「先お風呂、ありがとう」
潤の香りがほのかに残る一回り大きな服を身にまとった俺は、潤の部屋に戻ってきた。
「いいえいいえ。ゆっくり入れた?」
「うん。テストも終わったから気持ちも楽だし、リラックスできた」
「それならよかった。俺も今から入ってくる。その辺の本読んででもいいよ」
そう言って潤が部屋を出て行く。
初めに家におじゃましたときから気になっていた、潤が持っている小説。
ジャンル問わず、いろいろな本を読む俺に対して、潤はミステリー系を好んで読むといつか言っていたのを思い出す。
あとで小説の話もできたらいいな。
あ、これ。
ずっと気になっていた小説を見つけた。映画を見て原作も読んでみたいと思った作品の一つである。
読み終えたら潤とも感想を語ることができるだろうな…
また一つ、楽しみが増えたことを嬉しかった。
「あれ、その本読んでるんだ。面白いよね」
「うん。ずっと気になっていて」
髪を乾かし終えたばかりなのか、いつもよりストレートな髪。ゆるっとした服装の潤を見て、胸の奥がきゅっと締め付けられた。
「それ貸そうか?」
「え、いいの?」
「うん。ぜひ読んでほしい本の一つだから」
「ありがとう」
家に帰ったらすぐに読み進めようと思う。
「守はおすすめの本とかある?」
「俺は色々なジャンルを読むんだけど―」
ヒューマン系、恋愛系、ホラー系。それぞれのおすすめを紹介していく。
俺が紹介した作品をスマホで検索し、潤が次々とブックマークしていく。
「守と小説の話したいと思ってたんだよ。だから嬉しい」
それは俺もだった。趣味の話をできる人が身近にいることで、一人ではできない楽しみ方ができる。
それから小説の話、俺の部活の話、料理の話をしているうちに、気づけば夜の十一時を回っていた。
「俺、明日午後から部活だからなー。体力つけるためにも、そろそろ寝なきゃだな」
「そうだよね。じゃあ布団ひこうか」
そう言って布団の準備をしてくれる潤の顔は、どことなく寂しそうに見えた。
「あのさ、他に俺にできることとかない?もう少しで誕生日終わっちゃうでしょ」
「なんでもいいの?」
食い気味に潤が聞いてくる。
「まあ……今俺にできることなら」
「じゃあ、守と一緒に寝たい」
「ん?もともと一緒に寝るつもりでしょ。俺が布団で、潤がベッド」
「そうじゃなくて…俺と同じベッドで一緒に寝ようって言ってるの」
……俺、と一緒に?
一瞬その言葉の意味が分からなかった。
そして、気づいたら俺は潤の隣で寝ていた。
少し触れる肩や、腕から潤の温もりが伝わってくる。
「あのー。潤さん。これ潤の母に見られたらまずいんじゃないですか…?」
「ん?大丈夫だよ。俺が寝ぼけて守が寝ているベッドに入っちゃったっていうことにすれば」
そう簡単にいくものなのか…?
