剣道場に響くのは、主に竹刀が交わる音と踏み込みの衝撃、そして奇声だ。
瑛斗が道場入会を迷った最大の理由も、この「奇声」にある。初めて見学した時、「なんでこいつらこんな奇声を上げながら棒振ってんだ」と本気で疑問に思った。
『気剣体の一致』なんて言われるが、その中で唯一目に見えないのが「気」だ。だったら「俺は今めちゃくちゃ気合入ってます」と声で叩きつけるために叫んでいるのだろう。少なくとも瑛斗はそう理解している。
この奇声、もとい発声には、割と如実に個性が出る。
秋也は甲高く鋭い叫び声。ビリビリと空気が揺れるほどの気迫がある。対して冬梧は「ッセー」とやる気がない。「お前には気がない」と師範によく怒られている。
瑛斗は「っしゃーおらー」みたいな、ほぼ地声の叫びだ。可もなく不可もない。そもそも発声の大半は、自分でも何を言っているのかわからない。
中二の頃、道場に通う同年代を集めて『気合に悪口混ぜてもバレないか選手権』を密かに催した際、冬梧が面を打ちながら「クッセーんだハゲコラァ!」とほぼ地声で放ち、瑛斗が盛大に吹き出して試合どころではなくなったことがある。結果、師範にバチボコに怒られた。
ちなみに秋也は、そういう阿呆なノリには参加しない。参加したくてもできない。師範は一番、自分の息子に厳しいのだ。
「秋也! 冬梧に勝てねえで何がインハイだ!」
稽古の終盤、師範はたまに秋也に厳しいかかり稽古をさせる。
ヘロヘロになる秋也を見ているだけのこの時間が、瑛斗は好きではない。冬梧もまた、気まずそうに正座をして俯いている。
昭和のノリってやーよね。
そんな目線を冬梧と交わし、ひたすら時間が過ぎるのを待つ。
「おつかれちゃん」
稽古後。薬みたいな味のする小さいエナジードリンクの缶を、秋也に投げて寄越す。冬梧と折半してたまに買う、秋也への労いの一杯だ。
「おお、サンキュー」
「今日はファミレスどうすんの」
「あー……今日も俺、ちょっと早く帰りたいかも」
「また『オルリン』かよ」
「わりい」
ほぼ一口で缶を空けてベンチに置き、秋也がおもむろに道着を脱ぎ出した。バサッ、と分厚い布が擦れる音が響く。
瑛斗は若干慌ててくるりと後ろを向き、自分のロッカーに向かって着替えを進めた。
もちろん、見たい。瑛斗は健全なゲイの男子高生だ。
だが、もし凝視しているのがバレてキモがられたらと思うと、恐ろしくて直視なんてできない。だから瑛斗は、視線が交わらないように向かいの壁側のロッカーを使っている。なんだかんだ冬梧の裸も見てしまう気がするので、冬梧のロッカーももちろん秋也側だ。
背後から聞こえる衣擦れの音に全神経を集中させつつ、瑛斗はTシャツに腕を通した。
どうやってプレイヤー名を聞き出そう。頭をフル回転させる。
「……なぁ、秋也って『オルリン』の中でも秋也って名前なの?」
「いや、さすがに違う名前」
「どんな名前なんだよ」
なんでだよって言うなよ。言うなよ。
「なんでだよ」
クソが。
「秋也の名前、あすなんとかみたいなやつじゃなかったっけ」
冷や汗をかきかけた瞬間、いつの間にか着替え終わってベンチでスマホをいじっていた冬梧から、思わぬ助け舟が出た。
秋也は「なんで俺はお前の名前知らないのに、お前は俺の知ってるんだよ」と面倒くさそうに眉を顰める。
「アストラだよ、アストラ」
「へぇ……かっけぇな」
思わず、ジッパーを上げる手が止まった。聞き出せた喜びで、声が完全にニヤけてしまう。馬鹿にされたと思ったのか、秋也が背後からジロリと睨んでくる気配がしたが、そんなことはお構いなしだ。
アストラか。名前はローマ字でしか入力できないから、後で綴りを調べよう。
「瑛斗はー? ファミレス」
「俺も今日はやめとくかな」
「えぇ……ドリバ行きてぇのに……」
肩を落とす冬梧をよそに、瑛斗は浮き立つ足取りでさっさと道場を後にした。
