恋愛相談する相手、間違えました。

 ―二週間前。校外学習への事前準備時間。
 男女合わせて五人から八人の自由班を作ることになり、いつもの男子四人と女子三人の七人グループに決まった。
 行き先は東京都内!東京に住んでいるとはいっても、都内に行く機会があまりない俺たちにとっては最高の機会だ。
 「やっぱり東京といえば、東京スカイツリーだよな。浅草と両方いくのはどう?」
 「それもいいけど...やっぱり江の島に行きたい。海のほうがきれいだろ。」
 
 各々が自分の行きたいところを話している中、隣の班からは遊園地の話が聞こえてくる。
 「まって。遊園地もありなのか。」
 「「「遊園地!!」」」
 満場一致で決まった遊園地への校外学習...とは言えない遊びの予定だった。
 
 そして新しいクラスに慣れることと新しい学年の勉強に励んでいると、気づくと校外学習前日になっていた。
 今日の練習はランメニューが多くてきつかった。
 お風呂とご飯を済ませ、スマホをいじりながらベッドに横になっているとMIKUさんから通知が来た。
 
 『新クラスになってからどう?気になる人とは仲良くなれた?』
 『はい。一緒にお昼みんなでご飯食べたり、勉強したりしているうちに仲良くなれてる感じします』
 『それはよかった』
 『帰り道が途中まで一緒だから毎日一緒に帰ったりしてるんですよ』
 『学生ならではの習慣って感じでいいね。それはゆっくり話せる時間だよね』
 『はい。お互い読書が好きっていう共通点も知って、話してて楽しいです』
 
 俺はジャンルを問わず、いろいろな本を読む。一方、潤は特にミステリー系を好んで読むため、潤におすすめしてもらった本は俺にとって新鮮ものが多かった。自分の「好き」の幅を広げられることも、潤の好きなものを知れることも、どちらも嬉しかった。
 
 『そういえば、明日は校外学習なんですよ。その人と同じ班なんで、楽しんできますね』
 『それは嬉しいね。きっと仲を深められると思うよ。またどうだったか教えてね』
 
 こうやって心の内を話すことができる相手がいるっていうのは、心強いものだ。
 久しぶりの遊園地と、友達たちと遊べる時間に胸を弾ませながら、ベッドの横にスマホを置いた。
 
 
 ー校外学習当日。中学生の頃以来の遊園地に、子供のように胸が弾んでいるのを感じる。
 あと来てないのは潤だけか。
 そう思って待っていると、入口のほうから早歩きで向かってくる人影を見つけた。
 「ごめん。お待たせ。」
 紺色のTシャツにダメージジーンズを履いた潤は、制服の姿より大人びている。
 一言でいうとかっこいい...
 「じゃあ行こうか!」
 勢いよくこぶしを突き上げる光輝を筆頭として、陽射しが眩しい青空の下、楽しい校外学習が幕を開けた。
 
 「このアトラクションは割と軽めっぽい。それであっちはハード。」
 案内板の前で事前に下調べをしてくれていた蒼汰がアトラクション説明をしてくれている。
 最初は軽いほうから乗ってみようということで、座るタイプのジェットコースターに並び始めた。
 ちょっと潤と話したい。
 さりげなく近づき俺は潤の隣を死守することができた。
 「ジェットコースター楽しみだな。」
 「まあな。」
 「潤はジェットコースターとか乗れるの?」
 「俺はまあ得意なほうかな。」
 きっとクールな見た目をしてジェットコースターも難なくこなしてしまうのだろう。
 俺はというと、中学生ぶりに乗るジェットコースターに不安がずっと居座っている。
 「大丈夫かな...」
 「守、もしかしてジェットコースターとか苦手?大丈夫?」
 心の声が漏れてしまっていたらしい。
 隣には心配そうな眼をした潤がいる。
 「まあたぶん大丈夫、大丈夫。これは割と優しめっぽいし。」
 「無理はしないで」
 潤の優しさが胸に沁みる。ジェットコースターに並ぶ列が前に進むたびに、緊張感が増していく。
 
 十時の開園時間に集合して、すぐに並び始めただけあってすぐに自分たちの番になった。
 「安全バーを下ろしてください!皆さん準備はできましたか?それではいってらっしゃい!!」
 緊張のあまり、スタッフの女性の声が遠くに聞こえる。
 「守、大丈夫だよ。怖かったら俺の手握ってよ。」
 これは幻聴なのかもしれない。
 もう気にせず握っちゃえ。
 潤の手を握りしめたまま、ジェットコースターはゆっくりとレールを上がっていった。
 