ただこの時間が幸せな俺は、潤の隣から離れたくない。と心の底から思った。
「じゃあ、寝る前にもう少し勉強してから寝ようか」
「え?なに、を…?もうテストは終わったよ」
「守が、守の気になる人とうまくいくように」
そういった瞬間、俺は潤に押し倒されていた。
……なんか、前もこんなことあったよな。
「大丈夫?気になる相手じゃないからドキドキしてないよね?」
「ひぇ……してない」
ここでしてるとは言えない俺は、なんとか平常心を保った声で答えられただろうか。
自分の声と同じくらいに、心臓の音が聞こえる。
「その気になる人と付き合ったら、なにするかな?」
「なに…をするか?」
「そう」
「えっと、デートをする」
俺を抑える潤の力が少し強くなるのを感じる。
「うん。他には?」
「…手を繋ぐ?」
「うん」
潤の手が俺の手に重なる。絡まった指から潤の体温が伝わってくる。
「あとは?」
「あと…」
これを言ってしまったら、現実になってしまうかもしれない。
迷いや恥ずかしさ、期待の気持ちが湧いてくるのを感じる。
「……キス」
気づいたら、俺はその言葉を発していた。
唇が重なる。
潤の唇の柔らかさ。俺の腰に手を回し、潤が俺の身体を寄せたことで、より潤の体温を感じる。角度を変えて潤が唇を重ねてくるのを、俺は自然なこととして受け入れていた。
そのまま、俺たちはしばらくの間軽くキスをしていた。
「今日はここまでにしよっか」
そう言って、俺の隣に寝る体制に潤がつく。
それからはなにを話したのか、そもそも会話をしたかどうかを覚えていない。
ただ、その夜俺は眠りにつくことができず、潤の隣でただ目をつむり、胸の鼓動が収まるのを待っていた。
この出来事を一人で抱えるほどのキャパは俺にはなかった。
チャット画面を開き、MIKUさんにメッセージを送る。
『俺、やっぱりその相手のこと好きなのかもしれません。いや、好きだって思いました。急にこんな連絡してしまってすみません。MIKUさんにはずっとに乗ってもらってたので、報告したくて』
その瞬間、隣で寝ている潤のスマホの通知音が鳴った。
しかし、そのときの俺には違和感に気づく余裕も何もなかった。
翌朝七時、ほとんど目を覚ましていた俺は、ゆっくりと目を開いた。
潤も俺と一緒に起き、朝の身支度をしている。
昨日の晩のことを思い出し、きまずく感じているのは俺だけだろうか…
「これ、朝ごはん。お母さんが用意してくれてた」
おぼんの上には、トースト、目玉焼き、フルーツ、そして香りに覚えのある飲み物が乗っている。
「朝からありがとう。もしかして、潤がホットレモン上手に作れるのってお母さんに教えてもらったから?」
「うん。そんな感じ」
「「いただきます」」
普段の休日は、お昼ごろに起きて朝昼兼用の食事になることが多い。
だから、休日にゆっくりと朝ごはんを食べるのもいいな、と思った。
「目玉焼きの半熟具合がおいしすぎる…」
「お母さん、卵料理が特に得意なんだ」
……料理家の得意は次元が違う。
「ホットレモン、飲むとやっぱり安心する。おいしい」
「よかった」
「俺が頑張ろうと思えるのはホットレモンのおかげだな」
今日も十七時からのテスト明け久しぶりの部活を頑張ろうと思えている。
とりあえず、帰ったら寝直そう…
「大げさだな。でも、それならよかった。あの日は、俺にとっても守にとっても大切な日だからね」
「……どう、いう意味?」
「え、ああ…まああんまり気にしないで。深い意味はないから」
潤が早口で答える。
あの日は、俺にとって、潤からホットレモンをもらいテストを乗り越えることができた、大切な日だった。
実際、あの日がきっかけで俺は潤のことを意識するようになった。
でも、潤にとっても大切な日だったというのはどういう意味なんだろう。
潤の家にお礼を言って別れた後も、しばらくその言葉が頭から離れなかった。
家に着き、まずはアラームをセットして寝る準備をする。MIKUさんに連絡をすれば解決することがあるかもしれない。すがる思いでメッセージを打つ。
