見た瞬間、あ、秋也だ、と直感した。見覚えのあるデフォルトスキンを少しだけワイルドにアレンジしたような、飾り気のないアバター。
思わずキーボードから手を離して立ち止まってしまったが、「こんな所で棒立ちしてたら怪しすぎる」と我に返り、慌ててWキーを押して通り過ぎる。
近くのショップで買い物をしているふりをしながら、「はぁ、どうしよ」と頭を抱えた。
一旦……ちょっと待つか。いきなり話しかけたら明らかにおかしい。こうして見つけたはいいけど、どう距離を詰めればいいのか全くわからない。リアルでだって、道端で急に「こんちわ」って肩叩いたらもはやただの不審者だろ。
「……とりあえずレベルあげよ」
そう決意すると、瑛斗はASTRAの前をそそくさと駆け抜け、ビルを後にした。
バイトの時間まで一人でダンジョンに潜り、二回死ぬ。
通りすがりの強そうなプレイヤーが蘇生してくれたので事なきを得たが、夕方を回っても結局ぴこたんはログインしてこなかった。
あいつ、土曜日は忙しいんだな。脳内にメモをしつつ、そろそろ行くか、と腰を上げる。
PC代の次はサブスク代か。そんな現実的なことを考えながら、バイトの制服を掴んで部屋を出た。
日曜日。昼過ぎにのそりと起きて、そのまま『オルリン』を起動する。ログインした直後、待ってましたとばかりにぴこたんからチャットが飛んできた。
PICO:こんちわ
Z:こんちわ
PICO:レベル20になっててえらい
Z:えらい
PICO:探し人には会えた?
うぅ、と瑛斗の口から情けない呻き声が漏れる。
探せたんだよ、いたよ。多分あれだ。
でも、どうやって距離を縮めりゃいいんだ?
Z:どうやって近づけばいいかわかんない
無意識のうちに、脳内の悩みをそのままチャットに打ち込んでいた。
……まぁ、いいか。相手はぴこたんだし。
PICO:知り合いなんでしょ?
Z:ちょっと事情がありまして
PICO:事情とは
「……あー……もう話してみるか? ぴこたんに……」
事情を話したら味方になってくれるかもしれない。いや、引かれるかもな。まあ、リアルな知り合いではないし、最悪引かれてもゲーム内で会わなくなるだけだ。
Z:ぴこたん、相談があるからシティのカフェにきて
PICO:なんでわざわざカフェ?
PICO:チャットはどこでもできる
Z:雰囲気が大事!
PICO:りょ
*
ネオンが煌々と輝く街。錆びた屋台のベンチに、美少女と小さな白い機械が並んで座っている。
この『座る』のエモートは瑛斗のお気に入りだ。自分でも理由がわからないが、なんだかこの世界に本当にZが存在している気がしてワクワクする。
PICO:で、片想い相手とゲーム内なら恋愛できるかもと思って、このゲームを始めたと
Z:そゆこと
かれこれ三十分はこうして座ってチャットをしている。最初はなんだかんだ気恥ずかしくて話を逸らしたりしていたものの、いざ打ち明け始めると、すらすらと事情を説明できた。ぴこたんが真剣に聞いてくれるからかもしれない。
PICO:なんでリアルでは恋愛できないって決めつけてるの?
Z:だってうち男だもん
PICO:それはわかってるけど
……え、わかってるの?
なんでバレたの? 一人称『うち』の女子、普通にいるよな?
PICO:仮にその彼好みの美少女で近づいて、彼がその気になっても
PICO:好きになられてんのZじゃん。それ、辛くない?
ガチャ、と音を立てて、瑛斗はキーボードの上に突っ伏した。
ぴこたん、正論パンチやめて。一番痛いところを突かないで。
虚しいと思うよ。辛いと思うよ。それでも、あいつに愛されるってこんな感じかって、ちょっとだけでいいから知ってみたいんだよ。
何も言い返せず、動かなくなったZ。その様子を察してか、画面の中のぴこたんが、やれやれと盛大なため息を吐くモーションを見せた。
PICO:まぁ、手伝うけど
Z:マジ?
