『オルリン』での活動は順調そのものだった。クランではASTRAがZをメンバーに紹介してくれ、専用のグループチャットにも招待してもらった。
初めて会う人がこぞってアバターを褒めてくれるので、その度に「だろ? うちのZはかわいいだろう?」と瑛斗は画面の前で一人ドヤ顔になる。
クランでの活動がない時間は、相変わらずぴこたんとレイドやダンジョンを回り、ベンチに座ってダラダラとお喋りをして過ごした。メインストーリーの攻略は、秋也と行くとウンチクが長すぎて寝るのが遅くなるため、基本的にはぴこたんと進めることにしている。
Z:今日はなんかクランでイベントやるってさ
PICO:おお、いってら
Z:かわいい装備なんかくれくれ
PICO:ああ、何個か選んどいた
すっかり定位置となったネオン街の屋台ベンチ。並んで座っていると、トレード画面が開き、ぴこたんからアイテムがポンポンと送られてきた。
アイテム欄に、清楚系からパンク系まで、様々な私服のようなデザインの装備がどんどん追加されていく。
PICO:今着てる装備に重ね着できるやつだから
Z:おお、割とおしゃれじゃん!
最後にポン、とアイテム欄にぴこたんそっくりな白いロボットのアイコンが追加された。
Z:え、なんかぴこたんがアイテム欄に入ってきたんだけど
PICO:それパペットってアクセサリー
PICO:ステータス性能はないけど、肩に乗る
「え、肩乗りロボ!? マジか!」
ウキウキしながらさっそく装着してみる。画面の中で、Zの肩に小さな白いロボットがちょこんと座った。
Z:なにこれかわいい
PICO:かわいい
Z:肩乗りぴこたん
Z:肩ぴこ
PICO:肩たんじゃないだけマシか
もらった大量の服の中から秋也好みの清楚なコーディネートを厳選していると、あっという間に待ち合わせの時間になった。
覚えたての『手を振る』エモートでぴこたんと一旦別れ、真新しい服に身を包んだZはクランのアジトへと向かう。
アジトにはASTRAの他に、クランメンバーの『LINA』『GON』『MIKAN』がいた。素性はよくわからないが、GONとMIKANはゲーム内結婚をしているらしい。恋愛感情があるわけではなく、単純に結婚ボーナスのバフアイテム目当てのビジネス婚だと聞かされている。
LINA:Zちゃんおはよー!新しいお洋服かわいい!
ASTRA:Zちゃんやっほー!
GON:ちわ
MIKAN:おは
Z:こんちわ
アジトに入るなり、LINAがピョンピョンと跳ねながら駆け寄ってきた。猫耳と尻尾のついている半人獣型アンドロイドのアバターだ。Zの目の前まで来ると、驚いて両手を上げるようなエモートをする。
LINA:なにそのパペット!初めて見た!かわいい!
Z:肩ぴこ
ASTRA:え
ASTRA:まって、それP-01ナビユニット!?
GON:は?
GON:マ?
MIKAN:なにそれ
Z:肩ぴこ
なんだよP-01ナビユニットって。ぴこたんだよこれは。
瑛斗が頬杖をつきながら、急にざわつき始めたチャットログをぼうっと眺めていると、ASTRAからの長文が飛んできた。それによると、旧イベントのレイドを早期攻略した上位五十人だけがもらえた、取引可能な激レアの限定コスメらしい。
ASTRA:それ売りに出したら、ゲーム内で一等地マイハウスが買えるレベルだよ。
Z:ほほお
GON:どうやって手に入れたん?
Z:フレンドがくれた
ASTRA:例のフレンド?
Z:うん。ぴこたん。
ASTRA:ぴこたん、一体何者なんだ…。
MIKAN:ぴこたん…PICOじゃね?
Z:おお、知り合い?
GON:!?!?
ASTRA:ぴこたんって、あのPICO!?
