ナギ様の最悪の勘違いを引きずったまま、体育の授業が始まってしまった。
神の怒りを買い、地球滅亡の危機を迎えた今、俺たちにできるのはただ一つ。なんとしても神のお怒りを鎮めることだけだ。
この四角いバスケットボールコートという聖域で、俺と相沢は「神への反逆者」という汚名を返上すべく、かつてないほど固い同盟を結び立ち上がった。
「じゃあ、試合始めるぞー」
先生のやる気のない声が響く。俺の目の前には、かつてないほどの殺気を身に纏ったナギ様が立ちはだかっていた。
「な、ナギ様、さっきの話は本当に誤解で……っ」
必死に言いかけたが、その冷徹な瞳が放つ圧倒的な圧に言葉を呑み込む。
かつて感じたことのない氷点下の圧迫感に、早くも心が折れそうだ。相沢と同じチームでなければ、その威圧感だけで即死していたかもしれない。
ピピーッ!と試合開始の笛が鳴り響く。
ナギ様にボールが渡った、次の瞬間だった。
華麗なステップであっという間に俺を抜き去り、気づいた時にはボールが綺麗な弧を描いてゴールに吸い込まれていた。あまりの瞬殺劇に、体育館全体が静まり返る。
ナギ様は静かな殺意を漂わせたまま、ゴール下に佇んでいらっしゃる。その神々しくも美しすぎるお姿に、俺は足が竦んで金縛りに遭ったように棒立ちで見入ってしまった。
「おい廣崎! ぼーっとしてんじゃねーよ!」
相沢の怒声でハッと我に返った時には、すでにナギ様は目の前にいなかった。
振り返ると、パスを受けたナギ様が鮮やかなボールさばきで敵のディフェンスを次々と置き去りにし、教科書通りの美しいフォームでスリーポイントシュートを叩き込んでいた。
圧巻のパフォーマンスにポカンと口を開けて見とれていると、ナギ様の冷酷な視線が俺を真っ直ぐ射貫いた。
……察してしまった。神は絶対に俺たちをお許しになる気がない。何もかも拒絶するようなその瞳が、そう告げている。
「廣崎、今のあいつマジでヤバい! 止めなきゃ俺たちマジで破門(死)だぞ!」
「は、破門……!?」
最も恐れていた言葉に、一瞬意識が遠のきかけた。
「なんとしても止めろ! 神の怒りを鎮めなきゃ、俺たちの声なんか届かねーんだよ!」
荒れ狂う荒野。大地に地響きが轟き、津波のような神の怒りが俺たちを飲み込もうと迫ってくる。
「行け廣崎! 神の暴走を止めるんだ! お前が世界を救え!!」
そうだ。まだ世界は終わっていない! 圧倒的な神の威光に怯んでいる場合じゃないんだ! 俺がやるしかない!
俺は最後の力を振り絞り、強く地を踏みしめた。
相沢……お前は口が悪くて自己中心的な最低の男だったが、最期にこうして背中を預け合えたことを誇りに思う!
俺は神のお怒りを鎮めるため、最後の信徒として、神のもとへ向かって全速力で駆け出した!
火を噴く大地を跳び越え、押し寄せる試練を突き破り、神の御前へ――どこまでも!!
ピピーッ!
どこからか響いた笛の音で、ハッと我に返った。
……あれ? 死んだはずの相沢が生きている。
「くそっ! 30対0って惨敗じゃねーか! 廣崎てめぇ、抜き去られすぎなんだよ!」
「……あ、悪い。頑張ったんだが……」
(……っていうか、お前だって1ポイントも取れてねーだろ!!)
結局、神の絶対的な力の前になす術もなく、俺たちは手も足も出ないまま体育の時間は終了した。
◇
絶体絶命。
教室内に充満する気まずすぎる空気を抱えたまま、今日一日の授業が終わった。
放課後、俺はもう一度対話を試みようとナギ様を探したが、すでにそのお姿はどこにもなかった。ただ、机の上にポツンと鞄だけが残されている。
一体どこへ行かれたのだろうか。
しばらく待ってもお戻りにならない。また何か係の仕事を頼まれているのか……。相沢は「今日は予定がある」とか言って誤解の解消を俺に丸投げして消えたため、あいつと一緒にいるわけではないはずだが。
それにしても、遅すぎる。
嫌な予感が胸を掠め、俺は校内を探し回った。印刷室も覗いたが、人影はない。
まさか……また変な輩に連れ去られたのでは!?
