土曜日。怜太はリハビリテーションを訪れていた。
施設内には、さまざまな器具が並んでいる。壁際には手すりが設置され、その周囲には運動用のマットや台が置かれていた。ほかにもリハビリに取り組む人たちの姿があり、スタッフの声や器具の動く音が絶えず聞こえてくる。
怜太は椅子に腰を下ろし、左足のアキレス腱を丁寧にマッサージしていた。
あれほど物々しかったギプスも外れ、今は必要最低限の補助具に変わっている。それだけ回復してきたということだが、怜太の中には、まだ怪我をした瞬間の感覚が残っていた。
足を動かすたび、あのときの衝撃が頭をよぎる。
順調に回復していることは分かっていても、完全に元通りになったわけではない。再断裂のリスクが高い時期でもあるため、怜太は一つ一つの動作を慎重に確かめながらリハビリを続けていた。
マッサージを終えると、怜太は腰を上げて手すりを掴んだ。
両足で立った状態から、ゆっくりとかかとを持ち上げる。ヒールレイズを何度か繰り返し、足にかかる負荷を少しずつ上げていく。
続いて片足でのヒールレイズ。
最初の頃は、思うようにかかとが上がらなかった。怪我をしていない右足なら難なくできる動作なのに、左足では体重を支えるだけでも精一杯だった。
それでも諦めずにリハビリに取り組んだ。繰り返すうちに少しずつ力が戻り、今では左右の差も以前ほど感じなくなっている。手すりに頼りすぎないよう意識しながら、慎重にかかとを上げ下げした。
軽く休憩を挿んでから片足立ちのバランスチェックを行う。
右足で立って手足を伸ばす。こちらは問題ない。
次に左足へ体重を移すと、途端に身体がぐらついた。
伸ばした手足を戻してバランスを取り直す。左足だけでは、まだ身体を十分に支えきれない。
思うようにいかない悔しさはあったが、怜太は焦らなかった。ここで無理をすれば、積み重ねてきたものを失うことになる。
最後に入念なストレッチを行い、その日のリハビリを終えた。
リハビリステーションを出ると、そのまま歩いて次の目的地へと移動する。
傍から見れば、左足をわずかに引きずっている程度だ。松葉杖を使っていた時に感じていた視線も、今は無くなった。
歩行能力は順調に回復しており、短い距離なら小走りもできるようになっている。
怜太は足元を確かめるように、しっかりと地面へ足をつける。一歩ずつ、確実に前へ進んでいく。全力疾走ができるようになる日も、そう遠くはない。
「おーい」
声のした方向を見ると、コンビニの前で千家が手を振っていた。
制服姿しか知らない怜太にとって、私服の千家を見るのはこれが初めてだった。
パステルカラーのシャツが、普段の明るい雰囲気によく似合っている。髪型も私服に合わせて変えていて、学校で見る姿とは違う一面に、思わず緊張してしまう。
その姿を見た途端、怜太は自分の格好が気になった。
今日はトレーニングウェアだ。
さっきまでリハビリをしていたのだから仕方がないとはいえ、千家の私服と並ぶと、急に自分だけ場違いな気がしてくる。
とはいえ目の前に待ち合わせの相手がいるのに、服屋に行くわけにもいかない。怜太は気持ち程度に服のシワを伸ばすと、何食わぬ顔で合流した。
「悪い、ちょっと遅れた」
「全然平気。10分前に来たけど怒ってないから」
「そういうのって普通、今来たとこって言わないか?」
「それでもいいけどさー何か嘘くさくない? 漫画とか映画とかで見るたびに、本当かなーってずっと思ってたの。それなら10分前に到着したけど怒ってないよ、って言われた方が誠実さ感じない?」
千家は独特な持論を展開すると、先導するように先を行く。
「リハビリどうだった?」
「順調だよ。もう少しで完璧に装具も外れる」
「そりゃよかった。外れたらくるみちゃんと三人で快気祝いやろうね」
千家は怜太の歩調に合わせるように、少しだけ速度を落とした。
それに気づいた怜太は、逆に歩く速度をほんの少しだけ上げる。
千家に怪我のことを気遣われたくない。そんな思いも、少なからずあったのかもしれない。怜太は何でもない顔をして、前を向いたまま歩き続けた。
