『ナギ様神社』などという狂気極まりない出し物に決定してから、俺はこの神に与えられた試練にどう立ち向かうべきか、真剣に頭を抱えていた。
あれから一度、考え直すよう実行委員にかけ合ってみたものの、「決定事項だから」とさっぱり取り合ってもらえず、日ごとに『ナギ様神社』は現実のものとなろうとしていた。
しかも今日は役割決めがあり、俺は今、黒板に書かれた決定事項を見つめて絶望している。
【ナギ様神社・役割分担】
ナギ様 → 神(当然だ)
相沢 → 神主(気に食わないが、これがカースト頂点の権力か……!)
遊李 → 巫女(勝手に女装して目立ってろ!)
俺 → 狛犬(……って、人間じゃねーのかよ!!)
あからさまにスクールカーストの序列が反映されすぎていやしないか!?
「いいじゃん。狛犬は神様を守る重要な役目でしょ? マシロンにピッタリじゃん」
「うるせーよ! お前がこんな恐ろしい出し物を提案したせいで、俺は夜も眠れず悩んでるんだよ!」
俺の席の前でケラケラとお気楽に笑いながらスマホを操作している爆弾魔に、殺意しか湧いてこない。
「もー、どうすりゃいいんだよ……!」
「マシロンさー、そんなにダンスが踊りたいなら、ナギ様と二人で踊ったらいいじゃん」
「……へ?」
……神社で、神と狛犬が踊る……!? むむっ、シュールすぎてガチの笑いは取れそうだが、……って、
「ふざけたこと抜かしてんじゃねー!」
核爆弾とともに遊李を宇宙の果てまで蹴り飛ばしてやろうかと思った、その時だった。
「そうじゃなくてさー。有志でやるステージ発表があるじゃん? あのステージにナギ様と一緒に出れば?」
「……有志か。なるほど……!」
俺は今まで『ナギ様神社』を破壊することだけに全集中していた。だが、神社の方は最低限の監視にとどめておき、本命はこちらだ。ナギ様とステージに立ち、大勢の民衆の前で汗を流して踊れば、ナギ様が「神」ではなく「泥臭く熱い等身大の男子高校生」であることを証明できるのではないか!?
「遊李、お前は爆弾魔だが、たまには良い爆弾(アイデア)を落とすんだな!」
「おう! もしやるなら、撮影兼マネージャーは俺に任せてよ!」
「ああ! 遊李、お前、なかなかいいところがあるじゃないか!」
ガタッと勢いよく立ち上がった瞬間、遊李のスマホ画面に一瞬、『ナギ様ちゃんねる(仮)』なる物騒な文字が見えたのは気のせいだろうか……?
「遊李、それって……」
「よしマシロン! 何としてもナギ様を勧誘して、最高のパフォーマンスをしようぜ!」
「……お、おう!」
俺以上にテンションを上げている遊李に上手く誤魔化された気がしないでもないが……。
いや、それ以上に大問題なのは、ナギ様が俺と一緒に踊ってくださるかどうかだ。普通の人間に戻りたがっていらっしゃるとはいえ、人前に出てダンスを披露するのはハードルが高すぎるのではないか。
だが、これもすべてナギ様を「人間」にお戻しするためなのだ!
俺は意を決して、自席に戻られたナギ様へ向かった。
「……というわけで、有志のステージに出てみないか……?」
必死に事情を説明すると、ナギ様は少し考えるように静まり返られた。
「夏休みに練習とかもしなきゃいけないし、無理にとは言わないけど……」
ダンスの練習時間を取らせてしまうし、神社の準備もある。そう簡単に良い返事はもらえないだろう――そう思っていた、まさにその時だった。
(……そうか。夏休み中、真白とずっと一緒にいられるのか……)
ん? 今、何か微かな呟きが聞こえたような……?
「わかった。出るよ」
「えっ、あ、あっさり!?」
思わず拍子抜けして戸惑っていると、ナギ様がすっと距離を詰めてこられた。
「真白。夏休み、二人で一緒にたくさん練習しよう」
ぎゅっ、と両手を強く握りしめられ、熱を帯びた瞳で射抜かれる。
ドクン、と胸が跳ね上がり、身体が妙な熱を持ち始めた。
夕暮れの空き教室でナギ様――紀織と話して以来、俺の身体はどこかおかしい。わずかな接触や向けられる視線に、いちいち異常なほど心臓が高鳴ってしまうのだ。今だって、握られた手が熱くて、手汗がひどいことになっていないか焦ってしまう。
「どうしたの、真白。顔が赤いよ?」
さりげなく耳元に顔を寄せられ、低く艶っぽい声で囁かれる。
ゾクッと背筋に甘いシビレが走り、喉の奥がカサカサに乾いた。……なんだこの声、妙に色っぽすぎないか!?