*
PCの電源を入れ、ゲームを立ち上げる。モニターに映し出されたログイン画面では、サイバーパンクな街のカフェで、昨日作り上げた完璧な美少女Zが優雅にコーヒーを飲んでくつろいでいた。
「いつの間にそんなところで優雅に飯食ってんだよ」
自分がパソコンを離れている間も、こいつはこの世界で勝手に生きているのだろうか。もちろんそんなわけはないのだが、なんだか妙に不気味に感じる。
ログインしてゲーム画面に切り替わると、Zは昨日ぴこたんと別れたネオン街に佇んでいた。さっそくメニューからフレンド欄を開くが、ぴこたんはまだオフラインのようだ。
「ぴこたん、まだいねぇのか……」
落胆しつつも、帰り道で調べておいた秋也のプレイヤー名の綴りを検索欄に打ち込む。『astra』と打つと、候補が数名出てきた。一番上にオンラインの『ASTRA』、その下にはオフラインの『a・stray』や『Astra=Star』。
秋也のことだ、多分もうゲームをやっているだろう。ということは、この大文字のやつだ。
確信を持ってクリックすると、ジョブなどの詳細画面が開いた。しかし、居場所の欄が『???』になっている。
「どこだよ『???』って……」
マップを見るが、そんな地名は載っていない。
あ、全体チャットで『ASTRAどこだー!?』って叫ぶとか……? いや、そんなことしたら一発で身バレする。さりげなく近づいて、いつの間にか仲良くならないと意味がない。
腕を組み、画面の前でうんうん悩んでいると、ピロリン、と軽快なシステム音が鳴った。画面を見ると、いつの間にかぴこたんが目の前に立っている。瑛斗はパッと顔を輝かせ、キーボードに飛びついた。
Z:ぴこたん!
PICO:昨日ぶり
Z:知り合いのプレイヤー名わかって検索した
PICO:おお
Z:場所が???だった
PICO:あー
PICO:知り合いの名前教えて
Z:ASTRA
PICO:ちょっと待って
ぴこたんならなんとかしてくれそうだな。
ホッと息を吐きながら、画面の中の小さな白いロボットを見つめる。だんだん、クラスのオタクくんの姿に重なって見えてきた。谷口……谷山、谷川? なんだっけ。
PICO:いたけど、ここレベル18以上じゃないと行けない場所だ
Z:マジ?
PICO:とりあえずレベル上げよう。クランに入るのもレベル20必要だし
『俺、今いくつだっけ?』と打ちかけて、キーボードの上でピタッと指を止める。
さすがに『俺』はまずいだろ。女キャラだし。じゃあ、『私』? ローマ字打ちで『watashi』って打って変換すんの、めんどくせえな。カチャカチャとバックスペースキーを叩いて文字を消す。
Z:うちいまレベルいくつ
綾音も自分のこと「うち」って呼ぶし、いけるだろ。
PICO:今レベル8だね。画面下に体力バーがあって、その下に書いてあるよ
Z:まじだ
Z:ぴこたんはいくつ
PICO:70
Z:最大レベルは?
PICO:70
Z:すげえ
最大じゃん。え、もうレベル上げる必要ないのに、この人は何をするために毎日ログインしてんだ。
Z:どうやってレベルあげる?
PICO:昨日教えた通り、赤く光る人からひたすらお使いもらう
Z:飽きちゃうよ
PICO:飽きちゃうか
PICO:じゃあダンジョン潜ってみるか
「なにそれ! 楽しそう!」
思わずウキウキした声が出た。誰もいない部屋に響く自分の声に少し恥ずかしくなり、取り繕うように手元のコーラを一口飲む。
Z:ダンジョンいく
PICO:じゃあ準備するか
画面中央に『アイテム交換をします』というウィンドウが出た。瑛斗が首を傾げつつYESをクリックすると、見たこともないようなレアっぽい装備がポンポンとZのアイテム欄に放り込まれていく。
「こんなのくれんのか……」
ナビゲーター、マジですげえ。
Z:ありがと!