PICO:その代わり、二つ忠告
はい。瑛斗は画面を見つめて、ごくりと唾を飲み込む。
PICO:一つ目。そのままの言葉遣いじゃ男ってすぐバレるから、もう少し頑張りましょう
Z:はい
PICO:二つ目。ネットリテラシーが低すぎる。
PICO:知らない人に、自分のリアルな事情をそんなホイホイ話したらいけない
Z:ぴこたんもう友達じゃん……
PICO:そうだけど。ネットにいるのがいい人ばっかとは限らないんだから
PICO:俺以外にこの話は絶対にしないこと
Z:わかった!
Z:ところでぴこたんは何歳なの? 何してる人なの? どこに住んでんの? うちには教えてよ
PICO:言わないよ。ネットリテラシー高いもん俺は
画面の中のぴこたんが、ぴょこんとベンチから起き上がった。
PICO:そんなことより、ASTRAに近づく方法考えようか
*
ぴこたんの提案した作戦は、『クランのアジトにASTRAが一人でいる時を狙い、入会希望を伝える』というシンプルなものだった。
今ちょうどASTRAがアジトにいるとのことで、クラン【Relay】の拠点までぴこたんに送り届けてもらう。「邪魔になるから」とパーティを抜ける際、遠くにいても会話ができるグループチャットに瑛斗を招待してくれた。
「はぁ……」
瑛斗は一度大きく深呼吸をして、アジトの中へと足を踏み入れた。寂れた巨大倉庫のような外観だが、内部は綺麗にデコレーションされている。
奴は一人だろうか。誰か他のメンバーがいたら今日は諦めろと、ぴこたんに釘を刺されている。
倉庫の奥、ガレージのようなスペースで、車の横にしゃがみ込んでいる『ASTRA』を発見した。ぐるりとカメラを回して周囲を確認するが、他には誰もいない。
よし、チャンスだ。
瑛斗は少し震える指でキーボードを叩いた。
Z:クランに入会希望なんですけど!
…………。
返事がない。画面の中のASTRAは、相変わらず忙しなく機械をいじっている。無視か?と焦った直後、左下のチャットログが更新された。
PICO:知ってる
「あら」
間違えて、ぴこたんとのグループチャットに誤爆していた。裏で呆れているであろう白いロボットの顔が目に浮かぶ。
瑛斗は慌ててマウスを掴み、トーク先を『周囲』に切り替えると、同じ文章を再び打ち込んだ。
Z:クランに入会希望なんですけど
あ。最後にびっくりマークを付け忘れた。まぁいいや。
そんなことを思っていると、画面の中でASTRAが立ち上がり、ゆっくりとZの前に歩み寄ってきた。
瑛斗は思わず息を呑む。
殺風景なガレージだが、高い窓から差し込む西日が逆光になり、歩み寄る二人のシルエットを美しく縁取っていた。まるで映画のワンシーンみたいだ。
いいなぁ。アバターの身長差、二十センチくらいある。体格差もばっちりで、すげえ絵になるな。現実とは大違いだ。自分と秋也は四センチしか身長が変わらないのに。
食い入るようにモニターを見つめていると、ポーンとログが更新された。
ASTRA:初めまして〜。クラン入会、大歓迎です。
わぁ、きっちり句読点つけるタイプだ。
Z:レベル20のザコですけど入会できる?
ASTRA:入会できますよー!
ASTRA:初心者さんですか?いい装備だね。
Z:フレンドにもらった
Z:入会どうやる?
ASTRA:あ、招待送るね!
ピロン、というシステム音と共に『クラン【Relay】から招待状が届きました』というウィンドウが浮かび上がる。瑛斗は食い気味に【入会する】のボタンを押した。
レベルアップの時よりも壮大なジングルが鳴り響き、画面中央にデカデカと【おめでとう!クランに加入しました】と文字が躍る。ずっと画面を圧迫していたMission欄が消え、視界が少しスッキリした。
Z:入れた
ASTRA:おめでとう!これからよろしくね!
Z:よろしく
Z:ところでクランに入るとどうなるの?何すればいい?
