レイトブルーマー

 さっきまで資料の少なさに焦っていたことが嘘のように、堂々と立ち上がる。
 半分は虚勢であったが、顔に不安が現れていれば減点対象になりかねない。怜太はそう考えた。

 前回の発表で痛感したのは、思いついたことをその場で並べるだけでは、聞いている側を置き去りにしてしまうということだった。
 だから今日は、話す順番をあらかじめ頭の中で決めてきた。
「焼肉派として言わせてもらう!」
 武士が戦場へ赴くように、怜太は己を奮い立たせた。

「第一に、焼肉は幅が広い。牛、豚、鶏。それに部位まで加わるんだから、一生という長い期間でも飽きずに楽しめる。塩やタレ、味噌、レモン汁なんて感じで、その日の気分で味を変えられる点も優れているな。その点、寿司はどうだ? 醤油、あとは岩塩くらいか?」
 怜太が一度言葉を区切ると、くるみは顔を上げた。
 しかし何かを言うわけではない。すぐにノートへ視線を戻し、怜太の発言を忘れないようにペンを走らせていく。

「もちろん、味だけじゃないぜ。さっき俺が言った『幅』って言葉には、別の意味も含まれる。それが焼き加減だ。焼肉の優れているところは、レア気味で食べてみたり、あえて焦げ目をつけたりと、自分の好みに合わせて焼き方を変えられることだ」

 滑り出しは順調だった。
 前回の教訓を活かして、思いついたことを片っ端から口にするのではなく、自分で決めた順番に沿って話を進める。次に何を話すのかが頭の中にあるだけで、言葉を探すときの焦りはずいぶん減っていた。
「寿司は生魚だから受け付けない人もいるんじゃないか? 肉はしっかり焼けば食中毒のリスクを抑えられる。さらに焼肉は肉だけじゃない。野菜、きのこ類、海鮮はもちろん、ご飯や冷麺、スープだってある。これらをバランスよく取れば、栄養が偏ることもない」

 ここまで話したところで、怜太は千家の顔をちらりと見た。
 千家は腕組みをしながら、審査員として真剣に話を聞いている。
(いけるぞ。このまま押し切ってやる!)
 手応えを感じた怜太は、わずかに口角を上げて最後の主張へ移った。

「俺が一番焼肉を推してる点は、『食べる行為そのもの』の楽しさだ」
 そう言うと、怜太は目の前に焼肉の網があるかのように両手を動かした。
「肉を網に置く。ジュウッと音がする。焼けるまで待ってから、ひっくり返す。最高の焼き加減で網から取り出して、タレに浸けてから米にバウンドさせて食べる。口の中を肉とタレの濃い味で満たしてから、米をかきこむ!」
 身振りを交えながら話しているうちに、怜太自身も本当に焼肉を食べているような気分になってきたのか、思わず腹をさすった。

「一生、どちらかしか食べられないって考えた場合、俺は焼肉しかないと思う。以上!」
 最後まで勢いそのままに、怜太は発表を終えた。
 すぐに千家が大きな拍手を送る。
「質疑応答だけど、ちょっとだけ準備時間をあげるから、その間に考えておいてね」
「はい!」
 くるみのノートには、怜太が話しているあいだに書き留めた言葉が並んでいる。それらを一つずつ確認しながら、質問を組み立てていく。
 
「短期間で一気に成長したね。『えーっと』とか『あのー』とかがなくて、聞きやすかったよ」
「俺はスポンジのような吸収力だからな」
 怜太が胸を張ると、千家は楽しそうに笑った。
「いいねえ、自分で言う感じ。ディベートは弱気になったら負けだからね。それくらい自信家じゃないと」

「千穂先輩、いけます」
 ノートから顔を上げたくるみが静かに告げると、千家はにっこりとえくぼを作った。