PICO:レベル上がったらまた違うのあげるよ
Z:ぴこたん神!
PICO:こうでもしないとZはすぐに辞めちゃいそうだから
ほほう。ぴこたんめ、さては俺の作ったこの美少女にちょっと惚れたな?
わかるよ。秋也のストライクゾーンを狙い撃ちした外見だが、こういう顔はオタクウケもいいはずだ。
幸先いいな、と口元が緩む。騙している罪悪感がないわけでもないが、ぴこたんとは生涯リアルで会うこともないだろうからよしとしよう。
ダンジョンは難しかったが、やりがいがあって面白かった。ぴこたんは『レベルシンク』なるものを使ってついて来てくれた。戦うわけでもなく、Zがやられそうになると回復をしてくれる。それでも突っ込みすぎて三回死んだが。
深夜までぶっ通しでやり続けて、やっとレベル11。先は長いが、ゲーム内でサクサク敵を倒し、見知らぬアイテムを手に入れる感覚が少し楽しく思えてきた。
高校と道場に通い、夜はぴこたんに介護されながらダンジョンを周回する。そんなサイクルを三日ほど繰り返し、週末を迎える頃には、Zのレベルは目標の18にまで上がっていた。
週末、瑛斗のコンビニバイトは夜シフトだ。バイトの時間までゲームをやろうと、昼下がりからさっそく『オルリン』を起動する。
廃人のぴこたんなら当然いると思ったがオフラインだった。一方、『ASTRA』はオンラインだ。
……会いに行く?
居場所はもう『???』ではない。今のレベルなら行ける近いエリアだ。
「一旦、探すだけ探すか……」
マウスを握り、瑛斗は目的地へとキャラを走らせた。なんだか、やたらと手汗をかく。
秋也がいるのは、ショップが並ぶ廃墟のようなビルだった。廊下では無数のプレイヤーが地べたに座り込み、必死にアイテムのクラフト作業をしている。
ひしめく頭上のプレイヤーネームを一つ一つ確認しながら、ゆっくりと進む。
ド、ド、と心臓の音がうるさい。
最上階まであと少しという時、廊下の隅に座り込んで作業をしている『ASTRA』の文字を見つけた。
瑛斗が道場入会を迷った最大の理由も、この「奇声」にある。初めて見学した時、「なんでこいつらこんな奇声を上げながら棒振ってんだ」と本気で疑問に思った。
『気剣体の一致』なんて言われるが、その中で唯一目に見えないのが「気」だ。だったら「俺は今めちゃくちゃ気合入ってます」と声で叩きつけるために叫んでいるのだろう。少なくとも瑛斗はそう理解している。
この奇声、もとい発声には、割と如実に個性が出る。
秋也は甲高く鋭い叫び声。ビリビリと空気が揺れるほどの気迫がある。対して冬梧は「ッセー」とやる気がない。「お前には気がない」と師範によく怒られている。
瑛斗は「っしゃーおらー」みたいな、ほぼ地声の叫びだ。可もなく不可もない。そもそも発声の大半は、自分でも何を言っているのかわからない。
中二の頃、道場に通う同年代を集めて『気合に悪口混ぜてもバレないか選手権』を密かに催した際、冬梧が面を打ちながら「クッセーんだハゲコラァ!」とほぼ地声で放ち、瑛斗が盛大に吹き出して試合どころではなくなったことがある。結果、師範にバチボコに怒られた。
ちなみに秋也は、そういう阿呆なノリには参加しない。参加したくてもできない。師範は一番、自分の息子に厳しいのだ。
「秋也! 冬梧に勝てねえで何がインハイだ!」
稽古の終盤、師範はたまに秋也に厳しいかかり稽古をさせる。
ヘロヘロになる秋也を見ているだけのこの時間が、瑛斗は好きではない。冬梧もまた、気まずそうに正座をして俯いている。
昭和のノリってやーよね。
そんな目線を冬梧と交わし、ひたすら時間が過ぎるのを待つ。
「おつかれちゃん」
稽古後。薬みたいな味のする小さいエナジードリンクの缶を、秋也に投げて寄越す。冬梧と折半してたまに買う、秋也への労いの一杯だ。
