僕の名前は七瀬陽。大学一年生の十九歳。
身長百七十四センチ、体重六十四キロ。
誕生日は十一月十三日。好きな花はフクシア。生まれて初めて一人で育てた花だったから。
小さい頃から植物の美しさに惹かれ、将来は樹木医になりたい僕は、都市緑化や造園に関して学ぶことのできる千羽大学に進学した。
実家から最低でも二時間はかかる場所にあり、フィールドワークや課題の多さもあって毎日、実家から通い続けることは厳しいので、泣く泣く一人暮らしをすることになった。
そこで一番気がかりだったのは隣に住んでいた、あの子の存在。
僕の幼馴染で弟、そして——初恋の人。
初めて出会ったのは小学校三年生の春。
母親似の黒髪に大きな瞳を持つ君は、両親の足に隠れてやってきた。
「ごめんなさいね、なんとか連れ出せはしたんだけど人見知りが酷くて……ほら、挨拶しなさい!」
「やだ……こわいっ!」
母親の足元から弱々しい男の子の声が聞こえたので、興味半分で横から覗き込むと潤んだ瞳と目が合った。
「はじめまして、僕の名前は〝ななせよう〟って言います」
「ななせ、よう……よう? え⁉︎ お、おれと一緒!!」
突然、陰から飛び出した君は、春の匂いを纏っており、小さな体で抱きついてくると輝く瞳で見上げてきた。
「おれねっ、おれねっ! 葉っぱって書いてようって言うんだって!」
「葉っぱって、植物の葉っぱのこと?」
「うん!」
「僕はね、陽だまりのようだよ」
「陽だまり?」
「おひさまって言えばいいのかな……」
「それって太陽みたいにピカピカあったかいってことだろ!」
大きく開いた口から見えた歯は一部が欠けていて、まさしくおひさまのような明るい笑顔は一瞬で心を盗んでいった。
「葉くんは何歳?」
「えっと……七歳っ!」
「僕は八歳だよ」
「おにーちゃんだぁ……へへへ、おれね、おにーちゃん欲しかったんだぁっ」
「ぼ、僕は弟が欲しかったんだ」
「じゃあ今日からおれが陽の弟になる!」
「本当に⁉︎」
「うん! よろしくな、陽おにーちゃんっ」
その日を境に毎日一緒に登下校をし、晴れの日は公園で遊んだり、雨の日は家で植物図鑑を読んでは、花の特徴や花言葉について説明した。
僕と遊ぶのがつまらないと言った同級生も居たが、素直で真面目な君は一生懸命、僕の話を聞いてくれる。それが堪らなく嬉しかった。
けれど寂しがり屋な君は、いつも僕と離れる時に泣きそうな顔をする。
どうかいつまでも笑顔でいて欲しい。
その想いで君の隣に居続けた。
——いや、それはただの建前だ。
あの日、心という鉢植えに植えられた種に毎日水と栄養と光を与え、大事に育み続ける。そして花が咲いたら決して、他人が触れられないよう、透明なガラスケースに閉じ込める。
それが僕の一番の夢だから。
九年という長い年月を掛けてようやく蕾を付けた樹が開花する瞬間を、今度こそこの目で見届ける。
携帯電話のメッセージアプリには一件のメッセージ。
もうすぐ君が春を連れてやって来る——。
身長百七十四センチ、体重六十四キロ。
誕生日は十一月十三日。好きな花はフクシア。生まれて初めて一人で育てた花だったから。
小さい頃から植物の美しさに惹かれ、将来は樹木医になりたい僕は、都市緑化や造園に関して学ぶことのできる千羽大学に進学した。
実家から最低でも二時間はかかる場所にあり、フィールドワークや課題の多さもあって毎日、実家から通い続けることは厳しいので、泣く泣く一人暮らしをすることになった。
そこで一番気がかりだったのは隣に住んでいた、あの子の存在。
僕の幼馴染で弟、そして——初恋の人。
初めて出会ったのは小学校三年生の春。
母親似の黒髪に大きな瞳を持つ君は、両親の足に隠れてやってきた。
「ごめんなさいね、なんとか連れ出せはしたんだけど人見知りが酷くて……ほら、挨拶しなさい!」
「やだ……こわいっ!」
母親の足元から弱々しい男の子の声が聞こえたので、興味半分で横から覗き込むと潤んだ瞳と目が合った。
「はじめまして、僕の名前は〝ななせよう〟って言います」
「ななせ、よう……よう? え⁉︎ お、おれと一緒!!」
突然、陰から飛び出した君は、春の匂いを纏っており、小さな体で抱きついてくると輝く瞳で見上げてきた。
「おれねっ、おれねっ! 葉っぱって書いてようって言うんだって!」
「葉っぱって、植物の葉っぱのこと?」
「うん!」
「僕はね、陽だまりのようだよ」
「陽だまり?」
「おひさまって言えばいいのかな……」
「それって太陽みたいにピカピカあったかいってことだろ!」
大きく開いた口から見えた歯は一部が欠けていて、まさしくおひさまのような明るい笑顔は一瞬で心を盗んでいった。
「葉くんは何歳?」
「えっと……七歳っ!」
「僕は八歳だよ」
「おにーちゃんだぁ……へへへ、おれね、おにーちゃん欲しかったんだぁっ」
「ぼ、僕は弟が欲しかったんだ」
「じゃあ今日からおれが陽の弟になる!」
「本当に⁉︎」
「うん! よろしくな、陽おにーちゃんっ」
その日を境に毎日一緒に登下校をし、晴れの日は公園で遊んだり、雨の日は家で植物図鑑を読んでは、花の特徴や花言葉について説明した。
僕と遊ぶのがつまらないと言った同級生も居たが、素直で真面目な君は一生懸命、僕の話を聞いてくれる。それが堪らなく嬉しかった。
けれど寂しがり屋な君は、いつも僕と離れる時に泣きそうな顔をする。
どうかいつまでも笑顔でいて欲しい。
その想いで君の隣に居続けた。
——いや、それはただの建前だ。
あの日、心という鉢植えに植えられた種に毎日水と栄養と光を与え、大事に育み続ける。そして花が咲いたら決して、他人が触れられないよう、透明なガラスケースに閉じ込める。
それが僕の一番の夢だから。
九年という長い年月を掛けてようやく蕾を付けた樹が開花する瞬間を、今度こそこの目で見届ける。
携帯電話のメッセージアプリには一件のメッセージ。
もうすぐ君が春を連れてやって来る——。