MIKAN:まじかよwww
なんだよ、ぴこたんってそんなに顔広いのか。
LINA:PICOって誰?
GON:りなちーは三ヶ月前くらいから始めたから知らんか
ASTRA:去年、サーバートップを取った最大クラン『Nullframe』の元メインメンバーだよ。最近は表立って活動してないって聞いてたし、クランも抜けたって噂だったけど。
Z:つまりすごい人?
GON:ヤバい人だね。始めて二年もしないうちに頂点取って、パッと消えちゃった人
MIKAN:Zなんでそんなのと知り合いなの
Z:ログイン初日に迷子になって死にまくってたら、助けてくれて友達になった
LINA:Zちゃん、運良すぎwww
へえぇ……。ぴこたん、すげぇんだ……。
あんな小さい、どこにでもいそうな量産型ロボットの見た目してんのに……?
てか、この『肩ぴこ』を売ればマイハウスが持てるのか。そういえば、秋也がマイハウスを買うためにせっせとお金を貯めて頑張ってるって言ってたな。これ、秋也にあげたら喜ぶだろうか。
……いや。
瑛斗は画面の中の、自分の肩にちょこんと座る白いロボットを眺めた。
……なんか、あげたくねえなぁ、これは。秋也も、家くらい自力で買いたいタイプだろうし。うん、まぁいいか。
MIKAN:ほれ、それよりとっととダンジョン行こうや
*
期間限定イベントダンジョン『ブラックアウト・プロトコル』。
巨大な施設で雑魚を散らしながら中枢を目指す五人一組制のダンジョンで、中ボスが二回、最後に大ボスが控えている。
難易度はかなり高く、一回目の中ボスで一度全滅したものの、やり直してなんとか突破。しかし、二回目の中ボス『ケルベロス』には、何度挑んでも勝てない。
ASTRA:ケルベロス、頭三つのHPを一定に保つ必要があるかも。一個だけ頭倒しても、数分経つと蘇生されちゃうから。
GON:なるほど
MIKAN:理解
LINA:了解!
ASTRA:ゴンが左、ミカンさんが右、Zちゃんは真ん中殴ろう。火力足りないから、俺がタゲ取りつつ真ん中一緒に殴るね。
「マジか……むずすぎるって」
休むことなく飛んでくる範囲攻撃を避けながら、ターゲットを細かく切り替えて均等に削る。そんな器用な芸当、初心者の瑛斗には到底無理だった。足元に可視化される赤い攻撃範囲から慌てて逃げ惑うだけで精一杯だ。
案の定、次のトライでも瑛斗はほとんど攻撃に参加できず、焦った挙げ句に別の頭を殴り続けていた。
ASTRA:Zちゃんそっちじゃない!
MIKAN:右叩かないで
GON:真ん中全然削れてない
瑛斗のミスのせいで、何度も全滅を繰り返す。次第に、チャットの空気が目に見えてギスギスし始めた。
MIKAN:Z、違うの殴んな。タゲよくみて
MIKAN:またこっち殴ってるんだけど
MIKAN:タゲ見ろ
特にMIKANの当たりがキツかった。普段は面倒見のいい姉貴分なのだが、攻略となると真剣そのものだ。
LINA:ドンマイだよー( ; ; )
MIKAN:ムリゲー
GON:まだやる?
LINA:私はどっちでも
ASTRA:ダンジョンの時間制限もそろそろだし、今日は一旦出ようか。
Z:ごめん
ASTRA:ドンマイ!気にしないで!
……気まずい。気まずすぎる。
てか、なんでみんなゲームなのにこんなに本気なの? 部活かよ。ゲームってもう少し気楽に楽しむもんじゃないの?
結局「明日また頑張ろう」ということになり、その日は解散となった。瑛斗が重いため息をつきながらクランチャットから抜けると、ASTRAからピロンと個別チャットが飛んでくる。
ASTRA:あまり気に病まないで!Zちゃんがゲーム初心者ってことはみんなわかってるし、頑張ってくれてることもわかってるからね!