「おお、サンキュー」
「今日はファミレスどうすんの」
「あー……今日も俺、ちょっと早く帰りたいかも」
「また『オルリン』かよ」
「わりい」
ほぼ一口で缶を空けてベンチに置き、秋也がおもむろに道着を脱ぎ出した。バサッ、と分厚い布が擦れる音が響く。
瑛斗は若干慌ててくるりと後ろを向き、自分のロッカーに向かって着替えを進めた。
もちろん、見たい。瑛斗は健全なゲイの男子高生だ。
だが、もし凝視しているのがバレてキモがられたらと思うと、恐ろしくて直視なんてできない。だから瑛斗は、視線が交わらないように向かいの壁側のロッカーを使っている。なんだかんだ冬梧の裸も見てしまう気がするので、冬梧のロッカーももちろん秋也側だ。
背後から聞こえる衣擦れの音に全神経を集中させつつ、瑛斗はTシャツに腕を通した。
どうやってプレイヤー名を聞き出そう。頭をフル回転させる。
「……なぁ、秋也って『オルリン』の中でも秋也って名前なの?」
「いや、さすがに違う名前」
「どんな名前なんだよ」
なんでだよって言うなよ。言うなよ。
「なんでだよ」
クソが。
「秋也の名前、あすなんとかみたいなやつじゃなかったっけ」
冷や汗をかきかけた瞬間、いつの間にか着替え終わってベンチでスマホをいじっていた冬梧から、思わぬ助け舟が出た。
秋也は「なんで俺はお前の名前知らないのに、お前は俺の知ってるんだよ」と面倒くさそうに眉を顰める。
「アストラだよ、アストラ」
「へぇ……かっけぇな」
思わず、ジッパーを上げる手が止まった。聞き出せた喜びで、声が完全にニヤけてしまう。馬鹿にされたと思ったのか、秋也が背後からジロリと睨んでくる気配がしたが、そんなことはお構いなしだ。
アストラか。名前はローマ字でしか入力できないから、後で綴りを調べよう。
「瑛斗はー? ファミレス」
「俺も今日はやめとくかな」
「えぇ……ドリバ行きてぇのに……」
肩を落とす冬梧をよそに、瑛斗は浮き立つ足取りでさっさと道場を後にした。
*
PCの電源を入れ、ゲームを立ち上げる。モニターに映し出されたログイン画面では、サイバーパンクな街のカフェで、昨日作り上げた完璧な美少女Zが優雅にコーヒーを飲んでくつろいでいた。
「いつの間にそんなところで優雅に飯食ってんだよ」
自分がパソコンを離れている間も、こいつはこの世界で勝手に生きているのだろうか。もちろんそんなわけはないのだが、なんだか妙に不気味に感じる。
ログインしてゲーム画面に切り替わると、Zは昨日ぴこたんと別れたネオン街に佇んでいた。さっそくメニューからフレンド欄を開くが、ぴこたんはまだオフラインのようだ。
「ぴこたん、まだいねぇのか……」
落胆しつつも、帰り道で調べておいた秋也のプレイヤー名の綴りを検索欄に打ち込む。『astra』と打つと、候補が数名出てきた。一番上にオンラインの『ASTRA』、その下にはオフラインの『a・stray』や『Astra=Star』。
秋也のことだ、多分もうゲームをやっているだろう。ということは、この大文字のやつだ。
確信を持ってクリックすると、ジョブなどの詳細画面が開いた。しかし、居場所の欄が『???』になっている。
「どこだよ『???』って……」
マップを見るが、そんな地名は載っていない。
あ、全体チャットで『ASTRAどこだー!?』って叫ぶとか……? いや、そんなことしたら一発で身バレする。さりげなく近づいて、いつの間にか仲良くならないと意味がない。
腕を組み、画面の前でうんうん悩んでいると、ピロリン、と軽快なシステム音が鳴った。画面を見ると、いつの間にかぴこたんが目の前に立っている。瑛斗はパッと顔を輝かせ、キーボードに飛びついた。
Z:ぴこたん!