心臓が嫌な音を立てて跳ね上がる。ナギ様が危ない!!
嫌われようが破門されようが関係ない! 俺は何としてでもナギ様をお救いするんだ!
俺は無我夢中で静まり返った校舎を走り抜けた。
――その時だった。
特別校舎にある空き教室の窓の向こうに、人の影を見つけて足を止めた。
まさか、あそこに閉じ込められているのか……!?
恐る恐るドアの小窓から中を覗き込む。
そこには――夕闇の差し込む窓辺に一人佇み、静かに外を眺めていらっしゃるナギ様の美しすぎるお姿があった。誰かに囚われている様子はない。
図々しく邪魔をしていいものか迷っていると、窓ガラス越しにふとナギ様と視線が交差した。
その鋭く深い瞳に捉えられ、目を逸らすことすらできない。……「入れ」と言われている気がした。俺は意を決して、そっとドアを開けた。
「……ナギ様、すみません。その……」
あんな最悪な誤解で怒らせておいて、こんな場所まで追いかけてくるなんて不快に思われただろうか。視線を合わせることすら恐れ多く、俺はただ俯くことしかできない。
すると、静かな足音が近づき、ナギ様がゆっくりと目の前に立ち止まられた。
「……来るのが遅いじゃないか、真白」
「……え?」
「僕をどれだけ待たせるの?」
「……え? え?」
聞いたこともない、低く重く、腹に響くような威圧的な声。明らかにいつものナギ様と様子が違う……。
それに今、俺のことを『真白』と……名前で呼ばなかったか……!?
暴走する心臓を必死に押さえ、恐る恐るナギ様の御顔を見上げた俺は、そのまま全身を硬直させた。
俺に向けられたその瞳には――今まで見たこともない、狂おしいほどの独占欲を宿した『オスの魂』が、爛々と揺らめいていた。
神の怒りを買い、地球滅亡の危機を迎えた今、俺たちにできるのはただ一つ。なんとしても神のお怒りを鎮めることだけだ。
この四角いバスケットボールコートという聖域で、俺と相沢は「神への反逆者」という汚名を返上すべく、かつてないほど固い同盟を結び立ち上がった。
「じゃあ、試合始めるぞー」
先生のやる気のない声が響く。俺の目の前には、かつてないほどの殺気を身に纏ったナギ様が立ちはだかっていた。
「な、ナギ様、さっきの話は本当に誤解で……っ」
必死に言いかけたが、その冷徹な瞳が放つ圧倒的な圧に言葉を呑み込む。
かつて感じたことのない氷点下の圧迫感に、早くも心が折れそうだ。相沢と同じチームでなければ、その威圧感だけで即死していたかもしれない。
ピピーッ!と試合開始の笛が鳴り響く。
ナギ様にボールが渡った、次の瞬間だった。
華麗なステップであっという間に俺を抜き去り、気づいた時にはボールが綺麗な弧を描いてゴールに吸い込まれていた。あまりの瞬殺劇に、体育館全体が静まり返る。
ナギ様は静かな殺意を漂わせたまま、ゴール下に佇んでいらっしゃる。その神々しくも美しすぎるお姿に、俺は足が竦んで金縛りに遭ったように棒立ちで見入ってしまった。
「おい廣崎! ぼーっとしてんじゃねーよ!」
相沢の怒声でハッと我に返った時には、すでにナギ様は目の前にいなかった。
振り返ると、パスを受けたナギ様が鮮やかなボールさばきで敵のディフェンスを次々と置き去りにし、教科書通りの美しいフォームでスリーポイントシュートを叩き込んでいた。
圧巻のパフォーマンスにポカンと口を開けて見とれていると、ナギ様の冷酷な視線が俺を真っ直ぐ射貫いた。
……察してしまった。神は絶対に俺たちをお許しになる気がない。何もかも拒絶するようなその瞳が、そう告げている。
「廣崎、今のあいつマジでヤバい! 止めなきゃ俺たちマジで破門(死)だぞ!」
「は、破門……!?」
最も恐れていた言葉に、一瞬意識が遠のきかけた。
「なんとしても止めろ! 神の怒りを鎮めなきゃ、俺たちの声なんか届かねーんだよ!」
荒れ狂う荒野。大地に地響きが轟き、津波のような神の怒りが俺たちを飲み込もうと迫ってくる。
「行け廣崎! 神の暴走を止めるんだ! お前が世界を救え!!」
そうだ。まだ世界は終わっていない! 圧倒的な神の威光に怯んでいる場合じゃないんだ! 俺がやるしかない!
