桜田さんにもう一度会う。
決心したのはいいものの、今度は別の問題にぶち当たっていた。
桜田さんに会えない。
昼休みの実習棟には二日連続で現れなかった。僕が一週間行かなかったから、桜田さんも来なくなったのかもしれない。上級生の教室がある二階、三階へ行ってみるも人が多く、見知らぬ先輩たちからの視線に耐えられず、なかなか探せなかった。そもそも、二年生なのか三年生なのかも知らない。
だけど、春見さんに訊けばいいということに気づき、時間を無駄にしてしまった自分が嫌になる。
「春見さん」
午後一の移動教室から帰ってきたところで、珍しく春見さんが一人だった。これはチャンスだとすぐ話しかけに行った。
「来栖君、なぁに?」
「あのさ、この前話してた吹奏楽部の先輩のことを教えてほしいんだけど。樹里先輩、だっけ」
「樹里先輩のこと?」
春見さんは不思議そうな顔をしたあと、少し考え込んだ。
「なに、うそ。もしかして来栖君も樹里先輩のことが」
「違う違う違う! えっと、吹奏楽部に興味があって! 有名な先輩のことを知りたいなぁ、なんて」
やばい、怪しまれた。とりあえず笑ってごまかすしかない。
「入部希望なの?」
「うんうんうん。考えてるとこ、なんだ。ははっ」
「そうなんだぁ。嬉しい。そういうことならなんでも訊いて」
どん、と春見さんは胸を叩いた。本当に申し訳ない。だけど僕も他に頼れる人がいない。ここは心を鬼にして挑むんだ。覚悟は……できている。まずは部活に関係のあることから質問していこう。
「樹里先輩はなんの楽器をしているの?」
「トランペットで、高校から始めたらしいよ。トランペットにもう一人男子の先輩がいるんだけど、その人と一緒に入ったみたい」
「そうなんだ。樹里先輩って何年生なの?」
「二年生。一年生のときからちょっとサボりがちだったみたいだね」
「練習に集中できなかったんだっけ」
「うん。文化祭でやった、吹奏楽部の演奏会がきっかけらしいの。ちょうどステージの真ん中あたりのポジションだったから、『あのイケメンは誰?』って目立って人気が爆発したんだって。でも、わかる。私も去年見にきて、一目惚れしちゃったんだ。本当にかっこいいもん」
桜田さんパワー恐るべし。僕は激しくうなずいた。
「だけど、樹里先輩って目立つことが好きじゃなくて……それがきっかけで人が多い所には現れなくなって、学校で探すのすっごく大変なんだよね。いつもどこにいるんだろう」
「春見さんでも見つけられないの?」
「うーん。やっぱり二年生の教室って行きにくいよ。それにけっこう騒がしいからね。静かな場所に避難してるのかなぁ」
ああ、それで「秘密の場所」か。実習棟は吹奏楽部なら部活でよく行くだろう。人から逃げ回っているときに、見つけたのかもしれないな。
だけど今は。
「来てないんだよなぁ」
「え? なに?」
「なんでもないよ」しまった。声に出ていた。
「来栖君……やっぱり吹奏楽部じゃなくて、樹里先輩に興味があるんじゃないの? 部活のことをちっとも質問しないじゃん」
春見さんがじっとりと疑いの目を向けてくる。
確かに桜田さんのことしか訊いていない。もしかして、さっきからミスばかりしている? まずい。なんとかしないと。
あ……そうだ!