  気づいたら、俺はジェットコースター近くのベンチに座っていた。
 気持ち悪い。
 「守―。大丈夫か?無理させちゃってごめんな」
 みんなが心配して俺の周りに集まっている。
 「大丈夫。ごめん。俺はちょっとジェットコースター控えるわ」
 これ以上みんなに迷惑はかけたくない。

 「ごめん。ちょっと俺も酔ったっぽいから控えるわ」
 そういって俺の隣に座る潤。
 話し合った結果、一旦ジェットコースターに乗る組と乗らない組に分かれることになった。
 
 「潤も酔っちゃったんだ。大丈夫?」
 「いや、実は俺全然平気だったんだけど、」
 え...?
 「そうなの?」
 「うん。俺ジェットコースター乗るのが趣味みたいなもんだし」
 軽々しく言う潤に俺は動揺を隠しきれない。
 そんな俺を見て潤は声を出して笑っている。
 潤の口角が左右対称に上がる。細くなった目元が、いつもより優しく見えた。普段より少し高い笑い声が耳に届くたび、胸がきゅっと締め付けられる。
 「趣味は言い過ぎた。冗談だよ。ジェットコースターが得意なのは本当だけど」
 「じゃあ何で?何で俺のほうに来てくれたの...?」
 「それは...まあ何でもいいじゃん。そういう気分だったんだよ」
 そういう気分ってなんだよ。嬉しいのは俺だけだったのか。
 少し悔しいような気持ちになっている俺を、潤が優しい顔で覗き込む。
 「デート楽しもうな」
 この一言で俺の不安はどこかに吹っ飛んで行った。
 
 「何か乗り物乗れそう?」
 「うん。もう気分もだいぶ良くなったからいける」
 潤は俺の体調がよくなるまで、ずっと隣にいてくれた。
 「コーヒーカップとかはどう?」
 近くにあるくるくると回り続けるコーヒーカップを指さす潤。
 「あ、でもコーヒーカップだとまた酔っちゃうかな?」
 「それくらいなら大丈夫だと思う。自分たちで調整もできるし」
 
 俺たちが乗る番になり、潤が俺の正面に座る。
 やっぱり整った顔してるよな。顔もよくて優しいとか、モテるんだろうな。
 「なに見てるの?俺の顔になんかついてる?」
 眉を少し下げ、首を傾けながら俺を見る潤を前に、見とれていたなんて言えるはずがない。
 
 コーヒーカップが回り始める。
 最初はゆっくりとしたペースで回していたが、段々と回転するスピードが速まるのを感じる。その原因は紛れもなく潤にある。
 「ちょっと待って。もう少しゆっくりにしない?」
 「え?これくらいなら大丈夫だよね?これ以上はしないからさ」
 珍しいほどの満面の笑みを浮かべた潤は、俺の言葉など気にせずにコーヒーカップを回し続ける。
 こいつはドSなのか...?
 
 ジェットコースターのときと同じく、気づくと俺たちはコーヒーカップを降り、近くのベンチに座っていた。
 「回しすぎだってー。もう勘弁」
 「ごめんごめん。あまりにも守の反応を見るのが可愛くってさ」
 可愛いとはなんだ?小学生の頃以来、言われていない言葉に動揺を隠せない。
 そんな俺をよそに潤が続ける。
 「そういえばおなかすいてない?そろそろお昼時だよね」
 「たしかに。そうだね」
 タイミングよく校外学習班のグループチャットに通知が来た。
 『ジェットコースター組、おなかすいてたから先にお昼食べてる!』
 美味しそうなハンバーガーを頬張る光輝の写真も一緒に送られてくる。
 「じゃあ、俺たちは別でお昼ご飯食べる?」
 「そうだね。じゃあ俺グループにそのこと送っとく」
  『俺たちは別でお昼食べる』
 よし完了。
 「あれ、そのアプリってSNSでチャットできるやつだよね?」
 ホーム画面に映る黒色のアイコンを指さして潤が聞く。
 「あ、そうそう。よくここでのチャットで相談とか聞いてもらってるんだよね。MIKUさんっていう大学生の人なんだけどさ、めっちゃ優しくて、俺の話聞いてくれるんだよ」
 「……MIKU」
 潤は驚いたように目を見開き、その場で固まっている。
 「潤、どうかした?もしかして、潤もこのアプリ使ってた?」
 我に返ったようにこちらを向いた潤が、口を開く。
 「まあ、そんな感じ」
 潤も、SNS上の人とチャットすることが少し意外だった。
 
