学校から自転車で十五分ほど走ったところに、怜太の自宅はある。
築年数はそれなりに経っているものの、両親がこまめに手入れしているため、外観に古びた印象はない。住宅街の一角に建つ、ごく普通の二階建ての家だった。
「ただいま」
すぐにキッチンから母親の明るい声が返ってきた。
「おかえり。今日も遅かったね」
怜太は靴を脱ぎ、鞄を肩にかけたまま二階へ上がろうとする。
「ちょっと待って。お弁当箱、出しといて」
「へいへい」
「ちょっと怜太、聞いてるー?」
「聞いてるって」
怜太は鞄から弁当箱を取り出すと、そのままキッチンのシンクへドンと置いた。
「もう、置き方が雑!」
「ステンレス製だから壊れないよ」
「そういう問題じゃないでしょ」
母親は呆れたように肩をすくめると、水道の蛇口をひねった。
怜太はそんな母親の様子を気にするでもなく、今度こそ階段へ向かった。
二階の自室へ戻ると、怜太はベッドに腰を下ろした。
六畳ほどの部屋には、高校生男子らしい雑然とした空気が漂っている。
壁にはNBA選手のポスターが何枚も貼られ、机の上には読みかけのバスケ雑誌やトレーニングの本が積み重なっている。部屋の隅には使い込まれたバスケットボールが一つ転がっていた。
物はそれなりに多い。だが、そこにあるものを見渡せば、そのほとんどがバスケットボールに繋がっていることが分かる。
怜太にとって、バスケットボールは毎日の生活そのものだった。
先ほどの部活のグループメッセージを開いた。画面を少し眺めてから、松下の個別のトーク画面を開く。
松下の誕生日。
直接、お祝いくらいはしておこう。
そう思って文字を打ち込む。
『誕生日おめでとう』
入力した文章を、怜太はじっと見つめた。
「……味気なさすぎだろ」
確かに間違ってはいない。
けれど、あまりにも素っ気ない。
怜太は一度入力した文字を消し、今度は少し考えてから打ち直した。
『誕生日おめでとう! キャプテンとしてチームを引っ張ってくれ。』
送信する前に、また画面へ視線を落とす。
「あれ? もしかしてこれマルハラってやつか?」
自分で打った文章を見て、怜太は眉を寄せる。
最近は文章の最後に句点をつけるだけでも圧を感じることがあるらしい。
そこまで考えてしまうと、急に送るのが面倒になった。
怜太は文章を削除し、今度はスタンプの一覧を開く。
画面いっぱいに並ぶスタンプをしばらく眺める。
どれが正解なのか分からない。
悩んだ末、無難そうなものを一つ選んで送信した。
送信を確認すると、スマホをベッドへ放り投げた。そのまま仰向けになって天井を見上げる。
視界の端に、壁に貼られたNBA選手のポスターが映った。
いつか自分も、あんなふうに……。
そこまで考えたところで、全身に残っていた疲労が一気に押し寄せてきた。
体を起こす気力も残っていない。
怜太の意識は、そのまま深い眠りへ落ちていった。
築年数はそれなりに経っているものの、両親がこまめに手入れしているため、外観に古びた印象はない。住宅街の一角に建つ、ごく普通の二階建ての家だった。
「ただいま」
すぐにキッチンから母親の明るい声が返ってきた。
「おかえり。今日も遅かったね」
怜太は靴を脱ぎ、鞄を肩にかけたまま二階へ上がろうとする。
「ちょっと待って。お弁当箱、出しといて」
「へいへい」
「ちょっと怜太、聞いてるー?」
「聞いてるって」
怜太は鞄から弁当箱を取り出すと、そのままキッチンのシンクへドンと置いた。
「もう、置き方が雑!」
「ステンレス製だから壊れないよ」
「そういう問題じゃないでしょ」
母親は呆れたように肩をすくめると、水道の蛇口をひねった。
怜太はそんな母親の様子を気にするでもなく、今度こそ階段へ向かった。
二階の自室へ戻ると、怜太はベッドに腰を下ろした。
六畳ほどの部屋には、高校生男子らしい雑然とした空気が漂っている。
壁にはNBA選手のポスターが何枚も貼られ、机の上には読みかけのバスケ雑誌やトレーニングの本が積み重なっている。部屋の隅には使い込まれたバスケットボールが一つ転がっていた。
物はそれなりに多い。だが、そこにあるものを見渡せば、そのほとんどがバスケットボールに繋がっていることが分かる。
怜太にとって、バスケットボールは毎日の生活そのものだった。
先ほどの部活のグループメッセージを開いた。画面を少し眺めてから、松下の個別のトーク画面を開く。
松下の誕生日。
直接、お祝いくらいはしておこう。
そう思って文字を打ち込む。
『誕生日おめでとう』
入力した文章を、怜太はじっと見つめた。
「……味気なさすぎだろ」
確かに間違ってはいない。
けれど、あまりにも素っ気ない。
怜太は一度入力した文字を消し、今度は少し考えてから打ち直した。
『誕生日おめでとう! キャプテンとしてチームを引っ張ってくれ。』
送信する前に、また画面へ視線を落とす。
「あれ? もしかしてこれマルハラってやつか?」
自分で打った文章を見て、怜太は眉を寄せる。
最近は文章の最後に句点をつけるだけでも圧を感じることがあるらしい。
そこまで考えてしまうと、急に送るのが面倒になった。
怜太は文章を削除し、今度はスタンプの一覧を開く。
画面いっぱいに並ぶスタンプをしばらく眺める。
どれが正解なのか分からない。
悩んだ末、無難そうなものを一つ選んで送信した。
送信を確認すると、スマホをベッドへ放り投げた。そのまま仰向けになって天井を見上げる。
視界の端に、壁に貼られたNBA選手のポスターが映った。
いつか自分も、あんなふうに……。
そこまで考えたところで、全身に残っていた疲労が一気に押し寄せてきた。
体を起こす気力も残っていない。
怜太の意識は、そのまま深い眠りへ落ちていった。
