レイトブルーマー

 文化祭が終わると、学校の空気は目に見えて変わった。
 つい先日まで校内を埋め尽くしていた飾りつけは片づけられ、廊下にはいつもの静けさが戻っている。窓の外では木々の葉が少しずつ色を変え始め、夏の名残を感じさせていた空気も、朝夕にははっきりと冷たさを帯びるようになっていた。

 制服も冬服へと切り替わった。黒や紺の制服に身を包んだ生徒たちが、教科書や参考書を抱えて廊下を行き交う。文化祭で大騒ぎしていた数日前とは、まるで別の学校のようだった。

 特に三年生の変化は大きい。
 教室の机には参考書や問題集が積み上げられ、休み時間にも単語帳を開く姿が珍しくなくなった。
 バカ騒ぎをする光景が減ったのは、少し寂しくもあった。
 これまでなら、文化祭が終われば次のイベントを楽しみにしていたはずなのに、今度はその先にある受験という長い冬を見据えている。
 子どもから大人へ。
 三年生たちは、少しずつその境目を越えようとしていた。

 怜太や千家も例外ではない。
 二人は文化祭を最後に、ディベート部を引退した。
 部長に就任したのはもちろんくるみ。
 廃部を危ぶまれていたディベート部にも、文化祭を境に大きな変化が起きていた。
 怜太と千家の幻の三試合目を目の当たりにした一年生たちが、一気に五人も入部してきたのだ。
 部員が増えたことで、ディベート同好会から正式にディベート部として活動することになった。
 くるみは、以前とは比べものにならないほど賑やかになった図書準備室で、後輩たちをまとめている。

 千家も、ときどきそこへ顔を出した。
 卒業まで残された時間は少ない。それでも、少しでも自分の知っていることを後輩たちに伝えようと、ディベートの考え方や試合の進め方を教えていた。
 本格的な指導を始めたばかりで卒業してしまうことを、千家は心底悔やんでいた。
 もっと早く部員が増えていれば。
 もっと早く、こんな環境を作れていれば。
 そんな思いを抱えながら、それでも後輩たちの前では笑っていた。

 一方、怜太は引退してから一度も図書準備室を訪れていない。
 別に顔を出すのが気恥ずかしいわけではなかった。単純に、自分のことで手いっぱいなのだ。
 文化祭が終わった瞬間から、怜太にも受験という現実が容赦なく押し寄せてきた。
 これまでディベートやバスケに使っていた時間を、今度は勉強に充てなければならない。
 机の上に並ぶのは、ディベートの資料でもバスケットボールでもない。参考書と問題集ばかりだ。
 疎かにしていた勉強の遅れを取り戻すため、怜太は毎日のように参考書と向き合っている。
 分からない問題にぶつかれば、解説を読み、もう一度解く。それでも分からなければ、さらに調べる。
 一見するとディベートのようだが、やっていることはまるで違う。

 それでも、手を止めることはなかった。
 ――俺たちは大器晩成だから。
 文化祭の最後に、自分自身へ言い聞かせた言葉。
 怜太はその言葉を胸に刻み、まだ見えない未来へ向かって、ただひたすら努力を続けていた。