お前は本当に優しいな、秋也。早く攻略したいだろうに。
Z:ありがとう。明日はもう少し動けるように頑張る
ASTRA:うんうん、楽しんでいこー!
秋也のフォローに少しだけ救われつつも、明日うまく立ち回れる自信なんてミリもない。
でも、秋也のためにもなんとかせねば……。
キーボードの上で指をさまよわせ、気がつくと瑛斗は、藁にもすがる思いでぴこたんとのトーク画面を開いていた。
Z:ぴこたーんたすけてぇ
PICO:どした
Z:ブラプロのケルベロス、うちが下手すぎて突破できない
PICO:あー
PICO:ちとまって
しばらく待っていると、ぴこたんから『三十分だけ特訓しよう』とパーティ招待が飛んできた。入ってみると、見たこともない名前のプレイヤーが三人並んでいる。
なんでも、ぴこたんが元いたクランのメンバーに頼み、三十分だけ時間をもらったらしい。
HEX:完全キャリーモードでオケ?
NOV:Zちゃんよろ
PICO:攻撃パターンは決まってるから、どんな攻撃がくるかさえ理解すれば焦らず避けられる
Z:なるほど?
SAMMY:PICOがレクチャーしてんの珍しくて草
NOV:いうなよ
流されるまま、再びダンジョンへと突入する。三人の動きは異次元で、あっという間に二回目の中ボスまで到達した。
NOV:Zちゃん、とりあえず床で寝ててね
戦闘開始直後、冒頭の全体攻撃で回復が飛んでこず、ZはあっけなくHPを削り切られて床に倒れた。
「え、なんでだよ」
PICO:ゲームカメラ最大まで引いて
PICO:ケルベロスの攻撃パターン、上から全部見て覚えて
言われるがまま、マウスのホイールを回してカメラを限界まで引いてみる。
俯瞰になった視界で、戦闘の全体像がはっきりと見えた。全体攻撃の直後にNOVが残りのメンバーを一瞬で全回復させ、直後に範囲攻撃がくる。太めの縦ライン、次はグリッド状のマス目攻撃。青白く光っている隙間が安全地帯だ。
ASTRAと同じタンク職にジョブを変更したぴこたんが、Zが床に転がっている代わりに真ん中の頭を引き受け、完璧なタイミングで削っている。左右からのサポート攻撃の連携も無駄がない。
Zがいなくても余裕で倒せそうにもかかわらず、彼らは終盤でわざと攻撃を止め、全滅してみせた。同じ『床ペロ観戦』を二回繰り返す。
PICO:パターンなんとなくわかった? 次どこが安地になるかわかってれば、先に移動して攻撃できる
三回目。
開幕の全体攻撃後、今度はNOVがZにも回復を飛ばしてくれた。
次に来るのは線上の範囲攻撃だ。先ほどの記憶を頼りに、攻撃が来る前に安全地帯へと移動する。自分の足元に焦りがないため、真ん中の頭をしっかりとターゲットして落ち着いてスキルを撃つ余裕が生まれた。
その後も順調に攻撃を避け、三体同時に体力を削ることに成功した。
PICO:クリア本番は自分のクランで頑張って
NOV:おつ。うまかったよ三回目。
SAMMY:またいつでもー
HEX:おつ
Z:みんな超ありがとう!!!
三回目もトドメは刺さず、わざと全滅してダンジョンを抜ける。
強者どもは嵐のようにあっさりとパーティを抜けていった。
Z:ぴこたんありがとう
PICO:ラスボスもこんな感じで攻撃パターン決まってるから、よく見ること
Z:おけ!明日頑張る!
