くるみは目を合わせて話すのが苦手なのか、ノートへ視線を落としたまま主張を始めた。
「お寿司のいいところは……年齢を重ねても美味しく食べられる点ではないでしょうか。焼肉はどの部位でも脂が付いて回ります。おじいちゃんやおばあちゃんになったとき、毎日それに耐えられますか?」
怜太にとっては想定内の攻撃だった。
焼肉の弱点になり得る脂っこさについては、怜太自身も分かっていた。だからこそ、最初の主張ではあえて触れなかったのだ。そこを突かれずに済めばと思っていたが、そう都合よくはいかない。
くるみにとっては、まさに絶好の指摘材料だったらしい。焼肉と寿司を乗せた見えない天秤が、また少しだけ寿司側へ傾いたように感じた。
「一見するとお寿司は魚だけで飽きてしまいそうです。ですがコーン、なすといった野菜のお寿司から、ハンバーグ、肉寿司のようにお肉もカバーできます」
怜太は好機とばかりにノートにペンを走らせた。
寿司が魚だけではないという前提なら、先程の焼肉屋論争を絡めて反論できる。
「軍艦、おいなりさん、ちらし寿司、手巻き寿司。握り寿司だけが全てではないので、焼肉と違って飽きずに美味しく食べられます」
怜太の想定していた「寿司」は、握り寿司のみ。ちらし寿司や手巻き寿司の存在は、すっかり抜け落ちていた。
となると話は変わってくる。ペンを走らせていた手が一瞬だけ止まり、怜太は顔に出さないようにしながら、心の中で悔しさを噛みしめた。
くるみはノートに目を落としたまま、次の主張へ移った。
「あ、あとは……頼めば自動で提供されるという点も大きいかと。回転寿司はお皿を取るだけで、回らないお寿司は大将が目の前で握ってくれます。自分で焼くというのを大宮先輩は利点に上げましたが、一生続けると仮定した場合、面倒が勝ってしまうのでは?」
くるみはずれた眼鏡を指先で押し上げた。
怜太が利点として挙げた自分で焼くという行為を、くるみは逆に欠点として指摘した。表裏一体の考えを、どちらが正しいと判断するかは審判の千家次第だ。
「以上の点から、わたしは焼肉よりもお寿司の方が優れていると考えます」
言い切った途端、くるみは張り詰めていた息を一気に吐き出した。
「緊張したあ~」
そのまま机に突っ伏す。
「よかったよ、くるみちゃん! 初めてとは思えないくらいレベル高い!」
「えへへっ……じ、じつはネットの動画とか見て勉強してたので」
「う~ん、可愛い後輩。よしよししてあげるからおいで」
千家が手招きすると、くるみは困ったように笑いながら、やんわりと首を振って拒んだ。
そんな二人のやり取りを、怜太はぼんやりと眺めていた。
自分が相手をする側なのだから、くるみの主張を聞きながら、その弱点を探すつもりだった。ところが実際には、そんなことを忘れてしまうほど発表そのものに引き込まれていた。
くるみは決して大きな声で話しているわけではない。目を合わせることも苦手だ。
それでも言いたいことはきちんと整理されていて、ひとつの主張から次の主張へと自然につながっていた。
「怜太君、質疑応答の準備はいい?」
千家に声をかけられ、怜太は慌ててノートへ視線を落とした。
書き込んだ文字を追い、使えそうな反論を頭の中で組み立てていく。
「いける。一泡吹かせてやるぜ!」
怜太が気合いを入れる一方で、くるみは緊張の面持ちで姿勢を正した。
「質疑応答に入ります。怜太君、何か質問があればどうぞ」
ここで評価を覆さなければ、焼肉は敗北する。
傍らに置かれた焼肉奉行の本は、さながら行く末を見守るよう。
全世界の焼肉ファンの思いを背負い、反撃に打って出る。
「お寿司のいいところは……年齢を重ねても美味しく食べられる点ではないでしょうか。焼肉はどの部位でも脂が付いて回ります。おじいちゃんやおばあちゃんになったとき、毎日それに耐えられますか?」
怜太にとっては想定内の攻撃だった。
焼肉の弱点になり得る脂っこさについては、怜太自身も分かっていた。だからこそ、最初の主張ではあえて触れなかったのだ。そこを突かれずに済めばと思っていたが、そう都合よくはいかない。
くるみにとっては、まさに絶好の指摘材料だったらしい。焼肉と寿司を乗せた見えない天秤が、また少しだけ寿司側へ傾いたように感じた。
「一見するとお寿司は魚だけで飽きてしまいそうです。ですがコーン、なすといった野菜のお寿司から、ハンバーグ、肉寿司のようにお肉もカバーできます」
怜太は好機とばかりにノートにペンを走らせた。
寿司が魚だけではないという前提なら、先程の焼肉屋論争を絡めて反論できる。
「軍艦、おいなりさん、ちらし寿司、手巻き寿司。握り寿司だけが全てではないので、焼肉と違って飽きずに美味しく食べられます」
怜太の想定していた「寿司」は、握り寿司のみ。ちらし寿司や手巻き寿司の存在は、すっかり抜け落ちていた。
となると話は変わってくる。ペンを走らせていた手が一瞬だけ止まり、怜太は顔に出さないようにしながら、心の中で悔しさを噛みしめた。
くるみはノートに目を落としたまま、次の主張へ移った。
「あ、あとは……頼めば自動で提供されるという点も大きいかと。回転寿司はお皿を取るだけで、回らないお寿司は大将が目の前で握ってくれます。自分で焼くというのを大宮先輩は利点に上げましたが、一生続けると仮定した場合、面倒が勝ってしまうのでは?」
くるみはずれた眼鏡を指先で押し上げた。
怜太が利点として挙げた自分で焼くという行為を、くるみは逆に欠点として指摘した。表裏一体の考えを、どちらが正しいと判断するかは審判の千家次第だ。
「以上の点から、わたしは焼肉よりもお寿司の方が優れていると考えます」
言い切った途端、くるみは張り詰めていた息を一気に吐き出した。
「緊張したあ~」
そのまま机に突っ伏す。
「よかったよ、くるみちゃん! 初めてとは思えないくらいレベル高い!」
「えへへっ……じ、じつはネットの動画とか見て勉強してたので」
「う~ん、可愛い後輩。よしよししてあげるからおいで」
千家が手招きすると、くるみは困ったように笑いながら、やんわりと首を振って拒んだ。
そんな二人のやり取りを、怜太はぼんやりと眺めていた。
自分が相手をする側なのだから、くるみの主張を聞きながら、その弱点を探すつもりだった。ところが実際には、そんなことを忘れてしまうほど発表そのものに引き込まれていた。
くるみは決して大きな声で話しているわけではない。目を合わせることも苦手だ。
それでも言いたいことはきちんと整理されていて、ひとつの主張から次の主張へと自然につながっていた。
「怜太君、質疑応答の準備はいい?」
千家に声をかけられ、怜太は慌ててノートへ視線を落とした。
書き込んだ文字を追い、使えそうな反論を頭の中で組み立てていく。
「いける。一泡吹かせてやるぜ!」
怜太が気合いを入れる一方で、くるみは緊張の面持ちで姿勢を正した。
「質疑応答に入ります。怜太君、何か質問があればどうぞ」
ここで評価を覆さなければ、焼肉は敗北する。
傍らに置かれた焼肉奉行の本は、さながら行く末を見守るよう。
全世界の焼肉ファンの思いを背負い、反撃に打って出る。
