GWに入り、颯と顔を合わせないことに少しホッとしている。
それなのにメッセージが届くと、気持ちがみるみる高揚するから矛盾していた。
朝食後に部屋に戻ってテスト勉強をしていると、志貴が「由貴ー」と間延びした声で呼びながら入ってくる。
「なにしてんの?」
俺の手元を覗き込んで、露骨に嫌な顔をする。
「せっかくのGWに勉強? 俺と遊びに行こうよ」
「志貴はテスト大丈夫なの?」
志貴は口を尖らせてごにょごにょ言っているから、自信は全く無いのだろう。
「じゃあ午前中に出かけて、午後は一緒に勉強しよ」
「わかった。早く行こ」
「帰ってきたら、ちゃんと勉強するんだよ」
念を押すと、志貴は不本意そうに頷いた。
ショッピングモールに行き、服を眺める。
「どっちがいいと思う?」
志貴が自分の体に二種類の服を当てて聞いてくる。
「右がいいんじゃない? 左は似たようなのを、俺が持ってるから」
「じゃあ右にしよ」
即決して志貴は会計に向かう。
「由貴は見たいのないの?」
「本屋に行きたい」
志貴が僅かに眉をひそめる。
「志貴は本屋に行きたくない?」
「そうじゃないけど、由貴が本を選ぶのはすごく時間掛かるから、遊ぶ時間が終わっちゃいそうだなって」
午前中で帰ると約束しているし、少し覗くだけにしよう。
「今日は買わないから、新刊だけ見させて」
テスト前に新しい本を買ったら、絶対に読みたくなってしまうから、テスト後に買おう。
「いいよ、俺が面白そうなの選んでやるよ」
志貴が意気揚々と本屋に足を進めて、俺も足取り軽くついていく。
新刊コーナーの前で、平積みされている本に目を走らせた。
「由貴、これは?」
志貴が一冊の本を手に取った。
「どうしてこれを選んだの?」
「ん? この前、犯人を自分で当てるって悩んでたじゃん。それに似てそうだから、由貴が好きかなって思った」
あらすじを見ると、雪に閉ざされた館ものミステリー。
でもこれを好きなのは、俺より颯だ。
「ありがとう。買う候補にいれておくよ」
タイトルと作者をスマホのメモに打ち込んだ。
「次はどこにいく?」
「お腹へったから、なにか食べよ?」
「じゃあフードコートに行こうか」
本屋を出ると、颯とバッタリ会った。
「奇遇だね」
そう声をかけられて、気恥ずかしさを隠すように頷いた。
顔を合わせづらいと思っていたけれど、会えるとそれ以上に胸が躍る。
「なに? 俺たちのことを、つけてきたの?」
「そんなわけないでしょ。偶然だよ」
口を尖らせて顎を突き出す志貴に、颯は眉を下げて笑う。
「二人はこの後どこに行くの?」
「フードコートに行くよ」
「一緒に行ってもいい?」
「もちろん」
三人でフードコートに行き、たこ焼きを買った。
志貴が隣に座り、颯は正面に腰掛ける。
おろしポン酢の爽やかな酸味と、とろとろのたこ焼きが相性抜群。
「由貴、一個ちょうだい」
志貴が自分のしょうゆマヨを、俺の船皿に乗せておろしポン酢にかぶりついた。
俺もしょうゆマヨを口に含む。定番のしょうゆマヨは、人気があるから定番なわけで。紅しょうががアクセントになり、マヨネーズがたこ焼きをまろやかに包んで、安定の美味しさ。
颯は俺たちを見て、目をしばたかせた。
「いつもそんな感じなの?」
そんな感じってなんだろ? 俺たちはおかしなことをしただろうか?
