大学に行ったら、怜とは遠距離恋愛をすればいい。
そう考えていた大輝だったが、それは意外と簡単なことではなかったらしい、と思い知るのに大した時間はかからなかった。
メッセージで、その日あったことやおはよう、おやすみの挨拶は送り合っている。タイミングの合うときは少しだけだが通話もする。
だが、足りない。
毎日一緒に何時間も過ごすのが当たり前になっていた、というのもあるだろう。だが、それを抜きにしても寂しい。
下手に家が隣にあるせいで、コタローの散歩の時間になると出かける怜を探してしまうし、こちらに面した怜の部屋の中で動く人影が気になってしょうがない。前よりも怜のことを考えている時間が長いのではないかとすら思える。
(怜は……平気なのかな)
「会うのやめようか」と言われたときの表情を思い出すと、少し怖くなる。
本当は、怜は自分になんか会わなくても全然平気なのではないか。
だが、少し骨ばった大きな手に触りたかった。ハッカの飴を食べても、怜からしていたあの少し甘くて冷たい匂いには物足りない。あの唇の柔らかくて、なのに少しカサついた感触は、はっきりと思い出せるせいで余計にもどかしかった。
受験日は来てほしくないが、早くクリスマスにはなってほしい。
矛盾した思いを抱えながら大輝が過ごしているうちに2学期も終わり、何とか冬休みに入り、12月25日になる。
その日、いつになく朝早く起き出した大輝を見て、呆れ顔の母がため息をついた。
「全く、こういう時だけ早起きね」
「い、いいだろ別に」
「いいけど。母さんも私もパート行くから、洗濯物はやっといてよね。あと出かけるなら戸締り忘れないでね」
「はーい」
母と祖母を見送ってから、残されていたご飯でお茶漬けを食べる。言われた通り洗濯物を干しに庭に出た大輝は、隣の長澤家を仰ぎ見た。いつもよりなんだか綺麗になったように見えるのは気のせいだろうか。
(ついに……ついに今日が来た!)
目の前にあるあの家で、怜に会えるのだ。
約束の時間までまだあるのに、何をしていても落ち着かない。無理やり時間を潰そうと英単語帳などを開いてみるものの、一向に頭に入ってこなかった。
(会いたい、けどさすがにそんなに早く行くと迷惑だよな……でも……)
15分前なら多分セーフだろう。
そう判断した大輝は言われた通り戸締りをして、母に渡された手土産を持って家を出た。
駆け足で隣の家に向かい、インターホンを押す。鳴り終わらないうちに、玄関から怜とコタローが駆け出してきた。
「怜!」
門の柵の内側に手を突っ込み、くぐり戸の鍵を外す。中に入った大輝が腕を広げると、怜より先にコタローが飛び掛かってきた。
「うわっ!」
コタローも待っていてくれたのだろうか。あっという間に顔じゅうがよだれまみれになる。
「もう! コタロー!」
コタローを引き剥がすようにして、怜も大輝に抱きついてきた。近づいてきた顔は、記憶の中にある怜よりも数倍かわいい。
ぎゅっと抱き締められただけで、胸が一杯になって全身がドキドキと熱くなってくる。
「会いたかったよ、大輝」
「俺も」
抱きしめ返した腕に細身だが硬い怜の体を感じ、本当に会えたんだ、と嬉しくなる。
目をキラキラさせてまとわりついてくるコタローと庭でボール遊びをしてから、長澤家の中に入る。お邪魔します、と声をかけた家の中はしんとしていた。
「あれ、おばさんいないの? 手土産持ってきたんだけど」
「あ、今日コーラスサークルでどっかの病院行ってる」
「へえ。なんか……クリスマス的ななにか?」
「多分」
ダイニングの机の上に焼き菓子を置く。
適当に頷いた怜に促され、大輝は2階の部屋に向かった。
「いま飲み物持ってくから」
そう言って後から来た怜は、トレーにグラスとケーキ、それからなぜかキャベツの千切りが盛られた小鉢を持っていた。
「ありが……とう?」
そのキャベツは何だ。
不審に思いながら見ていると、大輝のケーキの横にキャベツの小鉢がサーブされる。
「……これなに?」
「キャベツ」
「いやそれは知ってっけど」
謎なのは今なぜ出てくるかということである。指差された小鉢を見た怜は、きょとんと首を傾げた。
「大輝、大好物でしょ?」
「……ああ!」
ようやく合点のいった大輝は吹き出した。
「言った! 言ったわ確かに! 前な! 長澤家産キャベツ貰ったときな!」
