スキル無しゴトーさんは最弱のはずです!~勇者召喚に巻き込まれたモブサラリーマン、通勤装備が神器になっていたので自由に生きることにします~

 レベルをカンストしてしまったユキタカは、それからもしばらくの間は、高校生グループの勇者一行と共に、近衛騎士に守られながらダンジョンに潜らされていた。

 だが、カンスト後は何も変化がなく数日経ち、ひと月が経ち、そして、三か月が経った頃、ついにその日が訪れる事となった。


 これまでユキタカは、勇者一行と同じ待遇を受けてきた。

 ダンジョンに潜る際は、護衛や最高級品の鎧や武器、服や食べ物を用意されていたし、担当の責任者やメイドも付けてもらっていた。

 それ以外の時は、王宮に豪華な部屋を用意され、勇者一行同様の扱いは変わらずである。

 ユキタカを世話する人々の内心はわからなかったが、それでもなんとなく伝わってくるものはあった。

 それは、「こいつ、本当に役に立たない、ごく潰しではないか?」というものだ。

 だが、トールデイン王国は、巻き込まれ召喚されたユキタカが、何かとんでもないチートを獲得する可能性を疑って、ここまで酷い扱いはしていない。

 それもこれも、歴史の中で、国が短絡的に判断して追放した者が、チートに目覚めて復讐し、国が滅んだという伝承があったからである。

 だから、これまでの数か月、慎重にユキタカを扱っていたが、この日、遂に限界が来たようだった。

「ユキタカ殿。この数か月、貴殿にスキルが目覚める可能性について、王宮では全ての可能性を試してきた。だが、どうやら、本当に貴殿にはスキルが無いようだ。隠しスキルや、後天的に目覚めるスキルの可能性も専門家を集めて話し合い、検証を重ねてきたが、その可能性も全くない。こうなっては、こちらのわがままで貴殿をこの王宮に留めるのも申し訳が無い……。──そこでだ! スキルが無くても生きられるくらいには文化があり、差別も他所よりは少ない村が我が国の辺境にある。そこで貴殿にはのんびり過ごしてもらう方が幸せだろうと決定した。──いかがかな?」