「まぁね。俺と由貴は仲良しだから」
志貴がこちらを向いて「交換は普通だよね」と歯を見せて笑う。
交換のことを言っていたのか。
「うん、颯も違う味が食べたかった? 俺のたこ焼き食べていいよ」
船皿ごと颯の前に移動させると、颯がネギのたっぷり乗ったソースたこ焼きを、俺の船皿に置いた。
「じゃあ僕とも交換ね」
甘辛いソースにしゃきしゃきしたネギがマッチして、いくらでも食べられる美味しさだ。
あっという間に全部食べきった。
時計に目を向ける。十二時を回っていた。
「志貴、そろそろ帰ろうか?」
「そうだね、勉強嫌だな……」
肩を落とす志貴に目を向け、颯が「勉強?」と聞き返す。
「もうすぐ中間テストでしょ? 午後は志貴と一緒に勉強をするんだ。颯もよかったら、家で一緒に勉強する?」
「ありがとう。おじゃまさせてもらうよ」
即答する颯に、志貴は不満げに口を曲げる。
「勉強道具なんて、持ってないんじゃないの」
「俺のを使えばいいよ。同じ教科をやる必要はないんだし」
片付けて、三人で家に帰った。
部屋の前ではたと気付く。帽子を飾りっぱなしだ。
「ごめん。ちょっとだけ、ここで待ってて」
颯には廊下で待っていてもらい、薄く開けた扉に体を滑り込ませて部屋に入る。
青い帽子を手にとって、クローゼットに隠した。
すぐに扉を開いて招き入れる。
「おまたせ」
待っていた颯と、自分の部屋から勉強道具を持ってきた志貴が入ってくる。
「部屋きれいなのにどうしたの? 片付けていたわけじゃないよね。すぐに開いたし」
颯に触れられたくないことを突っ込まれて、乾いた笑みを浮かべる。そうか、もう少し時間をかけて、片付けていたということにしたほうが自然だったのか。
志貴の目がベッドのサイドチェストで留まり、瞬きを繰り返す。
志貴には帽子を隠したことがバレたようだ。でもふっと目をローテーブルに移して傍らに座る。
なにも言われなくて、体から力が抜けた。
黙々と勉強をしていると、志貴が「これってどういうこと?」と聞いてきた。
志貴が勉強していたのは物理で、反射的に身をすくませる。物理は苦手だ。
考えあぐねいていると、颯が解説してくれる。わかりやすくて、俺も志貴と一緒に感嘆の声を上げながら聞き入った。
「そっか、理解できた。サンキュー」
「ありがとう。俺も不安だったところだから助かった」
「またいつでも聞いてね。僕でわかるところは教えるから」
颯に来てもらえてよかった。
「じゃあ、これもいい?」
颯が俺の手元を見るために、こちらにスッと寄る。
「俺もそれわかんない!」
志貴が叫び、俺と颯の間に体を捩じ込んできた。
「狭いよ」
「だってここが一番見やすいじゃん」
志貴は颯に「早く教えてよ」と催促する。颯の目が据わったような気がしたけど、気のせいかな?
休憩を挟みながら、夕方まで勉強をした。
「そろそろ帰るね」
「教えてくれて、ありがとう」
「僕も一緒に勉強ができて、嬉しかったから」
立ち上がった颯が、ベッドで「疲れた」と手足を投げ出している志貴に目を向ける。
志貴に教えて、いいところが見せられたってことかな? その割には表情が硬いけど。
「玄関まで送るよ」
志貴を残して、部屋を出る。
トントンと重なる足音を意識すると、口元がむずむずして奥歯を噛み締めた。
俺の部屋に颯がいたんだよな。
家を出て「またね」と手を振った。また指を絡められる。今度はすぐに離れていかなくて、体が硬直した。全身から汗が滲み、視線を泳がせる。
颯は満足そうに目を細めて、指を引き抜いた。
下唇を噛み、意を決して口を開く。
「なんで、こんなことをするの?」
志貴のことが好きなんじゃないの?
