レイトブルーマー

 翌日から、ディベート部は自由活動となった。もともと決まった活動日があるわけでもなく、それに近い形で活動していたため、三人の間に戸惑いはなかった。

 その日、怜太が訪れたのは近所の公園だった。
 夏の日差しを受けた公園は、遊具もベンチもすっかり明るく照らされていた。
 蝉の鳴き声が木々の間から絶え間なく聞こえ、アスファルトの照り返しが肌にまとわりつくような暑さを生んでいる。
 その一角には、誰でも自由に使えるバスケットコートが設けられていた。
 怜太はボールを手にしたまま、しばらくコートの前で立ち止まった。
 久しぶりに間近で見るゴールは、記憶よりも高く感じられた。
 怪我をしてからボールに触れることはあったが、実際にコートへ足を踏み入れたのはこれが初めてだ。

 まずは入念にストレッチを始めた。
 左足首にはサポーターを着けているし、無理をするつもりはない。今日はあくまで、今の自分がどこまで動けるのかを確かめることが目的だ。
 ひと通り体をほぐすと、ボールを手に取る。
 まずはドリブル。部活のアップで何度も繰り返してきた動きを思い出しながら、ゆっくりとボールをつく。
 右手から左手へ、左手から右手へ。目を瞑っていても余裕だったはずのハンドリングなのに、思うようにボールを扱えずファンブルしてしまった。
「こんな体重かったっけ……」
 怜太は転がっていくボールを目で追いながら、複雑な表情を浮かべた。

 気を取り直して基礎練習を続ける。以前なら何の苦もなくこなしていた動きなのに、少し続けただけで息が上がってきた。怜太はスポーツドリンクを口にすると、コート脇で一度休憩する。
「これ毎日やってたとか、信じられねえな」
 息を整えてから、再びボールを手に取った。

 今度はドリブルをしながら、少しだけ走ってみる。頭の中にディフェンスを想定して、以前の感覚を呼び起こすように足を動かすが、どうしても左足の具合が気になった。痛みがあるわけではないが、無意識にかばってしまう。

 怜太は無理をしないことにして、シュート練習へ切り替えた。
 スリーポイントラインまで下がり、ボールを構える。狙いを定めて放ったボールは、リングの手前に当たり、大きく跳ね返った。
 怜太は転がってきたボールを拾い、もう一度シュートを放つ。
 今度はリングにすら届かず、ボールが虚しくコートの上を跳ねた。
 体と感覚の乖離が激しく、自分なのに自分ではないような錯覚に陥る。
 怜太の視線は次第に下がり、左足のサポーターが視界に映った途端、むしゃくしゃして頭を掻いた。

 そのとき、公園に中学生らしき四人組がやってきた。四人ともバスケットボールを持っており、コートの様子を窺っている。怜太は練習を切り上げて場所を譲ることにした。
 コートの外へ出ると、四人組はすぐに二人ずつに分かれ、ツーオンツーを始めた。

 怜太はベンチに腰を下ろし、左足のアキレス腱周辺をゆっくりと揉みほぐした。
 目の前では、さっきまでの自分と同じように、ボールを追いかける中学生たちが汗を流している。
 ふと顔を上げると、雲一つない青空が広がっていた。
 蝉の声が響く中、怜太は眩しそうに目を細める。
「暑っつ……」