 「お昼何食べる?」
 「そうだな。何があるか見てみよっか」
 近くにあったマップを見ると美味しそうな食べ物がたくさんある。
 
 色々あって迷った末、俺はたこ焼き、潤はカレーライスを選んだ。
 「「いただきまーす」」
 外はカリカリ、中はトロっとしたたこ焼きは予想以上に美味しい。
 お肉多めのカレーライスを頬張る潤はどこか可愛さを感じる。
 「潤、たこ焼き1個食べる?美味しいよ」
 「え、いいの?食べたい」
 ソースとマヨネーズがバランスよくかかっているたこ焼きをつまようじに刺す。
 そのままつまようじを潤に渡そうとした瞬間、潤が俺の手をつかむ。
 え。
 俺の手ごと口まで運び、たこ焼きを頬張る潤。
 俺は唖然としたまま、その場に固まっていた。そんな俺をよそに、潤は何事もなかったかのように、たこ焼きを美味しそうに食べている。
 「このたこ焼き美味しいね。ホックホク」
 うん。たしかに温かく美味しいたこ焼きだ。
 それ以前にさっきのは何だったんだろう…
 俺の行動のレパートリーにはないことを、潤は平気でする。そのことに驚き、胸の奥がキュッと痛んだ。
 「俺のカレーも食べてよ。美味しいからさ」
 「ああ。うん。じゃあ一口貰おうかな」
 「じゃあはい、あーーん」
 あーーん?
 ドラマや漫画の中でしか見たことない、カップルたちがやるであろういちゃつきのようなものを俺たちはやるのか?
 男同士の友達でもやるものなのか?
 そんな俺の疑問を無視して潤はスプーンを俺の口の前まで持ってきている。
 「じゃあ……いただきます」
 きっと美味しいんだろうが、あまり味がしないように感じる。
 顔が熱くなるのを感じる。
 この顔を見せまいと俯く俺は、今、潤がどんな表情をしているのかも分からない。
 きっと、照れているのは俺だけだ。そう思うと、余計に潤の顔を見ることができなかった。
 
 「次はどこ行く?ジェットコースター組はしばらくジェットコースター乗るっぽいし」
 「そうだなー。守、お化け屋敷とかいける?」
 「まあ、多分」
 お化け屋敷も中学生以来行ってないし、前行ったのはそんなに怖いものじゃなかったからいけるかなんて分からない。
 ただ、ジェットコースターに乗るのも俺に合わせて我慢してくれている潤を、これ以上我慢させるわけにはいかない。
 「じゃあ、並ぼうか」
 お化け屋敷へ続く列は、思っていたより長く伸びていた。
 
 『待ち時間45分!最後尾はこちら』
 
 スタッフが掲げている看板が目に入る。
 「俺、列並んだりするの嫌いじゃないけど、潤は大丈夫?」
 「うん。俺も全然大丈夫」
 目の前に並ぶカップルの後ろに、俺たちも並んだ。
 カップルで思い出したが、潤は付き合っている人などがいるのだろうか。
 別に友達だし聞くくらいしてもいいよな…
 「そういえばさ、潤って今、付き合ってるやつとかいるの?」
 「え、いないけど。急にどうした?」
 「いや…単純に気になってさ。潤ってモテそうじゃん」
 「別にモテないよ」
 あっけなく言い放つ潤は、隠しているようにも嘘をついているようにも見えない。
 「そうなんだ。じゃあ今まで彼女とかはいた?」
 「いない。俺、あんまり恋愛興味なくてさ」
 笑顔で言い放つ潤は少し無理をしているように見える。
 ずかずかと質問を続けてしまったことが申し訳なくなる。
 「守は?」
 「え?」
 「いるの?付き合ってる人」
 「ああ。俺もいないよ」
 「いままで付き合ってた人は?」
 「中学生の頃と高1の頃に1人ずつ。別に長く付き合ってたわけじゃないから、何回か遊びに行くみたいな仲で終わっちゃったんだけどね」
 俺は誰かを特別好きになったことがない。
 だから、いつも向こうから来てくれたら拒むことなく付き合っていた。
 好きじゃないのに付き合うのは相手がかわいそうとか、酷いと周りから言われたことはある。その人たちの気持ちも分かるが、相手にしっかりと自分なりに向き合う努力をしたうえで付き合うことを俺は悪いとは思わない。
 ただ、付き合っていく中で相手のことを好きになるという感覚は分からなかった。気づいたら相手側から別れを告げられる。その付き合っている間、相手を傷つけていたのかもしれない。
 「俺、好きっていう気持ちがよく分からないんだよね」
 「そうなんだ」
 「うん」
 そもそも好きとは何なのだろうか。人それぞれ、その形は違うということだけは分かるが、俺の中でその形が分かることはなかった。
 潤は少しだけ黙って、俺の顔を見る。
 「じゃあさ、俺と一緒に守の好きの形、見つけようよ」
 「え、一緒に?」
 「うん。1人より一緒のほうが分かること多いときとかあるじゃん」
 「たしかに、そうだな」
 「よし、じゃあ俺頑張るから。守のために」
 守が俺のために何か考えてくれるということが、ただただ嬉しい。
 守が言っていた頑張るの意味は分からないけど、俺も一緒に頑張れたらいいな。