PICO:がんばれ
最後のトライ、自分でも驚くほどいい動きができたな。
その夜、瑛斗は布団の中でケルベロスの攻撃パターンと回避ルートを何度も頭の中でシミュレーションしながら、心地よい疲労感と共に眠りについた。
初めて会う人がこぞってアバターを褒めてくれるので、その度に「だろ? うちのZはかわいいだろう?」と瑛斗は画面の前で一人ドヤ顔になる。
クランでの活動がない時間は、相変わらずぴこたんとレイドやダンジョンを回り、ベンチに座ってダラダラとお喋りをして過ごした。メインストーリーの攻略は、秋也と行くとウンチクが長すぎて寝るのが遅くなるため、基本的にはぴこたんと進めることにしている。
Z:今日はなんかクランでイベントやるってさ
PICO:おお、いってら
Z:かわいい装備なんかくれくれ
PICO:ああ、何個か選んどいた
すっかり定位置となったネオン街の屋台ベンチ。並んで座っていると、トレード画面が開き、ぴこたんからアイテムがポンポンと送られてきた。
アイテム欄に、清楚系からパンク系まで、様々な私服のようなデザインの装備がどんどん追加されていく。
PICO:今着てる装備に重ね着できるやつだから
Z:おお、割とおしゃれじゃん!
最後にポン、とアイテム欄にぴこたんそっくりな白いロボットのアイコンが追加された。
Z:え、なんかぴこたんがアイテム欄に入ってきたんだけど
PICO:それパペットってアクセサリー
PICO:ステータス性能はないけど、肩に乗る
「え、肩乗りロボ!? マジか!」
ウキウキしながらさっそく装着してみる。画面の中で、Zの肩に小さな白いロボットがちょこんと座った。
Z:なにこれかわいい
PICO:かわいい
Z:肩乗りぴこたん
Z:肩ぴこ
PICO:肩たんじゃないだけマシか
もらった大量の服の中から秋也好みの清楚なコーディネートを厳選していると、あっという間に待ち合わせの時間になった。
覚えたての『手を振る』エモートでぴこたんと一旦別れ、真新しい服に身を包んだZはクランのアジトへと向かう。
アジトにはASTRAの他に、クランメンバーの『LINA』『GON』『MIKAN』がいた。素性はよくわからないが、GONとMIKANはゲーム内結婚をしているらしい。恋愛感情があるわけではなく、単純に結婚ボーナスのバフアイテム目当てのビジネス婚だと聞かされている。
LINA:Zちゃんおはよー!新しいお洋服かわいい!
ASTRA:Zちゃんやっほー!
GON:ちわ
MIKAN:おは
Z:こんちわ
アジトに入るなり、LINAがピョンピョンと跳ねながら駆け寄ってきた。猫耳と尻尾のついている半人獣型アンドロイドのアバターだ。Zの目の前まで来ると、驚いて両手を上げるようなエモートをする。
LINA:なにそのパペット!初めて見た!かわいい!
Z:肩ぴこ
ASTRA:え
ASTRA:まって、それP-01ナビユニット!?
GON:は?
GON:マ?
MIKAN:なにそれ
Z:肩ぴこ
なんだよP-01ナビユニットって。ぴこたんだよこれは。
瑛斗が頬杖をつきながら、急にざわつき始めたチャットログをぼうっと眺めていると、ASTRAからの長文が飛んできた。それによると、旧イベントのレイドを早期攻略した上位五十人だけがもらえた、取引可能な激レアの限定コスメらしい。
ASTRA:それ売りに出したら、ゲーム内で一等地マイハウスが買えるレベルだよ。
Z:ほほお
GON:どうやって手に入れたん?
Z:フレンドがくれた
ASTRA:例のフレンド?
Z:うん。ぴこたん。
ASTRA:ぴこたん、一体何者なんだ…。
MIKAN:ぴこたん…PICOじゃね?
Z:おお、知り合い?
GON:!?!?
ASTRA:ぴこたんって、あのPICO!?
MIKAN:まじかよwww
なんだよ、ぴこたんってそんなに顔広いのか。
LINA:PICOって誰?