PICO:昨日ぶり
Z:知り合いのプレイヤー名わかって検索した
PICO:おお
Z:場所が???だった
PICO:あー
PICO:知り合いの名前教えて
Z:ASTRA
PICO:ちょっと待って
ぴこたんならなんとかしてくれそうだな。
ホッと息を吐きながら、画面の中の小さな白いロボットを見つめる。だんだん、クラスのオタクくんの姿に重なって見えてきた。谷口……谷山、谷川? なんだっけ。
PICO:いたけど、ここレベル18以上じゃないと行けない場所だ
Z:マジ?
PICO:とりあえずレベル上げよう。クランに入るのもレベル20必要だし
『俺、今いくつだっけ?』と打ちかけて、キーボードの上でピタッと指を止める。
さすがに『俺』はまずいだろ。女キャラだし。じゃあ、『私』? ローマ字打ちで『watashi』って打って変換すんの、めんどくせえな。カチャカチャとバックスペースキーを叩いて文字を消す。
Z:うちいまレベルいくつ
綾音も自分のこと「うち」って呼ぶし、いけるだろ。
PICO:今レベル8だね。画面下に体力バーがあって、その下に書いてあるよ
Z:まじだ
Z:ぴこたんはいくつ
PICO:70
Z:最大レベルは?
PICO:70
Z:すげえ
最大じゃん。え、もうレベル上げる必要ないのに、この人は何をするために毎日ログインしてんだ。
Z:どうやってレベルあげる?
PICO:昨日教えた通り、赤く光る人からひたすらお使いもらう
Z:飽きちゃうよ
PICO:飽きちゃうか
PICO:じゃあダンジョン潜ってみるか
「なにそれ! 楽しそう!」
思わずウキウキした声が出た。誰もいない部屋に響く自分の声に少し恥ずかしくなり、取り繕うように手元のコーラを一口飲む。
Z:ダンジョンいく
PICO:じゃあ準備するか
画面中央に『アイテム交換をします』というウィンドウが出た。瑛斗が首を傾げつつYESをクリックすると、見たこともないようなレアっぽい装備がポンポンとZのアイテム欄に放り込まれていく。
「こんなのくれんのか……」
ナビゲーター、マジですげえ。
Z:ありがと!
PICO:レベル上がったらまた違うのあげるよ
Z:ぴこたん神!
PICO:こうでもしないとZはすぐに辞めちゃいそうだから
ほほう。ぴこたんめ、さては俺の作ったこの美少女にちょっと惚れたな?
わかるよ。秋也のストライクゾーンを狙い撃ちした外見だが、こういう顔はオタクウケもいいはずだ。
幸先いいな、と口元が緩む。騙している罪悪感がないわけでもないが、ぴこたんとは生涯リアルで会うこともないだろうからよしとしよう。
ダンジョンは難しかったが、やりがいがあって面白かった。ぴこたんは『レベルシンク』なるものを使ってついて来てくれた。戦うわけでもなく、Zがやられそうになると回復をしてくれる。それでも突っ込みすぎて三回死んだが。
深夜までぶっ通しでやり続けて、やっとレベル11。先は長いが、ゲーム内でサクサク敵を倒し、見知らぬアイテムを手に入れる感覚が少し楽しく思えてきた。
高校と道場に通い、夜はぴこたんに介護されながらダンジョンを周回する。そんなサイクルを三日ほど繰り返し、週末を迎える頃には、Zのレベルは目標の18にまで上がっていた。
週末、瑛斗のコンビニバイトは夜シフトだ。バイトの時間までゲームをやろうと、昼下がりからさっそく『オルリン』を起動する。
廃人のぴこたんなら当然いると思ったがオフラインだった。一方、『ASTRA』はオンラインだ。
……会いに行く?
居場所はもう『???』ではない。今のレベルなら行ける近いエリアだ。
「一旦、探すだけ探すか……」
マウスを握り、瑛斗は目的地へとキャラを走らせた。なんだか、やたらと手汗をかく。
秋也がいるのは、ショップが並ぶ廃墟のようなビルだった。廊下では無数のプレイヤーが地べたに座り込み、必死にアイテムのクラフト作業をしている。
ひしめく頭上のプレイヤーネームを一つ一つ確認しながら、ゆっくりと進む。
ド、ド、と心臓の音がうるさい。
最上階まであと少しという時、廊下の隅に座り込んで作業をしている『ASTRA』の文字を見つけた。