「いてて! やばい、お腹痛くなってきた! これはトイレに行かないと……春見さん、ありがとう」
「え、え、大丈夫?」
腹部を押さえながら、よろよろと教室の外へ脱出した。「お腹が弱いキャラ」に心の底から感謝したい。中田、この嘘が役に立つ日がくるとは思わなかったよ。ありがとう。
そのあとの六時間目の授業は集中できず、なにをやっていたのか記憶がない。放課後になり、念のため実習棟へ行ってみるも、やっぱり桜田さんはいなかった。
吹奏楽部の練習の音を聞きながら、他にあてはないのかよく考えてみる。
『けっこう騒がしいから、静かな場所に避難してるのかなぁ』
静かな場所、か。
僕は、出会ったときからのことを思い返してみた。
そうだ、あそこがあるじゃないか。
僕と桜田さんを繋ぐ場所は、もう一つあったのだ。
入学式の日、桜の木の下で出会い、再会し、それから行ったあのお店。
喫茶店チェリーだ。
桜田さんが注目されることはなかったし、店内は静かで穏やかな時間が流れていた。
彼の本来の目的はプリンだったと思うけど、お店のこともかなり気に入った様子だった。リラックスして、素に近い表情が見られた気がする。
僕はあれから喫茶店へ行っていない。もしかしたら。
行き先が決まった。あの日をなぞるように、桜祭りの川へ向かう。
同じ道を辿れば、どこかで桜田さんに会えるような気がしたからだ。
桜並木の川に来たのはあの日以来だった。だけど川沿いの桜はほぼ残っておらず、桜祭りの看板も撤去されている。あのとき見た光景は、幻だったのだろうか。僕と桜田さんが一緒に歩いたことも、なかったかのような。そんな錯覚を覚え、胸がちくりと痛んだ。
さくら商店街は今日もがらんとしていた。今思えば、この商店街でさえ、桜田さんにとってはリラックスできる所だったのかも。人から注目されるというのはどういう気分なんだろう。地味な僕には縁のない話で、想像もできない。
喫茶店チェリー。あの日と変わらず、レトロな看板と食品サンプルが目を引く。
あんなに緊張していたのが、もはや懐かしい。今は別の意味で緊張しているけど。
ドアの前で何度も深呼吸し、気持ちを落ち着かせてから中へ入った。
「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ」
二回目とはいえ一人は心細い。挨拶してくれた店員さんのにこやかな笑顔に救われる。
今日も店内のお客さんは少なく、静かなジャズがよく聴こえた。桜田さんが来ていないことがすぐにわかり、僕は肩を落とした。
入ってすぐ出ていくわけにもいかず、ひとまず近くの席に座る。注文、どうしよう。
「お決まりですか?」
「あっ、はい、じゃあオレンジジュースで」
店員さんが注文の確認にきてしまい、慌てて記憶にあったものを頼んだ。
それにしても、待っている間することがなく落ち着かない。無意識にリュックに手を伸ばしかけて、やめた。こういう場所でスマホを触るのは違う気がする。
他のお客さんをちらっと観察してみた。カウンターでマスターとお喋りしている女性がいる。大学生くらいの男性は読書をし、おじいさん二人組はコーヒーを飲みながら談笑中だ。
みんなこの空間を満喫しているようにみえた。ここは、そういう楽しみ方をする場所なのだと思う。一人で画面とにらめっこするなんてもったいない。桜田さんが安心するのは、きっとこういう所なんだ。
また、一緒に来たいな。
オレンジジュースを飲みながら、ゆったりした時間を過ごした。
そろそろ帰ろうと席を立ち、レジでお金を払ったあと、近くのミニテーブルにあるピンクのノートが目に入った。以前、桜田さんのあとに、僕もこっそりメッセージを書いたノートだ。
「お客さんが自由にメッセージを書けるノートなんです」
店員さんが僕の視線に気づき、声をかけてきた。
「実は……書いたことがあって」
「そうなんですか? ありがとうございます。もしかして……この前来てくれた学生さんかしら」
「たぶん僕たちだと思います」
「やっぱり。制服が同じだからそうなのかなとは思ったけど、嬉しいです」
笑顔を向けられ、なんだか照れくさかった。お店の人と雑談する経験は初めてだ。なにか気の利いたことを言ったほうがいいのか。このあとなにを言えばいいのか。
「今日はお一人なんですね」
「え?」
「前は二人で来てくれていたから」
「たまには一人で来たいなぁと」
言わなくていい嘘をついてしまった。
でも、けっこういい時間を過ごせた。桜田さんには会えなかったけど、来てよかったと思う。
「お友達も一人で来てくれていたから……待ち合わせかと思っちゃいました」
「え!?」
思わず大きな声を出してしまった。店員さんはびっくりしている。
「すみません。あの、もう一人が来てたのは今日ですか?」
「あ、はい。でも、確か三日くらい前から、毎日来てくれていると思います」
今日、来ていた。しかも三日前から毎日?