GON:りなちーは三ヶ月前くらいから始めたから知らんか
ASTRA:去年、サーバートップを取った最大クラン『Nullframe』の元メインメンバーだよ。最近は表立って活動してないって聞いてたし、クランも抜けたって噂だったけど。
Z:つまりすごい人?
GON:ヤバい人だね。始めて二年もしないうちに頂点取って、パッと消えちゃった人
MIKAN:Zなんでそんなのと知り合いなの
Z:ログイン初日に迷子になって死にまくってたら、助けてくれて友達になった
LINA:Zちゃん、運良すぎwww
へえぇ……。ぴこたん、すげぇんだ……。
あんな小さい、どこにでもいそうな量産型ロボットの見た目してんのに……?
てか、この『肩ぴこ』を売ればマイハウスが持てるのか。そういえば、秋也がマイハウスを買うためにせっせとお金を貯めて頑張ってるって言ってたな。これ、秋也にあげたら喜ぶだろうか。
……いや。
瑛斗は画面の中の、自分の肩にちょこんと座る白いロボットを眺めた。
……なんか、あげたくねえなぁ、これは。秋也も、家くらい自力で買いたいタイプだろうし。うん、まぁいいか。
MIKAN:ほれ、それよりとっととダンジョン行こうや
*
期間限定イベントダンジョン『ブラックアウト・プロトコル』。
巨大な施設で雑魚を散らしながら中枢を目指す五人一組制のダンジョンで、中ボスが二回、最後に大ボスが控えている。
難易度はかなり高く、一回目の中ボスで一度全滅したものの、やり直してなんとか突破。しかし、二回目の中ボス『ケルベロス』には、何度挑んでも勝てない。
ASTRA:ケルベロス、頭三つのHPを一定に保つ必要があるかも。一個だけ頭倒しても、数分経つと蘇生されちゃうから。
GON:なるほど
MIKAN:理解
LINA:了解!
ASTRA:ゴンが左、ミカンさんが右、Zちゃんは真ん中殴ろう。火力足りないから、俺がタゲ取りつつ真ん中一緒に殴るね。
「マジか……むずすぎるって」
休むことなく飛んでくる範囲攻撃を避けながら、ターゲットを細かく切り替えて均等に削る。そんな器用な芸当、初心者の瑛斗には到底無理だった。足元に可視化される赤い攻撃範囲から慌てて逃げ惑うだけで精一杯だ。
案の定、次のトライでも瑛斗はほとんど攻撃に参加できず、焦った挙げ句に別の頭を殴り続けていた。
ASTRA:Zちゃんそっちじゃない!
MIKAN:右叩かないで
GON:真ん中全然削れてない
瑛斗のミスのせいで、何度も全滅を繰り返す。次第に、チャットの空気が目に見えてギスギスし始めた。
MIKAN:Z、違うの殴んな。タゲよくみて
MIKAN:またこっち殴ってるんだけど
MIKAN:タゲ見ろ
特にMIKANの当たりがキツかった。普段は面倒見のいい姉貴分なのだが、攻略となると真剣そのものだ。
LINA:ドンマイだよー( ; ; )
MIKAN:ムリゲー
GON:まだやる?
LINA:私はどっちでも
ASTRA:ダンジョンの時間制限もそろそろだし、今日は一旦出ようか。
Z:ごめん
ASTRA:ドンマイ!気にしないで!
……気まずい。気まずすぎる。
てか、なんでみんなゲームなのにこんなに本気なの? 部活かよ。ゲームってもう少し気楽に楽しむもんじゃないの?
結局「明日また頑張ろう」ということになり、その日は解散となった。瑛斗が重いため息をつきながらクランチャットから抜けると、ASTRAからピロンと個別チャットが飛んでくる。
ASTRA:あまり気に病まないで!Zちゃんがゲーム初心者ってことはみんなわかってるし、頑張ってくれてることもわかってるからね!
