スキル無しゴトーさんは最弱のはずです!~勇者召喚に巻き込まれたモブサラリーマン、通勤装備が神器になっていたので自由に生きることにします~

 ユキタカと女冒険者のイリスは、巣穴で一泊する事になった。

 当然悪臭がするので、巣穴内にあった骨や死肉の類は、全てユキタカの手提げ鞄の魔法収納で回収する。

 臭いの元がなくなった事で、かなり改善されたが、それでも巣穴自体にこびりついた臭いは消えない。

 ユキタカはマスクをしていたので全く気にならなかったから、三枚あるマスクの一つをイリスに貸す事にした。

 イリスはユキタカが装着していたので、それだけで不思議そうにしていたが、使用する事にした。

「確かに少し、臭いがなくなりましたが、そこまでは……」

「え? そうですか? ──おかしいな……。《《貸したら》》駄目なんだろうか?」

 ユキタカはイリスからマスクを受け取ると、その性能を確認する。

 自分が使用したら、全く臭いがしない。

「性能は確かなんだけど……。それじゃあ……、このマスク、イリスさんに差し上げます! ──これでどうかな?」

 ユキタカは今となっては貴重なマスクを、イリスに再度手渡した。

「……えっ? 全然、臭くない! これ、かなり凄いですよ!? ゴトーさんの持ち物って高位の魔導具……、もしくは、噂に聞く神器の類なのではないですか?」

 イリスは再度装着すると今度は、効果を発揮している事に驚く。

 そして、とんでもない可能性を口にした。

「神器?」

「わかりやすいところだと、伝説級の武器である聖剣とか聖槍の類をまとめてこの世界では神器と呼んでいるんです。私はさすがに見た事がありませんが、ゴトーさんの手にしているその『傘』という武器も、神器なのかもしれませんよ?」

 イリスは傘を見るのが初めてなので、槍のような性能の武器だと解釈していた。

 まさか、それが雨をしのぐ為のもので、本来、強風で折れる事もある脆いものだとは想像しないだろう。

「これが、神器……ですか? ピンとこないけど……」

 ユキタカはお気に入りの傘をまじまじと見つめる。

 そして、そこでようやく、自分の持ち物はどれもこれもおかしい性能をしているかもしれない事に薄々気づき始めた。

 無双する傘と魔法収納が付いている手提げ鞄はもちろんの事、リュックに入れていた水筒もイリスと二人で中身を大分消費したはずだが、一向に減った様子が無いからだ。

 常に冷えた新鮮な水が、小さい水筒から出てくる。

(これも、神器なのかな?)

 ユキタカは首を傾げた。

 自身にスキルはなく無能者なのは事実だが、どういうわけか、持ち物はとんでもない能力を秘めた『神器』になってしまったのかもしれない、と。

 ユキタカは前向きに考えると一気に心強く感じた。

 しかし、すぐに、ある事に気づいた。

 それは、『神器』を身に付けていない時に狙われたら一巻の終わりという事にだ。

 さらに、聖剣などと同じ『神器』なら、誰もが欲しがる事になる。

 自分を殺して『神器』を得ようとする者はいくらでも現れるだろう。

 それを考えるとゾッとした。

 もしかしたら、目の前のイリスも、『神器』と知った事で、僕の寝首をかいて手に入れようとするかもしれない。

「ゴトーさん、この事は秘密にしてください。ゴトーさんの世界ではどうかわかりませんが、こちらの世界でゴトーさんの持ち物が『神器』かもしれないと知られたら、欲しがる人が必ず現れます。それこそ、あらゆる手段を使って入手しようとする人がいるはずです。ですから、誰にも言ってはいけませんよ?」

 イリスは真剣な表情で、ユキタカの目を見つめる。

 その目に、誠実さを感じたユキタカは、少しでも疑った事を恥じた。

「イリスさん、ありがとうございます。実は僕も同じ事を考えて、あなたを警戒するところでした。誠実なあなたを疑うなんて……」

 ユキタカは苦笑する。

「え?」

 イリスはポカンとした顔をする。

 ユキタカを騙して悪用する気は全くなかったから、ユキタカの言葉の意味を理解するのに時間がかかった。

「私、自分の事を何も考えずに除外していました……。そうですね、このマスクはお返しします。私が悪用したら、ゴトーさんの身にも危険が及ぶかもしれないですから」

 イリスは灯台下暗しとばかりに反省すると、マスクをユキタカに返そうとした。

 この誠実さにユキタカは苦笑する。

 お人好しで誠実な人柄、こんな人に裏切られる者がいるとしたら、それはこの人に不誠実な人間だけだろう、と。

「いえ、イリスさんの事を信用します。このマスクはその証だと思ってください」

「ゴトーさん……。わかりました。その信用に応えられるように努力します!」

 イリスは満面の笑顔を見せた。

 ユキタカは、そんな純粋な笑顔に胸を射止められる思いだったが、イリスはイリスで、仲間の裏切りで人間不信になっている身であったのを思い出し、それ以上は何も言わないのだった。


 二人は、巣穴で一晩を過ごした。

 イリスは冒険者だから服装も問題ないから野宿できるが、ユキタカはスーツ姿だ。

 だから野宿では疲れもさほど取れないだろうと思っていたが、朝、目が覚めると疲れも取れて目覚めも良かった。

「スーツ自体も何かしらの能力があるのかもしれない……」

 ユキタカは、上着を脱いでしげしげと見つめる。

 よく見ると、しわ一つないし、汚れもない。

 この臭い巣穴に一晩いても無臭だ。

「ゴトーさん、どうしました?」

 イリスがその様子が見ておかしかったのか、くすっと笑う。

「あ、何でもないです!」

 ユキタカは気恥ずかしい笑みを浮かべると、上着を着直すのだった。