俺は最後の力を振り絞り、強く地を踏みしめた。
相沢……お前は口が悪くて自己中心的な最低の男だったが、最期にこうして背中を預け合えたことを誇りに思う!
俺は神のお怒りを鎮めるため、最後の信徒として、神のもとへ向かって全速力で駆け出した!
火を噴く大地を跳び越え、押し寄せる試練を突き破り、神の御前へ――どこまでも!!
ピピーッ!
どこからか響いた笛の音で、ハッと我に返った。
……あれ? 死んだはずの相沢が生きている。
「くそっ! 30対0って惨敗じゃねーか! 廣崎てめぇ、抜き去られすぎなんだよ!」
「……あ、悪い。頑張ったんだが……」
(……っていうか、お前だって1ポイントも取れてねーだろ!!)
結局、神の絶対的な力の前になす術もなく、俺たちは手も足も出ないまま体育の時間は終了した。
◇
絶体絶命。
教室内に充満する気まずすぎる空気を抱えたまま、今日一日の授業が終わった。
放課後、俺はもう一度対話を試みようとナギ様を探したが、すでにそのお姿はどこにもなかった。ただ、机の上にポツンと鞄だけが残されている。
一体どこへ行かれたのだろうか。
しばらく待ってもお戻りにならない。また何か係の仕事を頼まれているのか……。相沢は「今日は予定がある」とか言って誤解の解消を俺に丸投げして消えたため、あいつと一緒にいるわけではないはずだが。
それにしても、遅すぎる。
嫌な予感が胸を掠め、俺は校内を探し回った。印刷室も覗いたが、人影はない。
まさか……また変な輩に連れ去られたのでは!?
心臓が嫌な音を立てて跳ね上がる。ナギ様が危ない!!
嫌われようが破門されようが関係ない! 俺は何としてでもナギ様をお救いするんだ!
俺は無我夢中で静まり返った校舎を走り抜けた。
――その時だった。
特別校舎にある空き教室の窓の向こうに、人の影を見つけて足を止めた。
まさか、あそこに閉じ込められているのか……!?
恐る恐るドアの小窓から中を覗き込む。
そこには――夕闇の差し込む窓辺に一人佇み、静かに外を眺めていらっしゃるナギ様の美しすぎるお姿があった。誰かに囚われている様子はない。
図々しく邪魔をしていいものか迷っていると、窓ガラス越しにふとナギ様と視線が交差した。
その鋭く深い瞳に捉えられ、目を逸らすことすらできない。……「入れ」と言われている気がした。俺は意を決して、そっとドアを開けた。
「……ナギ様、すみません。その……」
あんな最悪な誤解で怒らせておいて、こんな場所まで追いかけてくるなんて不快に思われただろうか。視線を合わせることすら恐れ多く、俺はただ俯くことしかできない。
すると、静かな足音が近づき、ナギ様がゆっくりと目の前に立ち止まられた。
「……来るのが遅いじゃないか、真白」
「……え?」
「僕をどれだけ待たせるの?」
「……え? え?」
聞いたこともない、低く重く、腹に響くような威圧的な声。明らかにいつものナギ様と様子が違う……。
それに今、俺のことを『真白』と……名前で呼ばなかったか……!?
暴走する心臓を必死に押さえ、恐る恐るナギ様の御顔を見上げた俺は、そのまま全身を硬直させた。
俺に向けられたその瞳には――今まで見たこともない、狂おしいほどの独占欲を宿した『オスの魂』が、爛々と揺らめいていた。

