いよいよやってきた文化祭当日。抜けるような青空が広がり、絶好のイベント日和だ。
校門にはド派手な看板が掲げられ、校舎に囲まれた中庭には屋外特設ステージが組まれている。有志発表が始まるのは午後からで、ナギ様の圧倒的な知名度と人気の期待値から、俺たちのダンスチームは最後のトリを飾る予定だ。
カラフルな装飾やバザーの店で華やかに彩られた廊下を抜け、すっかり神聖な空間と化した我が教室へ入ると――そこには、すでに着替えを済ませた神、ナギ様が鳥居の向こうに降臨されていた。
純白の生地に繊細な金の刺繍が施された狩衣を纏ったナギ様は、まさに神そのものの美しい神々しさを放っている。その圧倒的な存在感に、俺は『ダチ』を演じることすら忘れ、思わずその場で両手を合わせて拝んでしまった。
……さて、気になる俺の狛犬役の衣装はというと。
「……ただの犬の着ぐるみじゃねーか!!」
いや、なんとなくそんな気はしていた。だが、周りが和テイストでバシッと決めている中、俺だけ着ぐるみって浮きすぎてやしないか!? しかも、生地がモコモコしていてめちゃくちゃ暑苦しい!
「よお、似合ってんじゃねーか、廣崎」
ふてぶてしい声をかけてきたのは相沢だった。漆黒のシックな神主衣装を無駄に着こなしていて、無性に腹が立つ。
「うるせーよ! これは一番機動性が高いんだよ!」
「まあ、お前は番犬なんだから、しっかり神をお護りしろよ」
相沢は嫌みな捨てゼリフを残し、俺の肩をバンと叩いてナギ様のもとへ向かって行った。
そのまま一軍たちとともに、ナギ様と相沢を含めた撮影会が始まってしまう。悔しいが、二人のビジュアルはあまりにも絵になりすぎていた。俺だってナギ様と写真の一枚くらい撮りたいが、あのキラキラした輪に入っていけば、狛犬どころか野良犬として容赦なく追い出されるのが目に見えている。
ナギ様の肩に馴れ馴れしく手を回し、顔を寄せる相沢に、胸の奥からドロドロとした激しい殺意が込み上げた。今すぐ駆け寄っていって、その薄汚い腕を噛みちぎってやりたい。
「あらあら〜、ワンちゃん、飼い主とはぐれちゃったの〜?」
裏返った気味の悪い声を出しながら、巫女服姿でクネクネと近づいてきたのは遊李だ。声はキモいが、もともと細身で女顔の遊李の女装は悔しいほど似合っているだけに、余計にイラつく。どいつもこいつも俺をバカにしやがって!
「お前もうるせーよ! 俺は遠くからそっとナギ様を見守っていられればいいんだよ!」
「そんなこと言って〜。本当は今すぐ飼い主さんの胸に飛び込んでいきたいくせにぃ〜」
「そんなわけねーだろ!!」
指先で頬をツンツンしてくる遊李の手をバシンと払いのけると、奴はニヤニヤしながらノリノリで踊るように去っていった。
ダーク神主とチャラ巫女……この神社は一体どうなっているんだ。俺もいじけている場合じゃない! 神に仕える狛犬として、しっかりナギ様をお護りせねば!
こうして始まった『ナギ様神社』は、開店直後から参拝者の長蛇の列が出来上がった。本物のナギ様を一目見ようと、他校の女子生徒や近所の人々が押し寄せ、教室の中は一瞬でごった返した。お守りなどの限定グッズも飛ぶように売れ、午前中にはほぼ完売という恐ろしい盛況ぶりだ。
怒涛の混雑に対応する中、ナギ様は休憩をとる間もなく午後の時間帯へと突入してしまった。本殿の椅子に腰掛けるナギ様のお顔には、隠しきれない疲労の色が滲んでいる……。なんとかしてお助けしたいが、着ぐるみの狛犬にできることなど高が知れている。だいたい、あのダーク神主(相沢)はいつの間にかどこかへ遊びに行ってしまっていた。それでも神に仕える身か!
――その時だった。教室のスピーカーから、突如としてマイクのハウリング音が響いた。
『えー! みなさんお待たせしました! 今から『ナギ様神社』特別企画――ナギ様との直接握手会を開催しまーす! 神のご利益を直接授かる大チャンスです!』
な、なんだってーーー!!?
俺も並びたい! ……って、違う違う違う!!
ただでさえ密集していた教室に、そのアナウンスを聞きつけた人々が廊下から一斉に雪崩れ込んできた。
「ナギ様に触れるの!?」と興奮した群衆が我先にと押し寄せ、境内(教室)は一瞬で暴動寸前の大混乱に陥る。
このままじゃマズい! 実行委員もこの予想外の事態にパニックを起こし、ただオロオロと立ち尽くすばかりだ。人だかりの波は本殿へと押し寄せ、今にもナギ様を飲み込もうとしていた。
ナギ様が他人に触られてしまう!
ナギ様が、紀織が危険だ!!
