千家の部屋を一言で表すなら、宝箱をひっくり返したようだった。
机の上には読みかけの本やノート、調べものに使った資料が重なり、床にもファイルや筆記用具があちこちに散らばっている。壁際には昔から集めてきたらしい小物が並び、片づいているのか散らかっているのかさえ判然としない。
それでも千家本人にとっては、どこに何があるのか把握できているらしく、必要なものには迷いなく手を伸ばしていた。
その机に向かい、千家はスマホを耳に当てている。
「お忙しいところありがとうございました。失礼します」
通話を終えると、すぐにスマホが震えた。
画面に表示された名前は『むーちゃん』だった。
「もしもし、むーちゃん。どしたのー」
『ひさしぶり千穂。元気してた?』
「もっちろん、有り余ってるよ。そっちこそ大学はどう?」
『楽しくやってるよ。春斗とごっちんと梓も相変わらず』
懐かしい名前を聞いた瞬間、千家の脳裏にかつてディベート部の仲間たちと過ごした日々が浮かんだ。
千家は通話を続けたままベッドに寝転んで、たぬきのぬいぐるみを抱き寄せる。
『文化祭行くからね。ディベートやるんでしょ?』
「文化祭ナイズされた簡易的なやつだけどね。今、資料集めてたところ」
千家の腕の中で、たぬきがぐにぐにと形を変える。
『千穂』
「はいよ」
『あのさ……』
むーちゃんの声が、そこで途切れた。
何を言おうとしているのか察した千家は、先回りして口を挟んだ。
「ちょっと待ってむーちゃん。謝ろうとしてない?」
返答はない。
その沈黙が、千家にとっては答えと同じだった。
「謝るのはもう止めにしようって言ったよね。私は何も後悔してないし、むーちゃんが気負うこともないの。むしろ感謝してるくらいだから」
『え──』
「ディベート部に誘ってくれたのはむーちゃんだからね。私はディベートを通じて、言葉の大切さを知ったの」
千家は、かつて拳に頼った。
暴力事件を起こして停学になり、学校に嫌気が差して引きこもった末、留年も経験した。
けれどディベート部で過ごした時間は、千家に別の力を与えてくれた。
相手をねじ伏せるために振るう拳ではなく、言葉によって自分の考えを伝え、相手の言葉に耳を傾ける力。
電話の向こうから、小さく息を呑む気配が伝わってくる。
『ありがとう。みんなで見に行くね』
千家は短く返事をして、通話を終えた。
スマホをベッドの上に置くと、天井のお手製プラネタリウムを眺める。明るい部屋の中で、星々が薄っすらと輝いている。
「部長としてカッコイイところを見せないとね」
千家は両手で頬を叩いて気持ちを切り替えると、資料集めを再開した。
机の上には読みかけの本やノート、調べものに使った資料が重なり、床にもファイルや筆記用具があちこちに散らばっている。壁際には昔から集めてきたらしい小物が並び、片づいているのか散らかっているのかさえ判然としない。
それでも千家本人にとっては、どこに何があるのか把握できているらしく、必要なものには迷いなく手を伸ばしていた。
その机に向かい、千家はスマホを耳に当てている。
「お忙しいところありがとうございました。失礼します」
通話を終えると、すぐにスマホが震えた。
画面に表示された名前は『むーちゃん』だった。
「もしもし、むーちゃん。どしたのー」
『ひさしぶり千穂。元気してた?』
「もっちろん、有り余ってるよ。そっちこそ大学はどう?」
『楽しくやってるよ。春斗とごっちんと梓も相変わらず』
懐かしい名前を聞いた瞬間、千家の脳裏にかつてディベート部の仲間たちと過ごした日々が浮かんだ。
千家は通話を続けたままベッドに寝転んで、たぬきのぬいぐるみを抱き寄せる。
『文化祭行くからね。ディベートやるんでしょ?』
「文化祭ナイズされた簡易的なやつだけどね。今、資料集めてたところ」
千家の腕の中で、たぬきがぐにぐにと形を変える。
『千穂』
「はいよ」
『あのさ……』
むーちゃんの声が、そこで途切れた。
何を言おうとしているのか察した千家は、先回りして口を挟んだ。
「ちょっと待ってむーちゃん。謝ろうとしてない?」
返答はない。
その沈黙が、千家にとっては答えと同じだった。
「謝るのはもう止めにしようって言ったよね。私は何も後悔してないし、むーちゃんが気負うこともないの。むしろ感謝してるくらいだから」
『え──』
「ディベート部に誘ってくれたのはむーちゃんだからね。私はディベートを通じて、言葉の大切さを知ったの」
千家は、かつて拳に頼った。
暴力事件を起こして停学になり、学校に嫌気が差して引きこもった末、留年も経験した。
けれどディベート部で過ごした時間は、千家に別の力を与えてくれた。
相手をねじ伏せるために振るう拳ではなく、言葉によって自分の考えを伝え、相手の言葉に耳を傾ける力。
電話の向こうから、小さく息を呑む気配が伝わってくる。
『ありがとう。みんなで見に行くね』
千家は短く返事をして、通話を終えた。
スマホをベッドの上に置くと、天井のお手製プラネタリウムを眺める。明るい部屋の中で、星々が薄っすらと輝いている。
「部長としてカッコイイところを見せないとね」
千家は両手で頬を叩いて気持ちを切り替えると、資料集めを再開した。