「うちは高校生のお客さんなんて滅多に来ないから、お店で話題だったんです。今日はノートにメッセージを書いてくれたんですよ。あなたが来る前に帰ってしまったけれど……あ、お客さんだわ。引きとめちゃってすみません。よかったらまた来てくださいね」
ドアベルが鳴り、お客さんが入ってきた。僕は邪魔にならないよう端に寄る。
頭の中でいろいろなことが駆け巡っていく。
僕はノートを手に取り、唾を飲み込んだ。桜田さんがさっきまでいたと考えるだけで、胸がざわざわする。
ぱらぱらページをめくっていると、最後のほうに今日の日付入りのメッセージがあった。
なんてことのない、お店への感想文だ。桜田さんが書いたものかもしれないと思い、前回のメッセージを確認する。この字の形、きっとそうだ。
あ、またプリンを食べたんだ。桜田さんは本当に甘いものが好きだな。三日連続で来るということは、よっぽど気に入っているらしい。
少し丸っこい文字を指でなぞった。
だけど少し癖のある文章というか、変なところで改行されていて読みづらい。桜田さんらしいといえば、らしいのかな。
もう行こう、とノートを閉じようとして、ある違和感を覚えた。これ、もしかして。
今度はメッセージの左端の文字を指でなぞりながら、視線を上から下へと滑らせていく。
それを読んで僕は居ても立っても居られなくなり、お店の外へ飛び出していた。
なんでこんなことをするんだ、桜田さん。
やっぱり、あなたの考えていることがわからないよ。
でも今すぐ会いたい。それだけは、僕のその気持ちだけはわかる。

決心したのはいいものの、今度は別の問題にぶち当たっていた。
桜田さんに会えない。
昼休みの実習棟には二日連続で現れなかった。僕が一週間行かなかったから、桜田さんも来なくなったのかもしれない。上級生の教室がある二階、三階へ行ってみるも人が多く、見知らぬ先輩たちからの視線に耐えられず、なかなか探せなかった。そもそも、二年生なのか三年生なのかも知らない。
だけど、春見さんに訊けばいいということに気づき、時間を無駄にしてしまった自分が嫌になる。
「春見さん」
午後一の移動教室から帰ってきたところで、珍しく春見さんが一人だった。これはチャンスだとすぐ話しかけに行った。
「来栖君、なぁに?」
「あのさ、この前話してた吹奏楽部の先輩のことを教えてほしいんだけど。樹里先輩、だっけ」
「樹里先輩のこと?」
春見さんは不思議そうな顔をしたあと、少し考え込んだ。
「なに、うそ。もしかして来栖君も樹里先輩のことが」
「違う違う違う! えっと、吹奏楽部に興味があって! 有名な先輩のことを知りたいなぁ、なんて」
やばい、怪しまれた。とりあえず笑ってごまかすしかない。
「入部希望なの?」
「うんうんうん。考えてるとこ、なんだ。ははっ」
「そうなんだぁ。嬉しい。そういうことならなんでも訊いて」
どん、と春見さんは胸を叩いた。本当に申し訳ない。だけど僕も他に頼れる人がいない。ここは心を鬼にして挑むんだ。覚悟は……できている。まずは部活に関係のあることから質問していこう。
「樹里先輩はなんの楽器をしているの?」
「トランペットで、高校から始めたらしいよ。トランペットにもう一人男子の先輩がいるんだけど、その人と一緒に入ったみたい」
「そうなんだ。樹里先輩って何年生なの?」
「二年生。一年生のときからちょっとサボりがちだったみたいだね」
「練習に集中できなかったんだっけ」
「うん。文化祭でやった、吹奏楽部の演奏会がきっかけらしいの。ちょうどステージの真ん中あたりのポジションだったから、『あのイケメンは誰?』って目立って人気が爆発したんだって。でも、わかる。私も去年見にきて、一目惚れしちゃったんだ。本当にかっこいいもん」
