レイトブルーマー

 そこへ、マイクを手にした大蔵が出てくる。
「鳴りやまない拍手。それほどディベートが素晴らしかったということでしょう!」
 大蔵は大仰な仕草で観客を煽った。
「これだけ盛り上がったんなら、もう一試合くらい見たくありませんか?」
 観客席が沸いた。
「おまっ、何勝手なこと言ってんだよ」
 怜太が食ってかかると、大蔵はマイクを口元から外し、三人にだけ聞こえる声で告げた。
「頼むって。演劇部が準備に時間かかってるんだ。俺とお前の仲だろ?」
「無茶言うな。ディベートは事前準備がいるんだよ」

「私はいいよ」
「ち、千穂先輩!?」
 あっさりと応じた千家に、くるみが目を丸くする。
「準備を必要としない論題にすればいい。怜太君は負けっぱなしでいいの?」
「それは……」
「試合直後の悔しそうな顔、リベンジさせろって言ってるように見えたけど」
 千家の予想は当たっていた。
 ただ、あまりにも早くその機会が訪れたため、怜太は戸惑っていた。
「やろうよ。こんな経験、もう二度とできないからさ」
 怜太の脳裏に、神保東を相手に最後まで諦めず戦い続けた松下の姿がよぎった。

「わかった。これに勝った方が一億点な」
 千家は、ふっと笑った。
「ということで、くるみちゃん。もう一試合進行お願いしていい?」
「も、もちろんです!」
 くるみは慌てて準備に向かおうとしたが、ふと足を止めた。
「論題はどうするんですか?」
「どうしてもやりたいのがあったんだ」
 千家は大蔵からマイクを受け取った。

「熱い拍手、ありがとうございます。どうか、もう一試合だけお付き合いください」
 千家は、ディベートには入念な準備が必要であることを観客に説明する。
「この特別試合は、事前準備一切なし。パッションで殴り合います!」
 体育館にどよめきが起こった。
 それがざわめきへと変わり、やがて歓声へと膨らんでいく。
 そして最後には、会場全体を熱狂が包み込んだ。

「論題は──早生まれは損なのか」