新学期が始まった。
夏休み明けの教室は、久しぶりに顔を合わせた生徒たちの話し声でにぎわっている。
日焼けした肌を見せる生徒もいれば、部活動を引退して髪を伸ばし始めた野球部員の姿もある。それぞれが夏休みの出来事を語り合い、教室のあちこちで楽しそうな会話が弾んでいた。
そんな喧騒の中、怜太は自分の席で、特に何をするでもなくぼんやりしていた。
「おっはよー!」
快活な声が響いた。
千家が軽やかな足取りで教室へ入ってくる。周囲に笑顔を振りまきながら自分の席へ向かう中、怜太の姿を見つけて足を止めた。
「お、怜太君! 元気にしてた?」
怜太は千家の姿を見て、すぐに気づいた。髪が短くなっている。
けれど、それを口にするのはなぜか気恥ずかしくて、あえて触れなかった。
「ぼちぼちだな。夏期講習はどうだった?」
「まあ、ぼちぼちかな」
互いに似たような返事をしたことがおかしくて、怜太はくすりと笑った。
「そういえば全然送ってこなかったね」
「ああ……」
夏休みの間、怜太もくるみも文化祭で扱う論題をいくつか考えていた。
しかし、千家は夏期講習に通っている。話し合った結果、千家の邪魔をしないでおこうという結論になり、結局グループメッセージを送ることはしなかった。
「夏休みにあったおもしろニュース聞かせてよ」
「これといって──あ、ディベート甲子園見に行った」
「え!? そうなの?」
「無料だったし、場所が千葉で近かったから、勉強がてらちょっくらな」
怜太は夏休みの出来事を振り返った。
実際の試合を目の前で見て、得られたものは少なくなかった。けれど、それ以上に強く残ったのは、自分たちとの間にある圧倒的な差だった。
「率直な感想は?」
「正直、レベルが違いすぎて……質疑とか俺だったら絶対答えられない」
「どんな質問をされるか想定して、みっちり練習するからね」
千家はそこで一度言葉を切った。
「でも」
少し楽しそうに笑う。
「質疑のターンが一番興奮しない?」
怜太は共感したようにうなずいた。
「隣り合って意見をぶつけるのは質疑だけだからな」
千家も同意するようにうなずく。
そのとき、朝礼のチャイムが鳴った。
ほどなくして教師が教室へ入ってくる。
「はーい、席に着いて。千家も座れー」
名指しされた千家は、そそくさと自分の席へ戻っていった。
怜太はその背中を見送り、少しだけ楽しそうに頬杖をついた。
星華高校の二学期は、体育祭と文化祭が立て続けに行われるため、一年の中でもっとも慌ただしい時期になる。
まずは体育祭。夏休みの間にも準備は着々と進められていた。
怜太にとっての悩みの種は、応援合戦のダンスだった。年々難しくなっていく振り付けに、頭では動きを理解できても手足がついていかない。今年も審査員席から遠い場所に配置されることは、ほぼ決定的だった。
体育祭の熱狂が冷めやらぬ間に文化祭がやってくる。それらが終わると、学校全体が一気に受験モードへ切り替わっていく。
だからこそ生徒たちは残された時間を惜しむように、それぞれのやり方で最後の青春を謳歌していた。
夏休み明けの教室は、久しぶりに顔を合わせた生徒たちの話し声でにぎわっている。
日焼けした肌を見せる生徒もいれば、部活動を引退して髪を伸ばし始めた野球部員の姿もある。それぞれが夏休みの出来事を語り合い、教室のあちこちで楽しそうな会話が弾んでいた。
そんな喧騒の中、怜太は自分の席で、特に何をするでもなくぼんやりしていた。
「おっはよー!」
快活な声が響いた。
千家が軽やかな足取りで教室へ入ってくる。周囲に笑顔を振りまきながら自分の席へ向かう中、怜太の姿を見つけて足を止めた。
「お、怜太君! 元気にしてた?」
怜太は千家の姿を見て、すぐに気づいた。髪が短くなっている。
けれど、それを口にするのはなぜか気恥ずかしくて、あえて触れなかった。
「ぼちぼちだな。夏期講習はどうだった?」
「まあ、ぼちぼちかな」
互いに似たような返事をしたことがおかしくて、怜太はくすりと笑った。
「そういえば全然送ってこなかったね」
「ああ……」
夏休みの間、怜太もくるみも文化祭で扱う論題をいくつか考えていた。
しかし、千家は夏期講習に通っている。話し合った結果、千家の邪魔をしないでおこうという結論になり、結局グループメッセージを送ることはしなかった。
「夏休みにあったおもしろニュース聞かせてよ」
「これといって──あ、ディベート甲子園見に行った」
「え!? そうなの?」
「無料だったし、場所が千葉で近かったから、勉強がてらちょっくらな」
怜太は夏休みの出来事を振り返った。
実際の試合を目の前で見て、得られたものは少なくなかった。けれど、それ以上に強く残ったのは、自分たちとの間にある圧倒的な差だった。
「率直な感想は?」
「正直、レベルが違いすぎて……質疑とか俺だったら絶対答えられない」
「どんな質問をされるか想定して、みっちり練習するからね」
千家はそこで一度言葉を切った。
「でも」
少し楽しそうに笑う。
「質疑のターンが一番興奮しない?」
怜太は共感したようにうなずいた。
「隣り合って意見をぶつけるのは質疑だけだからな」
千家も同意するようにうなずく。
そのとき、朝礼のチャイムが鳴った。
ほどなくして教師が教室へ入ってくる。
「はーい、席に着いて。千家も座れー」
名指しされた千家は、そそくさと自分の席へ戻っていった。
怜太はその背中を見送り、少しだけ楽しそうに頬杖をついた。
星華高校の二学期は、体育祭と文化祭が立て続けに行われるため、一年の中でもっとも慌ただしい時期になる。
まずは体育祭。夏休みの間にも準備は着々と進められていた。
怜太にとっての悩みの種は、応援合戦のダンスだった。年々難しくなっていく振り付けに、頭では動きを理解できても手足がついていかない。今年も審査員席から遠い場所に配置されることは、ほぼ決定的だった。
体育祭の熱狂が冷めやらぬ間に文化祭がやってくる。それらが終わると、学校全体が一気に受験モードへ切り替わっていく。
だからこそ生徒たちは残された時間を惜しむように、それぞれのやり方で最後の青春を謳歌していた。