ASTRAが豪快に笑うエモートをした。直後、再びピロリンと音が鳴り、ASTRAからフレンド申請が飛んでくる。
おお、さすが秋也。下に妹がいるだけあって、こういう面倒見はリアルと変わらず抜群にいい。
瑛斗はニヤけ面を隠すこともなくフレンド申請を受理した。
*
秋也は、ゲームの中でも驚くほど大瀧秋也だった。
ASTRA:レイドっていうのは、各地にランダムで大型の旧自律機械が湧くから、そいつに対してどれだけ攻撃を入れられるかでポイントがクランに加算される。また、ラストの一撃にはボーナスが入るから——
「……いやぁ、一文が長えなぁ」
画面を埋める文字の圧に、瑛斗は思わずため息をつく。長くても二行しか打たないぴこたんを少しは見習ってほしい。
ASTRA:理解できたかな?あと、ジョブはドローン使いだよね?俺は電磁ブレードだから、行きたいダンジョンとかレイドがあれば一緒に行くから都度連絡ちょうだい。
Z:はい
せっかちかよ。疑問を二個も投げかけておいて、こっちの返事を待たずにまとめるな。
「マジ、秋也だわぁ」と苦笑しながら、瑛斗はアジトを後にした。なんだかんだ緊張していたのか、こわばっていた肩をぐるぐると回し、マウスを操作してトークをグループチャットに切り替える。
Z:ぶじクランはいれた
PICO:おめでとう
PICO:あすとらは?
Z:フレンドになった!
PICO:おお、驚異の進展っぷり
Z:ちょっと難しい漢字やめて
PICO:中学漢字だが
画面を見つめながら、瑛斗は自然とニヤニヤしながらキーボードを叩いていた。
こういうくだらないやり取りの時、勝手に口角が上がるのはどうしたら抑えられるのだろう。
PICO:その様子だと、レイドのシステムわかってないな
PICO:実戦練習しに行くか
「お、やった」
待ってましたとばかりにマウスを握り直す。
レイドとは、たまにフィールドに湧く大型モブを他チームと取り合いながらぶっ叩くというものだった。ぴこたんと深夜までレイドを探し回った結果、Zが所属したばかりのクラン【Relay】にも結構なポイントが加算されたらしい。
ほどなくして、ASTRAから『凄い!さっそく稼いでくれてありがとう!』と、律儀なお礼のフレンドチャットが飛んできた。
全部、ぴこたんが体力を削って、おいしいラストアタックだけを譲ってくれたおかげなんだけどな。
圧倒的な火力で接待プレイをしてくれた白いロボットに感謝しつつ、秋也からのメッセージにほっこりした気持ちになる。
すると、再びピロン、とシステム音が鳴り、ASTRAからのチャットが更新された。
ASTRA:もし明日夜やるなら、一緒にレイドとかダンジョン、回ってみようよ。
思わずキーボードから手を離して立ち止まってしまったが、「こんな所で棒立ちしてたら怪しすぎる」と我に返り、慌ててWキーを押して通り過ぎる。
近くのショップで買い物をしているふりをしながら、「はぁ、どうしよ」と頭を抱えた。
一旦……ちょっと待つか。いきなり話しかけたら明らかにおかしい。こうして見つけたはいいけど、どう距離を詰めればいいのか全くわからない。リアルでだって、道端で急に「こんちわ」って肩叩いたらもはやただの不審者だろ。
「……とりあえずレベルあげよ」
そう決意すると、瑛斗はASTRAの前をそそくさと駆け抜け、ビルを後にした。
バイトの時間まで一人でダンジョンに潜り、二回死ぬ。
通りすがりの強そうなプレイヤーが蘇生してくれたので事なきを得たが、夕方を回っても結局ぴこたんはログインしてこなかった。
あいつ、土曜日は忙しいんだな。脳内にメモをしつつ、そろそろ行くか、と腰を上げる。
PC代の次はサブスク代か。そんな現実的なことを考えながら、バイトの制服を掴んで部屋を出た。
日曜日。昼過ぎにのそりと起きて、そのまま『オルリン』を起動する。ログインした直後、待ってましたとばかりにぴこたんからチャットが飛んできた。
PICO:こんちわ
Z:こんちわ
PICO:レベル20になっててえらい
Z:えらい
PICO:探し人には会えた?
うぅ、と瑛斗の口から情けない呻き声が漏れる。
探せたんだよ、いたよ。多分あれだ。
でも、どうやって距離を縮めりゃいいんだ?
Z:どうやって近づけばいいかわかんない
無意識のうちに、脳内の悩みをそのままチャットに打ち込んでいた。
……まぁ、いいか。相手はぴこたんだし。
PICO:知り合いなんでしょ?
Z:ちょっと事情がありまして
PICO:事情とは
「……あー……もう話してみるか? ぴこたんに……」
事情を話したら味方になってくれるかもしれない。いや、引かれるかもな。まあ、リアルな知り合いではないし、最悪引かれてもゲーム内で会わなくなるだけだ。
Z:ぴこたん、相談があるからシティのカフェにきて
PICO:なんでわざわざカフェ?