桜田さんパワー恐るべし。僕は激しくうなずいた。
「だけど、樹里先輩って目立つことが好きじゃなくて……それがきっかけで人が多い所には現れなくなって、学校で探すのすっごく大変なんだよね。いつもどこにいるんだろう」
「春見さんでも見つけられないの?」
「うーん。やっぱり二年生の教室って行きにくいよ。それにけっこう騒がしいからね。静かな場所に避難してるのかなぁ」
ああ、それで「秘密の場所」か。実習棟は吹奏楽部なら部活でよく行くだろう。人から逃げ回っているときに、見つけたのかもしれないな。
だけど今は。
「来てないんだよなぁ」
「え? なに?」
「なんでもないよ」しまった。声に出ていた。
「来栖君……やっぱり吹奏楽部じゃなくて、樹里先輩に興味があるんじゃないの? 部活のことをちっとも質問しないじゃん」
春見さんがじっとりと疑いの目を向けてくる。
確かに桜田さんのことしか訊いていない。もしかして、さっきからミスばかりしている? まずい。なんとかしないと。
あ……そうだ!
「いてて! やばい、お腹痛くなってきた! これはトイレに行かないと……春見さん、ありがとう」
「え、え、大丈夫?」
腹部を押さえながら、よろよろと教室の外へ脱出した。「お腹が弱いキャラ」に心の底から感謝したい。中田、この嘘が役に立つ日がくるとは思わなかったよ。ありがとう。
そのあとの六時間目の授業は集中できず、なにをやっていたのか記憶がない。放課後になり、念のため実習棟へ行ってみるも、やっぱり桜田さんはいなかった。
吹奏楽部の練習の音を聞きながら、他にあてはないのかよく考えてみる。
『けっこう騒がしいから、静かな場所に避難してるのかなぁ』
静かな場所、か。
僕は、出会ったときからのことを思い返してみた。
そうだ、あそこがあるじゃないか。
僕と桜田さんを繋ぐ場所は、もう一つあったのだ。
入学式の日、桜の木の下で出会い、再会し、それから行ったあのお店。
喫茶店チェリーだ。
桜田さんが注目されることはなかったし、店内は静かで穏やかな時間が流れていた。
彼の本来の目的はプリンだったと思うけど、お店のこともかなり気に入った様子だった。リラックスして、素に近い表情が見られた気がする。
僕はあれから喫茶店へ行っていない。もしかしたら。
行き先が決まった。あの日をなぞるように、桜祭りの川へ向かう。
同じ道を辿れば、どこかで桜田さんに会えるような気がしたからだ。
桜並木の川に来たのはあの日以来だった。だけど川沿いの桜はほぼ残っておらず、桜祭りの看板も撤去されている。あのとき見た光景は、幻だったのだろうか。僕と桜田さんが一緒に歩いたことも、なかったかのような。そんな錯覚を覚え、胸がちくりと痛んだ。
さくら商店街は今日もがらんとしていた。今思えば、この商店街でさえ、桜田さんにとってはリラックスできる所だったのかも。人から注目されるというのはどういう気分なんだろう。地味な僕には縁のない話で、想像もできない。
喫茶店チェリー。あの日と変わらず、レトロな看板と食品サンプルが目を引く。
あんなに緊張していたのが、もはや懐かしい。今は別の意味で緊張しているけど。
ドアの前で何度も深呼吸し、気持ちを落ち着かせてから中へ入った。
「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ」
二回目とはいえ一人は心細い。挨拶してくれた店員さんのにこやかな笑顔に救われる。
今日も店内のお客さんは少なく、静かなジャズがよく聴こえた。桜田さんが来ていないことがすぐにわかり、僕は肩を落とした。
入ってすぐ出ていくわけにもいかず、ひとまず近くの席に座る。注文、どうしよう。
「お決まりですか?」
「あっ、はい、じゃあオレンジジュースで」