 勇者召喚の責任者である王宮の重臣が、理由を付けて辺境地帯への追放を提案してきた。

 もちろん、表だって追放と言わないのは、万が一に備えての事だろう。

 だが、自分が不要な存在である事は、この一週間ほど、周囲の者達が醸し出す雰囲気で、どんなに鈍感な者でも察しざるを得ない状況だった。

 だから、雰囲気に耐えかねたユキタカが、喜んで飛びつきそうな提案内容だ。

 ユキタカは、サラリーマンとして働いていたからそのくらいの空気は察したし、頭も悪くはないから、相手の本当の狙いも多少は想像がつく。

 この一週間、周囲の者達はわざと居心地の悪い雰囲気を作り出していたのは、理解していた。

 あちらも、歴史や数多く残っている文献から学習していたので、こちらの性格を分析して段階を踏み、進んで辺境にいく決断をする状況を作っていたのだ。

 ユキタカには勇者一行同様、大金がかかっている。

 これ以上は多額の予算を割いて無能を養うつもりはないという判断もわかるから、ごく真っ当な決断だろう。

 しかし、ユキタカにとっては、スキル無しの無能者である自分が辺境に送られるという事は、死ねと言われているようなものだった。

 ダンジョンで魔物を相手にレベル上げした時にそれを実感したのだ。

 スキル持ちの高校生グループは最初こそ、近衛騎士に守られていたが、すぐに能力を発揮して見よう見まねで魔物達を討伐していった。

 一方、ユキタカはスキルによる補正は皆無、そして、武術の経験が無い素人だったから、役に立つどころか魔物の良い的になって、狙われる始末だった。

 つまり、魔物が多い辺境に行けば、真っ先に弱い自分は狙われる可能性が高い。

 それを考えると、辺境でゆっくりスローライフとはいかず、あっという間に死ぬ可能性が高い。

「……終わった」

 ユキタカは、小さくそうつぶやくと、溜息を吐く。

 国が中心になって意図的に作り上げた居たたまれない雰囲気の中、駄々を捏ねて居座る事が出来ない事も事実である。

「はい?」

 死刑宣告をした重臣が、ユキタカの言葉を聞き取れず聞き返した。

「いえ、なんでもありません……。──わかりました。その辺境の村へ行く事に同意します……」

 ユキタカは半ばやけっぱちになりながら、重臣の打診を承諾した。

「おお、そうですか! お陰でこちらも肩の荷がおりました。──ご安心ください。当面の生活費は旅立つ前に用意は致しますし、こちらに来た時に身に着けていた物は全て返却いたします。まあ、こちらから貸し与えていた物は返却してもらう事になりますが……」

 重臣はそう告げるとメイドを呼び、召還時に身に着けていたサラリーマン装備一式を持ってこさせる。

「それでは、善は急げと申します。旅立ちは三日後と致しましょうか。それまでに準備をなされませ」

 重臣は、あとはメイドに任せて自分は嬉しそうに去っていくのだった。


「スーツ一式に革靴、ビジネスリュックや鞄に傘、スマホ……。コンビニの袋もご丁寧に保存してあったのかよ……。あ、でも、中身は無いのか。まあ、数か月経っているから、食べ物は腐っていて当然か……」

 ユキタカは自分の荷物を一つ一つ確認した。

 この時点でユキタカは段々と腹が立ってきていた。

 今着ている高価な服や、ダンジョンで使用した貴重な装備品一式は全て返却なのだから、文字通り、それらが自分には必要が無いものと決定したという事だからだ。

「もし、この後、僕が万が一、チートスキルに目覚めても、この国の為には働かないぞ! ……まあ、数か月間いろんな検証をして、様子を見てくれたのはありがたいのだけど……。いや、巻き込まれ召喚の時点で僕は被害者だった! ──危ない……、相手を正当化するところだった……」

 ユキタカは追放を前に、情緒が少しおかしくなるのであったが、その言葉も内心に収める。

 メイドが傍にいて、着替えを待っているからだ。

 ユキタカは着心地に慣れていた高級な服を脱ぎ、黙って元のスーツ姿に戻るのだった。


 メイドは、ユキタカに与えられていた全ての物を回収すると、すぐに出ていく。

 辺境への異動が決まった今、ユキタカへの気遣いも無くなっていた。

「はぁ……。三日後か……」

 ユキタカは、スーツ姿の時の癖だろうか。

 懐に入れてある眼鏡ケースから眼鏡を取り出して、かけた。

 すでに、召喚時点で視力は良くなっていたので当然視界がぼやけて見える。

 そこで目が良くなった事を再度思い出した。

「あ……、視力は良くなっているんだった……」

 体に染みついた動作は数か月経っても覚えているものなんだな、とユキタカは苦笑する。

 そして、眼鏡を外そうとした時、机の上に置いてある高そうなカップが視界に入った。

「これを密かに城下のお店で売ってお金にすれば、少しは足しになるかな?」

 卑しい気持ちが湧く。

 その時である。

 カップの横に、文字が浮かび上がっているではないか。

「あれ? 何々……、タカソン工房製の高級カップ、銀貨五枚相当? って、……え!?」

 ユキタカは驚くと、ぼやける視界の原因である眼鏡を外して、もう一度、カップを見なおした。

 だが、先程と違い、視界には何も映らない。

「?」

 ユキタカは首を傾げると、改めて眼鏡をかけ直した。

 そして、その眼鏡越しにカップを改めて確認すると、先程と同じ文字が表示されているではないか。

「……これって……、まさか……。──もしかすると、これが僕のスキル!?」

 ユキタカは眼鏡越しになら鑑定が可能らしい事に気づき、希望を見出すのだった。