大型商業施設、ミナモモール。
駅からほど近い場所に建つこの施設は、衣料品店や雑貨店、飲食店などが集まった県内でも有数の規模を誇っている。館内には映画館まで併設されており、休日ともなれば近隣だけでなく県内外から家族連れや若者が訪れ、朝から晩まで人の流れが途切れることはない。
吹き抜けになった中央広場では、買い物客の話し声に店内放送や音楽が重なり、天井の高い空間いっぱいにざわめきが広がっていた。
その一角に設けられたイベントステージには、休日の催しを目当てにした大勢の客が集まっている。
ステージの前では、ミナモモールの法被を羽織った怜太と千家は、ミナモリンを挟むようにして子どもたちに囲まれていた。
怜太は無事松葉杖を卒業して、今は装具のみで過ごしている。両手を自由に使えることで不便さが一気に解消された。
二人の間にいるのは、水面をイメージして生まれたミナモモールのゆるキャラ、ミナモリン。
丸みを帯びたふわふわの体に大きな手足を備えたミナモリンは、子どもたちにとって格好の遊び相手らしい。あちこちから小さな手が伸びてきては、体を撫でたり、腕を掴んだりしている。
着ぐるみの中のくるみがどうなっているのか、外からではまったく分からない。ただ、ミナモリンの動きが時折ぎこちなくなる点から推測すると、決して楽な仕事ではなさそうだった。
一人の子どもが、ミナモリンの体の一部を面白がって引っ張り始めた。
「ミナモリンが痛いって」
千家がやんわり注意すると、素直に手を離してくれた。
「偉いねー! ほら、ミナモリンがありがとうって」
千家に促され、ミナモリンはひょこひょこと体を揺らす。大きな体を精一杯動かすその姿に、子どもは嬉しそうに笑うと、満足したようにその場を走り去った。
「ふぅー、なんとかひと段落ついたな」
怜太が息をつく。
「ミナモリンって人気なんだね。ミナモンのほうが語呂がよさそうだけど」
「先にいたらしいぞ。だから名前変えたんだって」
怜太が答えた直後だった。
ミナモリンのふわふわした手が、怜太の法被をちょいちょいと引っ張る。
何事かと思って顔を近づけると、着ぐるみの中から、周囲には聞こえないほどのかすれた声が漏れてくる。
「せ、先輩……休憩、まだですかあ」
「もうちょっとでお笑いステージが始まるから、それまで耐えてくれ」
怜太がそう言った途端だった。
まるで示し合わせたかのように、子どもたちの第二波が押し寄せてきた。
「ミナモリンだー!」
歓声とともにミナモリンの体があっという間にもみくちゃになる。
さっきまで休憩を待ち望んでいたはずのミナモリンは、子どもたちの勢いに押されるように左右へ揺さぶられていた。
「やさしくしてあげてねー」
千家は注意しながらも、どこか他人事のような顔でその様子を眺めていた。
大変なのは着ぐるみの中にいるくるみであって、自分ではない。そう思っているのか、ミナモリンが翻弄されていく光景を、どこか楽しそうに見ている。
「のわあぁぁっっっ!」
そのとき、ミナモリンの口から、着ぐるみにはあまりにも似つかわしくない悲鳴が飛び出した。
子どもたちの動きが止まった。
「ミナモリン、喋った?」
怜太は慌ててミナモリンを肘で小突いた。
ミナモリンは一瞬ふらついたものの、どうにか体勢を立て直す。着ぐるみの中でどんな顔をしているのかは分からないが、残された力を振り絞るように両手を広げ、何事もなかったかのようなおどけた動きをしてみせた。
「ミナモリン、可愛いー!」
わーっと歓声が上がる。
どうやら先ほどの悲鳴も、子どもたちにとってはミナモリンのサービスの一つとして処理されたらしい。
次の瞬間には、ミナモリンは再び小さな手の波に飲み込まれていた。
怜太と千家は子どもたちの底なしの体力を前に、そろってお手上げ状態になった。
