夜の幹線道路を、途切れることなく車が行き交っている。
道路を流れるヘッドライトの光と、エンジン音やタイヤがアスファルトを擦る音が、夜の街に低く響いている。
昼間のミナモモールの喧騒とは別の騒がしさがあった。
千家の歩みだけが少しずつ遅れていく。二人に合わせようと歩幅を広げても、いつの間にかまた距離が開いていた。
せめてもの罪滅ぼしなのか、食事代は千家が支払ってくれた。
毎日のように練習に取り組み、ディベート甲子園への出場を目指していた二人に、自分が大会に出られないことを打ち明けるのは、決して簡単なことではなかったはずだ。その気持ちを汲み取った怜太とくるみは、千家を責めなかった。
三人はほとんど言葉を交わさないまま歩き、やがて交差点に差しかかった。
「私、こっちだから」
千家はそう言うと、赤信号を待つ怜太とくるみとは別の方向へ歩き出した。
それ以上は引き止めず、形だけの挨拶を交わして別れた。
千家が選んだ道が遠回りになることを、怜太は知っていた。
けれど、指摘しなかった。
千家が今夜、二人とは別の道を歩きたいと思っているのなら、それを尊重してあげたい。怜太は何も言わず、寂しそうな背中を見送った。
やがて信号が青に変わる。
交差点を渡る二人の横を、自動車が次々と通り過ぎていく。信号待ちをしている車のライトが、普段以上に眩しく感じられた。
「あー久しぶりに体動かして疲れたー」
怜太は大きく伸びをした。
腕を上げ、凝り固まった肩をほぐすように体を反らす。
くるみも自分で肩をマッサージする。
一日中、ミナモリンの着ぐるみを着てファンサービスに徹していたくるみは、怜太よりも疲労度が高い。
「スーツアクターさんの凄さが身に染みて分かりました。あの状態でアクションなんて、理解の範疇を超えてます」
「ミナモリンは戦わないけどな」
「急な路線変更もありえますよ」
そんなやり取りを交わしながら、歩行者信号を渡った先で二人はどちらからともなく足を止めた。
千家のことが、頭から離れない。
ディベート甲子園に出る。そのために練習して、アルバイトまで始めた。三人で出場することを目標に進んできた。今までの苦労が水泡に帰した形となった。
「ディベート甲子園。エントリーしない方向でいいよな」
怜太が口にすると、くるみは小さくうなずいた。
「はい。千穂先輩も一緒じゃないと意味がないので」
当面の目標は失われてしまった。
それでも、二人の頭にあるのは自分たちのことではなかった。
怜太は、さっき別れた千家の姿を思い浮かべる。くるみも同じことを考えていたのか、少し俯いた。
「千穂先輩、ディベート部辞めませんよね」
「あいつはそんなたまじゃないって」
怜太はそう答えたものの、自分に言い聞かせるような響きがわずかに混じっていた。
交差点から離れた道を、千家は一人、トボトボと歩いていた。
自動車のライトが姿を一瞬だけ照らし、通り過ぎるたびにまた暗闇へ戻っていく。
怜太はその背中が夜の街へ紛れるまで目で追い続けた。
星華高校ディベート部の夏が終わった。
道路を流れるヘッドライトの光と、エンジン音やタイヤがアスファルトを擦る音が、夜の街に低く響いている。
昼間のミナモモールの喧騒とは別の騒がしさがあった。
千家の歩みだけが少しずつ遅れていく。二人に合わせようと歩幅を広げても、いつの間にかまた距離が開いていた。
せめてもの罪滅ぼしなのか、食事代は千家が支払ってくれた。
毎日のように練習に取り組み、ディベート甲子園への出場を目指していた二人に、自分が大会に出られないことを打ち明けるのは、決して簡単なことではなかったはずだ。その気持ちを汲み取った怜太とくるみは、千家を責めなかった。
三人はほとんど言葉を交わさないまま歩き、やがて交差点に差しかかった。
「私、こっちだから」
千家はそう言うと、赤信号を待つ怜太とくるみとは別の方向へ歩き出した。
それ以上は引き止めず、形だけの挨拶を交わして別れた。
千家が選んだ道が遠回りになることを、怜太は知っていた。
けれど、指摘しなかった。
千家が今夜、二人とは別の道を歩きたいと思っているのなら、それを尊重してあげたい。怜太は何も言わず、寂しそうな背中を見送った。
やがて信号が青に変わる。
交差点を渡る二人の横を、自動車が次々と通り過ぎていく。信号待ちをしている車のライトが、普段以上に眩しく感じられた。
「あー久しぶりに体動かして疲れたー」
怜太は大きく伸びをした。
腕を上げ、凝り固まった肩をほぐすように体を反らす。
くるみも自分で肩をマッサージする。
一日中、ミナモリンの着ぐるみを着てファンサービスに徹していたくるみは、怜太よりも疲労度が高い。
「スーツアクターさんの凄さが身に染みて分かりました。あの状態でアクションなんて、理解の範疇を超えてます」
「ミナモリンは戦わないけどな」
「急な路線変更もありえますよ」
そんなやり取りを交わしながら、歩行者信号を渡った先で二人はどちらからともなく足を止めた。
千家のことが、頭から離れない。
ディベート甲子園に出る。そのために練習して、アルバイトまで始めた。三人で出場することを目標に進んできた。今までの苦労が水泡に帰した形となった。
「ディベート甲子園。エントリーしない方向でいいよな」
怜太が口にすると、くるみは小さくうなずいた。
「はい。千穂先輩も一緒じゃないと意味がないので」
当面の目標は失われてしまった。
それでも、二人の頭にあるのは自分たちのことではなかった。
怜太は、さっき別れた千家の姿を思い浮かべる。くるみも同じことを考えていたのか、少し俯いた。
「千穂先輩、ディベート部辞めませんよね」
「あいつはそんなたまじゃないって」
怜太はそう答えたものの、自分に言い聞かせるような響きがわずかに混じっていた。
交差点から離れた道を、千家は一人、トボトボと歩いていた。
自動車のライトが姿を一瞬だけ照らし、通り過ぎるたびにまた暗闇へ戻っていく。
怜太はその背中が夜の街へ紛れるまで目で追い続けた。
星華高校ディベート部の夏が終わった。
