ヤバ澤くんに二言はない

 祈りながら自分の受験番号をスマホ画面に入力した大輝は、照会ボタンをタップしてぎゅっと目をつぶった。

「っ……」

 怖い。心臓が張り裂けそうだった。全身が嫌な汗でベタベタする。
 何度か深呼吸し、それでも決心がつかず「ハアッ!」とよく分からない気合を発し、そろそろと薄目を開ける。

「合格」の二文字が見えた。

「う、あ、ああああー!」

 奇声をあげながらスクショを撮り、まだパートから帰ってきていない母と祖母に送る。階段を転がり落ちそうになりながら降り、隣の長澤家のインターホンを連打する。

「ちょ、うるさいよ大輝、何……」

 のてのてと芝生の上を歩いてくる怜を待ちきれず、勝手にくぐり戸を開けて入る。

「受かった! 怜! 受かってた!!」

 飛び掛かるように怜に抱きつき、「ほらほらほら見て」とスマホの画面を怜の顔面に押し付ける。

「近いって」

 言いながら頭を引いた怜は大輝のスマホ画面を見て「あっ、本当だ」と微笑した。

「合格おめでとう、大輝」
「な、なんか反応薄くね?」
「えー、だって大輝なら受かると思ってたし……」

 わふわふ、と理由も分からず楽しそうな顔で走り回るコタローを撫でながら、長澤家にお邪魔する。リビングに向かうと、怜のお母さんが掃除機をかけているところだった。

「おばさん、合格しました!」

 再度スマホ画面を突きつけると、掃除機を止めた怜の母は「おめでとう、大輝くん」と怜そっくりの表情で微笑んだ。

「にしても……本当にいいの? 怜も一緒に連れていくなんて……」
「あ、大丈夫です、母からの許可は取りました」
「でもあの子仕事とかもまだ……」

 ちらりとダイニングテーブルに向けられた、怜の母の視線を追う。厚めの本が伏せられ、横に電卓とノートが置かれていた。

「日商……簿記?」
「ちょっ、と! いいでしょ別に!」

 大輝がタイトルを読み上げると、怜がテキストと電卓、ノートを自分の後ろに隠した。

「何? 怜がやってんのそれ」
「ど、どうだっていいだろ!」

 見られたことがそんなに恥ずかしいのか、怜の頬は赤くなっている。
(え、何、俺との新生活に向けてこっそり資格取得するつもりだった……とか?)
 何それ、と思う。
 かわいすぎる。
(やっぱり俺、怜のこと大好きだわ)
 にやけながら見ていると、視線を逸らした怜が言い訳がましく口を尖らせた。

「う、受かるかどうかわかんないし……別に……そんな……」
「まあどうせ、俺のところに永久就職するからな」

 さらりと言うと、怜が目を見開いたまま固まった。
 無言のまま、頬どころか顔全体、首まで赤くなっていく。

「う……うっせ、馬鹿」

 簿記のテキストで小突いてくる怜に、大輝はけらけらと笑った。