いやダメだ、友達なのだから距離が近いのは当然だ! きっとナギ様も「ダチとして距離を縮めたい」と思ってくださっているに違いない。俺もこの距離感に慣れていかなければ、筆頭信徒――いや『親友』としての極秘任務を全うできないぞ!
「それじゃ、俺、後で申し込み用紙を出しておくから――」
「待てよ。そのダンスの企画、俺も混ぜろよ」
背後からひょっこり相沢が現れた。
「え!? ……いや、その……」
なんでよりによって相沢が入ろうとしてくるんだ!?
言葉を濁して視線を泳がせていると、相沢が無理やり俺の肩を掴んで振り向かせ、耳元で低く脅してきた。
「ふざけんな。勝手に紀織と二人きりになろうとしてんじゃねーよ」
恐ろしい圧のこもった声に、俺は相沢の面倒くさい嫉妬心を悟った。俺はお前のような邪な気持ちでナギ様に近づいているんじゃないと言い返したかったが、すぐ側にナギ様がいるのでグッとこらえた。
「……まあ、人数が多い方が盛り上がるし、俺はべつにいいけど……」
そう言ってナギ様へお伺いを立てようと視線を移すと、ナギ様はわかりやすく不快そうに眉を寄せ、深い溜息をついていらっしゃった。……まさか、まだ俺と相沢の「3P泥沼関係(※誤解)」を疑っていらっしゃるのか……!?
「じゃ、申し込み用紙に俺の名前も書いておけよ」
バンと図々しく俺の肩を叩いて去っていく相沢。ナギ様は「……しょうがないな」と苦々しく承諾してくださった。
こうして、俺、ナギ様、相沢、そして撮影係と称して裏で何やら怪しい動きを見せる遊李を含めた、カオスすぎる有志ダンスチームが結成されることとなったのだった。
あれから一度、考え直すよう実行委員にかけ合ってみたものの、「決定事項だから」とさっぱり取り合ってもらえず、日ごとに『ナギ様神社』は現実のものとなろうとしていた。
しかも今日は役割決めがあり、俺は今、黒板に書かれた決定事項を見つめて絶望している。
【ナギ様神社・役割分担】
ナギ様 → 神(当然だ)
相沢 → 神主(気に食わないが、これがカースト頂点の権力か……!)
遊李 → 巫女(勝手に女装して目立ってろ!)
俺 → 狛犬(……って、人間じゃねーのかよ!!)
あからさまにスクールカーストの序列が反映されすぎていやしないか!?
「いいじゃん。狛犬は神様を守る重要な役目でしょ? マシロンにピッタリじゃん」
「うるせーよ! お前がこんな恐ろしい出し物を提案したせいで、俺は夜も眠れず悩んでるんだよ!」
俺の席の前でケラケラとお気楽に笑いながらスマホを操作している爆弾魔に、殺意しか湧いてこない。
「もー、どうすりゃいいんだよ……!」
「マシロンさー、そんなにダンスが踊りたいなら、ナギ様と二人で踊ったらいいじゃん」
「……へ?」
……神社で、神と狛犬が踊る……!? むむっ、シュールすぎてガチの笑いは取れそうだが、……って、
「ふざけたこと抜かしてんじゃねー!」
核爆弾とともに遊李を宇宙の果てまで蹴り飛ばしてやろうかと思った、その時だった。
「そうじゃなくてさー。有志でやるステージ発表があるじゃん? あのステージにナギ様と一緒に出れば?」
「……有志か。なるほど……!」
俺は今まで『ナギ様神社』を破壊することだけに全集中していた。だが、神社の方は最低限の監視にとどめておき、本命はこちらだ。ナギ様とステージに立ち、大勢の民衆の前で汗を流して踊れば、ナギ様が「神」ではなく「泥臭く熱い等身大の男子高校生」であることを証明できるのではないか!?