その言葉は続けられない。
首を縮めて上目遣いで伺うと、颯は童話の王子様のように煌めいた微笑みを浮かべていた。
「どうしてだと思う?」
「……わかんないから、聞いてるの」
「由貴くんは安楽椅子探偵が好きでしょ? 探偵みたいに、限られた情報から真相を当ててみてよ」
颯は「またね」と手を振って離れていく。小さくなる背中から目が離せない。角を曲がる直前で振り返り、視線が絡んでとっさに逸らしてしまった。
感じが悪かったかな? すぐに戻したけれど、颯はもういなかった。
なんだか体に力が入らなくて、手すりを支えにゆったりとした足取りで階段を登る。
部屋の扉を開けると、志貴がまだベッドに寝転がっていた。
俺の顔を見て、志貴は反動をつけて起き上がる。
「どうしたの? なにかあった?」
「えっ? ううん、なにもないよ」
心配そうに近寄ってくる志貴の目を避けるように俯く。声も裏返って、全然いつも通りにできない。
「俺も外までついて行けばよかった」
志貴が苦々しく呟き、海の底に沈んだみたいに息苦しくなった。
GWが明けて颯と顔を合わせると、いつもと変わらない涼しげな声で「おはよう」と微笑まれる。
俺は颯のことばかり考えていたのに、拍子抜けしてしまった。
颯がなにを考えているか、全然わからない。
それなのにメッセージが届くと、気持ちがみるみる高揚するから矛盾していた。
朝食後に部屋に戻ってテスト勉強をしていると、志貴が「由貴ー」と間延びした声で呼びながら入ってくる。
「なにしてんの?」
俺の手元を覗き込んで、露骨に嫌な顔をする。
「せっかくのGWに勉強? 俺と遊びに行こうよ」
「志貴はテスト大丈夫なの?」
志貴は口を尖らせてごにょごにょ言っているから、自信は全く無いのだろう。
「じゃあ午前中に出かけて、午後は一緒に勉強しよ」
「わかった。早く行こ」
「帰ってきたら、ちゃんと勉強するんだよ」
念を押すと、志貴は不本意そうに頷いた。
ショッピングモールに行き、服を眺める。
「どっちがいいと思う?」
志貴が自分の体に二種類の服を当てて聞いてくる。
「右がいいんじゃない? 左は似たようなのを、俺が持ってるから」
「じゃあ右にしよ」
即決して志貴は会計に向かう。
「由貴は見たいのないの?」
「本屋に行きたい」
志貴が僅かに眉をひそめる。
「志貴は本屋に行きたくない?」
「そうじゃないけど、由貴が本を選ぶのはすごく時間掛かるから、遊ぶ時間が終わっちゃいそうだなって」
午前中で帰ると約束しているし、少し覗くだけにしよう。
「今日は買わないから、新刊だけ見させて」
テスト前に新しい本を買ったら、絶対に読みたくなってしまうから、テスト後に買おう。
「いいよ、俺が面白そうなの選んでやるよ」
志貴が意気揚々と本屋に足を進めて、俺も足取り軽くついていく。
新刊コーナーの前で、平積みされている本に目を走らせた。
「由貴、これは?」
志貴が一冊の本を手に取った。
「どうしてこれを選んだの?」
「ん? この前、犯人を自分で当てるって悩んでたじゃん。それに似てそうだから、由貴が好きかなって思った」
あらすじを見ると、雪に閉ざされた館ものミステリー。
でもこれを好きなのは、俺より颯だ。
「ありがとう。買う候補にいれておくよ」
タイトルと作者をスマホのメモに打ち込んだ。
「次はどこにいく?」
「お腹へったから、なにか食べよ?」
「じゃあフードコートに行こうか」
本屋を出ると、颯とバッタリ会った。
「奇遇だね」
そう声をかけられて、気恥ずかしさを隠すように頷いた。
顔を合わせづらいと思っていたけれど、会えるとそれ以上に胸が躍る。
「なに? 俺たちのことを、つけてきたの?」
「そんなわけないでしょ。偶然だよ」
口を尖らせて顎を突き出す志貴に、颯は眉を下げて笑う。
「二人はこの後どこに行くの?」
「フードコートに行くよ」
「一緒に行ってもいい?」
「もちろん」
三人でフードコートに行き、たこ焼きを買った。
志貴が隣に座り、颯は正面に腰掛ける。
おろしポン酢の爽やかな酸味と、とろとろのたこ焼きが相性抜群。
「由貴、一個ちょうだい」
志貴が自分のしょうゆマヨを、俺の船皿に乗せておろしポン酢にかぶりついた。
俺もしょうゆマヨを口に含む。定番のしょうゆマヨは、人気があるから定番なわけで。紅しょうががアクセントになり、マヨネーズがたこ焼きをまろやかに包んで、安定の美味しさ。
颯は俺たちを見て、目をしばたかせた。
「いつもそんな感じなの?」
そんな感じってなんだろ? 俺たちはおかしなことをしただろうか?