お前は本当に優しいな、秋也。早く攻略したいだろうに。
Z:ありがとう。明日はもう少し動けるように頑張る
ASTRA:うんうん、楽しんでいこー!
秋也のフォローに少しだけ救われつつも、明日うまく立ち回れる自信なんてミリもない。
でも、秋也のためにもなんとかせねば……。
キーボードの上で指をさまよわせ、気がつくと瑛斗は、藁にもすがる思いでぴこたんとのトーク画面を開いていた。
Z:ぴこたーんたすけてぇ
PICO:どした
Z:ブラプロのケルベロス、うちが下手すぎて突破できない
PICO:あー
PICO:ちとまって
しばらく待っていると、ぴこたんから『三十分だけ特訓しよう』とパーティ招待が飛んできた。入ってみると、見たこともない名前のプレイヤーが三人並んでいる。
なんでも、ぴこたんが元いたクランのメンバーに頼み、三十分だけ時間をもらったらしい。
HEX:完全キャリーモードでオケ?
NOV:Zちゃんよろ
PICO:攻撃パターンは決まってるから、どんな攻撃がくるかさえ理解すれば焦らず避けられる
Z:なるほど?
SAMMY:PICOがレクチャーしてんの珍しくて草
NOV:いうなよ
流されるまま、再びダンジョンへと突入する。三人の動きは異次元で、あっという間に二回目の中ボスまで到達した。
NOV:Zちゃん、とりあえず床で寝ててね
戦闘開始直後、冒頭の全体攻撃で回復が飛んでこず、ZはあっけなくHPを削り切られて床に倒れた。
「え、なんでだよ」
PICO:ゲームカメラ最大まで引いて
PICO:ケルベロスの攻撃パターン、上から全部見て覚えて
言われるがまま、マウスのホイールを回してカメラを限界まで引いてみる。
俯瞰になった視界で、戦闘の全体像がはっきりと見えた。全体攻撃の直後にNOVが残りのメンバーを一瞬で全回復させ、直後に範囲攻撃がくる。太めの縦ライン、次はグリッド状のマス目攻撃。青白く光っている隙間が安全地帯だ。
ASTRAと同じタンク職にジョブを変更したぴこたんが、Zが床に転がっている代わりに真ん中の頭を引き受け、完璧なタイミングで削っている。左右からのサポート攻撃の連携も無駄がない。
Zがいなくても余裕で倒せそうにもかかわらず、彼らは終盤でわざと攻撃を止め、全滅してみせた。同じ『床ペロ観戦』を二回繰り返す。
PICO:パターンなんとなくわかった? 次どこが安地になるかわかってれば、先に移動して攻撃できる
三回目。
開幕の全体攻撃後、今度はNOVがZにも回復を飛ばしてくれた。
次に来るのは線上の範囲攻撃だ。先ほどの記憶を頼りに、攻撃が来る前に安全地帯へと移動する。自分の足元に焦りがないため、真ん中の頭をしっかりとターゲットして落ち着いてスキルを撃つ余裕が生まれた。
その後も順調に攻撃を避け、三体同時に体力を削ることに成功した。
PICO:クリア本番は自分のクランで頑張って
NOV:おつ。うまかったよ三回目。
SAMMY:またいつでもー
HEX:おつ
Z:みんな超ありがとう!!!
三回目もトドメは刺さず、わざと全滅してダンジョンを抜ける。
強者どもは嵐のようにあっさりとパーティを抜けていった。
Z:ぴこたんありがとう
PICO:ラスボスもこんな感じで攻撃パターン決まってるから、よく見ること
Z:おけ!明日頑張る!
PICO:がんばれ
最後のトライ、自分でも驚くほどいい動きができたな。
その夜、瑛斗は布団の中でケルベロスの攻撃パターンと回避ルートを何度も頭の中でシミュレーションしながら、心地よい疲労感と共に眠りについた。