「遊李、お前は爆弾魔だが、たまには良い爆弾(アイデア)を落とすんだな!」
「おう! もしやるなら、撮影兼マネージャーは俺に任せてよ!」
「ああ! 遊李、お前、なかなかいいところがあるじゃないか!」
ガタッと勢いよく立ち上がった瞬間、遊李のスマホ画面に一瞬、『ナギ様ちゃんねる(仮)』なる物騒な文字が見えたのは気のせいだろうか……?
「遊李、それって……」
「よしマシロン! 何としてもナギ様を勧誘して、最高のパフォーマンスをしようぜ!」
「……お、おう!」
俺以上にテンションを上げている遊李に上手く誤魔化された気がしないでもないが……。
いや、それ以上に大問題なのは、ナギ様が俺と一緒に踊ってくださるかどうかだ。普通の人間に戻りたがっていらっしゃるとはいえ、人前に出てダンスを披露するのはハードルが高すぎるのではないか。
だが、これもすべてナギ様を「人間」にお戻しするためなのだ!
俺は意を決して、自席に戻られたナギ様へ向かった。
「……というわけで、有志のステージに出てみないか……?」
必死に事情を説明すると、ナギ様は少し考えるように静まり返られた。
「夏休みに練習とかもしなきゃいけないし、無理にとは言わないけど……」
ダンスの練習時間を取らせてしまうし、神社の準備もある。そう簡単に良い返事はもらえないだろう――そう思っていた、まさにその時だった。
(……そうか。夏休み中、真白とずっと一緒にいられるのか……)
ん? 今、何か微かな呟きが聞こえたような……?
「わかった。出るよ」
「えっ、あ、あっさり!?」
思わず拍子抜けして戸惑っていると、ナギ様がすっと距離を詰めてこられた。
「真白。夏休み、二人で一緒にたくさん練習しよう」
ぎゅっ、と両手を強く握りしめられ、熱を帯びた瞳で射抜かれる。
ドクン、と胸が跳ね上がり、身体が妙な熱を持ち始めた。
夕暮れの空き教室でナギ様――紀織と話して以来、俺の身体はどこかおかしい。わずかな接触や向けられる視線に、いちいち異常なほど心臓が高鳴ってしまうのだ。今だって、握られた手が熱くて、手汗がひどいことになっていないか焦ってしまう。
「どうしたの、真白。顔が赤いよ?」
さりげなく耳元に顔を寄せられ、低く艶っぽい声で囁かれる。
ゾクッと背筋に甘いシビレが走り、喉の奥がカサカサに乾いた。……なんだこの声、妙に色っぽすぎないか!?
いやダメだ、友達なのだから距離が近いのは当然だ! きっとナギ様も「ダチとして距離を縮めたい」と思ってくださっているに違いない。俺もこの距離感に慣れていかなければ、筆頭信徒――いや『親友』としての極秘任務を全うできないぞ!
「それじゃ、俺、後で申し込み用紙を出しておくから――」
「待てよ。そのダンスの企画、俺も混ぜろよ」
背後からひょっこり相沢が現れた。
「え!? ……いや、その……」
なんでよりによって相沢が入ろうとしてくるんだ!?
言葉を濁して視線を泳がせていると、相沢が無理やり俺の肩を掴んで振り向かせ、耳元で低く脅してきた。
「ふざけんな。勝手に紀織と二人きりになろうとしてんじゃねーよ」
恐ろしい圧のこもった声に、俺は相沢の面倒くさい嫉妬心を悟った。俺はお前のような邪な気持ちでナギ様に近づいているんじゃないと言い返したかったが、すぐ側にナギ様がいるのでグッとこらえた。
「……まあ、人数が多い方が盛り上がるし、俺はべつにいいけど……」
そう言ってナギ様へお伺いを立てようと視線を移すと、ナギ様はわかりやすく不快そうに眉を寄せ、深い溜息をついていらっしゃった。……まさか、まだ俺と相沢の「3P泥沼関係(※誤解)」を疑っていらっしゃるのか……!?
「じゃ、申し込み用紙に俺の名前も書いておけよ」
バンと図々しく俺の肩を叩いて去っていく相沢。ナギ様は「……しょうがないな」と苦々しく承諾してくださった。
こうして、俺、ナギ様、相沢、そして撮影係と称して裏で何やら怪しい動きを見せる遊李を含めた、カオスすぎる有志ダンスチームが結成されることとなったのだった。