駅からほど近い場所に建つこの施設は、衣料品店や雑貨店、飲食店などが集まった県内でも有数の規模を誇っている。館内には映画館まで併設されており、休日ともなれば近隣だけでなく県内外から家族連れや若者が訪れ、朝から晩まで人の流れが途切れることはない。
吹き抜けになった中央広場では、買い物客の話し声に店内放送や音楽が重なり、天井の高い空間いっぱいにざわめきが広がっていた。
その一角に設けられたイベントステージには、休日の催しを目当てにした大勢の客が集まっている。
ステージの前では、ミナモモールの法被を羽織った怜太と千家は、ミナモリンを挟むようにして子どもたちに囲まれていた。
怜太は無事松葉杖を卒業して、今は装具のみで過ごしている。両手を自由に使えることで不便さが一気に解消された。
二人の間にいるのは、水面をイメージして生まれたミナモモールのゆるキャラ、ミナモリン。
丸みを帯びたふわふわの体に大きな手足を備えたミナモリンは、子どもたちにとって格好の遊び相手らしい。あちこちから小さな手が伸びてきては、体を撫でたり、腕を掴んだりしている。
着ぐるみの中のくるみがどうなっているのか、外からではまったく分からない。ただ、ミナモリンの動きが時折ぎこちなくなる点から推測すると、決して楽な仕事ではなさそうだった。
一人の子どもが、ミナモリンの体の一部を面白がって引っ張り始めた。
「ミナモリンが痛いって」
千家がやんわり注意すると、素直に手を離してくれた。
「偉いねー! ほら、ミナモリンがありがとうって」
千家に促され、ミナモリンはひょこひょこと体を揺らす。大きな体を精一杯動かすその姿に、子どもは嬉しそうに笑うと、満足したようにその場を走り去った。
「ふぅー、なんとかひと段落ついたな」
怜太が息をつく。
「ミナモリンって人気なんだね。ミナモンのほうが語呂がよさそうだけど」
「先にいたらしいぞ。だから名前変えたんだって」
怜太が答えた直後だった。
ミナモリンのふわふわした手が、怜太の法被をちょいちょいと引っ張る。
何事かと思って顔を近づけると、着ぐるみの中から、周囲には聞こえないほどのかすれた声が漏れてくる。
「せ、先輩……休憩、まだですかあ」
「もうちょっとでお笑いステージが始まるから、それまで耐えてくれ」
怜太がそう言った途端だった。
まるで示し合わせたかのように、子どもたちの第二波が押し寄せてきた。
「ミナモリンだー!」
歓声とともにミナモリンの体があっという間にもみくちゃになる。
さっきまで休憩を待ち望んでいたはずのミナモリンは、子どもたちの勢いに押されるように左右へ揺さぶられていた。
「やさしくしてあげてねー」
千家は注意しながらも、どこか他人事のような顔でその様子を眺めていた。
大変なのは着ぐるみの中にいるくるみであって、自分ではない。そう思っているのか、ミナモリンが翻弄されていく光景を、どこか楽しそうに見ている。
「のわあぁぁっっっ!」
そのとき、ミナモリンの口から、着ぐるみにはあまりにも似つかわしくない悲鳴が飛び出した。
子どもたちの動きが止まった。
「ミナモリン、喋った?」
怜太は慌ててミナモリンを肘で小突いた。
ミナモリンは一瞬ふらついたものの、どうにか体勢を立て直す。着ぐるみの中でどんな顔をしているのかは分からないが、残された力を振り絞るように両手を広げ、何事もなかったかのようなおどけた動きをしてみせた。
「ミナモリン、可愛いー!」
わーっと歓声が上がる。
どうやら先ほどの悲鳴も、子どもたちにとってはミナモリンのサービスの一つとして処理されたらしい。
次の瞬間には、ミナモリンは再び小さな手の波に飲み込まれていた。
怜太と千家は子どもたちの底なしの体力を前に、そろってお手上げ状態になった。