 お互いの家族の話、趣味の話をしていたらあっという間に時間は過ぎ、気づけばお化け屋敷の入口まで来ていた。
 「守、ちょっと顔色悪そうだけど大丈夫?」
 「大丈夫。任せろって」
 相変わらず強がっている俺のことも、潤にはお見通しなのだろうか。
 不安げな顔をしているであろう俺を見て、潤が口角をあげたことに気づく。
 やっぱり潤って、ドS気質あるよな...
 お化け屋敷とはまた違う意味で、潤に少しだけ身構える。
 けれど、不思議とその怖さを嫌だとは思わなかった。
 
 中に入ると、ひんやりとした空気と薄暗さに不気味さを感じる。
 「潤、結構暗いんだな。隣いるよね?」
 「大丈夫。はぐれないようにしよう」
 恐怖を隠せない俺に反して、余裕そうな潤は俺の少し前を進んでいる。
 「うわーーーー!」
 隠れていたお化けに突然驚かされ、俺はその場にへたり込んでしまった。
 「守。大丈夫?」
 立てない俺に潤の手が伸びる。
 「ありがとう」
 ひんやりとした空気の中、潤の手は温かく、触れているだけで安心する。
 「頑張って出口まで行こう」
 手を繋いだまま、先に進む潤に俺はついていく。
 さっきまでの恐怖が少しずつ薄れていくような気がするのに、胸の鼓動だけはなぜか収まらなかった。
 
 「はー。結構怖いもんなんだな。でも楽しかったね?」
 楽しそうな顔をする潤とは反対に、血の気が引けたような顔をしている俺が、目の前にある建物のガラス窓に映る。
 「守、大丈夫?やっぱり遊園地のお化け屋敷レベルにもなれば怖いよね」
 ジェットコースターのときと同じく潤に心配される状況に面白くなり、思わず吹き出してしまう。
 「はは。なんか俺、毎回潤に心配されてるよね」
 「そうだね。今日何回か本気で守のことが心配になったよ」
 「さっき、潤が手つないでくれて本当に助かったよ。ちょっとドキドキした」
 ……なんて、冗談だけど。
 俺が冗談めかして続けようとするより先に、潤が口を開いていた。
 「え、ほんとに?」
 え、まあ本当だけど...ここで本当だよ。というのもなんか違う気がする。
 「お化けに対するドキドキが半減したっていう意味だからな」
 「ああ、そうだよね」
 少し残念そうな潤の表情が、なぜか気になった。
 
 「次が時間的にラストのアトラクションになりそうだね。何がいいかな?」
 「候補はメリーゴーランド、観覧車、ジェットコースターかな」
 「なんで、ジェットコースターが候補に入ってるんだよ。俺をいじめる気か?」
 「冗談だよ、冗談」
 序盤乗ったジェットコースターを思い出すと、きつい冗談だ。
 隣で笑う潤を見ながら、次が今日最後に乗るアトラクションなんて思いたくなかった。
 メリーゴーランドと迷った末、高いところからの景色を見たいということで観覧車に乗ることに決まった。
 
 観覧車の回転率がよいのか、すぐに自分たちが乗る番になった。
 徐々に自分たちが上がっていくのを感じる。
 毎度思うが、観覧車という乗り物を考えた人は天才だと思う。
 正面では、潤が窓ガラス越しに景色を眺めている…
 
 「潤、さっき俺たちが乗ったジェットコースターが見える」
 「ほんとだ。あそこはご飯食べたところだよね」
 「あのさ…そっち座ってもいい?」
 「あ、うん。いいよ」
 観覧車が揺れないように慎重に、潤は俺の隣まで移動してきた。
 観覧車内が狭いのもあって、思ったより近い距離に、どうにも落ち着かなくなる。

