忌み夜の花嫁は雨を待つ

白珠(しらたま)様!』

 遠い記憶の中で、ふわふわした黄金色が揺れる。

『白玉様、どうぞお花です!』

 にこにこしながら走ってきたのは生け贄となってやってきた少年で手にはオレンジ色の花をたくさん持っている。
 この街にはとても珍しい黄金色の髪を揺らし、空のように青い瞳を輝かせるその姿はこの世の者とは思えないほど美しい。

『手が泥だらけじゃないか』

 小さな手に触れると、彼は白い歯を見せる。
 食材を取りに行くと張り切って出ていったと思ったらこれだ。
 いつも食材と同じくらいたくさんの花をどこからともなくつんできてはもらってくれと手渡してくる。

『白珠様にお似合いだと思って』

信玄(しんげん)、気持ちはとても嬉しいけど、草花も生きている。無駄に命を奪ってしまうのはよくないよ』

『……そ、そうですね』

 言ってしまえば目に見えてしょんぼりして見せた。
 彼の世界はとても狭く、こちらの顔色ばかり伺っている。

『いや、いい。食卓に飾ってくれるか?』

『は、はい!』

 彼は生き返ったように飛び上がり、大きく頷く。
 まるで晴れ渡った太陽のように明るい。
 まるで対局の存在である。

『白珠様』

『ん?』

 強い風が吹く。
 振り返った先に少年の姿はない。
 代わりにいたのは、大きな背丈の立派な青年だった。

珠子(たまこ)

 青年は笑う。
 小さな小さな信玄と同じ笑顔で。
 そして言うのだ、

『珠子、愛してる』と。

 それは初めて見る表情でこんな艶めいた声を出せるようになったのだな、などとしみじみ思う。

 差し出された手をとろうとしてしまう。
 甘い言葉の代償に命が狙われているのだと知っていても。
 わたしは誰にも愛されず、命の灯火を消すことさえ叶わない。
 何年も何年も時を超えて、幾つもの歴史を見守り、ずっとずっとひとり孤独に生きていく。

 だからこそ、このひとときの夢に溺れてしまいたかった。