レイトブルーマー

「私服を認めるべき理由として個性の表現とありましたが、髪型やたたずまいなどで個性は表現できるのではないでしょうか」
 そう言うと千家は、自分の黒髪に手を添えた。前髪を整えたり、髪を耳にかけたりと、わざと大げさに髪型を変えてみせる。
 客席から思わず笑いが漏れた。
 ただ質問するだけではない。自分の言葉を観客に印象づけて、笑いまで生み出してみせる。
 緊張と緩和──千家は場の空気を自分の手の内に収める術を知っている。

「アンケートを行った結果、賛成多数で私服登校が認められたという、明修高校の例が紹介されました。これは二年前の出来事です」
 千家は淡々と次の質問へ移っていく。
 怜太は黙って千家を見つめていた。
 どんな手札を持ってる。
 次は何を仕掛けてくる。
 そんな警戒心が頭から離れない。
「明修高校の三年生に電話で話を聞いたところ、当初は私服でお洒落を楽しむ生徒が多かったが、現在はほとんどが制服を着ているそうです」

 明修高校の事例を出したのは怜太自身だった。私服登校を認めた学校の実例として、実際にそこで過ごす生徒の声まで持ち出した。それが説得力につながると考えていた。
 ネットや図書館で資料を探すことしか経験してこなかった怜太にとって、電話取材という方法は盲点だった。
 怜太の主張を否定するためだけではない。
 怜太が用意した根拠そのものを利用し、反対側から突き返してきたのだ。
 直接取材をする行動力。
 相手の立論から使える材料を見つけ出す判断力。
 そして、それを観客にも伝わる形に変える話術。
 怜太が立論で掲げた「現場の声」という材料を、千家はさらに一歩踏み込んだ形で利用してみせた。
 自分が用意した武器を、そのまま奪われたような感覚だった。

 会場を完全に掌握した千家を前に、怜太のノートには、それを上回る反駁の材料が残されていなかった。
 あがくように言葉を重ねるが、観客の心を動かすまでには至らない。
「投票結果は、私服での登校を認めない。否定側の勝利です」
 くるみが結果を告げると、割れんばかりの拍手が体育館を包んだ。
 千家は満面の笑みでそれに応える。一方の怜太は悔しさを隠せずにいた。
「いやー、楽しんでもらえてよかったね」
「ああ……」
「ほら、笑顔。二人ともちゃんと手を振って」
 くるみは緊張しながら手を振り、怜太は力なく手を振った。