 「今日はありがとな。潤、ジェットコースターほんとは好きなのに、俺に付き合ってくれて」
 「全然いいよ。むしろ俺、守と話せる時間増えてうれしかったし」
 本音でも嘘でも潤からそう言ってもらえることが、とても嬉しい。
 「てか、守って意外とビビりなところあるんだな」
 「人には苦手なものっていうのがあるものなんだよ。潤にも苦手なことの1つや2つあるだろ」
 「それはある」
 「何が苦手なの?」
 「運動全般。特に球技」
 クールに物事をこなしているイメージがあった潤が、実は運動が苦手なのは意外だ。
 「だから、守がバスケ上手なのほんとにすごいと思ってるよ」
 「あれ、潤って俺のバスケ姿見たことあったっけ?」
 「ある。昨年の球技大会で守がバスケしてるの見た」
 「あーー。クラスで出場したときの。決勝戦で負けちゃったけどな」
 うちの学校では体育祭の代わりに、年に一回クラス対抗の球技大会が行われる。
 自分たちのクラスが試合に参加しない時間は、自由に他のクラスの観戦をしたり、クラス内で過ごしたりと自由度が高く人気な行事の一つだ。
 「決勝戦もすごかったけど、それまでの試合もクラスをまとめててすごかったよ」
 「決勝戦以外も見てくれてたの?」
 「まあ。一緒にいた友達もバスケ見るの好きでさ」
 潤が俺のプレイを見て、褒めてくれるのが嬉しい。
 しかも、決勝戦以外も見て、俺のことを知ってくれていたなんて。
 
 毎年、球技大会は九月の中旬に行われる。
 俺が潤のことを知ったのは昨年の十一月。
 俺のほうが先に潤のことを知っていたと思っていた。けれど、実際は違った。
 潤のほうが先に俺のことを知っていたのだ。
 じゃあ、あの時も俺のことを知っていて…
 
 「守。頂上だよ」
 俺たちの乗っているゴンドラは一番高いところまで来たようだ。
 頂上から見る景色は、さっきよりもずっと遠くまで広がっていて、世界の広さを教えてくれる。そして、広い世界の中では、俺たちはこんなにも小さく見えるのかと思った。
 「きれいだな」
 「そうだね」
 頂上から地上に着くまでの間、俺たちは時々会話を交えながら景色を楽しんでいた。
 そして気づいたら、俺たちを乗せたゴンドラは一周していた。
 
 集合場所にはすでにジェットコースター組がいた。
 「ごめん。待った?」
 「大丈夫。俺らも今来たところだから。守たちも楽しかった?」
 ジェットコースターに乗ったことで、5人の活力は増しているように見える。
 「うん。楽しかったよ」
 「俺も楽しかった」
 ―潤とデートできて。
 「じゃあ解散予定時刻だし思い出に浸りながら帰りましょうか」
 今日一日楽しみきったような顔で言う奏汰。とても充実した時間を過ごしたことが伝わってくる。
 
 帰りの電車、俺と潤は今日撮った写真を見返している。
 「この写真、ジェットコースター乗った後に撮ったのだよね」
 そこには今にも倒れそうな青白い顔をした俺と、笑顔の潤が写っていた。
 「あの時は本当に倒れそうだったんだよ」
 でも、潤と2人になれるきっかけになったのは嬉しかった。
 「あ、これは頂上から撮った写真か。やっぱり頂上から見た景色はきれいだったよね」
 「うん。そうだね」
 写真を見ながら、今日のことを話しているといつの間にか乗り換えの駅まで来ていた。
 「じゃあ、俺と潤が乗り換えだから、また学校でね」
 班のみんなに別れを告げ、俺たちは電車を降りた。
 「今日一日ほんとに早かったね」
 「うん。思っていたより一瞬だった。俺と潤の記念すべきデート1回目だな」
 ふざけた口調で、冗談だって伝わるように言ったつもりだった。
 だが、潤はそれをまともに受けたようだ。俺の隣で満更でもないような顔で笑っている。
 俺が保険をかけて茶化して言ったことを、潤が喜んで受け取ってくれたことが嬉しい。
 「じゃあこれからも俺とデートしてよ。守」
 思いもしなかった展開に胸が騒ぐ。
 「もちろん。楽しみ」
 「疲れたと思うから最寄り駅まで寝なよ。俺起こすから」
 潤は言いながら自分の右肩をポンポンと叩いている。
 これは肩を使えということなのか。
 俺が戸惑っていると潤は口を開く。
 「ほら、肩貸すから。眠そうだよ」
 「ありがとう」
 「おやすみ」
  
 潤の肩は思っていたよりもしっかりとしていて、心地よかった。
 今日一日の余韻に浸りながら、俺は眠りについた。