「――紀織っ!!」
そう叫んだ瞬間、俺の身体は動いていた。
人をかき分け、猛然と人だかりの波を押し破ってナギ様のもとへとひた走る。
「真白……っ!?」
驚きに瞳を揺らすナギ様のもとへたどり着くと、俺は差し出されたそのしなやかで綺麗な手首を、迷わず強く掴み取った。
「紀織、逃げるぞ!」
強引に手を引っ張り、パニックと熱気に包まれた教室から廊下へと飛び出す。
後ろから上がる歓声や悲鳴を置き去りにし、俺はナギ様の手を一度たりとも離さぬよう固く握りしめたまま、誰追ってこられない場所を目指して、全速力で校舎を駆け抜けていったのだった。
校門にはド派手な看板が掲げられ、校舎に囲まれた中庭には屋外特設ステージが組まれている。有志発表が始まるのは午後からで、ナギ様の圧倒的な知名度と人気の期待値から、俺たちのダンスチームは最後のトリを飾る予定だ。
カラフルな装飾やバザーの店で華やかに彩られた廊下を抜け、すっかり神聖な空間と化した我が教室へ入ると――そこには、すでに着替えを済ませた神、ナギ様が鳥居の向こうに降臨されていた。
純白の生地に繊細な金の刺繍が施された狩衣を纏ったナギ様は、まさに神そのものの美しい神々しさを放っている。その圧倒的な存在感に、俺は『ダチ』を演じることすら忘れ、思わずその場で両手を合わせて拝んでしまった。
……さて、気になる俺の狛犬役の衣装はというと。
「……ただの犬の着ぐるみじゃねーか!!」
いや、なんとなくそんな気はしていた。だが、周りが和テイストでバシッと決めている中、俺だけ着ぐるみって浮きすぎてやしないか!? しかも、生地がモコモコしていてめちゃくちゃ暑苦しい!
「よお、似合ってんじゃねーか、廣崎」
ふてぶてしい声をかけてきたのは相沢だった。漆黒のシックな神主衣装を無駄に着こなしていて、無性に腹が立つ。
「うるせーよ! これは一番機動性が高いんだよ!」
「まあ、お前は番犬なんだから、しっかり神をお護りしろよ」
相沢は嫌みな捨てゼリフを残し、俺の肩をバンと叩いてナギ様のもとへ向かって行った。
そのまま一軍たちとともに、ナギ様と相沢を含めた撮影会が始まってしまう。悔しいが、二人のビジュアルはあまりにも絵になりすぎていた。俺だってナギ様と写真の一枚くらい撮りたいが、あのキラキラした輪に入っていけば、狛犬どころか野良犬として容赦なく追い出されるのが目に見えている。
ナギ様の肩に馴れ馴れしく手を回し、顔を寄せる相沢に、胸の奥からドロドロとした激しい殺意が込み上げた。今すぐ駆け寄っていって、その薄汚い腕を噛みちぎってやりたい。
「あらあら〜、ワンちゃん、飼い主とはぐれちゃったの〜?」
裏返った気味の悪い声を出しながら、巫女服姿でクネクネと近づいてきたのは遊李だ。声はキモいが、もともと細身で女顔の遊李の女装は悔しいほど似合っているだけに、余計にイラつく。どいつもこいつも俺をバカにしやがって!
「お前もうるせーよ! 俺は遠くからそっとナギ様を見守っていられればいいんだよ!」
「そんなこと言って〜。本当は今すぐ飼い主さんの胸に飛び込んでいきたいくせにぃ〜」
「そんなわけねーだろ!!」
指先で頬をツンツンしてくる遊李の手をバシンと払いのけると、奴はニヤニヤしながらノリノリで踊るように去っていった。
ダーク神主とチャラ巫女……この神社は一体どうなっているんだ。俺もいじけている場合じゃない! 神に仕える狛犬として、しっかりナギ様をお護りせねば!
こうして始まった『ナギ様神社』は、開店直後から参拝者の長蛇の列が出来上がった。本物のナギ様を一目見ようと、他校の女子生徒や近所の人々が押し寄せ、教室の中は一瞬でごった返した。お守りなどの限定グッズも飛ぶように売れ、午前中にはほぼ完売という恐ろしい盛況ぶりだ。
怒涛の混雑に対応する中、ナギ様は休憩をとる間もなく午後の時間帯へと突入してしまった。本殿の椅子に腰掛けるナギ様のお顔には、隠しきれない疲労の色が滲んでいる……。なんとかしてお助けしたいが、着ぐるみの狛犬にできることなど高が知れている。だいたい、あのダーク神主(相沢)はいつの間にかどこかへ遊びに行ってしまっていた。それでも神に仕える身か!
――その時だった。教室のスピーカーから、突如としてマイクのハウリング音が響いた。
『えー! みなさんお待たせしました! 今から『ナギ様神社』特別企画――ナギ様との直接握手会を開催しまーす! 神のご利益を直接授かる大チャンスです!』
な、なんだってーーー!!?
俺も並びたい! ……って、違う違う違う!!
ただでさえ密集していた教室に、そのアナウンスを聞きつけた人々が廊下から一斉に雪崩れ込んできた。
「ナギ様に触れるの!?」と興奮した群衆が我先にと押し寄せ、境内(教室)は一瞬で暴動寸前の大混乱に陥る。
このままじゃマズい! 実行委員もこの予想外の事態にパニックを起こし、ただオロオロと立ち尽くすばかりだ。人だかりの波は本殿へと押し寄せ、今にもナギ様を飲み込もうとしていた。
ナギ様が他人に触られてしまう!
ナギ様が、紀織が危険だ!!
「――紀織っ!!」
そう叫んだ瞬間、俺の身体は動いていた。
人をかき分け、猛然と人だかりの波を押し破ってナギ様のもとへとひた走る。
「真白……っ!?」
驚きに瞳を揺らすナギ様のもとへたどり着くと、俺は差し出されたそのしなやかで綺麗な手首を、迷わず強く掴み取った。
「紀織、逃げるぞ!」
強引に手を引っ張り、パニックと熱気に包まれた教室から廊下へと飛び出す。
後ろから上がる歓声や悲鳴を置き去りにし、俺はナギ様の手を一度たりとも離さぬよう固く握りしめたまま、誰追ってこられない場所を目指して、全速力で校舎を駆け抜けていったのだった。

