裏手にある休憩室へ、千家がミナモリンの手を引いて入ってきた。
扉の向こうからは、小さなミナモリンファンの熱烈な声援が絶え間なく聞こえている。怜太が扉を閉めると、それまで間近に響いていた歓声が一気に遠のき、ようやく静かな空間が戻ってきた。
「くるみ、大丈夫か!?」
怜太がミナモリンの頭部を外すと、中からゆでだこのようになったくるみが現れた。
シャツには汗が滲み、天然パーマの髪は湿気を吸ったせいか、いつもの数倍くるくると跳ねている。顔にも疲労がありありと浮かび、さっきまでミナモリンとして子どもたちの相手をしていたとは思えないほどだった。
「うなぁー……」
力の抜けた声を漏らしながら、くるみは頭部だけを外した状態でソファに腰を下ろした。
「おつかれさまー。くるみちゃんモテモテだねえ」
千家はそう言いながら、ストローを差したスポーツドリンクを手渡した。
怜太も扇風機を引き寄せ、くるみのほうへ向けて風を固定する。
「生き返るぅ……」
くるみはストローに口をつけ、冷たい飲み物を一気に喉へ流し込んだ。まるで飲み物が体に染み込んでいくかのような勢いだった。
三人がミナモモールでアルバイトをすることになったのは、バスケ部の大蔵の父親が施設の関係者と接点があり、その伝手で仕事を紹介してもらったからだった。
日給は一万円。仕事内容はイベント会場の設営と撤収、お笑いライブ中の警備、そしてライブの合間に行われる来場者との交流。
高校生三人にとっては、それなりにまとまった金額を稼げる仕事だったが、今日のような忙しさを目の当たりにすると、一万円という数字が少し違った意味に見えてくる。
特にミナモリンの中に入っているくるみにとっては、想像以上に体力を使う仕事だった。
お笑いライブは全部で三ステージ。そのうち第二部が、ちょうど始まったところだった。
「すまん、くるみ。ぬいぐるみなら喋らなくて済むから楽だと思ったのに、結果的に一番負担が大きかった」
「わたしが希望したことですから。それに、子どもたちと触れ合うと元気をもらえます」
「本当は?」
千家がにこやかに尋ねる。
「……ちょっと嫌いになりそうです」
あっさりと本音を引き出された。
千家は楽しそうに笑うと、休憩室の隅に置かれたミナモリンの着ぐるみに目を向けた。
「限界なら私がミナモリンになってあげるよ。身長もほとんど同じだし、サイズは大丈夫でしょ」
千家が申し出ると、くるみはしばらく黙り込んだ。
頭部だけ外したミナモリンの着ぐるみを見つめ、自分がこのまま仕事を続けるべきか、それとも千家に代わってもらうべきか、真剣に悩んでいる。その視線には、冗談では済ませられない切実さがあった。
やがて、くるみは小さく首を横に振った。
「わたしとミナモリンは一心同体なので」
「すごっ。たった数時間で絆が芽生えてる」
千家が感心したように言うと、くるみは再びソファに沈み込んだ。どうやら、ミナモリンとの間に生まれた絆とやらは、彼女を再び着ぐるみの中へ戻す程度には強固らしい。
「俺たちは会場の警備に戻るから。くるみはステージが終わるまで休んでていいぞ」
「はい……」
ぐったりとしたくるみを休憩室に残し、怜太と千家は再び会場へ戻った。
扉の向こうからは、小さなミナモリンファンの熱烈な声援が絶え間なく聞こえている。怜太が扉を閉めると、それまで間近に響いていた歓声が一気に遠のき、ようやく静かな空間が戻ってきた。
「くるみ、大丈夫か!?」
怜太がミナモリンの頭部を外すと、中からゆでだこのようになったくるみが現れた。
シャツには汗が滲み、天然パーマの髪は湿気を吸ったせいか、いつもの数倍くるくると跳ねている。顔にも疲労がありありと浮かび、さっきまでミナモリンとして子どもたちの相手をしていたとは思えないほどだった。
「うなぁー……」
力の抜けた声を漏らしながら、くるみは頭部だけを外した状態でソファに腰を下ろした。
「おつかれさまー。くるみちゃんモテモテだねえ」
千家はそう言いながら、ストローを差したスポーツドリンクを手渡した。
怜太も扇風機を引き寄せ、くるみのほうへ向けて風を固定する。
「生き返るぅ……」
くるみはストローに口をつけ、冷たい飲み物を一気に喉へ流し込んだ。まるで飲み物が体に染み込んでいくかのような勢いだった。
三人がミナモモールでアルバイトをすることになったのは、バスケ部の大蔵の父親が施設の関係者と接点があり、その伝手で仕事を紹介してもらったからだった。
日給は一万円。仕事内容はイベント会場の設営と撤収、お笑いライブ中の警備、そしてライブの合間に行われる来場者との交流。
高校生三人にとっては、それなりにまとまった金額を稼げる仕事だったが、今日のような忙しさを目の当たりにすると、一万円という数字が少し違った意味に見えてくる。
特にミナモリンの中に入っているくるみにとっては、想像以上に体力を使う仕事だった。
お笑いライブは全部で三ステージ。そのうち第二部が、ちょうど始まったところだった。
「すまん、くるみ。ぬいぐるみなら喋らなくて済むから楽だと思ったのに、結果的に一番負担が大きかった」
「わたしが希望したことですから。それに、子どもたちと触れ合うと元気をもらえます」
「本当は?」
千家がにこやかに尋ねる。
「……ちょっと嫌いになりそうです」
あっさりと本音を引き出された。
千家は楽しそうに笑うと、休憩室の隅に置かれたミナモリンの着ぐるみに目を向けた。
「限界なら私がミナモリンになってあげるよ。身長もほとんど同じだし、サイズは大丈夫でしょ」
千家が申し出ると、くるみはしばらく黙り込んだ。
頭部だけ外したミナモリンの着ぐるみを見つめ、自分がこのまま仕事を続けるべきか、それとも千家に代わってもらうべきか、真剣に悩んでいる。その視線には、冗談では済ませられない切実さがあった。
やがて、くるみは小さく首を横に振った。
「わたしとミナモリンは一心同体なので」
「すごっ。たった数時間で絆が芽生えてる」
千家が感心したように言うと、くるみは再びソファに沈み込んだ。どうやら、ミナモリンとの間に生まれた絆とやらは、彼女を再び着ぐるみの中へ戻す程度には強固らしい。
「俺たちは会場の警備に戻るから。くるみはステージが終わるまで休んでていいぞ」
「はい……」
ぐったりとしたくるみを休憩室に残し、怜太と千家は再び会場へ戻った。