PICO:チャットはどこでもできる
Z:雰囲気が大事!
PICO:りょ
*
ネオンが煌々と輝く街。錆びた屋台のベンチに、美少女と小さな白い機械が並んで座っている。
この『座る』のエモートは瑛斗のお気に入りだ。自分でも理由がわからないが、なんだかこの世界に本当にZが存在している気がしてワクワクする。
PICO:で、片想い相手とゲーム内なら恋愛できるかもと思って、このゲームを始めたと
Z:そゆこと
かれこれ三十分はこうして座ってチャットをしている。最初はなんだかんだ気恥ずかしくて話を逸らしたりしていたものの、いざ打ち明け始めると、すらすらと事情を説明できた。ぴこたんが真剣に聞いてくれるからかもしれない。
PICO:なんでリアルでは恋愛できないって決めつけてるの?
Z:だってうち男だもん
PICO:それはわかってるけど
……え、わかってるの?
なんでバレたの? 一人称『うち』の女子、普通にいるよな?
PICO:仮にその彼好みの美少女で近づいて、彼がその気になっても
PICO:好きになられてんのZじゃん。それ、辛くない?
ガチャ、と音を立てて、瑛斗はキーボードの上に突っ伏した。
ぴこたん、正論パンチやめて。一番痛いところを突かないで。
虚しいと思うよ。辛いと思うよ。それでも、あいつに愛されるってこんな感じかって、ちょっとだけでいいから知ってみたいんだよ。
何も言い返せず、動かなくなったZ。その様子を察してか、画面の中のぴこたんが、やれやれと盛大なため息を吐くモーションを見せた。
PICO:まぁ、手伝うけど
Z:マジ?
PICO:その代わり、二つ忠告
はい。瑛斗は画面を見つめて、ごくりと唾を飲み込む。
PICO:一つ目。そのままの言葉遣いじゃ男ってすぐバレるから、もう少し頑張りましょう
Z:はい
PICO:二つ目。ネットリテラシーが低すぎる。
PICO:知らない人に、自分のリアルな事情をそんなホイホイ話したらいけない
Z:ぴこたんもう友達じゃん……
PICO:そうだけど。ネットにいるのがいい人ばっかとは限らないんだから
PICO:俺以外にこの話は絶対にしないこと
Z:わかった!
Z:ところでぴこたんは何歳なの? 何してる人なの? どこに住んでんの? うちには教えてよ
PICO:言わないよ。ネットリテラシー高いもん俺は
画面の中のぴこたんが、ぴょこんとベンチから起き上がった。
PICO:そんなことより、ASTRAに近づく方法考えようか
*
ぴこたんの提案した作戦は、『クランのアジトにASTRAが一人でいる時を狙い、入会希望を伝える』というシンプルなものだった。
今ちょうどASTRAがアジトにいるとのことで、クラン【Relay】の拠点までぴこたんに送り届けてもらう。「邪魔になるから」とパーティを抜ける際、遠くにいても会話ができるグループチャットに瑛斗を招待してくれた。
「はぁ……」
瑛斗は一度大きく深呼吸をして、アジトの中へと足を踏み入れた。寂れた巨大倉庫のような外観だが、内部は綺麗にデコレーションされている。
奴は一人だろうか。誰か他のメンバーがいたら今日は諦めろと、ぴこたんに釘を刺されている。
倉庫の奥、ガレージのようなスペースで、車の横にしゃがみ込んでいる『ASTRA』を発見した。ぐるりとカメラを回して周囲を確認するが、他には誰もいない。
よし、チャンスだ。
瑛斗は少し震える指でキーボードを叩いた。
Z:クランに入会希望なんですけど!