そんな一言を覚えていてくれたのは嬉しい。でも今ではない。絶対に今ではない。
笑いの止まらない大輝を見て、「何さ」と怜が口を曲げた。
「いや好きだよキャベツ。好きだけどケーキとは合わねえだろ……って……!」
「知らないし。好きなら嬉しいかなって……思っただけじゃん!」
「いやそれはありがたいけど、でもあとせめて、せめてなんか……調味料! ドレッシングかマヨネーズ欲しいってこれは」
ひいひいと笑っていた大輝を、顔を真っ赤にした怜が睨みつけてきた。
手が伸びてきて、ぐるりと視界が揺れる。
あれ、と思ったときには怜の顔が真上にあった。組み敷かれている。
「……そんなに笑わなくてもいいだろ」
逆光になった怜の声が低く聞こえる。
鋭く見下されて、体がぞわりと震える。
「っ、ごめ……」
答える前に、暴力的なキスが降ってきた。
「んっ」
奥まで怜の舌が入ってくる。驚いてばたつかせた両手首を掴まれ、床に押しつけられる。上に座られて身動きが取れない。
蹂躙するように舐め回され、思うさま嬲られてから解放される。
それだけで、大輝の頭は痺れたようになっていた。
「れい……」
見上げた怜の眼光はどろりと濡れたような――獲物を捕らえた犬のような光を発していた。
はじめて見せる怜の表情に、怖い、と思うと同時に、全身がぞくぞくと喜びに震えてしまう。
求められている。自分が。
このままだとまずいかも、と考える理性は、簡単に本能に吹き飛ばされてしまう。
「好きだよ、大輝」
「うん、好き……」
答えると、何度もキスが降ってくる。
久しぶりに怜と触れ合うせいだろうか。幸せすぎて、目の前の怜以外のすべてがどうでもよくなっていく。
「ごめん、ずっと大輝のこと我慢してたから……もう無理……」
息を弾ませた怜に告げられた時は、大輝も同じ気持ちだった。
ベッドに移動し、生まれたままの姿になる。獣のように貫かれた時には、体が幸せで弾けそうだった。
「大輝が女の子だったらよかった」
耳元で言われ、大輝は上にいる怜を朦朧と見上げた。
「怜……?」
「そうしたら、妊娠させて……俺のものにできたのに」
「……っ」
嬉しさで、息が詰まった。
会わない、と怜から言われて、ずっと会いたかったのも、好きだったのも、自分ばかりかと思っていた。
そこまで自分を手放したくないと思ってくれていたなんて。
そんなことしなくても、自分は怜のものなのに。
「……ずっと一緒にいるよ、怜」
伸ばした手を、怜の背中に回した。
そう考えていた大輝だったが、それは意外と簡単なことではなかったらしい、と思い知るのに大した時間はかからなかった。
メッセージで、その日あったことやおはよう、おやすみの挨拶は送り合っている。タイミングの合うときは少しだけだが通話もする。
だが、足りない。
毎日一緒に何時間も過ごすのが当たり前になっていた、というのもあるだろう。だが、それを抜きにしても寂しい。
下手に家が隣にあるせいで、コタローの散歩の時間になると出かける怜を探してしまうし、こちらに面した怜の部屋の中で動く人影が気になってしょうがない。前よりも怜のことを考えている時間が長いのではないかとすら思える。
(怜は……平気なのかな)
「会うのやめようか」と言われたときの表情を思い出すと、少し怖くなる。
本当は、怜は自分になんか会わなくても全然平気なのではないか。
だが、少し骨ばった大きな手に触りたかった。ハッカの飴を食べても、怜からしていたあの少し甘くて冷たい匂いには物足りない。あの唇の柔らかくて、なのに少しカサついた感触は、はっきりと思い出せるせいで余計にもどかしかった。
受験日は来てほしくないが、早くクリスマスにはなってほしい。
矛盾した思いを抱えながら大輝が過ごしているうちに2学期も終わり、何とか冬休みに入り、12月25日になる。
その日、いつになく朝早く起き出した大輝を見て、呆れ顔の母がため息をついた。
「全く、こういう時だけ早起きね」
「い、いいだろ別に」
「いいけど。母さんも私もパート行くから、洗濯物はやっといてよね。あと出かけるなら戸締り忘れないでね」
「はーい」
母と祖母を見送ってから、残されていたご飯でお茶漬けを食べる。言われた通り洗濯物を干しに庭に出た大輝は、隣の長澤家を仰ぎ見た。いつもよりなんだか綺麗になったように見えるのは気のせいだろうか。
(ついに……ついに今日が来た!)