店員さんが注文の確認にきてしまい、慌てて記憶にあったものを頼んだ。
それにしても、待っている間することがなく落ち着かない。無意識にリュックに手を伸ばしかけて、やめた。こういう場所でスマホを触るのは違う気がする。
他のお客さんをちらっと観察してみた。カウンターでマスターとお喋りしている女性がいる。大学生くらいの男性は読書をし、おじいさん二人組はコーヒーを飲みながら談笑中だ。
みんなこの空間を満喫しているようにみえた。ここは、そういう楽しみ方をする場所なのだと思う。一人で画面とにらめっこするなんてもったいない。桜田さんが安心するのは、きっとこういう所なんだ。
また、一緒に来たいな。
オレンジジュースを飲みながら、ゆったりした時間を過ごした。
そろそろ帰ろうと席を立ち、レジでお金を払ったあと、近くのミニテーブルにあるピンクのノートが目に入った。以前、桜田さんのあとに、僕もこっそりメッセージを書いたノートだ。
「お客さんが自由にメッセージを書けるノートなんです」
店員さんが僕の視線に気づき、声をかけてきた。
「実は……書いたことがあって」
「そうなんですか? ありがとうございます。もしかして……この前来てくれた学生さんかしら」
「たぶん僕たちだと思います」
「やっぱり。制服が同じだからそうなのかなとは思ったけど、嬉しいです」
笑顔を向けられ、なんだか照れくさかった。お店の人と雑談する経験は初めてだ。なにか気の利いたことを言ったほうがいいのか。このあとなにを言えばいいのか。
「今日はお一人なんですね」
「え?」
「前は二人で来てくれていたから」
「たまには一人で来たいなぁと」
言わなくていい嘘をついてしまった。
でも、けっこういい時間を過ごせた。桜田さんには会えなかったけど、来てよかったと思う。
「お友達も一人で来てくれていたから……待ち合わせかと思っちゃいました」
「え!?」
思わず大きな声を出してしまった。店員さんはびっくりしている。
「すみません。あの、もう一人が来てたのは今日ですか?」
「あ、はい。でも、確か三日くらい前から、毎日来てくれていると思います」
今日、来ていた。しかも三日前から毎日?
「うちは高校生のお客さんなんて滅多に来ないから、お店で話題だったんです。今日はノートにメッセージを書いてくれたんですよ。あなたが来る前に帰ってしまったけれど……あ、お客さんだわ。引きとめちゃってすみません。よかったらまた来てくださいね」
ドアベルが鳴り、お客さんが入ってきた。僕は邪魔にならないよう端に寄る。
頭の中でいろいろなことが駆け巡っていく。
僕はノートを手に取り、唾を飲み込んだ。桜田さんがさっきまでいたと考えるだけで、胸がざわざわする。
ぱらぱらページをめくっていると、最後のほうに今日の日付入りのメッセージがあった。
なんてことのない、お店への感想文だ。桜田さんが書いたものかもしれないと思い、前回のメッセージを確認する。この字の形、きっとそうだ。
あ、またプリンを食べたんだ。桜田さんは本当に甘いものが好きだな。三日連続で来るということは、よっぽど気に入っているらしい。
少し丸っこい文字を指でなぞった。
だけど少し癖のある文章というか、変なところで改行されていて読みづらい。桜田さんらしいといえば、らしいのかな。
もう行こう、とノートを閉じようとして、ある違和感を覚えた。これ、もしかして。
今度はメッセージの左端の文字を指でなぞりながら、視線を上から下へと滑らせていく。
それを読んで僕は居ても立っても居られなくなり、お店の外へ飛び出していた。
なんでこんなことをするんだ、桜田さん。
やっぱり、あなたの考えていることがわからないよ。
でも今すぐ会いたい。それだけは、僕のその気持ちだけはわかる。


