい人、という風だったけれど、そうでもないのかもしれない、と僕は思った。
「仲間に紹介してやるし、当面の間の住む所とかも紹介してやるよ。ついてきな」
大都市では、吸血鬼症候群の患者が増えているらしい。そんな曖昧で頼りないインターネットの噂を信じてここまで来てみて、ユニさんやリトさんに出会えて良かった。
僕は素直にそう思って、安堵していた。