目の前にあるあの家で、怜に会えるのだ。
約束の時間までまだあるのに、何をしていても落ち着かない。無理やり時間を潰そうと英単語帳などを開いてみるものの、一向に頭に入ってこなかった。
(会いたい、けどさすがにそんなに早く行くと迷惑だよな……でも……)
15分前なら多分セーフだろう。
そう判断した大輝は言われた通り戸締りをして、母に渡された手土産を持って家を出た。
駆け足で隣の家に向かい、インターホンを押す。鳴り終わらないうちに、玄関から怜とコタローが駆け出してきた。
「怜!」
門の柵の内側に手を突っ込み、くぐり戸の鍵を外す。中に入った大輝が腕を広げると、怜より先にコタローが飛び掛かってきた。
「うわっ!」
コタローも待っていてくれたのだろうか。あっという間に顔じゅうがよだれまみれになる。
「もう! コタロー!」
コタローを引き剥がすようにして、怜も大輝に抱きついてきた。近づいてきた顔は、記憶の中にある怜よりも数倍かわいい。
ぎゅっと抱き締められただけで、胸が一杯になって全身がドキドキと熱くなってくる。
「会いたかったよ、大輝」
「俺も」
抱きしめ返した腕に細身だが硬い怜の体を感じ、本当に会えたんだ、と嬉しくなる。
目をキラキラさせてまとわりついてくるコタローと庭でボール遊びをしてから、長澤家の中に入る。お邪魔します、と声をかけた家の中はしんとしていた。
「あれ、おばさんいないの? 手土産持ってきたんだけど」
「あ、今日コーラスサークルでどっかの病院行ってる」
「へえ。なんか……クリスマス的ななにか?」
「多分」
ダイニングの机の上に焼き菓子を置く。
適当に頷いた怜に促され、大輝は2階の部屋に向かった。
「いま飲み物持ってくから」
そう言って後から来た怜は、トレーにグラスとケーキ、それからなぜかキャベツの千切りが盛られた小鉢を持っていた。
「ありが……とう?」
そのキャベツは何だ。
不審に思いながら見ていると、大輝のケーキの横にキャベツの小鉢がサーブされる。
「……これなに?」
「キャベツ」
「いやそれは知ってっけど」
謎なのは今なぜ出てくるかということである。指差された小鉢を見た怜は、きょとんと首を傾げた。
「大輝、大好物でしょ?」
「……ああ!」
ようやく合点のいった大輝は吹き出した。
「言った! 言ったわ確かに! 前な! 長澤家産キャベツ貰ったときな!」
そんな一言を覚えていてくれたのは嬉しい。でも今ではない。絶対に今ではない。
笑いの止まらない大輝を見て、「何さ」と怜が口を曲げた。
「いや好きだよキャベツ。好きだけどケーキとは合わねえだろ……って……!」
「知らないし。好きなら嬉しいかなって……思っただけじゃん!」
「いやそれはありがたいけど、でもあとせめて、せめてなんか……調味料! ドレッシングかマヨネーズ欲しいってこれは」
ひいひいと笑っていた大輝を、顔を真っ赤にした怜が睨みつけてきた。
手が伸びてきて、ぐるりと視界が揺れる。
あれ、と思ったときには怜の顔が真上にあった。組み敷かれている。
「……そんなに笑わなくてもいいだろ」
逆光になった怜の声が低く聞こえる。
鋭く見下されて、体がぞわりと震える。
「っ、ごめ……」
答える前に、暴力的なキスが降ってきた。
「んっ」
奥まで怜の舌が入ってくる。驚いてばたつかせた両手首を掴まれ、床に押しつけられる。上に座られて身動きが取れない。
蹂躙するように舐め回され、思うさま嬲られてから解放される。
それだけで、大輝の頭は痺れたようになっていた。
「れい……」
見上げた怜の眼光はどろりと濡れたような――獲物を捕らえた犬のような光を発していた。
はじめて見せる怜の表情に、怖い、と思うと同時に、全身がぞくぞくと喜びに震えてしまう。
求められている。自分が。
このままだとまずいかも、と考える理性は、簡単に本能に吹き飛ばされてしまう。
「好きだよ、大輝」
「うん、好き……」
答えると、何度もキスが降ってくる。
久しぶりに怜と触れ合うせいだろうか。幸せすぎて、目の前の怜以外のすべてがどうでもよくなっていく。
「ごめん、ずっと大輝のこと我慢してたから……もう無理……」
息を弾ませた怜に告げられた時は、大輝も同じ気持ちだった。
ベッドに移動し、生まれたままの姿になる。獣のように貫かれた時には、体が幸せで弾けそうだった。
「大輝が女の子だったらよかった」
耳元で言われ、大輝は上にいる怜を朦朧と見上げた。
「怜……?」
「そうしたら、妊娠させて……俺のものにできたのに」
「……っ」
嬉しさで、息が詰まった。
会わない、と怜から言われて、ずっと会いたかったのも、好きだったのも、自分ばかりかと思っていた。
そこまで自分を手放したくないと思ってくれていたなんて。
そんなことしなくても、自分は怜のものなのに。
「……ずっと一緒にいるよ、怜」
伸ばした手を、怜の背中に回した。