『最近、学校のテストが忙しくて、話したいことはたくさんあったんですけど、全然連絡できずにいました。
少し相談?というか、聞いてほしいことがあるんですけど…いいですか?』
チャットを送り終え、ベッドに横になると俺は意識を失うように眠りについた。
『全然いいよ。どうしたの?』
目覚ましの音で目覚めると、MIKUさんから返信が来ていた。
深い眠りに着くことができていたのか、頭がすっきりしている。
家を出るまでの時間を使い、チャットを送る。
『この間話した俺と好きな人との出会いのことなんですけど…俺にホットレモンをあげたことを相手は覚えていて、感謝を伝えたんですけど、その時にお互いにとって大切な日だったね、って言っていて。俺はテストも乗り越えたしその人に出会えた大切な日だったんですけど、相手にとってそれが大切な日になる理由が分からなくて…なんでだと思いますか?』
テスト明けの部活という、誰もが嫌がりそうな、きつい練習を終えた。
部活仲間と別れた後、電車でチャットを開いたが返信はまだ来ていない。
何かが俺の中で引っかかっている。けれど、その正体は分からない。
結局、その日はMIKUさんから返信はなく、返ってきたのは翌朝だった。
潤の香りがほのかに残る一回り大きな服を身にまとった俺は、潤の部屋に戻ってきた。
「いいえいいえ。ゆっくり入れた?」
「うん。テストも終わったから気持ちも楽だし、リラックスできた」
「それならよかった。俺も今から入ってくる。その辺の本読んででもいいよ」
そう言って潤が部屋を出て行く。
初めに家におじゃましたときから気になっていた、潤が持っている小説。
ジャンル問わず、いろいろな本を読む俺に対して、潤はミステリー系を好んで読むといつか言っていたのを思い出す。
あとで小説の話もできたらいいな。
あ、これ。
ずっと気になっていた小説を見つけた。映画を見て原作も読んでみたいと思った作品の一つである。
読み終えたら潤とも感想を語ることができるだろうな…
また一つ、楽しみが増えたことを嬉しかった。
「あれ、その本読んでるんだ。面白いよね」
「うん。ずっと気になっていて」
髪を乾かし終えたばかりなのか、いつもよりストレートな髪。ゆるっとした服装の潤を見て、胸の奥がきゅっと締め付けられた。
「それ貸そうか?」
「え、いいの?」
「うん。ぜひ読んでほしい本の一つだから」
「ありがとう」
家に帰ったらすぐに読み進めようと思う。
「守はおすすめの本とかある?」
「俺は色々なジャンルを読むんだけど―」
ヒューマン系、恋愛系、ホラー系。それぞれのおすすめを紹介していく。
俺が紹介した作品をスマホで検索し、潤が次々とブックマークしていく。
「守と小説の話したいと思ってたんだよ。だから嬉しい」
それは俺もだった。趣味の話をできる人が身近にいることで、一人ではできない楽しみ方ができる。
それから小説の話、俺の部活の話、料理の話をしているうちに、気づけば夜の十一時を回っていた。
「俺、明日午後から部活だからなー。体力つけるためにも、そろそろ寝なきゃだな」
「そうだよね。じゃあ布団ひこうか」
そう言って布団の準備をしてくれる潤の顔は、どことなく寂しそうに見えた。
「あのさ、他に俺にできることとかない?もう少しで誕生日終わっちゃうでしょ」
「なんでもいいの?」
食い気味に潤が聞いてくる。
「まあ……今俺にできることなら」
「じゃあ、守と一緒に寝たい」
「ん?もともと一緒に寝るつもりでしょ。俺が布団で、潤がベッド」
「そうじゃなくて…俺と同じベッドで一緒に寝ようって言ってるの」
……俺、と一緒に?
一瞬その言葉の意味が分からなかった。
そして、気づいたら俺は潤の隣で寝ていた。
少し触れる肩や、腕から潤の温もりが伝わってくる。
「あのー。潤さん。これ潤の母に見られたらまずいんじゃないですか…?」
「ん?大丈夫だよ。俺が寝ぼけて守が寝ているベッドに入っちゃったっていうことにすれば」
そう簡単にいくものなのか…?
