拝むな、恋せよ!

放課後、真白がどこか深刻な表情を浮かべ、颯真の後をついていく姿を目撃した。
普段、二人が親しげに会話しているところすら見たことがなかった僕は、その只事ではない雰囲気に居ても立ってもいられなくなり、衝動的に二人を追いかけていた。

校舎裏の影から話し声が聞こえ、そっと角を曲がった――その瞬間だった。

夕闇の中、フェンス際で二人が息もできないほどの至近距離で顔を寄せ合っている光景が、視界に飛び込んできたのだ。

頭の中が真っ白になり、息の仕方を忘れて立ち尽くす。
二人と視線が交差し、真白のあの綺麗な瞳が僕を捕らえた途端、胸の奥で狂おしいほどの嫉妬心が爆発し、肺を灼いた。

(僕の知らないところで……二人はこんなにも関係を深めていたのか……!?)

抑えきれないショックと絶望に耐え切れず、僕は拳を強く握りしめたまま、逃げるようにその場を全速力で駆け出していた。

真白がいつも僕に向けてくれていたあの情熱的な視線は――本当は僕ではなく、僕の隣にいた颯真に向けられていたのではないか?
これまで僕が勝手に「守られている」「愛されている」と自惚れていただけだったとしたら……。
考えれば考えるほど胸が引き裂かれそうになり、その夜は一睡もできないまま朝を迎えた。

翌日、学校へ行くと、二人で必死に昨日の状況を釈明してきた。だが、動揺してぎこちない二人の様子は、僕にはどう見ても「やましい関係」を隠そうとしているようにしか映らなかった。
そこに輪をかけて、真白の友人である遊李までが「俺という存在がありながら相沢くんにまで手を出すなんて、マシロンったらマジで浮気者〜」などと真白とのただならぬ関係を仄めかしてきたのだ。

僕はもう、何が正しくて何が嘘なのか分からなくなっていた。
真白が僕に向ける「信仰心」の裏には、僕と同じような「恋愛感情」が隠されているのではないか――どこかでそんな甘い期待を抱いていたのだと思う。けれど、それは僕の愚かな思い込みで、真白は本当にただ「神様」として僕を崇めているだけなのだろうか。

彼は相変わらず、隣の席から熱い視線で僕を見つめてくる。
帰りのホームルームが終わり、僕が立ち上がるのを静かに待っている。
(……どうして僕だけが、こんなにも苦しくて、惨めに振り回されなきゃいけないんだ)

割り切れない感情が渦巻き、僕はあえてすぐには帰らず、文庫本(太宰治の『人間失格』)を開いて時間をつぶした。
どれだけ時間が経っても、真白は帰ろうとしなかった。静かに、健気に、僕が立つ瞬間を待ち続けている。その姿には、僕への揺るぎない忠誠心が宿っていた。あの瞳は確かに、僕だけをまっすぐ映しているように見えたのだ。

――彼の本心を、確かめたい。

僕は押し潰されそうな鼓動を抑え、勇気を振り絞って真白に「一緒に帰ろう」と声をかけた。

二人きりで歩く、夕暮れの帰り道。
僕は密かな歓喜に震えながら、真白と歩調を合わせようとゆっくり歩いた。だが、僕がペースを落とせば落とすほど、真白は怯えたようにさらに後ろへと下がってしまう。
どうして並んで歩いてくれないのだろう。颯真たちとは、あんなに近くで笑い合っていたのに。
もどかしさと嫉妬で胸が張り裂けそうになり、耐えきれずに言葉が漏れ出た。

「……颯真が好きなの?」

違う、と否定してほしかった。僕のこの見苦しい嫉妬を、彼の口から打ち消してほしかったのだ。
けれど、真白の口から飛び出したのは、どんな拒絶よりも残酷な答えだった。

「俺はこれからもずっと、ナギ様だけにお仕えしていきます! 一生、筆頭信徒として……!」

一生、信徒として――。

血がスッと引いていくのが分かった。
真白の中で、僕はどこまでも「信仰の対象」であって、一人の男ではないのだ。僕のこの狂おしい恋心も、男としての欲望も、彼と対等な場所に立つことすら許されない。それは僕に対する、何より冷酷な処刑宣告だった。

(神なんかじゃない……! 僕は君と同じ、ただの人間なんだ……!)

叫び出したい衝動に駆られた。けれど、もし僕が「神様」でなくなってしまったら、真白は二度と僕を見つめてくれなくなるかもしれない。ただの人間だと知られたら、もっと遠くへ離れていってしまうのではないか――。

その恐怖に足がすくみ、臆病な僕は何も言えないまま、ただ背を向けて逃げ出すことしかできなかったのだ。