施設内には、さまざまな器具が並んでいる。壁際には手すりが設置され、その周囲には運動用のマットや台が置かれていた。ほかにもリハビリに取り組む人たちの姿があり、スタッフの声や器具の動く音が絶えず聞こえてくる。
怜太は椅子に腰を下ろし、左足のアキレス腱を丁寧にマッサージしていた。
あれほど物々しかったギプスも外れ、今は必要最低限の補助具に変わっている。それだけ回復してきたということだが、怜太の中には、まだ怪我をした瞬間の感覚が残っていた。
足を動かすたび、あのときの衝撃が頭をよぎる。
順調に回復していることは分かっていても、完全に元通りになったわけではない。再断裂のリスクが高い時期でもあるため、怜太は一つ一つの動作を慎重に確かめながらリハビリを続けていた。
マッサージを終えると、怜太は腰を上げて手すりを掴んだ。
両足で立った状態から、ゆっくりとかかとを持ち上げる。ヒールレイズを何度か繰り返し、足にかかる負荷を少しずつ上げていく。
続いて片足でのヒールレイズ。
最初の頃は、思うようにかかとが上がらなかった。怪我をしていない右足なら難なくできる動作なのに、左足では体重を支えるだけでも精一杯だった。
それでも諦めずにリハビリに取り組んだ。繰り返すうちに少しずつ力が戻り、今では左右の差も以前ほど感じなくなっている。手すりに頼りすぎないよう意識しながら、慎重にかかとを上げ下げした。
軽く休憩を挿んでから片足立ちのバランスチェックを行う。
右足で立って手足を伸ばす。こちらは問題ない。
次に左足へ体重を移すと、途端に身体がぐらついた。
伸ばした手足を戻してバランスを取り直す。左足だけでは、まだ身体を十分に支えきれない。
思うようにいかない悔しさはあったが、怜太は焦らなかった。ここで無理をすれば、積み重ねてきたものを失うことになる。
最後に入念なストレッチを行い、その日のリハビリを終えた。
リハビリステーションを出ると、そのまま歩いて次の目的地へと移動する。
傍から見れば、左足をわずかに引きずっている程度だ。松葉杖を使っていた時に感じていた視線も、今は無くなった。
歩行能力は順調に回復しており、短い距離なら小走りもできるようになっている。
怜太は足元を確かめるように、しっかりと地面へ足をつける。一歩ずつ、確実に前へ進んでいく。全力疾走ができるようになる日も、そう遠くはない。
「おーい」
声のした方向を見ると、コンビニの前で千家が手を振っていた。
制服姿しか知らない怜太にとって、私服の千家を見るのはこれが初めてだった。
パステルカラーのシャツが、普段の明るい雰囲気によく似合っている。髪型も私服に合わせて変えていて、学校で見る姿とは違う一面に、思わず緊張してしまう。
その姿を見た途端、怜太は自分の格好が気になった。
今日はトレーニングウェアだ。
さっきまでリハビリをしていたのだから仕方がないとはいえ、千家の私服と並ぶと、急に自分だけ場違いな気がしてくる。
とはいえ目の前に待ち合わせの相手がいるのに、服屋に行くわけにもいかない。怜太は気持ち程度に服のシワを伸ばすと、何食わぬ顔で合流した。
「悪い、ちょっと遅れた」
「全然平気。10分前に来たけど怒ってないから」
「そういうのって普通、今来たとこって言わないか?」
「それでもいいけどさー何か嘘くさくない? 漫画とか映画とかで見るたびに、本当かなーってずっと思ってたの。それなら10分前に到着したけど怒ってないよ、って言われた方が誠実さ感じない?」
千家は独特な持論を展開すると、先導するように先を行く。
「リハビリどうだった?」
「順調だよ。もう少しで完璧に装具も外れる」
「そりゃよかった。外れたらくるみちゃんと三人で快気祝いやろうね」
千家は怜太の歩調に合わせるように、少しだけ速度を落とした。
それに気づいた怜太は、逆に歩く速度をほんの少しだけ上げる。
千家に怪我のことを気遣われたくない。そんな思いも、少なからずあったのかもしれない。怜太は何でもない顔をして、前を向いたまま歩き続けた。