「まぁね。俺と由貴は仲良しだから」
志貴がこちらを向いて「交換は普通だよね」と歯を見せて笑う。
交換のことを言っていたのか。
「うん、颯も違う味が食べたかった? 俺のたこ焼き食べていいよ」
船皿ごと颯の前に移動させると、颯がネギのたっぷり乗ったソースたこ焼きを、俺の船皿に置いた。
「じゃあ僕とも交換ね」
甘辛いソースにしゃきしゃきしたネギがマッチして、いくらでも食べられる美味しさだ。
あっという間に全部食べきった。
時計に目を向ける。十二時を回っていた。
「志貴、そろそろ帰ろうか?」
「そうだね、勉強嫌だな……」
肩を落とす志貴に目を向け、颯が「勉強?」と聞き返す。
「もうすぐ中間テストでしょ? 午後は志貴と一緒に勉強をするんだ。颯もよかったら、家で一緒に勉強する?」
「ありがとう。おじゃまさせてもらうよ」
即答する颯に、志貴は不満げに口を曲げる。
「勉強道具なんて、持ってないんじゃないの」
「俺のを使えばいいよ。同じ教科をやる必要はないんだし」
片付けて、三人で家に帰った。
部屋の前ではたと気付く。帽子を飾りっぱなしだ。
「ごめん。ちょっとだけ、ここで待ってて」
颯には廊下で待っていてもらい、薄く開けた扉に体を滑り込ませて部屋に入る。
青い帽子を手にとって、クローゼットに隠した。
すぐに扉を開いて招き入れる。
「おまたせ」
待っていた颯と、自分の部屋から勉強道具を持ってきた志貴が入ってくる。
「部屋きれいなのにどうしたの? 片付けていたわけじゃないよね。すぐに開いたし」
颯に触れられたくないことを突っ込まれて、乾いた笑みを浮かべる。そうか、もう少し時間をかけて、片付けていたということにしたほうが自然だったのか。
志貴の目がベッドのサイドチェストで留まり、瞬きを繰り返す。
志貴には帽子を隠したことがバレたようだ。でもふっと目をローテーブルに移して傍らに座る。
なにも言われなくて、体から力が抜けた。
黙々と勉強をしていると、志貴が「これってどういうこと?」と聞いてきた。
志貴が勉強していたのは物理で、反射的に身をすくませる。物理は苦手だ。
考えあぐねいていると、颯が解説してくれる。わかりやすくて、俺も志貴と一緒に感嘆の声を上げながら聞き入った。
「そっか、理解できた。サンキュー」
「ありがとう。俺も不安だったところだから助かった」
「またいつでも聞いてね。僕でわかるところは教えるから」
颯に来てもらえてよかった。
「じゃあ、これもいい?」
颯が俺の手元を見るために、こちらにスッと寄る。
「俺もそれわかんない!」
志貴が叫び、俺と颯の間に体を捩じ込んできた。
「狭いよ」
「だってここが一番見やすいじゃん」
志貴は颯に「早く教えてよ」と催促する。颯の目が据わったような気がしたけど、気のせいかな?
休憩を挟みながら、夕方まで勉強をした。
「そろそろ帰るね」
「教えてくれて、ありがとう」
「僕も一緒に勉強ができて、嬉しかったから」
立ち上がった颯が、ベッドで「疲れた」と手足を投げ出している志貴に目を向ける。
志貴に教えて、いいところが見せられたってことかな? その割には表情が硬いけど。
「玄関まで送るよ」
志貴を残して、部屋を出る。
トントンと重なる足音を意識すると、口元がむずむずして奥歯を噛み締めた。
俺の部屋に颯がいたんだよな。
家を出て「またね」と手を振った。また指を絡められる。今度はすぐに離れていかなくて、体が硬直した。全身から汗が滲み、視線を泳がせる。
颯は満足そうに目を細めて、指を引き抜いた。
下唇を噛み、意を決して口を開く。
「なんで、こんなことをするの?」
志貴のことが好きなんじゃないの?
その言葉は続けられない。
首を縮めて上目遣いで伺うと、颯は童話の王子様のように煌めいた微笑みを浮かべていた。
「どうしてだと思う?」
「……わかんないから、聞いてるの」
「由貴くんは安楽椅子探偵が好きでしょ? 探偵みたいに、限られた情報から真相を当ててみてよ」
颯は「またね」と手を振って離れていく。小さくなる背中から目が離せない。角を曲がる直前で振り返り、視線が絡んでとっさに逸らしてしまった。
感じが悪かったかな? すぐに戻したけれど、颯はもういなかった。
なんだか体に力が入らなくて、手すりを支えにゆったりとした足取りで階段を登る。
部屋の扉を開けると、志貴がまだベッドに寝転がっていた。
俺の顔を見て、志貴は反動をつけて起き上がる。
「どうしたの? なにかあった?」
「えっ? ううん、なにもないよ」
心配そうに近寄ってくる志貴の目を避けるように俯く。声も裏返って、全然いつも通りにできない。
「俺も外までついて行けばよかった」
志貴が苦々しく呟き、海の底に沈んだみたいに息苦しくなった。
GWが明けて颯と顔を合わせると、いつもと変わらない涼しげな声で「おはよう」と微笑まれる。
俺は颯のことばかり考えていたのに、拍子抜けしてしまった。
颯がなにを考えているか、全然わからない。



