拝むな、恋せよ!

ナギ様の筆頭信徒として、これからもナギ様をお護りするという不滅の決意を述べたというのに――一体なぜ、ナギ様は一向にお喜びになってくれないのだろうか。
今日もナギ様は、どこか素っ気ないご様子で俺の視線を露骨に避けられている。

これではいけない……。一刻も早く、俺の何が神のご意向に沿っていないのか、その原因をつきとめなければ。
……だが、どうやって?
悩み抜いた挙げ句、俺はいつも一軍同士で群れている相沢が、奇跡的に廊下を一人で歩いているところを狙って声をかけた。

「は? んなもん、お前のその頭のおかしい信仰心とやらがキモすぎるからだろ」

……なるほど。相沢のような邪教徒から見ると、俺のこの崇高な信仰心は理解しがたいと見える。言わせおけ、哀れで無知な奴め。これでは話し合いにならない。
「これ以上教室でなれなれしく話しかけてくんなよ」と、ナギ様(および周囲のモブども)の目をやたらと気にする相沢に、俺もそれもそうかと思い直し、放課後、誰もいない空き教室へと相沢を呼び寄せた。

「なんだよ、キモさか。俺はもうお前とは関わりたくねーんだけど」
「廣崎だ。いい加減名前を覚えろ。俺は今、人生最大の局面に悩んでいるんだよ」
「お前の悩みなんてどうでもいいわ」

あっさりと背を向け、教室を出て行こうとする相沢の袖をガシッと掴んだ。

「待て、そんな冷たいこと言うなよ! お前からナギ様に、俺のどこがダメなのか、それとなく聞き出してくれないか!?」
「お前、そんなに知りたいなら自分で直接聞けよ」
「……無理だ。俺は最近、あからさまにナギ様に避けられているから……!」
「だったらもう『関わるな』ってことだろうよ。いい加減諦めて身を引け」

俺を払い除けて行こうとする相沢に対し、俺は用意していた『最後の切り札』を切ることにした。

「……協力してくれなかったら、お前が裏で下級生をたぶらかしてること、学校中に言いふらすからな」
「……はぁあ!?」

相沢の足がピタリと止まり、般若のような恐ろしい顔で振り向かれた。

「てめぇ……俺を脅す気か!? ふざけんじゃねーぞ!!」

胸倉を思い切り掴み上げられ、地響きのような怒声が繰り出される。スクールカーストの頂点に君臨する魔王の圧に、心臓がキュッと縮み上がり、生きた心地がしない。
だが、俺はここであきらめるわけにはいかないのだ。ナギ様への忠誠心に誓って、俺は己の未熟さを知るための厳しい試練を乗り越えなければならない!

俺が必死の覚悟で睨み返すと、相沢はハッと嘲笑い、勝ち誇ったような笑みを浮かべた。

「ハッ、お前みたいなモブの言うことなんて、誰が信じるんだよ? 言いたきゃ言えばいいだろ」

ニヤニヤと目を細め、余裕たっぷりに見下ろしてくる相沢。
ふっ……甘いな相沢。俺は無策で魔王に挑むほど愚かではないのだ。
俺は制服のポケットから静かにスマホを取り出すと、あらかじめ画面に表示させておいた画像を、相沢の目の前にドカンと突きつけたた。

次の瞬間――さっきまでの相沢の余裕の笑みが、一瞬で氷のように凍りついた。

「……ッ、お前、これ……いつの間に……!?」

胸倉を掴んでいた相沢の手が、力なくスッと離れる。
俺が見せつけた画像――それこそ、夕暮れの校舎裏で相沢と下級生が、それはもう濃厚に口づけを交わしている決定的な一瞬を捉えた写真だった。

ナギ様がレモングミをお好きではないという衝撃の事実を知ったあの日。ナギ様が帰られた後、俺の腹の虫は全く収まらなかった。あいつに一言文句を叩き込んでやらねば気が済まないと思い、校内を探し回ったのだ。
そして例の秘密の場所へと足を運んだところ、あいつは反省の色もなく、懲りずに同じ場所で下級生といちゃついていたというわけだ。実に単純で行動が読みやすい男で助かる。

「レモングミの罰だ」
「……くッ!!」

相沢は額に手を当て、天を仰ぐと、敗北を認めるように大きく深いため息を吐き出した。

「……くそっ! わかったよ、聞いてやるよ! 聞いたらその画像、速攻で永久削除しろよな!?」
「ありがとう! さすがカースト頂点に君臨する相沢様だ! お前ほどの圧倒的なコミュ力があれば無敵だよ! すごく頼もしい!」
「よ、よくわかってんじゃねーか……廣崎。……しゃーねーな、お前のダメなとこ、俺がバンバン聞き出してやるよ!」

勢いよく褒めちぎると、相沢はフンと顔を背けつつも、どこかわかりやすく鼻高々になって乗り気になってくれた。うちのカースト頂点は意外とチョロい。

俺のダメなところをそんなにバンバン聞き出されたら、さすがの俺もメンタルに大ダメージを負いそうだが、背に腹は代えられない。
何はともあれ、これで相沢がナギ様から俺のダメなところを聞き出してくれさえすれば、俺はこの試練を克服し、再び真の『筆頭信徒』として認めてもらえるはずだ。

俺は眩しい希望の光に向かって、晴れやかな心地で突き進んでいくのだった。