…………。
返事がない。画面の中のASTRAは、相変わらず忙しなく機械をいじっている。無視か?と焦った直後、左下のチャットログが更新された。
PICO:知ってる
「あら」
間違えて、ぴこたんとのグループチャットに誤爆していた。裏で呆れているであろう白いロボットの顔が目に浮かぶ。
瑛斗は慌ててマウスを掴み、トーク先を『周囲』に切り替えると、同じ文章を再び打ち込んだ。
Z:クランに入会希望なんですけど
あ。最後にびっくりマークを付け忘れた。まぁいいや。
そんなことを思っていると、画面の中でASTRAが立ち上がり、ゆっくりとZの前に歩み寄ってきた。
瑛斗は思わず息を呑む。
殺風景なガレージだが、高い窓から差し込む西日が逆光になり、歩み寄る二人のシルエットを美しく縁取っていた。まるで映画のワンシーンみたいだ。
いいなぁ。アバターの身長差、二十センチくらいある。体格差もばっちりで、すげえ絵になるな。現実とは大違いだ。自分と秋也は四センチしか身長が変わらないのに。
食い入るようにモニターを見つめていると、ポーンとログが更新された。
ASTRA:初めまして〜。クラン入会、大歓迎です。
わぁ、きっちり句読点つけるタイプだ。
Z:レベル20のザコですけど入会できる?
ASTRA:入会できますよー!
ASTRA:初心者さんですか?いい装備だね。
Z:フレンドにもらった
Z:入会どうやる?
ASTRA:あ、招待送るね!
ピロン、というシステム音と共に『クラン【Relay】から招待状が届きました』というウィンドウが浮かび上がる。瑛斗は食い気味に【入会する】のボタンを押した。
レベルアップの時よりも壮大なジングルが鳴り響き、画面中央にデカデカと【おめでとう!クランに加入しました】と文字が躍る。ずっと画面を圧迫していたMission欄が消え、視界が少しスッキリした。
Z:入れた
ASTRA:おめでとう!これからよろしくね!
Z:よろしく
Z:ところでクランに入るとどうなるの?何すればいい?
ASTRAが豪快に笑うエモートをした。直後、再びピロリンと音が鳴り、ASTRAからフレンド申請が飛んでくる。
おお、さすが秋也。下に妹がいるだけあって、こういう面倒見はリアルと変わらず抜群にいい。
瑛斗はニヤけ面を隠すこともなくフレンド申請を受理した。
*
秋也は、ゲームの中でも驚くほど大瀧秋也だった。
ASTRA:レイドっていうのは、各地にランダムで大型の旧自律機械が湧くから、そいつに対してどれだけ攻撃を入れられるかでポイントがクランに加算される。また、ラストの一撃にはボーナスが入るから——
「……いやぁ、一文が長えなぁ」
画面を埋める文字の圧に、瑛斗は思わずため息をつく。長くても二行しか打たないぴこたんを少しは見習ってほしい。
ASTRA:理解できたかな?あと、ジョブはドローン使いだよね?俺は電磁ブレードだから、行きたいダンジョンとかレイドがあれば一緒に行くから都度連絡ちょうだい。
Z:はい
せっかちかよ。疑問を二個も投げかけておいて、こっちの返事を待たずにまとめるな。
「マジ、秋也だわぁ」と苦笑しながら、瑛斗はアジトを後にした。なんだかんだ緊張していたのか、こわばっていた肩をぐるぐると回し、マウスを操作してトークをグループチャットに切り替える。
Z:ぶじクランはいれた
PICO:おめでとう
PICO:あすとらは?
Z:フレンドになった!
PICO:おお、驚異の進展っぷり
Z:ちょっと難しい漢字やめて
PICO:中学漢字だが
画面を見つめながら、瑛斗は自然とニヤニヤしながらキーボードを叩いていた。
こういうくだらないやり取りの時、勝手に口角が上がるのはどうしたら抑えられるのだろう。
PICO:その様子だと、レイドのシステムわかってないな
PICO:実戦練習しに行くか
「お、やった」
待ってましたとばかりにマウスを握り直す。
レイドとは、たまにフィールドに湧く大型モブを他チームと取り合いながらぶっ叩くというものだった。ぴこたんと深夜までレイドを探し回った結果、Zが所属したばかりのクラン【Relay】にも結構なポイントが加算されたらしい。
ほどなくして、ASTRAから『凄い!さっそく稼いでくれてありがとう!』と、律儀なお礼のフレンドチャットが飛んできた。
全部、ぴこたんが体力を削って、おいしいラストアタックだけを譲ってくれたおかげなんだけどな。
圧倒的な火力で接待プレイをしてくれた白いロボットに感謝しつつ、秋也からのメッセージにほっこりした気持ちになる。
すると、再びピロン、とシステム音が鳴り、ASTRAからのチャットが更新された。
ASTRA:もし明日夜やるなら、一緒にレイドとかダンジョン、回ってみようよ。

