レイトブルーマー

 舞台上には、ディベート部の三人と文化祭実行委員の大蔵の姿があった。
 これから始まるディベートに備えて、最後の準備が進められている。
 中央には演台が置かれ、その両脇には長机が一台ずつ並べられていた。

 舞台幕の向こうからは、客席のざわめきが絶えず聞こえてくる。誰かが友達と話す声、プログラムをめくる音、椅子を動かす音。まだ本番は始まっていないというのに、舞台の上にいるだけで観客の存在を意識させられ、否が応でも緊張が高まっていく。
 その影響を最も受けていたのが、トップバッターを務めるくるみだった。
 くるみは頭を抱えながら、舞台の上を右往左往している。
 緊張をほぐそうと千家がくるみを立ち止まらせて肩を揉む。
「大丈夫。くるみちゃんなら絶対にやれるから」
「ち、ち、違うんです。大変なことになりました!」
 今にも泣きだしそうなくるみを見て、怜太も駆け寄ってきた。
「おいおい、何の騒ぎだ?」
「ディベートをしてくれるはずの方がこられなくなったみたいで」
 それを聞いた千家の表情が曇る。

 今回のディベートは観客参加型ということもあり、事故が起きないよう、あらかじめ参加者を募り、事前に打ち合わせまで行っていた。
 ところが本番直前になって、その参加者が来られなくなったらしい。

「急な用事らしくて……ぜ、絶対に嘘ですよ。わたしたちを困らせようとして──」
 パニック状態のくるみの手を、千家がそっと掴んだ。
「それは違うよ。急な用事は誰にでもある。責めるのは止めて一緒に解決策を考えよう」
 諭すような千家の言葉に、くるみは目に涙を浮かべてうなずいた。
 くるみが前を向いてくれたのはいいが、根本的な問題の解決には至っていない。

「どうする……って言っても一つしかないか」
 状況を整理すれば、答えはすぐに出る。
 くるみが選手、千家が進行を担当する以上、怜太が対戦相手を務めるしかない。
「参加型のライブ感が盛り上がりの起爆剤になると思ったんだけど、こうなった以上は仕方ないね」
 大蔵に変更を伝えようとしていた千家が、何かを思いついてハッとした。
 ディベートの準備に取りかかろうとしていた怜太とくるみを、千家が呼び止める。
「私にいい案がある」
 ディベート部に追い風が吹いた。