午後の授業が始まっても、怜太の頭の中はさっきのことでいっぱいだった。口をついて出た言葉が何度も脳裏をよぎる。
松下に悪気がなかったことは、怜太も重々承知している。頭では理解していながら、それでも止められなかったことを悔やむ。
だが、時すでに遅し。教師の声はまるで未知の言語のように聞こえ、怜太の頭には何一つ入ってこない。ノートを開いてはいるものの、白紙のままだった。
そんな怜太の机に、隣から小さく折り畳まれた紙がスッと滑ってきた。
怜太は怪訝そうに紙を拾い上げると、ウインクをした千家と目が合った。
訳も分からないまま紙を開くと、そこには特徴的な丸い文字でこう記されていた。
『放課後、図書準備室に来てください』
思わず声が漏れそうになり、怜太は慌てて口を閉じた。見間違いという万に一つの可能性に賭けてもう一度手紙を開く。
放課後、図書準備室に来てください。
見間違いでないことは確定したが、それ以上に謎が残った。
横目を向けると、千家は頬を赤くしながら顔を背けている。その様子を見て怜太はすべてを察した。
――これ、告白じゃねえか。
胸が妙にざわつく。まさか千家に好意を持たれているとは夢にも思わなかった。
最悪なのはタイミングで、怜太は放課後までの残りの時間すべてを、断りの文言を考えるのに費やした。
終礼が終わると、怜太はすぐに千家へ声をかけようとした。
「あのさ――」
しかし千家の姿はもう教室になかった。
本人がいないのでは仕方がない。怜太は松葉杖を手に取ると、重い足取りで教室を出た。
放課後の図書室には、何人かの生徒が残っていた。本を読んでいる者もいれば、机に向かって勉強している者もいる。松葉杖が珍しいのか、何人かの視線が怜太へ向けられた。
だが、嫌な視線ではなかったので、怜太は気にせず歩いていく。歴史書のコーナーを通り過ぎて、図書準備室の前に立った。
建て付けの悪い扉を開けると、紙と古い本が混ざった、図書室よりも一段濃い匂いが鼻腔をついた。
図書準備室には、普段生徒が目にすることのない本や資料が所狭しと並んでいる。壁際の棚には古びた図鑑や資料集が詰め込まれ、段ボール箱もいくつか積まれていた。部屋の中央には作業用の大きな机があり、その上には整理途中の資料が山積みになっている。
その机の向こうに、千家が立っていた。いつもの飄々とした様子とは違い、両手を胸の前で組んでいる。
「怜太君、来てくれてありがとう」
「あー、うん……」
怜太は困ったように笑った。やっぱり告白だ。どう切り出そうか考えていると、千家が口を開いた。
「わかってるよ」
「……え?」
「わかってるから」
怜太は眉をひそめた。
「な、なんのことだ?」
千家は少しだけ首を傾げ、それから髪の毛を耳にかけた。そして、いたずらっぽく微笑む。
「ディベート。やりたいんでしょ」
松下に悪気がなかったことは、怜太も重々承知している。頭では理解していながら、それでも止められなかったことを悔やむ。
だが、時すでに遅し。教師の声はまるで未知の言語のように聞こえ、怜太の頭には何一つ入ってこない。ノートを開いてはいるものの、白紙のままだった。
そんな怜太の机に、隣から小さく折り畳まれた紙がスッと滑ってきた。
怜太は怪訝そうに紙を拾い上げると、ウインクをした千家と目が合った。
訳も分からないまま紙を開くと、そこには特徴的な丸い文字でこう記されていた。
『放課後、図書準備室に来てください』
思わず声が漏れそうになり、怜太は慌てて口を閉じた。見間違いという万に一つの可能性に賭けてもう一度手紙を開く。
放課後、図書準備室に来てください。
見間違いでないことは確定したが、それ以上に謎が残った。
横目を向けると、千家は頬を赤くしながら顔を背けている。その様子を見て怜太はすべてを察した。
――これ、告白じゃねえか。
胸が妙にざわつく。まさか千家に好意を持たれているとは夢にも思わなかった。
最悪なのはタイミングで、怜太は放課後までの残りの時間すべてを、断りの文言を考えるのに費やした。
終礼が終わると、怜太はすぐに千家へ声をかけようとした。
「あのさ――」
しかし千家の姿はもう教室になかった。
本人がいないのでは仕方がない。怜太は松葉杖を手に取ると、重い足取りで教室を出た。
放課後の図書室には、何人かの生徒が残っていた。本を読んでいる者もいれば、机に向かって勉強している者もいる。松葉杖が珍しいのか、何人かの視線が怜太へ向けられた。
だが、嫌な視線ではなかったので、怜太は気にせず歩いていく。歴史書のコーナーを通り過ぎて、図書準備室の前に立った。
建て付けの悪い扉を開けると、紙と古い本が混ざった、図書室よりも一段濃い匂いが鼻腔をついた。
図書準備室には、普段生徒が目にすることのない本や資料が所狭しと並んでいる。壁際の棚には古びた図鑑や資料集が詰め込まれ、段ボール箱もいくつか積まれていた。部屋の中央には作業用の大きな机があり、その上には整理途中の資料が山積みになっている。
その机の向こうに、千家が立っていた。いつもの飄々とした様子とは違い、両手を胸の前で組んでいる。
「怜太君、来てくれてありがとう」
「あー、うん……」
怜太は困ったように笑った。やっぱり告白だ。どう切り出そうか考えていると、千家が口を開いた。
「わかってるよ」
「……え?」
「わかってるから」
怜太は眉をひそめた。
「な、なんのことだ?」
千家は少しだけ首を傾げ、それから髪の毛を耳にかけた。そして、いたずらっぽく微笑む。
「ディベート。やりたいんでしょ」