ただこの時間が幸せな俺は、潤の隣から離れたくない。と心の底から思った。
「じゃあ、寝る前にもう少し勉強してから寝ようか」
「え?なに、を…?もうテストは終わったよ」
「守が、守の気になる人とうまくいくように」
そういった瞬間、俺は潤に押し倒されていた。
……なんか、前もこんなことあったよな。
「大丈夫?気になる相手じゃないからドキドキしてないよね?」
「ひぇ……してない」
ここでしてるとは言えない俺は、なんとか平常心を保った声で答えられただろうか。
自分の声と同じくらいに、心臓の音が聞こえる。
「その気になる人と付き合ったら、なにするかな?」
「なに…をするか?」
「そう」
「えっと、デートをする」
俺を抑える潤の力が少し強くなるのを感じる。
「うん。他には?」
「…手を繋ぐ?」
「うん」
潤の手が俺の手に重なる。絡まった指から潤の体温が伝わってくる。
「あとは?」
「あと…」
これを言ってしまったら、現実になってしまうかもしれない。
迷いや恥ずかしさ、期待の気持ちが湧いてくるのを感じる。
「……キス」
気づいたら、俺はその言葉を発していた。
唇が重なる。
潤の唇の柔らかさ。俺の腰に手を回し、潤が俺の身体を寄せたことで、より潤の体温を感じる。角度を変えて潤が唇を重ねてくるのを、俺は自然なこととして受け入れていた。
そのまま、俺たちはしばらくの間軽くキスをしていた。
「今日はここまでにしよっか」
そう言って、俺の隣に寝る体制に潤がつく。
それからはなにを話したのか、そもそも会話をしたかどうかを覚えていない。
ただ、その夜俺は眠りにつくことができず、潤の隣でただ目をつむり、胸の鼓動が収まるのを待っていた。
この出来事を一人で抱えるほどのキャパは俺にはなかった。
チャット画面を開き、MIKUさんにメッセージを送る。
『俺、やっぱりその相手のこと好きなのかもしれません。いや、好きだって思いました。急にこんな連絡してしまってすみません。MIKUさんにはずっとに乗ってもらってたので、報告したくて』
その瞬間、隣で寝ている潤のスマホの通知音が鳴った。
しかし、そのときの俺には違和感に気づく余裕も何もなかった。
翌朝七時、ほとんど目を覚ましていた俺は、ゆっくりと目を開いた。
潤も俺と一緒に起き、朝の身支度をしている。
昨日の晩のことを思い出し、きまずく感じているのは俺だけだろうか…
「これ、朝ごはん。お母さんが用意してくれてた」
おぼんの上には、トースト、目玉焼き、フルーツ、そして香りに覚えのある飲み物が乗っている。
「朝からありがとう。もしかして、潤がホットレモン上手に作れるのってお母さんに教えてもらったから?」
「うん。そんな感じ」
「「いただきます」」
普段の休日は、お昼ごろに起きて朝昼兼用の食事になることが多い。
だから、休日にゆっくりと朝ごはんを食べるのもいいな、と思った。
「目玉焼きの半熟具合がおいしすぎる…」
「お母さん、卵料理が特に得意なんだ」
……料理家の得意は次元が違う。
「ホットレモン、飲むとやっぱり安心する。おいしい」
「よかった」
「俺が頑張ろうと思えるのはホットレモンのおかげだな」
今日も十七時からのテスト明け久しぶりの部活を頑張ろうと思えている。
とりあえず、帰ったら寝直そう…
「大げさだな。でも、それならよかった。あの日は、俺にとっても守にとっても大切な日だからね」
「……どう、いう意味?」
「え、ああ…まああんまり気にしないで。深い意味はないから」
潤が早口で答える。
あの日は、俺にとって、潤からホットレモンをもらいテストを乗り越えることができた、大切な日だった。
実際、あの日がきっかけで俺は潤のことを意識するようになった。
でも、潤にとっても大切な日だったというのはどういう意味なんだろう。
潤の家にお礼を言って別れた後も、しばらくその言葉が頭から離れなかった。
家に着き、まずはアラームをセットして寝る準備をする。MIKUさんに連絡をすれば解決することがあるかもしれない。すがる思いでメッセージを打つ。
『最近、学校のテストが忙しくて、話したいことはたくさんあったんですけど、全然連絡できずにいました。
少し相談?というか、聞いてほしいことがあるんですけど…いいですか?』
チャットを送り終え、ベッドに横になると俺は意識を失うように眠りについた。
『全然いいよ。どうしたの?』
目覚ましの音で目覚めると、MIKUさんから返信が来ていた。
深い眠りに着くことができていたのか、頭がすっきりしている。
家を出るまでの時間を使い、チャットを送る。
『この間話した俺と好きな人との出会いのことなんですけど…俺にホットレモンをあげたことを相手は覚えていて、感謝を伝えたんですけど、その時にお互いにとって大切な日だったね、って言っていて。俺はテストも乗り越えたしその人に出会えた大切な日だったんですけど、相手にとってそれが大切な日になる理由が分からなくて…なんでだと思いますか?』
テスト明けの部活という、誰もが嫌がりそうな、きつい練習を終えた。
部活仲間と別れた後、電車でチャットを開いたが返信はまだ来ていない。
何かが俺の中で引っかかっている。けれど、その正体は分からない。
結局、その日はMIKUさんから返信はなく、返ってきたのは翌朝だった。
