レイトブルーマー

 星華高校の正門は、文化祭仕様の派手なデコレーションで彩られていた。今年のテーマは『それぞれの正解』。金木犀の甘い香りが風に乗って漂い、校門をくぐるだけで普段の学校とは別の場所へ足を踏み入れたような気分になる。

 二日間にわたる文化祭の初日は合唱やブラスバンドの演奏などで大いに盛り上がり、最高の形で二日目へとバトンが渡されていた。
 昇降口から渡り廊下まで全てが文化祭一色となった校内からは、星華高校の生徒たちの意地が窺える。中庭では模擬店の準備に追われる生徒たちが行き交っていた。

 怜太と千家のクラスでは焼きそばを販売している。もちろん店で出てくるような本格的なものではない。それでも鉄板から立ち上る香ばしい匂いと文化祭という特別な雰囲気が合わされば、普段食べる焼きそばより二割増しで美味しく感じられる。
 もっとも、今日は二人とも模擬店には入らない。午後にディベートを控えているため、そちらに集中することになっていた。
 怜太は初日に焼きそば作りで腕を振りすぎたせいか、朝からわずかに筋肉痛を感じていた。まさか文化祭で筋肉痛になるとは思わなかったが、今さら気にしても仕方がない。

 午前中の体育館では、文科系の部活動による発表や映画研究部による映画上映が行われていた。
 怜太は後方の席に腰を下ろし、ステージを眺めながら時間を過ごす。ときどき席を抜けて図書準備室へ向かったり、校内をぶらついて文化祭を見て回ったりしながら、午後の出番を待っていた。

 そして午前中最後の演目だった、映画研究部による『サメ、時々オレ』の上映が終わる。
 カーテンが開かれると、それまで真っ暗だった体育館に一気に太陽の光が差し込んだ。
 厚い雲に覆われていたはずの空も、いつの間にか晴れ渡っている。午前中の空模様が嘘のような青空だった。

 怜太が弁当を取りに戻るために教室へ歩いていると、中庭で書道部がパフォーマンスを行っていた。
 音楽に合わせて踊りながら、巨大な筆を自在に操り、次々と文字を書き上げていく。
 保護者や在校生も足を止め、何が描かれていくのか興味津々の様子で見守っていた。
 やがて一枚の巨大な紙が完成し、ゆっくりと立てられる。
 その瞬間、中庭は拍手とスマートフォンのシャッター音で埋め尽くされた。
 書道部員たちの顔には、清々しい達成感が滲んでいる。それだけでこのパフォーマンスが成功したことは十分に伝わってきた。
 怜太はその光景を眺めながら、自分も数時間後にはあんな顔になれるだろうかと考えた。
 体育館の中央に立ち、大勢の観客を前にしてディベートをする。
 楽しみな気持ちがないわけではない。けれど、全てが初めてのことで、胸の奥では小さな不安が渦巻いていた。